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29話

 日曜日の早朝のうちに公園でキノコを収穫し、義母に確認してお昼過ぎにブラウン家へお裾分けに行った。お裾分けは口実でエイラに会いに。

 迷惑にならないように玄関先で少しだけ。ちょうど良くお客対応をしたのはエイラだった。


「あらリルさん、こんにちは」

「先日の相談の件を旦那様と色々話し合いました」

「まあ、こんなに早くです? ありがとうございます。良かったらあがっていって下さい」

「日曜日にお邪魔するのはあまり良くないので早く帰って来なさいと言われているので、ここで失礼します。なのでお手紙を書いてきました」


 風呂敷を開いてキノコ入りの箱と水引き花と手紙2つと五角たとうを渡す。

 箱はそのままでは味気ないので熨斗(のし)風の紙を巻いて義母に借りた判子を押した。


「こちらはここに来る口実でキノコのお裾分けです」

「わざわざこんな素敵な箱でありがとうございます。リルさんはそんなに家を自由に出られないんです?」

「いえ、よく考えたら必要なかったかもしれません。キノコは公園に水引き花を採りに行ったついでです」

「キノコを公園で採ったんです?」

「はい。よく行きます。誰も採らんのか沢山生えています。それで水引き花は感謝という意味です」


 衝撃的なことに松茸を発見した。しかも3本。

 秋になると山に行って松茸を探して売っていたけど、近所の公園に生えてるとは驚き。二度見した。

 他のキノコと混ぜて、飾りもつけて入れた。


「感謝です?」

「祓い屋や先日、仲良くしてくださって嬉しかったです」


 会釈をすると、エイラも「こちらこそ」と笑顔で会釈を返してくれた。

 ここに来る前にルリのところとクララのところ、それからエイラの実家、バトラー家へ行って同じキノコを入れた箱と水引き花を渡してきた。新米嫁と仲良くと言ってくれたお礼。

 松茸2本を半分にすると4つになる。

 切ったら4つになるな、と思ったけど算数の勉強を思い出して、2わる4は0.5で0.5は半分、と多分計算出来た。算数苦手。かけ算とわり算に苦戦中。

 ルリ、クララ、エイラで余るのでバトラー家にもお裾分け。

 (うち)は豪勢に1本使う。今夜は半分使って松茸ご飯。


「金平糖は旦那様と2人だけで食べて下さい」


 金平糖の全種類の色を1つずつ五角たとうに入れてきた。折り紙は昔から好き。捨てられている新聞でよく遊んだ。

 思いついてロイに相談したら立派で綺麗な紙に香りをつけてくれた。

 そして達筆な字で「夫婦円満」と「招福招来」も追加。

 エイラが「頼んでも中々お出掛けしてくれない」と言っていたので、うらら屋へ行けないかもしれない。

 なのでこれは根回し1つ目。

 

「手紙に書きました」

 

 手紙の1つはロイからオーウェン宛。

 若衆の会合のことを書いた。

 他にも何か書いていたけどロイのことだから良い気配りだろう。

 隣で書いていたけど達筆で読めないし、作戦は作戦だけどロイからオーウェンへの手紙だから特に聞かなかった。

 もう1通は私がエイラ宛てに書いた。

 他の家のお嫁さんが男の字の手紙を持っているのは見つかった時に印象が悪いということで、よたよた字にならないように一生懸命励んだけどよたよた字。


 手紙の内容は「金平糖をリルさんから貰ったので一緒に食べたいと思った。そう言ってオーウェンへ渡すと良いこと」と「うらら屋作戦」と「(うち)に招待する作戦」のこと。

 オーウェンは若衆にエイラと見合いをしないでくれと頼んでいたこと。

 字を覚えて初めて手紙を書けて嬉しいことと、練習中でよたよたした字ですみませんと最後に記した。


「また時間がある時に遊んだり色々教えて下さい。失礼します」

「こちらこそ。こんなに色々ありがとうございます」


 会釈して帰ろうとしたら、エイラは会釈後に手を振ってくれた。手を振り返す。

 新米嫁に優しかったエイラに、どうか良いことがありますように。


 ☆


 今日のロイは出稽古後に剣術道場仲間と飲み会で18時頃帰宅予定。

 朝寝坊事件後なので私と義母に「時間厳守で帰宅して酒は一杯にします。夕食は要ります」と告げた。

 きちんと帰ってきて無事に全員で夕食。

 

「リルさん、これまさか松茸かい?」

「はい」


 義父はジッと松茸ご飯を見つめている。義母がロイを見た。ロイが首を横に振る。


「リルさん、この松茸はどうしました?」


 ロイの問いかけに、義母が目を細めて私を見た。


「公園に生えていました」

「公園?」

「はい。キノコを採りにいったら松茸までありました」


 なぜか義父が吹き出した。義母とロイは目を丸くしている。

 今夜の夕食は松茸ごはん、焼いた銀杏、にんじんの漬物、かぼちゃの煮物、わかめと豆腐のお味噌汁。

 松茸、銀杏、わかめは全部拾い物。なので今夜は本に書いてあって気になるものを作った。

 明日からまたお仕事を頑張れますように、という意味を込めて。

 嫁に来てもう1ヶ月過ぎている。沢山優しくしてもらってるので水引き花も飾った。


「もしかして天ぷらの時のキノコも?」

「はいお義母さん」


 義母が「まあ、そうですか」と目をパチクリさせた。ロイも似たような表情。義父だけクスクス笑っている。

 また何か変なことを言った?


「これはたまごふわふわです。よそいます。旦那様が買ってくれた本に載っていました。卵を買うのに銀杏を売りました」

「銀杏を売ったんです?」

「はい」


 秋はいつも松茸や銀杏を売っていた。松茸は中々見つからないのに、近くの公園に生えていて衝撃的だった。


「銀杏をあんなに沢山と思ったら拾ってきたんですか」

「はい」

「遅うなりました、すみませんって銀杏拾いですか」

「はい」

「家のことをしているから遊んでもええと思うていましたけど銀杏拾いですか」

「はい。遊ぶときはお義母さんに言います」


 義母は私から銀杏に視線を移動させた。義父はずっと愉快そうに笑っている。

 言わなかったっけ?

 言ってない。

「あら沢山。銀杏を干してるのね」と言われたので「はい」しか言ってない。

 卿家の嫁は銀杏拾いをしない?

 怒られたらやめよう。


「こちらがたまごふわふわです」


 火鉢の上にある土瓶の蓋を開けて見せる。自分でもドキドキしたけど大丈夫そう。

 卵と出汁を混ぜてこして土瓶蒸し。皆卵好きだから作りたかった。


「器によそいます」


 義父、義母、ロイ、自分の順で器によそい、細く切っておいた海苔を上に飾る。


「本当にまあ食費が余っているわけです」

「新米嫁だから予算を多くしてくれたと思ったので、本当の額くらいになるように工夫してます」


 やりくりしてお小遣いを作るにしても多い額をもらっている。


「はあ……」


 義母にため息を吐かれてしまった。銀杏を拾って売るのは卑怯だった?

 どうやって義母はやりくりしていたのだろう?

 銀杏売りはこれまで当たり前だったから、当たり前のように売りに行ってしまった。


「あなたは本当に……。甘くなんてしていません。むしろ減らしました。戻しておきます」

「母上、まさか」


 ロイが目を眇めて義母を見る。

 減らしました?

 嫁姑問題!

 節約出来るか試されていた!


「ほんの少しです。リルさんのお小遣い分も入れていましたけど減らん減らん。お小遣いは別にします。リルさん、毎月使い切るんですよ。へそくりは禁止です」


 へそくり禁止。それは難題。貯めてお金がうんとかかりそうな料理を作りたかった。

 余った食費は返却なので、貯めて高いものを買うことは出来ない。


「使い切る……次はオムライスを作ってもええですか? 卵を沢山使います。バターとお肉と沢山のトマトが要ります」

「おお、オムライス! あれはええ。家で作れるんか」

「作れるか試したいです。今日みたいに本に書いてある通りに作ります」


 義父は1番卵好き。私も卵大好き。


「これもええな。たまごふわふわ」

「皆卵好きなので作りたかったです」


 義父に続いてロイも食べたので私も一口。

 これは美味しい!


「お小遣いを食費に使うんじゃありません。はあ……もうええです。お小遣いはロイに渡します。ロイ、あなたが管理しなさい。リルさん、食費は全部食費にします」

「はい」


 オムライスが作れなくなった。いや、また銀杏拾いをするし、川釣りにも行くから買える?

 鮭を沢山釣って炊き込みご飯だけではなくて、またムニエルを作りたい。

 私がいつも行っていた川では鮭はあまり釣れないので、義父は「釣れるところへ連れて行く」と言ってくれた。

 義父はなぜか腹を抱えて笑い出した。


「リルさん」

「はい」

「栗も拾えると知っていました?」


 ……!!


「お義母さん! どこでですか?」


 義母は首を横に振った。


「畑に盗みに入らないとなると山です。先月の余りで買えます。渡すから買ってきなさい。今月の余った食費は返さんでええです。オムライスでも栗でも何でもええから使いなさい。栗の甘露煮はロイの大好物です」


 甘いのにそうなの?

 ロイに沢山譲ってもらったからお返ししないとならない。それにしてもロイは本当に優しい。

 栗は山……松茸を探しに行っていた山にあるかな。時間を作らねば。


「栗は高いです。拾ってきます」

「山言うたやないですか。それなら余った食費は何に使うんです」

「またたまごふわふわを作ります。卵は拾えません。中に野菜を入れてみたいです。お義母さんが好きと言うてたサンドイッチも作りたいです。天ぷらもまた作りたいです」


 サンドイッチはロイにも頼まれている。


「もうええです。好きにしなさい。今後食費を余らせるんじゃないですよ」

「はい」


 結局嫁姑問題にならなかったみたい。

 食費を余らせてなくて良いなら買える。

 卵も少しのお肉もパンも天ぷら用の野菜も買える。もしかしたら気になるマヨネーズも作れる。他のも色々買える。美味しそうで楽しそう!

 義母はため息混じりで立ち上がり、夕食を口にせず寝室へ行ってしまった。

 怒らせた、と思ったらすぐ戻ってきた。茶色い小さめの紙袋を持って。


「昨日いただいたどら焼きです。夕食後にどうぞ」

「はい。ありがとうございます」


 どら焼きは何だろう?

 その後、夕食はいつも通り無言。

 どら焼きは茶色いパンケーキみたいなものにあんこが挟んであった。

 これは絶対に美味しい。

 ロイが「好まんです」と言ったので3つになるように切り分けてお茶と共に出したけど、義父に「腹がいっぱいや」と言われ、義母には「あなたにあげたんです」とピシッとおでこを叩かれた。

 

「どら焼きは3日間食べられますか?」

「今日中に食べなさい」

「はい」


 それなら仕方ない。

 いつも少なめにしても夕食後はお腹がはちきれそうなのに、どら焼きはペロリと食べられた。不思議。お菓子大好き。


 義母がお風呂中に、義父が台所に来て「今週か来週に土曜の午前休みを取れそうだから川釣りへ行こう。山だから栗も拾えたら拾おう」と言ってくれた。


 栗!


 翌日、義母から煌菓子の本をもらった。早いと思うけど、やる気がありそうだから教えてくれるという。

 義父は金平糖を買ってきてくれた。初めての義父からの贈り物。

 金平糖は昨日お裾分けで6かける4で24個。減ったけど増えて、金平糖の瓶は2つになった。

 ロイの買ってくれた金平糖よりも小さくて沢山入っている。瓶は小さくて丸まるで可愛い。

 義父のために川で絶対にいくらを沢山持つ鮭を釣る!


「良かったですねリルさん」

「は……」


 小さい金平糖を数えていたら、口の中にぽいぽいぽいと金平糖を入れられた。それでキス。

 私はこの甘いキスを今夜は好きだと思ったけど、ロイは甘いものを好まないのに変なの。

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[良い点] 完結表示から来て完結するのわかってるけど一言だけ言わせて欲しい。 これ一生読んでられる。 [一言] 読んでて凄く気持ちいい。
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