日常編「リルと女学生4」
本日の献立決定版。
味噌汁は野菜の皮とイワシ少しと成長させたネギ。
ご飯は工夫なし。イワシの蒲焼き。豆腐と青菜とキノコのあんかけ。香物。
なので切るものはイワシ、野菜の皮、豆腐と青菜、キノコ、香物。
味噌汁の出汁はイワシの頭にするけど、味の様子を見て合わせ出汁を微調整に使用。
時間がかかる煮物は無いので、優先するのはご飯炊き。
「まず大体、使う物を準備しました」
「実習みたいです」
「私はもたもたなので、先に道具を大体出します。次はお膳やお皿も板間に用意しておきます」
「もたもたって、テキパキしています」
「そうですか?」
「はい」
「日々の修行の成果です」
鼻高々!
お膳を五つ出して、使いたいお皿をひっくり返して並べておく。
「お膳は昨日拭いたので、拭き直しは必要ありません」
「はい」
水の量、問題無し。プクイカ……死んでない。アミに食べさせてあげたかった。
死んでいないプクイカはもったいないから食べない。
「リルさん、こちらのかわゆいイカさんはなんですか?」
「殺人イカです」
「……」
「ワッて噛むからお嬢さんは近寄ってはいけません!」
かなり怖そうな顔をしたので、アミを慌てて遠ざける。
さて、大体準備は出来たので、まずはお米炊きの準備。お米をざるで洗って浸水させておく。
臭くないものから切りたいので、豆腐、青菜、キノコ、洗ったおいた皮、ネギの順。
アミは豆腐を掌の上で切れないようなので、別に無理しなくてもとまな板を勧めた。
青菜は洗い残しが気になるし、水の使い方がじゃぶじゃぶなので、桶の中でと見本を見せる。
今日は茹でないで直接炒め物にするので、青虫や卵がついていたら気分的に嫌と説明したら、慌ててしっかり洗っていた。
土が落ちれば良いと考えていたらしい。アミは畑を見たことがないのだろうか。
質問しなさいという、天の声——義母の前の説教——がした気がしたので尋ねたら、学校の授業で畑へ行ったし、収穫などもしたという。
「こちらの皮はなんでしょうか」
「アミさんがお昼に厚く切った皮です」
「えっ。あのっ、す、すみません!」
「いえ。このように使うからええです。人参と大根の皮は既に洗ってあります。なのでみじん切りです」
「はい」
やっぱり、ルル達みたいにぎゃあぎゃあ騒がないから楽。みじん切り、と言えば手も動くし。
次はイワシ。捌けるか尋ねたら、多分と言われたので様子見。
難しそうなので、それならこうしたらと頭を手でブチっと切って、そのまま内臓を取り出す。
「……手でも出来るんですか」
「豆あじと同じです」
「ここを持って、こうです」
「はい」
両方出来ると良いので包丁も練習。
多分捌けると言った通り、やり方は分かっているので教えるというよりは練習である。
私とロイとアミの分、七匹分練習したら少しは良くなった。
血をよく洗って、頭には塩をふっておく。
体は開いて、余分なところは切って、少し大きめのイワシなので、喉に骨が刺さって死んだら嫌なので骨も取って、粉をふる。
頭を洗って手拭いで良く拭いて、塩を軽くまぶして七輪で塩焼き。
浸水終了のご飯を炊き始める。米のとぎ汁と灰汁でさっさとイワシ臭い手拭いを洗ってしまう。
イワシの余分なところと骨とみじん切りの皮を、包丁の背で叩いて混ぜて、粉を少し入れて小さなツミレを作る。
イワシの頭の塩焼きを水に入れて放置して、その間に豆腐とキノコと青菜を鍋で煮て、醤油とみりんで薄く味付け。
これを一回どかして、イワシの身をカリッと焼いておく。
イワシの頭入りの水に合わせ出汁を少し足して煮て、味を確認して、濾して灰汁取り。
十七時の鐘が鳴ったので一旦料理中止。
生ゴミにお湯をかけて火を通し、外のゴミ箱へ捨てて、まだ共同ゴミ捨て場へ運ばなくても良い量なのでそのまま。
「アミさんが予想よりもテキパキしていたので、掃除します」
「えっ? 掃除ですか?」
「はい」
義母のところへ行き、残りの料理はこうだと教えたら、掃除は明日で良いから、縫い物を頼まれたので縫い物。
アミは縫い物が苦手で、裁縫会に入って授業以外でも練習しているという。
「裁縫会とはなんですか?」
「趣味会です。リルさんの通った学校では別の名前でした?」
趣味会とは……エイラが交換日記で教えてくれたな。
放課後や土曜日に行なっている活動のことで色々ある。エイラは茶道会で、クララは琴門会だったそうだ。
「趣味会は何か教えてもらいました。私は学校に通っていません」
「えっ。そうなんですか?」
嘘は良くないので本当のことを伝えるしかない。
「はい。兄妹が沢山なのと、兄が優秀だったので、兄の教育費の為です。私は祖母や母に家事を仕込まれました」
「……お兄さん、今日もご活躍していましたね」
……。
アミがまた、照れたようなはにかみ笑いになったので困惑。
今日遭遇した兄は少々格好良かったけど、この間我が家に来た兄は全然。
半べそでロイに土下座やすがりつきをして、イオに足袋を投げてロイに説教され、白目になったり呻き声を出しながら勉強していた。
バカ過ぎる自分が情けない、一人で課題を進められなくて悔しいとぶつぶつ言いながら。
それにヨハネになぜ一部の分野だけ、こんなに理解力がないのかと呆れられていた。
義父にはこのくらいの課題でヒーヒー言うなんてと説教され、ロイを見習えと怒られ、真面目に話を聞いていたけど、後で「俺はこんなにも出来損ないだ」とのたうち回っていた。
可哀想なので、頭を撫でておいた。
「仕事は頑張っていますし、外面が良いです」
「家の中だとどのようなのですか?」
「ふざけるかゴロゴロしながら勉強か妹達と遊ぶ……」
ひっ!
襖が少し開いていて、義母が私を軽く睨んで首を横に振っている。
「えーっと、最近は……勉強しているらしいです。とにかく勉強しているそうです。偉くなりたいらしいです」
ちょいちょい、と義母に手招きされたのでアミに「少々失礼します」と告げて廊下へ。
義母が無言で歩き出したのでついていったら、居間から離れたところへ移動。
「自分で考えなさいと思っていましたが、あなたのことなのでと思って言うことにしました」
「はい」
嫌味っぽい言い方をされたけど、悪口は含まれていないから良いや。
「あなた達のお母上が、長男の縁談が遅くなるのはあまりと、かなり心配しているのはご存知ですね?」
「はい」
「理由はなぜかもご存知ですか?」
「理由……。かわゆい一人息子が心配だからです。学費について知って気が引けて、子育てに夢中です」
そうですね、と義母は小さな声を出した。
「沢山縁談が来たら、縁のあるなしはともかく、エルさんの心配が少しは減るでしょう」
「沢山縁談が来たら……」
「ネビーさんはお嬢さんを選り好みしたいようですから、お嬢さんであるアミさんの気持ちをくさすようなことは言わないように」
「アミさんは賛成ですか?」
「この家で暮らす我が家の嫁ではなくて、向こうの嫁ですから、アミさんなら性格も家も問題無いので別にです」
そっか。義母はアミでも良いのか。
「お兄さんを褒められたら褒め話に乗っておきなさい。彼はもう我が家の次男です。直していくんですから、変なところ、品のないところを言いふらすんじゃありませんよ」
「はい。すみません。口が滑るところでした」
兄は実家家族と暮らすというような情報を小出しにしてあげる。兄の本縁談はまだ先の予定なのも遠回しに伝えること。
「それからモテているとか、趣味とか、そういう話をなさい。間違っても、兄は足臭なんて言うんじゃありませんよ。そもそも臭いませんし。セレヌさんにも足臭病はないとお墨付きをもらったでしょう」
相手の家の欠点や相手の欠点を探るのは向こうの役目かつ責任。こちらは家族を持ち上げるもの、と怒られた。
「ただねぇ。聞き取りしたけど、ネビーさんが分からないんですよ。難しいから、エルさんが心配するのも分かります」
難しい? と質問したら、ロイと話していないのかと怒られた。あなたは家事しか出来ませんねぇ、と嫌味っぽく言われて会話終了。
家事は完璧という意味な気がして嬉しい。他のことはロイと二人三脚なので、きちんと会話しよう。




