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日常編「リル、イムベル家にお泊まりする1」

 本日は、昼食前にイムベル家へ行く。

 義母はちょっと体調が良いので、仲良し奥さんとミーティアランチへ行くという。

 お昼はもちろん、夜のこともしなくて良いと言われたけど、夕食の準備は軽くした。


 うどんを踏んで、具材沢山のつゆを作成。

 うどんを茹でて、具沢山つゆを温めて、そこに茹でたうどんを入れる。

 それくらいなら義父やロイでも可能だろう。

 義母が働かないように、兄を見張りに用意してある。 

 兄がロイに試験勉強の手助けを求めたと耳にしたので、そのついで。

 

 リアの家ではないので困らせるから、彼女のところへ行くか悩んだけど、義母に探ってもらい、ウィルの母親はリアが遠慮がちなことを気にしているというので、泊まりたいと手紙に書いた。

 リアは我が家に泊まったから、私も彼女の家に泊まってみたいと。

 そこに、義母がウィルの母親と親しいので、義母からウィルの母親にお願いするという文も添えた。

 それで義母とウィルの母のやり取りで日付が決まり、私がイムベル家で作る料理も決定。

 私は今夜、家に帰らないでイムベル家に泊まり、明日の昼食後に帰る。

 

 手土産は私が買っていくと宣言してある材料とりんごと決まっているので、あとの荷物は肌着くらい。


 玄関前で伏せているハチの前まで来たけど吠えられないどころか無反応。

 触ろうとしたらハチは目を開いたけど、特に吠えないのでそのまま撫で撫で。

 裕福な家の人間になれたので、犬を飼ってみたいけど、我が家のある町内会は犬猫の飼育禁止。

 問題を起こした人が居なかったら飼えていたかもしれないので残念。

 兄が義父の後押しでうんと出世して、家を建てたら犬を飼ってくれるというのでその日を待っている。


 しばらくハチを堪能して、意を決して玄関の呼び鐘を鳴らして待機。

 出迎えてくれたのはリアだったので挨拶をして家の中へ。

 今日はウィルの母親とリアと私の三人で、サンドイッチを作る約束をしているので、荷物を居間に置かせてもらって、すぐ割烹着姿へ。

 貸してくれた割烹着の裾がヒラヒラしていて、花の刺繍もしてあり大変かわゆい。

 台所へ案内されたので三人でいざ料理!


 あらかじめ用意してもらったのは、千切りキャベツと白身魚と玉ねぎのみじん切りとゆで卵にバター。

 昨日ミーティアで買ったマヨネーズとパンとパン粉を手土産として持ってきた。


「まずタルタルソースを作ります」


 水にさらして手拭いでよく水を切った玉ねぎ、ゆで卵のみじん切りにマヨネーズとお酢とお砂糖と塩。

 このソースは好みなので味をみて少しずつ調味料を入れると良い。


「ミーティアでタルタルは叩く叩くって意味だと言うてました」


「確かにみじん切りは叩いているみたいですね」


 ウィルの母親は、前に来た時と同じくニコニコしていてとても気さく。


「リルさん、マヨネーズは何で出来ているか分かりました?」


 リアは相変わらずあまり表情が変化しない。でも慣れてきたので、無表情ではないと分かる。


「売れなくなったり、味を横取りされたら困るから教えてもらえません」


 かめ屋の本物料理人達もマヨネーズ開発は出来ていない。


 白身魚を、天ぷらではなくてフライにする方法を教えながら揚げる。

 パンに買っておいてもらったバターを薄く塗って、その上にキャベツの千切り、次は白身魚または海老のフライ、そしてタルタルソースを乗せる。

 ケチャプとマヨネーズを混ぜたものでも、マヨネーズに味噌を混ぜたものでも美味しいので、そこはお好み。

 今日はイムベル家では初めての西風料理なので豪華なタルタルソースだ。


 パンの耳を倒してくっつけて、平鍋の上に置いて上に重し。

 イムベル家には茶室があって、釜の蓋がちょうど良いから用意してもらってそれを使用。


 両面をカリッと焼いたら完成!

 

 半分にして美味しそうな断面図を楽しんで、居間へ運び、作ってくれていた冬瓜の汁物と共にいただきます。

 このサンドイッチは嫁仲間にもアミにも教えたから、教えるのはもう慣れたものだ。


「我が家の近くにパンを売っているお店はないけど、息子が職場から遠くないところにあったって言うてたから、次は私とリアさんと娘で作りましょうね」


「ええ、そうしましょう」


 笑い合う未来の嫁姑を眺めて、このまま上手くいきますようにと心の中で祈る。

 ウィルの妹サラは国立女学生で、所属趣味会は料理会になので、今夜一緒にハイカラ料理を作ることを楽しみにしてくれているという。


「リルさん、今度ウィルさんとそのお店に行ってみる予定です。パン以外の調味料も売ってそうな西風料理店だと」


 リアは前よりも笑うようになった気がする。微微笑みが微笑みくらいだけど。

 二人は本結納したので、今夜は何か恋話が聞けるかもしれないからワクワクしている。

 これまで義母と作った我が家流の家庭西風料理本を持ってきたので、興味のありそうなものを写してもらうことに。

 ウィルの母親に、私が写しますから二人でゆっくりどうぞと言ってもらったので、荷物を持ってリアの部屋へ。


「……お洒落です」


 リアと出会ってから、彼女がウィルと同居結納してから、イムベル家に来たことはない。

 なので、当然リアの部屋に入るのは初めて。

 華やぎ屋の宿泊部屋みたいな御簾(みす)があり、室内が綺麗な飾り布で仕切られている。

 部屋の端にある小さな机には本が何冊か並んでいて、隣には小さな棚があるけど、それも彫刻や色合いがとても小洒落ている。

 床の間にはつやつやした白い焼き物の花瓶に美しい生花。

 そこに犬の置物がちょこんと番犬みたいに飾ってあってかわゆい。

 

「そう言っていただけて嬉しいです」


 リアの部屋はもう一部屋あり、そちらは琴の稽古場所兼イムベル家の物置で、彼女は今夜そこで寝るという。


「私の寝所が寝苦しくないかご確認下さい。今日はもう布団を出してあります」


「絶対大丈夫な気配です。そもそも私はどこでも眠れます」


 飾り布の向こうにある寝所を見させてもらったら、畳んだ布団が置いてあり、枕側には四季折々の花が描かれた小さめの衝立があった。

 御簾(みす)に組み合わせて、ロメルとジュリーの舞台で観たような異国風の飾り布もあり、御帳台(みちょうだい)風のような小部屋だ。

 小さめだけど多く光苔(ひかりこけ)が入っている丸い灯りがこれまた洒落ている。

 白と水色と紺色を基調としていて、とても落ち着くしとにかくかわゆい。


「ここはまるでエドゥアール温泉街の宿屋の部屋です」


「まぁ、そうですか? それは嬉しい感想です」


「今夜は皇女様気分で眠れま……リアさんはちび皇女様だから皇女様風ってことですか?」


 リアの血を辿ると皇居に行き着くことを思い出した。


「血筋と言っても昔々、古い時代の話ですよ。こちらは友人の真似です」


 リアはその友人の話を楽しそうに語った。

 彼女は自分のことはあまり話さないけど、友人のことだとわりと饒舌で、褒め話ばかりだ。


「私も部屋をお洒落にしたいです」


「既にお洒落ですのに、なぜですか?」


 お洒落かな? と首を捻り、ロイが揃えてくれた調度品や小物ばかりなので、そうだなと頷く。


「お洒落というより、かわゆくしたいです」


 ロイには自分の書斎がある。

 なので夫婦の寝室は私の部屋みたいなものなので、好きに変更して良いということを、一ヶ月くらい前に言われた。

 本が増えてきて本棚を作っても良いか、という話の時だ。

 ちなみに、作らないで買いなさいと珍しくロイに怒られた。


 作るって材料はどうするのかと聞かれたので、父に廃材をもらうか、もしかしたら作ってくれるかもと言ったらもっと怒られた。

 作ってもらうなら、それなりの予算を組んで正式に依頼するし、自分で作るのは危ないので論外。

 手足を怪我したら誰が私の代わりにルーベル家を守るのだと。

 ロイは過保護だと思ったけど、義父や彼の家事能力の乏しさがどんどん露呈しているのでそれもそう。

 私が嫁に行ってしまう! と焦って御申込後の慌ただしい入籍は、多分ロイの「もう家事は無理」という深層心理も関係している気がしていると、義母が考察していた。


「模様替えって楽しいですよね」


「模様替え……したことがないからします」


 どこで購入したのか教えてもらおうとしたら、売る前に家からちょこちょこ運んだという話をされた。


「売買を手伝ってくださったお父様のご友人夫婦が、私の部屋のものや、家族の思い出だと感じたものを、少しばかりお屋敷に運んで預かってくれていました。全部、売り払ってしまうつもりでしたけど……」


 良かったですと、リアは衝立を軽く手で撫でた。

 これは小等校に入学したお祝いに買ってもらった、お気に入りの品だそうだ。

 リアの顔はとても寂しげ。

 母親は早くに亡くなり、祖母と父親を同じ日に失い、姉や妹とは喧嘩別れだから、そりゃあ寂しいだろう。


「あっ、立ち話ですみません。今、お茶をお持ちしますね。こちらの座椅子へどうぞ」


 お姉さんや妹さんとは喧嘩中のままですか? と話しかけそびれた。

 寝所から出て座椅子に正座してリア待ち。

 彼女が戻ってきて、緑茶を出してくれたのでほっこりしつつ、えいっ! と思い切って質問。


「姉は私も連絡をしていませんので音信不通で、妹は訪ねてきてくれたので、文通しています」


 あまり良い表情ではないので、妹と仲直りした感じではなさそう。


「なんだかんだ不仲ではなかった姉妹ですので、そのうち少しずつ雪解けしていくと思います」


「します。きっとします」


「ええ。今度こっそり、妹の楽語を観に行く予定です。ウィルさんが付き合ってくれるそうで」


 ウィルの名前が出たので、彼とのらぶゆ話はあるのかと問いかけてみた。

 途端にリアの顔は赤くなり、彼女は扇子を出して開いて、顔を半分隠した。

 

「手紙にも書いたように、無事に、ほ、ほ、本結納となりまして……」


「おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「……」


「……」


「……それで?」


「子は出来ないと、た、た、正しい知識を得ましたので、その。それで友人やエリーさんに、き……するのは結納日の定番だと聞きまして……」


「きとすしたんですか」


「してもらえず、ガッカリしました」


 リアのこの発言に、バタッと畳に突っ伏したくなった。ウィルは何をしているんだか。


「ガッカリする程、お慕いするようになったようなので、本結納出来て嬉しいです」


「おめでとうございます」


「本結納ということは、ウィルさんは私のことを、あまり悪く思っていないということですよね? その。一緒に川に紅葉は浮かべてくれましたの」


 ウィルの気持ちは十分の一くらいしかリアに伝わってなさそう。多分、押しが足りないのだ。

 我が家に彼を呼んで、もう一回イオと会わせた方が良い気がする。

 ロイにそう言おう。

 イオはやり過ぎて、私達からすると非常識気味だから婚約者のミユもぷんぷん怒っているけど、裏では仲良しな気がしている。

 私はロイと二人きりの時に、あのイオ並みに口説かれたら喜ぶと思う。

 

「一緒に紅葉浮かべをしたら両想いです」


「……そうですよね。そうですね」


 結納品は(かんざし)を貰ったそうで、落としたくないので大事にしまってあるそうだ。

 見せてもらい、少し考えて、使っているところを見せるとウィルは喜ぶのでは? と伝えてみた。

 これは経験談だ。


「そうでしょうか」


「リアさんは万年筆を贈ったんですよね? 使っているところを見かけたらどうですか?」


「……嬉しいです」


 髪型を教え合いっこして、リアの髪に結納品の(かんざし)を飾って大満足。

 ウィルの母親に、娘が帰って来たのでと呼ばれてサラと初対面。

 彼女は女学校最終学年と聞いていた通り制服姿。


 サラが帰ってきたので、四人でキャラメル作りをする!

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― 新着の感想 ―
[一言] こちらのシリーズ大好きで何度も読み返しています。 更新があるだけで、1日ほっこり幸せな気分です。 感謝感謝です!
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