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未来編「手相1」

 母の具合が良くなってきたので、ネビー夫婦が去って、ルルがまた住み込み開始。

 女の子は護身とネビーに軽く剣術を学んだユリアは、ちゃんばらがしたいと騒いでいて、レイスは琴が好きなのか琴を弾きたいと騒いでいる。


 ネビーもウィオラもまた来ますよ、と二人に教えても「まだですか?」と私にまとわりつき。

 ルルが自分と遊ぼう、本を読んであげると言ってもグズる。

 結果、家事が捗らない。

 レイスに琴を弾いてて良いと用意しても、教えてくれないと分からない、お歌にならないと泣く。

 ユリアはルルを見張りにして素振りは嫌なようで、とにかくちゃんばらが良いから、やっぱり泣く。


 ユリアとレイスがお母さんと一緒にお兄さん——お姉さん——に会いに行く、お母さん、お母さんと私にくっついて回る。

 義母がこんなにやる気があるなら、今なら人見知りよりもお稽古をしたいと言うかもしれないと、二人を手習教室へ入れることに決定。

 ユリアが琴で、レイスが剣術の希望だけど、それぞれ好きなことが逆なので、両方通わせることに。

 双子の悪いところは、手間暇もお金も倍なことだけど、良いところは二人で一緒に行動させると、人見知りでもお互いがいるので平気というところ。


 剣術道場は男女で分かれているものなので、ユリアは小さな剣術小町が集まる一番近くの道場へ。

 レイスはロイが、いつかは同じデオンの弟子になりたいけど、年齢的に入門は早いし、本人にやる気がないとあの厳しさは続けられないと言って、ユリアが通う剣術道場と同じ一族が経営する道場へ入門させると決めた。

 琴門は、歩いてすぐの、町内会の人達がわりとお世話になっているところへ。


 しかし、入門して三回目、ユリアもレイスも片方の手習には行かないと言い出した。

 まず、レイスはこうである。


「ちゃんばらは楽しいから行きます」

「そう? お琴は楽しくないんですか?」

「ウィオラお姉さんがええ。お母さん。お歌もないし、楽しい曲もないです。音も変だしつまらないですよ」


 主にユリアが、どこかの琴門に属していると、女学校入学の際に友人が出来やすいかもしれない。

 なので、正式な琴門を探したけれど、レイスがこう言うならとりあえずレイスだけ辞めさせて、ウィオラに頼むだけにすることに。

 ウィオラお姉さんから学ぶなら、また週に一度未満ですよと教えたけど、嫌々を発動。


「また一緒に住みたいです。お話も聞きたいです。いっしょに弾きます!」


 畳に寝そべって、嫌々言うとは反抗期なのだろうか。

 新妻かつ奉巫女(ほうみこ)のウィオラは週の半分くらいは家にいて、週末土曜は区立女学校で趣味会の講師中。

 母の具合がまだそこそこなので、ウィオラがわりと家事の中心なので、レイスがしょっ中行くのも来てもらうのも彼女の生活の邪魔になる。

 しかし、こんなにごねるのなら、相談しようとなった。


 次に、ユリアはこうである。

 琴門教室は友達が出来て楽しいから不満なし。

 ゆるゆる琴門へ入れた結果、集団練習がユリアには合っているみたい。

 しかし、剣術道場はとにかくつまらないという。

 前からそんな気はしていたけど、ユリアは力が強いようで、相手を竹刀で打つと痛いと泣かれてしまう。

 それに、足も速くて、準備運動などで走ると皆を置いてけぼり。

 そうしないように気をつけると、つまらないことこの上ないみたい。そこに「ユリアちゃんは痛い」と友達が出来ないから更に。


 女の子だし、やりたくないなら辞めさせてしまえと辞めさせて、ロイがわりと毎晩相手をしたら、ユリアはそれで満足気味。

 しかし、剣術道場の先生が来て、こんなに才能があるのだから辞めるのは勿体無いと言われた。

 

「娘は剣術を極めて何かはありませんので、勿体無くないです」

「可愛らしいお子さんが自衛出来ると安心すると思いませんか?」


 ロイの胸に、この発言がブスッと刺さったようで、そこらの男の子や男性よりも強くしたら、ユリアは安心安全になると燃えた。

 結果、ロイはデオンの知り合いが経営している女流剣術道場に入門させると言い出して、週に一度の自分の稽古に合わせて連れて行くという。

 ネビーにも、可愛い姪っ子に定期的に会いに来て、稽古をつけて下さいと依頼。

 そうして、ユリアは剣術道場を移り、レイスは琴門教室を辞めて、ネビー夫婦が一から二週間に一回は、我が家に泊まってくれることに。


 毎日同じような生活の繰り返しのようで、このように徐々に変化していく。

 少しずつの変化なようで、振り返って何年も前のことを思い出すと、まるで違う世界だ。

 夜、縫い物をしながら義母にそんな風に語ったら、そうですねと微笑まれた。

 

「テルルさん、テルルさん。借りた本に古い紙が挟まっていました。これはなんですか?」


 離れの自室にいたルルが居間へ顔を出して、手に持つ紙をひらひらさせた。

 

「なんですか? 夜は目があまりだから、近くに持ってきて下さい」

「はーい」

「ルルさん。あなた、帰ってきてから作法が悪くなりましたよ。返事は短く。甥っ子や姪っ子が真似します」

「はいはーい。大丈夫です。二人のことは、ウィオラさんが直してくれますから」


 ルルが義母の隣に座り、机の上に紙を置いた。

 義母の手がルルのおでこを叩いたので、ペシンと小気味良い音が響く。


「うわぁ。幼児虐待です」

「ルルさん。夜なんだから静かにしなさい。ここは長屋ではない。幼児って、もうええ大人だろう」


 義母じゃなくて、盤と駒を使って詰将棋中の義父が怒った。


「……うわぁ。ガイさんが怒った」

「そりゃあ、俺だって言うぞ」

「ついつい実家世界に染まってしまいました」

「気をつけなさい」

「はい」


 全然反省してなさそうな、ニコニコ笑顔のルルが、机の上の紙を掌で示した。

 その紙は古くて、人の手や線が書いてあり、書き込みがしてある。


「それでテルルさん。これはなんですか?」

「あらぁ。懐かしいわ。ルルさんくらいの時はちょこちょこ見ていたのに、すっかり見なくなって忘れていました」


 義母がこれは「手相」というものだと教えてくれた。

 中央東部方面の占い文化で、昔、通りで商売していた旅行中の老婆から少し教えてもらったという。


「その人は人相、顔からも未来や性格を見ると言っていましたけど、手相とはこの一人一人異なる手のしわのことです。一時期、軽く教わった私が発信して、友人達の中で流行ったけど、忘れていました」

「手のしわで占うんですか」

「この国では生まれた日や予言めいた占いが主流ですから、手相は未だに流行っていませんね」


 うんと簡単なことと、気を付けた方が良いことを教わったから、私達の手相を観察してみましょうと義母はまずルルの手を確認。


「この線が知恵の線で、命の線、心の線だったかしら。紙にも書いてあるはずです」

「線に名前がついているんですね」

「左手はあまり変わらないけど、右手は変化していくんだったかしら。逆……。いえ、利き手は良く使うから、変化していくだったわ。運命は完全には決まっていないし、性格も変化することがあるから変わるけど、特に利き手は変化していくって」


 私は自分の手を確認して、義母が見ているルルの手を眺め、全然違うと驚く。自分の手なのに、このように気にしたことはない。


「心の線が長いとおおらかだったかしら。本当はもっと細かいし、記憶があいまいです。私はほら、このように線が沢山集まっているから細かいって言われました。そう考えるとルルさんは太くて一本だがらおおざっぱなのかしら」

「えー、テルルさん。それは手相からの推測ではなくて、私の性格を言っただけです」

「ふふっ。そうですね。確か……あった、ありました。縁談時はこの色好み線がないか確認しましょうって言われたんですよ」

「色好み線?」

「浮気するってことです」

「どれですか⁈」


 それは気になる線なので、義母が示した絵の線をルルと私は確認。二人ともない。縁談線が濃くて太くてまっすぐは逆に一途傾向らしい。


「ティエンさんの手を確認するとええですね」

「なんだかんだテルルさん一途なガイさんには無いはずです。確認しよー」


 ルルが義父に近寄って、手を確認したら、知恵の線が二本あるという。気になるので私も見に行くと、確かに親指側だけ二重線。


「テルルさん、これはなんですか?」

「軽くしか教わっていませんから、分かりません」

「知恵の線が二倍だから賢いってことかなぁ。ガイさんって将棋が強くて、職場でもさささって仕事をしています。家だとテルルさんのお尻の下なのに。お尻の下線はどれかなぁ」

「なんや、ルルさん。お尻の下線って。手相かぁ。テルルさんとお見合いした頃にそんな話をしたような気がする」

「そうなんですか? っていうか、テルルさんとガイさんのお見合いってどう発生したんですか? 豪家娘と卿家の跡取り息子って珍しいですよね」

「俺がテルルさんを見つけてお申し込みしただけだ。ロイと同じで自分で見つけて頼んだ。あっさりどうぞと言ってもらえたのもロイと同じだなぁ」

「へえ。ガイさんはどこでテルルさんを見つけたんですか?」

「そんな古い話は忘れた」

「嘘ですよー」


 義父は機嫌を損ねたのか、恥ずかしいのか逃亡。ルルが義母に「どうなんですか?」と質問。


「お父さんが私の父と同じ将棋教室通いになった縁ですよ。今も通っているところです」

「へえ。そうなんですか」

「私の料理が気にいったそうです」

「わっ。テルルさんが惚気た。もっと聞きたいです」

「惚気ていません。野心家の親が、自分のツテコネで格上の家の男性を家に招く。娘に媚び売りするように言う。よくある話です」

「えっ。テルルさんが媚び売りしたんですか?」

「今よりもっと家の為に結婚しなさいという空気でしたから、他の娘と同じくらいはしましたよ」


 ルルは手相よりも義母の昔話に興味を抱いて、当時の義母の釣り書を思い出して書いて、書いて、書いてとおねだりを始めた。

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