ちび編「リルとロイの最初の出会い」
兄ちゃんはもうすぐでげいこ? というものからいつもの道場へ帰るらしいので、リルはここで、にぎりめし係。
まだかなぁ。まだかなぁ。
カタバミのタネばくだんはもうなくなってしまった。
他のところに探しに行こうとしたら、土手下にいるおばさんが、リルにそこから動くのはいけないと怒った。
つらまないけど、リルは怒られるのはきらい。
仕方がないから歌とおどりで楽しむ。
疲れたから歌もおどりもやめたら、兄ちゃんらしき人が歩いてきた。
兄ちゃんの後ろには男の子がたくさんいる。
「リル!」
リルとちがって足のはやい兄ちゃんはあっという間に近くに来てくれた。
背中に誰かをおんぶしている。その人はすやすや眠っている。ええなぁ。
「あのね、兄ちゃん。おばちゃん」
「俺がおばちゃんってなんだ。こんなところに一人でいたら危ないだろう」
「あそこから見られているんだよ」
あそこと教えたら、土手下のあいま机ではたらいているおばさん達が手を振って、ネビー君、がんばっているねと大きな声をだした。
えっへん。
兄ちゃんはうんとがんばっているから、リルもうれしくて胸をはった。
腰に手をあてることを、いばりんぼ姿勢というらしい。
それで、これはじまんしたり、うれしい時にする。
「お母さんのにぎりめし。リルは係だったの」
「リルは俺に握り飯を渡すためにここにいてくれたのか」
「うん。兄ちゃん。リルもおんぶ」
「今はほら、道場の弟分をおんぶしているから無理だ。弟じゃなくて兄か。でも出稽古のたびにおぶっているから弟だよなぁ」
「兄ちゃんには弟が出来たの? ニックみたいに」
「前にも言うただろう。同じ師匠を持つ門下生は兄弟なんだぜ」
「もんかせいってなんだっけ」
「生徒って意味。生徒は分かるか?」
「あのね、おそわっている人だよ」
「そうそう。リル、手が使えないからその握り飯入りの包みを俺の懐に入れてくれ」
「うん」
リルはみごとにお母さんから頼まれたしごとをした!
握り飯の包みをふところに入れたから、兄ちゃんのお腹が出た。
「ん……。すみません。……自分で歩け……」
「絶対無理! ロイさん、今日はさ、帰ったらまた稽古だぜ? 今休むと俺とも掛かり稽古が出来るから休んでおけって」
兄ちゃんがおんぶしている男の子が目をさましたけど、ねむそうに目をほそくして、兄ちゃんの肩をながめている。
「兄ちゃん。リルはえらいから汗も拭く」
「おお、ありがとう」
帯につけている手拭いをひっぱって、兄ちゃんのおでこをふきふき。
おんぶされている男の子も汗だくなのでいっしょにふく。
「早く戻らないとすぐ稽古で握り飯を食べる時間がないかも。母ちゃん、出稽古の時は動きまくりだから、腹減りが少し辛いって言うたのを覚えてくれていたんだな。すっげぇ嬉しい! っしゃあ! 走るぜロイさん! 落ちるなよ!」
「……あり」
びゅーっと兄ちゃんは風になって遠くへ行ってしまった。
おんぶされているのにアリが見えるってロイって兄ちゃんは目がええ。
ロイ兄ちゃんはいつかイオ兄ちゃんやニックみたいに兄ちゃんと遊ぶのかな。
リルも混ぜてくれるかな。
おばさんが、リルちゃん、仕事が終わったなら戻ってきなさいと言うのでかいだんへ向かう。
リルはドジだから、階段をおりるときはゆっくり、ゆっくり。
☆★
疲労でリルを覚えなかったロイと、幼くてロイを覚えなかったリル。
デート編の執筆が進まないので、小話でした。




