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特別番外「ルーベルさん家で花嫁修行2」

 本日は花嫁修行二日目。朝は想像よりもかなり早起きで、眠くて仕方がないけど、動いていたら目が覚めてきた。


 雨戸を開けてまわり、朝食準備をしつつお弁当を三つ作成。

 本日は土曜なのでガイとロイにお弁当は普段必要ないけれど、ロイは最近土曜は残業なので必要で、ガイとテルルは待ち合わせて、お弁当を持って散策に行くそうだ。


 いつも、朝はのんびりめに起きて、朝食の片付けくらいしかしていない私にとって、今回の朝は嵐のよう。

 朝食とお弁当作り後に食事をして、ガイとロイを見送ったら朝食の片付けは台所に運んで中断。

 布団干しと洗濯物が先ということで、昨日と同じく洗濯をして、終わったら朝食の片付け。

 それが終わったら掃除開始。はたいた後に掃き掃除、拭き掃除だと思っていたら、はたいた後に障子など細かいところを大筆で払い、掃き掃除後も細かいところを大筆で払い、最後に拭き掃除。

 

 拭き掃除は端から端まで丁寧で、私が普段するよりも少し丁寧くらいに一回拭いた後に、一回拭いたら一回洗う勢いでまた拭き直し。

 細かい。こんなに細かいのは初めてだ。

 テルルが「調子が良いので私も掃除します」と参加したけど、同じことを当たり前の顔でしている。

 これが二人の当たり前なら、町内会の当番でテルルと一緒になり、彼女に「そこ、汚れています」と注意されるのも納得。

 細かいけど二人とも慣れているからか早いので、昨日の午前中よりも早く洗濯掃除が終わった。

 掃除はもっとしたいけど、今日は午前中だけにするそうだ。


「疲れました?」


 テルルに笑いかけられたので、日頃の行いを反省しますと返答。


「ふふっ、ええ言い方ですね」


 当番時に会うテルルは怖めだったけど、家に来てみた結果あまりである。

 当番時は、皆がお喋りに夢中で掃除が進んでいなかったりするので、腹が立つのかもしれない。細かいということは、その分しっかり働いているということだ。

 母が文句も言わずに毎日してくれていることも、今回の花嫁修行で経験出来ているので、母が「手伝いをしなさい」としつこく言う理由も理解。私は間も無く成人なのに、まだまだ甘ったれみたい。


 疲れてそうなので、とテルルとリルに気遣われて、リルは一人で買い物へ行くことになり、私はテルルとお留守番。すると、昨日の続きをしましょうと言われたので緊張。


「今はお互い自分磨きの時期なので、たまたま会って、たまたま話せば良いと思います」

「たまたま……ですか」

「次男にも町内会のことを手伝ってもらうつもりなので、きっと会うでしょう」

「そうなんですか」

「リルさんと親しくしていたり、私の印象が良ければ声を掛けます。お互い気が合ったら、何か話を進めれば良いかと。スミレさんに伝えておきますね」


 テルルの印象が良ければ、というところは不安しかない。しかし、しばらく接していない間に成長した、子供が大きくなるのは早いと褒めて笑いかけてくれたから悪くない気配。


「少し離れで休んでいて良いですよ。他人の家で、慣れないことばかりして、疲れたでしょう」

「お気遣いありがとうございます。あの、出来れば昨日のように刺繍を教えていただきたいです」

「そう? それならそうしましょうか」


 ルーベルさん家の家事は少々大変そうだけど、リルと二人で、この雰囲気のテルルとなら暮らしていけそうな気がする。しかし、刺繍中に、テルルにこういうことを教えてくれた。

 リルの兄を養子に迎えた理由は、十年以上ロイと知り合いで、仕事が地区兵官なので、ガイとリルの兄の仕事の縁結びのため。

 なので、次男ネビーがこの家で暮らすことは無い予定。彼は長男で、自分の学費を注ぎ込んでもらったので、両親や妹達に恩返ししたい気持ちが強く、ずっと家族と暮らすと考えている男性だそうだ。


「なので、彼のお嫁さんはリルさんの実家に嫁入りになります。楽しそうに見えますので、このままリルさんと親しくなって、少しずつご家族話を聞くと良いと思います」

「は、はい」

「卒業したら自由が増えて、知らない男性がちょっと助けてくれたなんてことは増えますから、他の男性も気になるかもしれませんね」

「そういうものですか?」

「ええ、そういうものですよ。だってアミさんは、次男じゃないと絶対嫌とか、ここがこんなにも他の人とは違うなんてないでしょう? 今の状態は、憧れや恋に恋みたいなものですよ」


 そう言われたら、そうな気もしてくるし、違うと反対したくもなる。


「違うというお顔ですね。それもそのうち分かります。今回みたいに母親に相談したり、お姉さんを頼るんですよ。いきなり勝手に息子に手紙を渡していたら、非常識だと怒っていたところでした」

「実はその……」


 こっそりしたくてエイラを頼ったら、親に言いなさいと言われてしまって、仕方なくそうしたと説明。テルルはあるあるですね、と笑ってくれた。

 テルルは母よりも年上なので、祖母みたいで話し易いかもしれない。当番時はあんなに怖くて近寄り難かったというのに。

 夢中になって刺繍をしていたら、リルが帰宅して、材料が揃ったので昼食作りをしましょうと告げた。休ませてもらったお礼を言って、出かけるテルルを見送り、リルと台所へ。


 リルにこれから教えてもらうのはサンドイッチ。

 友人達と約束をして、通学路でたまごサンドを買ったことがあるけど、家で作るのは初めて。

 まず、私は気が付いていなかった朝食時にゆでていたたまごの殻を剥く。それをみじん切りにして、たまねぎもみじん切り。

 たまねぎは水にさらしておいて、キャベツを千切りにして、トマトを薄切りにする。私が知っているたまごサンドとは違うみたい。

 

 タルタルソースというたれを先に作るそうで、みじん切りたまごに水気を切ったたまねぎとマヨネーズというものを混ぜるだけ。


「マヨネーズの作り方が分かると買ってこなくて良いんですけど、分かりません」

「初めての味ですがこのたれは好みです」

「私も好みです」


 楕円形の柔らかいパン切れ込みを入れて、バターを薄く塗っておく。

 鮭の切り身を軽く洗って拭いて、塩胡椒と粉をまぶして、朝食のたまご焼きの残りの溶きたまごをつけて、パン粉をまぶし、平鍋に油を少し多めに注いで、魚をカリッと焼きあげる。

 これでものは揃ったので、たれ、トマトとキャベツ、鮭フライをパンにはさんで完成。材料さえ集まれば簡単だった。


「一緒に買い物へ行って、お店の場所や金額を把握したら良かったです」

「今は良くなりましたが、顔色が悪かったので、行かなくて良かったです。いつでも案内します」


 迷子にならない場所なので、とお店の場所や予算を書きつけてくれるそうだ。分からなかったり、一緒に行けたら行こうと誘われたので、是非と返答。

 リルが嫌な感じのお嫁さんだったら、なぜ姉ではなかったと腹が立ったり悔しさを感じるだろうけど、リルなら納得というか、姉が惚れた男性の見る目があってホッとした。

 ロイ自体も、私はこれまでもっと怖い人だと思っていたので、お邪魔させてもらって誤解だったと知れて良かった。


 美味しい昼食の後は、作り方を書きつけさせてもらい、龍歌百取りの勉強中なので、覚え方を教えて欲しいと頼まれたので今度は私が先生。

 私が小等校中には丸暗記したことを、彼女は今覚えているというのは驚きだけど、小等校へ行かずに寺子屋育ちで、そのまま家守り修業の日々だったようだから、そういう人生もあるんだなと目からうろこ。

 私の生活圏には、似たような同年代ばかりなので、リルという存在は新鮮。


 十五時を告げる鐘が鳴ったので、洗濯物と布団を取り込んで、片付けと縫い物をして、夕食の準備開始。それにしても、忙しいのかロイは全然帰ってこない。

 夕食はご馳走にならないで帰宅予定で、ガイとテルルが帰宅。その時にロイは飲み会ということを知った。

 ルーベル家の四人とトランプをしていたら、私の両親が菓子折りと共に私を迎えに来た。居間で親と共にしっかり挨拶をした結果、全員にまたどうぞと笑顔を向けられたので嬉しい。


 ルーベル家を出た私は、両親にどんなだったのか語って、帰宅後は母にだけ、新しい次男のことをテルルにこう言われたと説明。


「あら。もう本縁談ではないんですね。確かロイ君の一つ年下なのに」

「今は仕事や勉強だそうです。仕事の後押しをしてもらうために、ガイさんの養子にしてもらったから励むそうです」

「お兄さんがロイさんとリルさんに頼んだ縁談なんですね。ロイ君は親孝行だから、家守り特化のリルさんならって受け入れたのね」

「お姉さんには内緒ですが、そうだとしてもおしどり夫婦でした」


 自分で頑張った結果、良い印象を与えてきたんですね。町内会関係で会えたら、話せると良いですねと母に背中を撫でられた。


 ☆


 数日後、異国料理やトランプで教室や趣味会でちやほやされて楽しいし、初恋は前途洋々かもしれないと浮かれていたら、ガイとネビーが我が家を来訪。

 まさか縁談? とドキドキしたのに、全然違う話で謝罪とお説教だった。


 先日、リルと共に彼に会えた時の私は、そそっかしいことに裾を上げた状態で外出していたので、それは危ないという忠告話と、一緒だった妹が指摘出来ずにすみませんという謝罪。

 足が綺麗だと目にとまって、顔を確認されて美人だぞと目を付けられることがある。それで良い縁もあるかもしれないけど、厄介者に目を付けられることの方が多い。あのような格好は普通よりも危険が増すので、気をつけた方が良いと考えて、こうして話にきたそうだ。

 

 生活圏内で最近会った若い女性が被害者になった犯罪事例とその防犯対策という資料を置いて、ガイとネビーは帰宅した。

 具体例を三件口頭で説明されたけど、他はこちらをご確認下さいって資料の量は多い……。世間とはそんなに怖いのだろうか。


「ガイさんの新しい息子さんは、ロイ君同様に真面目なんだな。分厚い資料だ」

「良かったですね、アミさん。気にかけていただいて」

「……ありがたいけど、子ども扱いで怖かったです」


 素敵な笑顔の男性だとか、颯爽と犯罪者を逮捕して格好良かったとときめいたのに、今夜の彼だと怖い。呆れ顔に冷めた目、それに気を付けて下さいと睨まれた結果なのか、私の気持ちはわりとしぼんだ。


 少しして、エイラに薄茶会に誘われて、またリルに会えたので会話したら楽しくて、またハイカラを教えてもらえたし、私が学校で教えてもらったトランプ遊びを教えたら喜んでもらえたので、私はネビーとは親しくならなくて良いかなと考えた。

 上手くいったら優しい姉が出来るけど、彼と気まずくなったら、リルとの交流もぎくしゃくしそうなので。

 町内会関係やリルとの交流でまた会う可能性があるので、また気持ちが変化したら、その時はその時。彼も私も本縁談の時期ではないので、焦る必要はないだろう。

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