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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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日常編「リルと女学生2」

 本日金曜、シイノギ家のアミは義父やロイが出勤した後くらいに母親と共に来る。

 女学校には課外学習申請をしたそうなので、欠席にはならないどころか授業扱いになるという。代わりに報告書が必要だそうだ。


 花嫁修行に来るのだから、多少家を汚しておきなさいということで、私は三日間掃除免除。

 空いた時間は好きにして良いということで、一日は実家へ遊びに行き、もう一日は勉強時間を増やし、もう一日は父のところへ行って手伝いながらルカとお喋り。

 実家に帰るとルル達にまとわりつかれて楽しいけど、ルカとあまり話せないので。


 カラコロカラ、カラコロカラと玄関の呼び鐘が鳴ったので、シイノギ家だろうと玄関へ向かって、途中で声がしたのでやはりそうで、お出迎え。

 義母は実際よりも大袈裟めに足腰があまり、ということにすると言っていたので居間で待機。


 玄関でシイノギ家の奥さんと、娘のアミさんと挨拶をしながら、どこかで会っているなと思案。

 軽く挨拶を交わしたではなくて、もう少し何か喋った気がする。

 二人を居間へ案内して、お茶を淹れようとしたけど、シイノギ家の奥さんに客ではないのでと遠慮された。

 義母が奥さんから菓子折りを受け取り、娘をお願いしますと頼まれて彼女をお見送り。

 事前に奥さんと義母で手紙をやり取りしていたからか早い。


 アミは色白ですらっとしていて凛とした顔立ちで、やはりどこかで少し話した気がするけど思い出せない。

 凝った髪型に、可愛らしい柄の着物に、刺繍付きの足袋なのでお洒落。


「本日より二日間お世話になります」

「お母上から説明されているように、私は日によって体調に波があるので、アミさんのことは嫁のリルに任せます」

「はい。リルさんがテルルさんのお世話をする時間も作れるように、しかとお手伝い致します」

「リルさん。お願いします。部屋へ案内したら着替えてもらって、ここへと伝えなさい、リルさんは先に戻ってきてちょうだい」

「はい」


 まず、アミが泊まる部屋は私と一緒に離れになっているので案内。

 ここで二人で寝ると教えて、着替えたら先程の居間へと伝えて私は先に移動。

 居間へ行ったら義母は既に不機嫌顔で背筋がつーっと冷たくなった。


「なんですか、あの遊び気分の格好は。すぐ近くなんですから最初から家着で来ればええのに」


 そこに怒るの……。


「お義母さんは、私に家着で歩かないようにと言いました」

「待たせる時間分で家事が滞るんですから、同じ立場なら家着で行きなさいと言います。この時間、リルさんなら既に洗濯を終えて布団を干し終わって掃除をしていますよね? 今、何も終わっていません」


 キッと睨まれたのとそういう理由ならと反省。


「そうですね」

「エルさんからあなたは教え下手と聞いています。しっかり教えて見張りなさいよ」

「はい」


 しっかり教えて見張りなさいはこれで十八回目。義父が私に袖の下と言って錠菓(らむね)というお菓子を買ってきてくれて、私が嫁で幸せだと言ってくれたけど多分こういうこと。

 元々、義母はうんと細かくはなかったけど、姑にネチネチ言われるから完璧主義者を目指し、現在に至るという。庇いきれていなかった俺のせいとも言っていた。


 軽い悪口が本人に伝わらないようになのか、これ以降義母は無言。

 しばらくしてアミが来て、お待たせしましたと微笑んだ時に、義母は「練習ですから一つずつ確実に。急がなくて良いのですよ」と笑いかけた。

 裏側を知っている私の背筋がまたしても冷えていく。


「アミさん。まず布団を干します」

「はい」

「アミさんは先程の部屋の私とアミさんの布団からです」

「はい」


 にこにこしていて、しっかり返事をしてかわゆいのに……義母はすまし顔で読書をしている。

 アミが変なことというか、雑なことをしなければ問題無いということ。

 離れの窓を使って布団を干して、次は二階へ案内して私達夫婦の部屋の布団干し。

 最後は義父母の布団を中庭で干して次はお洗濯。


 今日はお客様アミがいるのでお風呂のお湯を変えてしまう。なので、お風呂の水を使って洗濯をする。

 

「母にルーベルさん家は敷地内に井戸がある珍しいお屋敷だと教わりました」

「はい。楽で助かっています」


 お風呂の水を抜くと洗濯場へ流れるようになっているので、洗濯場に栓をしておけば水が溜まる。

 お風呂掃除をしたいので洗濯物はアミに任せることにした。女学校で一通りのことを習っているから大丈夫だろう。

 しかし、義母が「きちんと教えたの?」と怒ったら怖いので、一応これは踏み洗い、これは手洗いと教えてからにした。

 すると、アミは「踏み洗いはしたことがありません」と口にした。


「そうなんですか?」

「はい。敷地内に井戸がある家はお風呂があってええですね」

「アミさんの家はお風呂家ですか?」

「町内会の共同風呂です」

「ああ。そうでした。教わりました」


 使わないから忘れかけていたけど、お風呂がない家が共同出資した風呂がある。狭いけど浴槽の数はあり、井戸がある祓屋と近い場所だったはず。

 踏み洗いを教えて、特に問題なさそうなので任せてお風呂掃除。

 お風呂から出た後に汚れを取りまくらないといけないように、水を抜いた後にしっかり掃除しないとお風呂の水の持ちが悪くなる。

 継ぎ足し、継ぎ足し、新しく入れ替えみたいに運用しているので掃除は大切。男手があと二人いたら毎日お水を変えたいところ。


 お風呂掃除完璧と自己満足してアミの様子を見にいったら、干してある洗濯物の絞りが甘くて、これでは乾かなそうで、おまけにシワがわりとそのまま。


「……」

「すみません、リルさん。もうすぐ終わります」

「……」


 手で部分洗いで良い浴衣が全部桶の中でびしょ濡れ!

 言ったっけ? 言わなかったっけ? 部分洗いとは言ってないなと自分の記憶を辿る。


「女学生さんは力が弱いですか?」

「いえ。私はそこそこ力があると思います」

「……そうですか」


 ここは中庭で襖も障子も開いていると居間から良く見える。義母は……顔が怒っている。

 私と洗濯物を交互に見て肩をすくめて本に視線を落とした。


「あの。すみません。私、何かしました?」

「私よりも力が弱いようなので絞り直しましょう」

「絞り直し……ですか。は、はい! すみません!」

「その浴衣は部分洗いと言うのを忘れてすみません」

「部分洗い……すみません!」

「言い忘れてすみません」


 染み抜きだけの着物はまだ何もしていなかったのでホッとした。

 義父お気に入りの浴衣が縮んでいませんようにと祈りながら良く絞って干して、干してくれた洗濯物を絞って干し直し。


「このようにしっかりシワを伸ばします」

「はい」


 ぐぅううううううう。

 これは私のお腹の虫の音。正午を告げる鐘の音が響いたので慌てて台所へ。

 アミは花嫁修行に来るのだから事前準備はしないようにと言われているので昼食は何もない。


「アミさん。普段は朝にご飯を多めに炊いて、昼はそれを使って簡単な物か、時間を多く作って試作品です」

「試作品ですか?」

「私もお義母さんも料理好きです。色々研究しています」

「母がテルルさんは料理上手と褒めていました。それにエイラさんがリルさんは料理上手だから色々学ぶと良いですよって」

「ありがとうございます」


 これから火を起こしたり、ご飯を炊く……。今から作れる早くて簡単な料理……。

 もっと早く洗濯が終わって、アミとのんびり昼食作りだったのにモタモタしたせいで全員腹減り……。


「すいとんにします」

「すいとんとはなんですか?」


 義父母もロイも知っていたから家によるのかなぁ、と思いつつ説明したら「ちぎり鍋をすいとんと呼ぶんですね」と笑いかけられた。

 名前が違うのかと驚いて、義母に言いに行ったら「あなたがすいとんと言うて出したから、そちらではそう呼ぶんだなぁとそのままでした」という返事。


「そうでしたか」

「今からご飯を炊くよりも、すいとんの方が早そうですね」

「お昼が遅くなってすみません」

「いーえ。あれだけ洗濯を邪魔されればそうもなります」


 義母の笑顔が嘘くさくて怖いから逃亡。


「アミさん、火はおこせますか?」

「はい」


 力が弱い女学生は火を吹く力も弱い? と思って自分が火を起こすことにして、野菜切りを依頼。

 道具や野菜を用意してお願いして、生地を軽く寝かしたいから先にすいとんを作り、火を起こし、お湯を沸かす準備が出来たところでアミの作業を確認。


「……」


 大きさがばらばらで、しかも全部大きめ!


「アミさん。同じ大きさに揃えたほうがええです。あと小さめ、薄めにしないと中々煮えません」

「すみません、不揃いは不器用なせいです。もっと小さく、薄くですね」

「見本を用意しなくてすみません」


 剥いてくれた皮が分厚い……。これは良く洗って食べるので捨てないことにする。

 ただ、ジャガイモは腹痛を起こすことがあるから捨てる。


「全員お腹が減っているので、早く煮えるようにしましょう」

「はい」

「二人ですれば早いです」


 不器用と言ったように不器用なようで、実に危なっかしい手つき。

 これは修行なので、私だけどんどんしない方が良いのかなぁと様子見。一生懸命なので応援したくなる。まるでロカのようだ。


 他の家の味付けが気になるので味付けはアミに頼んで、完成したすいとんを義母と三人で食べた。

 

「やはり家の手伝いとは全然違いますね」

「同級生の中で流行っているか、そういう方針の先生なんですか? こういう練習家守りって、卒業後の時と在校中の時があるんですよね」

「そういう方針の先生です。姉の時も在校中と言うてました」

「そうですか。沢山学んで良縁を結んで下さいね」

「はい。ありがとうございます」


 義母は優しい笑顔で、アミもそれにかわゆい照れ笑いを返したけど、私は義母のイライラ不機嫌さを知っているから怖い。

 義母があまり喋らないから、どうしても私が喋りがち。

 昼食後は掃除と思っていたけど、嫌な予感がするので先に買い物へ。

 朝から晴れていたのに、雲が多くなって気がするし、雨の匂いもするから小一時間で買い物をして、戻ってきたら洗濯物を部屋干しに変更したい。布団もさっさと取り込もう。


 アミと二人で家を出て、いきつけの魚屋へ向かっていたけど、彼女はわりと足が遅い。

 主にルルに急かされて生きてきて嫌だったので、彼女に速度を合わせる。

 こうしてみると私はそんなに遅くないので、ルルの「早う」は自分の思い通りに動いてという意味な気がしてきた。


 大通りに出たら、何やら騒がしいし人だかり。なんだろうと頑張って前に出て確認したら、何人もの地区兵官が屯所方面へ歩いていた。

 目を背けたくなる痛々しい怪我人達を担いだり、引きずっているので、悪人達を懲らしめたのだろう。


「……なんの悪さで捕まりました?」


 私は人見知りだけど気になり過ぎるので、一番話しかけやすかった年配女性に質問。


「世直し隊とかっていう若者達が、役所で業務妨害ですって。税金泥棒を世直しって、私ら困ってないのにね」

「怠惰で仕事が続かない若者が集まって八つ当たりだろう。定期的にあるよな」


 ふーん。暴れ組の犯罪証拠を掴んだので殴り込みではないのか。世直し隊について、今夜ロイに聞いてみよう。


「あっ。兄ちゃん」


 いつもは鉢金を腕に巻いているけど、額に当てている。でも兄の顔は見慣れているからすぐに分かる。

 気がつかないかもしれないけど手を振ったら、気絶している悪人を左右の肩に担いでいる兄が「よぉ、リル」と近寄ってきた。

 鉢金を額にしていて、衣服と顔が汚れているから少々怖い。兄にこんな凄みがあったっけ?


「お兄さん、お疲れ様です。怪我してない?」


 外面は大切で、家ではないから兄ちゃんではなくてお兄さんだったと訂正。

 兄の全身を確認して、あちこちに血がついているから心配になった。


「よぉ、リル。買い物か? ここらは丁度歩きやすくなったから安全だ。でもスリやひったくり、暴漢などなど気をつけるように。怪我はすり傷一つないから安心しろ」


 にこっと優しく笑いかけてくれたのでこれはいつもの兄。すり傷一つないなら安心。

 兄は「そんな顔するな。怪我無しで元気だ元気」お私の頭を軽く撫でてくれた。


「うん。ありがとう」

「あ、あの! あの……リルさんのお兄さん、お疲れ様です」


 今の兄は少々雰囲気が怖いけど、私の兄だと分かったからか、アミが声を掛けてくれた。

 お嬢さん好きな兄からデレデレ喜ぶ……喜ばないで無表情でアミを見据えている。


「リル、こちらは町内会のお嫁さん仲間か?」

「ううん。町内会の娘さん。今日は我が家の家事を教えてる。女学校の課題」

「シ、シイノギ家のアミと申します……。あの、以前、鼻緒を……ありがとうございます」


 鼻緒? とアミの草履を見て、片方の草履が応急処置のままになっていると気がついた。

 兄で鼻緒……そうだ。前に兄と町内会の敷地を歩いていた時に、転びかけて兄が助けたお嬢さんがアミだ! 

 あのお嬢さんがアミだから、前に喋ったような気がしていたんだ!


「鼻緒? 俺、忘れっぽくて記憶になくてすみません。覚えていないし、鼻緒なんて些細なことなのに、ありがとうとはありがとうございます」


 困り笑いを浮かべた兄は、私達に会釈をして「仕事なので失礼します。リル、大事なお嬢さんを預かっているみたいだから気をつけろよ」と遠ざかっていった。

 頬と耳を赤く染めているアミに困惑。


 ……えっ?

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