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日常編「リルと女学生3」

 リルさんのお兄さんは噂通り地区兵官さんなんですねから始まって、顔が似ていますね、年齢差はあまりありませんか? と兄話が続く。

 先週末に来客達から聞いた、兄の強盗大捕物話になると、心強かっただけではなくて格好良かったと褒められたし、アミはずっと照れた様子なので、ますます疑惑が深まる。


 私の母が、兄にはこれから義父母がついているとはいえ、十年も経ったら年をとり過ぎて、本人が望む「お嫁さんはお嬢さん」は無理なのでは? と心配しているので、アミの気持ちはありがたいけど、義母は多分同じ町内会からは嫌。

 しかも、あんなにイライラしていた「雑なお嬢さん」は気に入らないだろう。

 私はロメルとジュリーには反対なので……兄はデレデレしないで苦笑いしていたな。なんで?


 魚屋で安かったイワシを買い、アミにこれでどんな料理をするのか質問。

 

「えっ? あっ、はい! 献立は修行ですね。何を作るのか先に決めないんですね」

「先に決めたら高くても買わないといけなくなるので、節約出来ません」

「そっか。そうですね。イワシ……は……昨年、学校で生姜煮を作りました」


 生姜……この間使い切って、安い日がなかなか現れないからまだ買ってない。却下。


「生姜がなくて、高いのでまだ買いません。他にありますか?」

「イワシ……他……イワシ……。えっと……」

「新しいことを覚えるのも修行ですね。蒲焼きは作ったことがありますか?」

「ないです」

「それなら蒲焼きにしましょう。作れるものが増えます」

「ありがとうございます」


 ご飯、イワシの蒲焼き。残りは何にしますか? 味噌汁の具はどうしますか? と問いかける。

 緊張で覚えていないかもしれないので、我が家に今ある野菜を教えた。


「えーっと……かぼちゃの煮付けはどうでしょうか」

「蒲焼きがあまじょっぱくて、かぼちゃの煮付けもあまじょっぱいです」

「あっ……」

「失敗ではありません。まだ教えていませんでした。我が家は濃いものばかりは苦手です」

「それなら、えーっと……」

「ナスとレンコンとカボチャを焼いて添えましょうか」

「は、はい!」

「味噌汁はどうしますか?」

「き、きのことネギでどうでしょうか」

「それはしたことがない組み合わせなのでありがとうございます。そうしましょう」


 漬物は糠床にあるし、緑色が欲しいので青菜の煮浸しか、おひたしが欲しいところ。

 青菜を茹でるところまでは一緒で、味を変えて、明日のお弁当にも入れる。

 私としては今日はもう買うものはないので、家に戻りながら、イワシを多く購入したのは多く買うから安くと言うためで、明日のお弁当作りにも使うと教えた。


「お弁当はイワシで何を作りますか?」

「お弁当のことを考えていませ……」

「あっ! ルゥスさん豆腐の棒手売りです!」


 たまにそっち方面にもいると教えてもらったけど、ようやく見つけた。

 あの旗にあの印にあの店名の棒手売りからは、あの美味しい豆腐が買える!

 豆腐入れがないけど、綺麗な手拭いがあるのでそれにくるんでそそくさと帰ることにする。美味しい豆腐を買えてほくほく気分。


「アミさん。夕食は変更で、この豆腐であんかけを作ります」

「あんかけとはなんですか?」

「ボブなんとか料理です。そうでした。ハイカラを教えると喜ぶはずとお義母さんが言うていたので、ハイカラ料理も必要でした」


 キノコとネギのお味噌汁は変更で、キノコと青菜と豆腐のあんかけにして、味噌汁は私が食べようとしていた皮を使うことにする。

 この豆腐は美味しいと喜ぶから、朝白和えを作ってお弁当にも入れよう。早めに作ると腐るかもしれないし汁も出そう。


 ポツポツ雨が降ってきたので、予想的中! と急いで帰宅。

 転ぶと危ないし汚れるけど、洗濯物と布団が気になるので大きめの手拭いをアミに渡して、転ばないように帰ってくるようにと告げて、一人で先に帰った。


 義母になぜ一人なのかと問われたので説明したら、花嫁修行なんだから、失敗しても本人主体と怒られて、傘を持って慌ててお迎え。

 アミは頑張って走ったようで、わりと近くまで帰ってきていた。


「すみません。なるべくしてもらわないと修行にならないと指摘されました」

「い、いえ。遅くてすみません」


 アミと二人で帰って、二人で協力して布団と洗濯物を取り込む。

 桶を出して廊下に置いたけど、最初、アミは廊下にどんどん洗濯物を置いた。


「アミさん。掃除していない廊下に置いて、汚れますよ」


 義母はアミにこっと笑いかけたけど、声色は優しいけど、目が怖い。


「は、はい!」

「アミさん、言いそびれました。こちらです」

「リルさん。言われた、言われていないではなくて、気遣いや清潔感の問題です」

「……すみません」


 アミはすっかりへしょげ顔。


「謝罪して落ち込んでないで、さっさと移動させなさい。修行なんですから、そういう考えもあると覚えれば良いだけです」

「は、はい! 御指南ありがとうございます」


 義母はなるべく我慢するし、我慢できなくなっても気をつけると言っていた。

 笑顔だし、覚えれば良いだけとは優しく感じるからアミはまた笑顔。私は後が怖い。


 無事な布団を各部屋に置き、部屋干しを終えて、雨戸も閉めたら義母に笑顔で「休んだら?」と誘われた。

 昼食作りの残り火でお茶を淹れておいたので、それで少しまったり。

 我が家は熱いお茶絶対主義ではないので、これでも問題ない。

 義母が「買っておいたので食べましょう?」とかりんとうを出してくれた。


 かりんとう!


「お義母さん。初めてで色々は大変です。今日、アミさんは後は料理と片付けを頑張ります」

「あら、そうするの?」


 正解が分からなくて怖いけど、残り時間を逆算すると掃除が終わらない。

 わざわざ少し掃除しないでおいたから、私としては掃除したいけど。


「そうします」

「そう? 二人ともよろしくね。私は楽を出来て助かります」


 初めてはモタモタしてしまうものなので、とアミに告げて、台所へ行き、献立はもう決まっているのでよろしくと頼んで、調味料の場所を教えて掃除準備。


「リルさん」


 廊下と階段と畳の掃除だけはする、と意気込んでいたら義母に呼ばれた。


「あなた。一人になるのが随分早かったけど、アミさんに料理を丸投げしたの?」

「献立を一緒に決めて、調味料や道具の場所を教えました。初めてなので、蒲焼きは一緒に作ります」


 義母は呆れ顔になったので、ダメってことみたい。


「それは明日にして、あなたの手際の良さを彼女にきちんと見せなさい。彼女はここに、手本を増やしにきたんですから」

「はい」

「区立女学生とは違って国立女学生は教養中心で家事はイマイチですよ。余程、家でしていない限り」

「そうなんですか。いえ、そうでしたね」

「あなた、また勉強していませんね」


 手際が良いと褒められて嬉しかったけど、怒られる気配なので逃げたい。しかし、呼び止められた。


「あとお風呂。雨水が溜まるようにしました?」

「していません!」

「通り雨な気がしますけどね」

「水汲みが楽になるのでしてきます」


 居間を出て行こうとして、あっと思い出して、買い物へ行く途中に兄に会ったことを話した。


「あら、良かったですね」


 良かった?

 良かった……。


「すり傷一つなくて良かったです」

「すり傷? 捕物でもしていたの? この間は強盗大捕物でしたっけ。知り合いになったら活躍をちょこちょこ耳にします」

「殴り込みかと思ったら違いました」


 何があったのか説明して、アミと前に会っていたと気がついたことも伝える。この間の強盗大捕物の時もいたみたい。

 すると義母は「そういうこと」と呟いた。


「不仲ではないシイノギさん家の奥さんに嫌がらせでもされるのかと思ったら、王道の方。それならそんなにピリピリしなくて良かったわ」

「王道ですか?」

「娘をネビーさんの視界に入れたかったか、親が娘に頼まれたってことですよ」

「……」

「リルさん?」


 兄は幼馴染イオの婚約ミユの友人からの文通お申し込みを一刀両断して文通流ししたそうで、別の女性からの人伝ての手紙は私の前で破り捨てた。そして今度は町内会のお嬢さん!

 兄は確かに昔から老若男女に人気者だけど、女性にこんなにモテるとは。


「女学生さんって、鼻緒を直してくれただけで気になりますか?」

「異性慣れしていないですから、そういうこともありますよ」

「兄でなくてもですか?」

「そうでしょうね」

「そうですか」

「この間の大捕物がきっかけかしら。いえ。その時にはもう我が家に来ることが決まっていましたね」

「はい。その時にはもう決まっていたからそれは違います……」

「その顔は気になるけどまぁええです。ほらほら、アミさんに手際の良い台所仕事を見せてあげなさい。自分が気持ち悪いからだけど、掃き掃除くらいは私がしておきます」


 手際が良いと褒められたので、嬉しくて足が軽くなるし、やる気も出たので素直に義母の指示に従う。

 アミは困り顔で、まずは何から……と呟いていた。


「すみません。今回の花嫁修行は任せるのではなくて教えるものだとお義母さんに指摘されました。一緒に作ります」

「は、はい! ありがとうございます」


 安堵したような、嬉しそうな笑顔を向けられたのでかわゆいなと眺める。


「私流を見せるので覚えて下さい」


 これはさっき義母に言われたこと。母にも見て覚えるのも大事と言われて育った。


「はい」

「分からないことは聞いて下さい」


 これは出来ていなくて、義母によく怒られていること。


「はい」

「手洗いうがいはしました?」

「あっ。いえ。すみません。家だとするのに緊張で……」

「一緒に手洗いうがいで、割烹着を着ましょう」

「はい」


 にっこり笑ってよろしくお願いしますだから、やはりかわゆい。そもそも美人だから余計にかわゆい。

 姉ちゃん! と騒がないでお淑やかだから楽。

 妹達にもこうなって欲しいので、両親や兄達に頑張ってもらおう。

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