特別番外「尽未来際物語7」
案の定、レイは俺の告白を覚えていない。仕方がないのでもう一回言うも失敗。
その後四回似たような感じで失敗し、次はいつだ、いつ言う、いつなら良いと考えていたら季節が過ぎて、以前彼女が海から救出した異国人アリアがシンの屋敷で住み込み奉公人になる日が来た。
彼女はレオ家で社会に出られるように学ばせてもらい、次はそれを実践できるかということでシンの屋敷と鶴屋で奉公。
まだまだ何も出来ないような状態だけど、シンの屋敷には親切で優しいマリがいるので、あれこれ教えてくれるから、鶴屋で少し働く練習をしつつ家守り能力を磨くというのがレイが両親と話し合って用意した次の道。
アリアと一緒に、ネビーの妻ウィオラの親戚にして弟子のミズキが、東地区へ帰る前に海辺街で暮らしてみたいので、アリアの手伝いがてら一緒に住みたいと希望を出した。
彼女、ミズキ・ムーシクスは私立女学校出身のお嬢様で、幼少期から大舞台に立っている芸妓でもあるからシンは良い資料だと大歓迎。彼の口振りだと、アリアを雇うのはミズキのおまけのようだ。
転居に伴い、身寄りのないアリアの担当は、俺と女性兵官カナミに変更になったので、引っ越しの手伝い後に奉公先の鶴屋で挨拶をして、職場に出勤し、先輩に赤鹿乗りの訓練と指示されたので海岸へ。
衝撃的なことに、その日はほぼ最悪なことが起こった。マリが急病で死にかけたのである。
彼女は治療で一命をとりとめたけど、しばらく予断を許さない。俺は偶然その場に居合わせて、マリの救助が一旦終わると、急に恐ろしくなった。
俺は大好きな人が死にかけるという経験を三回も経験しているのに、急に恐怖に襲われたのは、その記憶が生々しく蘇ったから。
人は突然、命を奪われることがある。幸福が手から零れ落ちるその時は、急なことが多い。
母があの日、亡くなってしまったように……。
気がついたらオケアヌス神社を飛び出していて、走って、走って、走って、鶴屋へ飛び込んで、受付で「料理人のレイさんはいますか⁈」と叫んでいた。
晴天が悪天候に様変わりして、雷雨の中走り続けたのでびしょ濡れである。
マリの救助のために浴びた返り血で汚れた制服姿の俺が、こんなことを言いだしたら騒然となる。少し冷静になって、すみませんと謝ったけど後の祭り。
別室へ案内されて、怪我ですかと心配され、違うので平気と返事をしていたら、この店の店主、かめ屋ご隠居の次男が来て、まさかレイさんの家族になにかあったのかと心配してくれた。
「い、いえ。レイさんのご家族には何もありません。すみません……。人が死にかけて……。それでその……俺の中で突然死と言えばレイさんで……元気かなぁと……」
帰ります! と言う前に、彼は険しい表情に変化。
「見習いを庇って、油をかぶって火傷したんです。そこにレイさんのご家族になにかあったら……」
「レイさんはどこですか!!!!!!」
救護室と言われて、そこがどこかすぐに分かるので、店主を無視してその部屋へ一目散。
部屋に飛び込んだら上半身裸で、腕に包帯を巻いてもらっているレイがいて……。ぷるんっと絵でしか見たことのない二つの山が揺れて視界を占拠。
「き、きゃあああああああああああ!!!!!! 変態!!!!!!!!」
薬師か医者の荷物らしき箱がレイの手で投げられ、思わず避けたらまた俺の目の中で白い山が二つ揺れた。
「うわああああああああ!!!!!! そんな気はなかった!!!!!! ごめん!!!!!」
即座に部屋から出て障子をピシャッと占めてその場にしゃがみ込んで頭を抱えた。
なんだなんだと人が集まってきたし、レイさんが大火傷って聞いたと奉公人達も来たので、治療中なのでと追い払い。女性は別に追い払わなくても良いけど、俺は色々混乱中。
時間が過ぎていき、背後の障子が開いて、自分はこれでと医者または薬師が帰宅。
かなり低い、激怒しているようなレイの声が俺を呼んだので入室。
途端に心配が前に出て、俺は矢次早に何がどうなって火傷して、大丈夫なのかと迫っていた。
「もうっ! そんなに一気に質問されても喋れないよ。間抜けだから鍋をひっくり返してこの軽度火傷」
ほれほれ、動くだろうとレイは俺の前で包帯でぐるぐる巻きの左手を動かして見せた。
全然軽度ではないし、上半身裸だったのは肩まで包帯を巻くため。そして鍋をひっくり返したのは彼女では無いので、この嘘つきめ、と毒づく。
「ついに見えるところまで傷物。これでまたお嫁さんになれなくなった。あはは。っていうかユミトさん。女性にしか見せたことがなかったのに、私の可愛いお胸を見たから責任を取れ。レイは、レイさんは恥ずかしくてお嫁にいけません」
このレイの台詞と泣き真似はかつての義姉の真似でふざけだ。ウィオラは胸を見られたのではなくて、結衣の前に寝起き姿を見られただけど。
上品に横座りして袖を使ってよよよと泣く振りは多分そう。
「どこにもお嫁にいけなくなったなら、俺で良いってことだな」
「……」
レイは鳩が豆鉄砲を食らったようにぽかんと口を開いた。
「今すぐレオさん達に報告に行くぞ。その手じゃ今日はもう仕事にならないだろう?」
「……えっ? ああ。今日は変な乗っかり方をしたと思ったら、実家に連れて行ってくれるってこと。すぐ教えないと怒るから助かる」
マリに起こったことを教えたら、この状態なのにすっ飛んでいきそうなので、ひとまず教えずに店主の了解を得て、彼にむしろ頼まれて、彼女を実家へ連行。
賢いケルウスが既に鶴屋の前に来ていたので二人乗り。
雷雨の中なので、レイに制服の羽織に着物も笠も被せて、南三区六番地へ向かい、レオ家の前に到着。
「ありがとう。あーあ。アリアさんの新生活初日にとんだドジ。ルカお姉さんやアザミさんに任せたし、マリさんもいるから大丈夫かな」
「マリさんは病気にかかって、偶然いたネビーさんやウィオラさんがシンさんと共に世話してる」
「ええっ!」
「怪我人は邪魔だから他の人に任せるように」
「えー……。お兄さんとウィオラさんが世話係ならそうだね。私は邪魔になりそう」
レオ家の門前で呼び鐘を鳴らさなくても、レイなら合鍵を持っているので門横の扉から中へ入り、玄関も同じく鍵があるので更に中へ。
玄関でレイが「レイです! 帰りました!」と声を出した瞬間、ネビーの長男オルガが「レイ叔母上! なぜ怪我をしたんですか!」と飛び出してきた。
「間抜けだから鍋を落として火傷」
「叔母上~」
泣き出したオルガがレイに抱き着き、怪我や病気の時は魔よけの水が必要だからと、彼女をひぱって井戸の方へ。
「ありがとう。オルガはいつも優しいね」
「優しいのは叔母上です。また人を助けて怪我をしたなんて」
時折、オルガはこのように何もかもを見透かしたような目で、事実を言い当てるので驚く。
ウィオラに似た顔立ちだけど目はネビーそっくりの長男は、身体能力も性格も彼似。
ネビーにも時々このようなところがあるので、父親同様に直感が冴えているのだろう。
「人を助けた? 私はドジなだけですよ」
「叔母上怖い。海の大副神様が怒っています……」
井戸水をくみ上げたオルガは急にその場で眠ってしまったので、抱き上げてレイと家の中へ移動。レイに井戸水を飲ませておいた。
レイの母親エルが縁側へきて、レイの腕を見て、顔をしかめて「どうしたのよ、それ」と心配。
「昔からそそっかしいでしょう? 厨房で鍋をひっくり返して火傷」
「他の人に怪我はなかった?」
「うん。私だけ」
「そっ。よくやったわね。レイ」
微笑んだエルがレイの頭を軽く撫でる。レイは違う、自分が間抜けだったからとは言わずに、素直に「うん……ありがとう」と小さな声を出した。
「その手じゃあの長屋の子達の世話は無理だけど、この機会に人の世話をする訓練をさせるんだね。あなたもたまにはお世話される気持ちを思い出しなさい。過保護は人の為にならないよ。ユミトさん、お願いします。知らないと心配だから、連れてきてくれてありがとう」
お茶を出すから休んでいきなさいと促されて居間へ。
辛そうなので横にしようと考えた時にはエルが布団を運んできて娘を寝かした。
「ユミトさん、仕事は?」
「この雷雨なので火消し達の出番で赤鹿はあまり。このあたりの赤鹿は少ないから無理をさせて病気や怪我で死んだら困ります。もうとっくに退勤時間は過ぎているので、職場に戻らなくても許されると考えます」
「そう。それならユミトさんの夕食も作るから、ゆっくりしていって。むしろ泊まっていって」
「ありがとうございます」
気を張っていたのかレイは爆睡。
むにゃむにゃ言いながら寝て、そのうちうなされるようになり、熱が出たと慌てた頃にロカが来てくれた。
「もう。お母さんが真っ青な顔で来てレイが大火傷っていうから焦ったよ。しっかり処置してあるし、薬も貰っていて良かった。さすが鶴屋。きちんとしてくれている」
「夜寝る前までは三刻ごとに薬って忘れてた……」
ロカの手て、ベシッとレイのおでこが叩かれた。良い音。
「帰ってくるか我が家に住みなさい。ユラさんも、レイさんは雅屋に帰ってこない。嘘つきってたまに愚痴るよ。もう一人か二人なら教えられる職人だから、心配な子と帰ってこないかなって」
「むにゃ……。そうな……の……」
寝落ちしたレイは、起きたらこれも覚えてないって言いそう。
「ユラさんはロカさんにそういう話をするんですね。それでレイさんのことをそんな風に考えているとは」
「ええ。短い間だけど沢山お世話になったからって。なんで私が会いにいかないといけないのよ。あの薄情者って会うたびにレイの話題です」
「そうなんですね」
「どこへ行っても好かれるから安心ですけど、軍事拠点の旧都はあまり」
俺はしばらくそのまま、ロカの愚痴を聞いていた。自分達は仲良し大家族だから、家族が一人もいない不安や悲しみがとてつもない苦痛だと理解出来る。
だからレイは、すぐ誰かの家族になろうとする。それでどこへでも行ってしまう。
その人に他に家族のような存在が出来るまではずっと家族として近くにいてあげる優しい姉は、自分のことはいつも後回しのようで、料理が大好きだから結局どこでも大はしゃぎ。
「どこでも、誰とでも幸せになれる幸せな姉ですよ、レイは。でもいつか死んじゃいそうです。バカ過ぎて。お兄さんみたいに凄くないし、考えられないのに動くから怪我ばっかり。うえええええええん……。年に二回も大怪我なんて初めてです……」
ロカがいきなり泣いた! と大慌て。しばらくしたら彼女は寝てしまって、そうしたら甥っ子達が集まってきて一緒に寝ると寝た。
そこへ「夕食少し前に昼寝って夜寝るのかしら。まあ、この子もお願いします」とエルがネビーの末っ子も増員。
ネビーの子三人に、ルカの次男とレイとロカに囲まれて、俺だけ眠くないけど特にすることもないからぼんやり。
『その人に他に家族のような存在が出来るまではずっと家族として近くにいてあげる優しい姉』というロカの台詞で、俺は何度言ってもエドゥアールから帰らなかったレイの本心を垣間見た気がした。
なにせロカがわざとらしく「ユミトさんがさっさと恋人くらい作れば遠い山から帰って来たかもしれないのに、北地区料理に魅せられて帰ってきませんでした」と口にしたから。
ぼんやり彼女との日々を思い出して感傷に浸っていたら、うんと昔、嵐の日に彼女に見惚れたことが脳裏によぎった。
あの日、俺達の友情は雷の副神様にだって引裂けないと考えたけど、別れたくなかったのは、引き裂かれたくなかったのは友情ではなくて恋慕。俺の片想い……。
踏みつぶされた、誰も応援してくれないその恋は 自覚することすら出来ずに、いや、自覚したら可哀そうだだと憐れまれて指摘すらされず、むしろ「その気持ちは妹や副神様への感謝」みたいに誤解されるように仕向けられた。
十年以上経過して、それなりに人の世話をしてきたからようやく考察出来たし気がついた。
そのまま考えていたら、レイももしかしてあの頃は俺が好きだった? という考えに至る。
あの雷雨の後、たまたま見かけた遠くにいる彼女は、長くて美しい髪をばっさり切っていた。
手紙に「髪が長いと厨房で舐められるから切ることにした」と書いてあったけど、もしかしたら失恋というか、俺と決別したのかも。俺とは友情と決めた気がしなくもない。
そうしたらレイが目を覚まして、うわっ、なにこれである。
「レイさんを心配して集まった」
「へえ。レイさんは愛されているねぇ」
ここへレオが帰宅して、末娘ララと登場したので、すかさず「怪我の治療中に娘さんの大事なところを見てしまって、もうお嫁にいけないというので娘さんをお嫁に下さい。嫌だと言っても譲りません。本人が嫌だといっても譲りません。この人は他の人には無理。俺なら地の果てまで赤鹿とついていきますし、連れ帰ってきます」と土下座。
起きているし、父親の前で言えば、流石に今度こそ「聞いてなかった」ということにはならないはず。
多分。また何か起こるか?
土下座したら、目を覚ました幼児、まだあまり喋れないネビーの三男ラルスが「おんぶ」と背中によじ登ってきた。
俺の一生一代の求愛は、またこんなかよ!
「……はあああああああああ!!!!!! どうしたのユミトさん⁈ お父さんにその冗談は通じないよ!」
冗談と思われる可能性を潰したくて、レオに土下座という方法にしてみたけど、この選択は不正解だったかも。
「あいよ~。あかか、ぶ~ん」
俺は赤鹿乗りで赤鹿ではないのにラルスに髪の毛をつかまれて、走れというようにぺチぺチ叩かれた。
「あーっ! ラルス! 落ちますよ」
土下座しているから見えないけど、起きたらしいネビーの次男シイナが叫んだ後に俺の背中が重くなり、今度はオルガの「自分も乗ります!」という声がしてさらに重量感。
「あー……。レイ。次は本命と言うたがこの通り。ユミトさんと見合い……はもう必要ないくらい知り合いだから話し合ってみて、悪い気持ちがなければ祝言しなさい。破天荒な娘に付き合えるのは彼くらいだ」
「……お父さんどうしたの? やっぱり病気なの? 次は本命だ。俺が用意するからなんて言うから病気になったって心配したけど皆違うって言うし、それなら次は自分が用意するのは嘘だねって言うてたんだよ。だって、誰も探していないし、用意しないから私に言わないじゃん。ユミトさんってなに⁈」
「探していないけど、最終兵器ユミトさんで、俺はもう彼に頼んだ。ラルス、じいじが遊ぶから皆と行きますよ」
レオはお邪魔むし幼児ラルスを連れて行ってくれようとしたけど、嫌だと大絶叫するラルスが俺にしがみついて離れない。
結果、他の子達は連れて行かれたけど、ラルスは置いて行かれ、ラルスの大泣きで目を覚ましたロカが「帰らないと!」とレオ達と退室。
抱っこと大泣きするのでラルスを抱っこして、戸惑うレイと見つめ合う。
「あの……」
「うええええええええん! ちちいいいいいいい」
「ラルス、お腹が減ったの?」
「ラルス君ってもう乳離れしたんじゃなかったけ」
「やいやいやあああ! ちちいいいいい」
「うん。自然と飲まなくなって寂しいって聞いたような」
「あっ、レイさん、乳じゃなくて父上って意味じゃないか?」
「ああ。お父さんに会いたいの。もうすぐ帰って……来るのかな。お母さんに聞いてくる」
居間から出ていこうとしたレイは「障子が開かない」と叫んだ。
「開かない? なんで?」
「レイ。あなたはユミトさんに返事をしなさい」
「そうだそうだ。地の果てまで赤鹿とついていくし連れ帰ってきますなんだから返事をしろ!」
振り返ったレイが俺を見据えて「変な冗談で変なことになっているんだけど、どうにかして」と睨んだ。
「……レイさん、前からす「うえええええええん! ちちいいいいいい。あかなのにちちいいいいい」
この大泣きは赤鹿――っていうか俺――がいるなら、父親がいるはずなのに来てくれないという嘆きだろう。
「分かった、分かった。でもラルス君、ネビーさんは今いない」
「ぎゃあああああああ!」
ここへそのネビーが帰宅したのか部屋に入ってきて、彼は両手で自分を求める息子を俺から受け取って無言で去った。
廊下から「シイナで腕がふさがるから、オルガは首にぶらさがりますか?」と聞こえてきたので、両腕に次男三男で、長男はおんぶになるのだろう。
「あはは。相変わらずラルスは可愛い」
これで邪魔者はもういないし、レイは起きているし、耳垢も大丈夫そうで、冗談説もレオが決してくれた。
「……レイさん、前から惚れていたって気がついたから、俺とは結婚出来るか考えて下さい」
「……はあああああああ⁈ 今、なんて言ったの?」
今日は寝ないよな? とレイを観察。
実は酔っていて聞いていなかったも、実は耳垢が溜まっていて耳が聞こえない日だったでもないよな?
それで、魔の悪い誰かが俺の言葉を遮ってもいない。
「好きだ。結婚したい。誰にも興味が湧かないって悩んだ結果、レイさんに夢中なだけって気がついた」
「えっ……。待たせている恋人は?」
「誰だそれ。俺に女の影がないことは世界で一番レイさんが知っているだろう」
「文通の……桜の君って言うてくれる彼女は? 振ったの? あんなに素敵な手紙の主を振ったの?」
なぜあの手紙をレイが知って……俺の部屋に出入りするから見かけたか盗み見ってこと。
春画発見、あはは、男の子とか言うふざけた女だからそうだろう。
「あれはネビーさんに託されたもので、多分ネビーさんの初恋の人。いや、会えなかったから初恋すら出来なかった死別したお嬢さん。教えてくれないから知らないけど、多分そんな」
「……ええっ! ちょっと待って。そんな話、知らないよ」
「本人に聞け。誰と見合いをしても無駄だから俺にしておけ。俺はレイさん以外嫌だ。紹介されても全然ピンとこなくて、なんでか考えたら、レイさんが大好きだからって気がついた」
この誰にも惚れない見合い破壊魔人は、このままなかなか相手を選べない。
それならレイにつきまとって「俺にしておけ」って言いまくってやる。
そのはずが、レイはみるみる真っ赤になって、しおらしい可愛い表情で俯いた。
あれっ。脈あり?
「なにそれ。前からっていつからなのよ。本気ならそういうことはもっと風情のある所で雅に言いなさいよ! 乙女の憧れを返せ!」
……えっ? まさか俺にその気あり?
そう言われても、美しい月夜の海で寝たのは君なんですが。
レイに「このっ」と軽く手のひらで押された後に、世にも恐ろしい鬼が現れて、こう叫んだ。
「俺の妹のヒモになりたいなんて許すかこの未熟者! 表へ出ろ!」
ひいいいいいいいいいい!
「前から惚れていたって気がついたって、そんな話は聞いてねぇ! しかもこんな場所で求婚するのは朴念仁だ!」
俺は庭で、大狼もぶっ飛ばしたらしい雷光のような一閃突きに襲われ、死ぬ……と気絶。
木刀じゃなくて真剣で、避けられないと分かったうえで、頸動脈ギリギリをつくなんてイカれている……。




