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日常編「キノコ事件」

 夏は食あたりに注意なのに、私と義母はその食あたり疑惑。お昼ご飯にしたキノコとキャベツのあんかけ丼のキノコが悪さをした可能性。

 夕方少し前から私と義母は軽く吐いて、お腹が定期的に痛くなるのでゴロゴロしている。

 義母は寝室で寝ていて、私は寝室だと厠が遠いので離れの一階の部屋に居る。


(採ったキノコじゃなくて買ったキノコなのに……)


 買う時に「ん?」と少し思ったけど、八百屋で売っているから勘違いだろう。その判断が悪かった。

 まだ買ったキノコが残っているので、明日八百屋に文句を言いに行く予定。

 その為に薬師所へ行った時にキノコ鑑定をしてもらって、書類を作ってもらった。紛らわしいキノコらしい。


 明日は屯所へ行って、簡裁官と一緒に八百屋へ行く。以前は知らなかった文句の言い方。このくらいだと返金と謝罪とお見舞金で終わりだそうだ。

 薬師所でこのキノコなら水分を摂って出すものを出していれば一日、二日で治ると言われて、薬は治し葉——痛くて正式名を忘れた——のお茶で良かったので、家にある治し葉でお茶を作って飲んでいる。

 あと私は口がサッパリするから紫蘇甘水も飲んでいる。義母は潰した梅干し入りの白湯。

 薬師所からの帰りにたまたま会ったエイラが私と義母の顔色を見て話を聞き出してくれて、お粥を作って持ってきてくれる予定なのでありがたい。嫁仲間万歳。


 私はゴロゴロしながら繕い物中。明日の朝食を作る気にならないけど、こういう場合はどうするものだろう。

 義母が私達は二人とも何もしなくて良いと言うので、こうしてゴロゴロしながら縫い物中。夕食はもちろんお風呂の用意もしていない。

 たまに厠へ行って、視界がぼやぼやするから縫い物をやめて痛みと戦った後に少しうとうとしていたら爆睡。そうして時間が過ぎて義父が帰宅した。


「リルさん。母さんに聞いた。入ってええか? 起きなくて寝ててええ」

「はい」


 扉が開いてまだ制服姿の義父登場。起きなくて良いと言われても気になるから体を起こして正座した。


「寝てなさい。なんだこの裁縫道具やら。ありがたいけどしなくてええ。苦手だけど俺とロイでする」


 えっ。義父は縫い物が出来るの?

 ロイは不安。前に月のものが酷くて義母がたまにはロイにさせると言って任せたら悲惨だった。

 その時の義母は手が結構痛かったから、自分でしないでロイに依頼。

 結果、下手とかぶつぶつ文句を言う義母と、細かいとぶつぶつ文句を言うロイに挟まれて、今後は頼むより自分でしようと思った話。

 嫁ぐ前にルルが自分は出来る、姉ちゃんは遅いと言ってやるやる言うから任せたら、祖母や母にガミガミ言われたのと似ていると思った。

 

「お義母さんが旦那様に文句を言うて、旦那様も細かいとぶーたれるから私がします」


 口にしてからこれは言い過ぎと思って慌てて口を閉じた。


「なんでもないです。ありがとうございます」


 しまった。義父が顔をしかめている。


「あー。あれだ。一日、二日で治るといっても明後日も辛いかもしれない。洗濯も気になるだろう。溜まると大変だから給金を払って人を雇おうと思う。ああ。花嫁修行中で雑務仕事を休職しているクリスタさんとかどうだ。副仲人のお礼に頼める」

「クリスタさんは……はい。ありがとうございます」


 また口が滑るところだった。クリスタはそこそこ大雑把らしいので義母的には多分あまり。

 クララによれば町内会には義母が気にいる細かなお嬢さんがいなくて、ロイは町内会以外のお嬢さんとお見合い予定だったそうだ。

 私がふとクリスタはロイのお嫁さん候補ではなかったのかな、と漏らしたら調査してくれた。


「あー。母さんに聞いてくる。先にそうしたら良かった。とりあえず遠慮せずに寝ていなさい。治りが遅かったり悪化する方が困るし怖い。寝てなさい」


 これはきっとゆとりがあるから真冬の洗濯にはお湯を使いなさいと同じ理屈だ。それなら遠慮なく横になろう。


「ありがとうございます」


 吐きそう!

 よろよろしながら厠へ移動して吐いて風呂場の洗面台のところの瓶の水で口をゆすいで部屋に戻ってまたゴロゴロ。お腹もゴロゴロしている。

 水分を摂取すると吐きやすくなるけど、だからこそ飲めと言われたから飲む。

 悪化する可能性は低いと言われたけど不安になってきた。


(キノコは買うより採ってきて自分の目とキノコ名人……はこの町内会にはいない。キノコに関しては実家が恋しい。母とキノコ名人に守られていた……)


 八百屋も信じられないと今日学んだので、キノコに関しては今後八百屋を信用しない。


「リルさん。入るぞ」

「はい」


 義父が戻ってきたので今度は横になったままにした。


「顔色がさっきよりも悪くなっている」

「少し吐いただけです。薬師さんに吐けそうな時は吐きなさいと言われました」

「母さんに聞いたらこういう時こそお金を渡す口実になるからエルさんに相談するそうだ。帰宅したロイに頼んでリルさんの実家に行ってもらう」

「ルルは断って下さい」

「家の勝手も分からないルルさんには頼まない。エルさんに頼む。リルさんが嫁ぐ前に一緒に我が家の説明を聞いているからだ。日雇い代と同じくらいで短時間にする」

「それはすこぶる安心です」

「母親だからリルさんがあれこれ言えるだろう。エルさんも基本は娘相手だから、寝ている母さんに気を遣っても他はわりと平気なはずだ」


 母は溌剌元気で肝っ玉で大雑把な性格だけど家事関係は細かい。

 私はその母にガミガミ言われて育ったので、元々の細かい性格もあるけど、母にうるさく怒られるのは疲れるからきっちりした人間に育ったのだと思う。

 裁縫に関しては針子の祖母もやかましかった。ルカも家事に関してはそうだ。私の手抜きはクララやエイラからすると人並みらしい。


 明日は母が来てくれるなら一安心で、その母も日雇い代が入るから家計に迷惑をかけないはず。持ちつ持たれつって助かる。

 明日の朝食と昼食は買うから大丈夫なので、とにかく寝て治し葉茶や水分を摂っていなさいと言われた。

 義父にしなくて良いと言われたけど縫い物で気が紛れるしな、と思ってまたしていたら今度は制服姿のロイが来てくれた。


「リルさん、大丈夫ではないですよね。母上はげっそりしていました。縫い物はやめましょう。家事を心配したり気を遣わなくてええです」

「痛みの気が紛れるからしていました。無理な時はやめます。ありがとうございます」

「気が紛れるならええですけど。父がエイラさんからお粥を受け取ったので準備中です。自分はリルさんの実家へ行きます」

「はい。仕事後に疲れているのにありがとうございます」

「ご家族に何か伝言はありますか?」

「キノコは八百屋で買うなと伝えて下さい」

「……えっ?」

「八百屋で買うならキノコ名人か母の目が必要です……」


 お腹痛い! と厠へ駆け込んで、よろよろしながら部屋に戻るとロイはもう居なかった。

 置き手紙があって「一刻も早くエルさんを連れてきます」と達筆な字で書いてあった。


 しばらくして義父が来て、エイラが作ってくれたというたまご粥を持ってきてくれた。


「お義父さん! たまごが沢山入ってます!」


 しかも青菜にしらすも入っていて豪華!


「体が負けないように栄養と言うていた。エイラさんは昔からええ子だ。リルさんはええ嫁仲間を持った」


 自分で食べられるかい? と問われたので首を縦に振る。

 口に入れたお粥は非常にとろとろで、青菜も固くなくて、味は薄味。とてもお腹に良さそうで幸せ。


「俺とロイに海老のあんかけ丼まで用意してくれた。夕食を作れないだろうと思ったと」


 良くなったら必ずエイラに恩返ししよう。


 その日のうちに母が来てくれて、泊まるとルル達がズルいと騒ぐだろうから、後でジンが迎えにくるという。


 義母は全部私に一任するのでとにかく休みたいと告げて、義父とロイは明日のお弁当は無しで、私が休めるように、元気になった時にも楽なようにと言ってくれた。


「食べられるものと飲み物と治し葉茶と軽く掃除洗濯ってことですね。(かわや)掃除に風呂掃除も。腹痛はうつるっていいますから」


 薬師に指示されなかったけど、義母と私は義父母の部屋と厠の往復にして、義父とロイは口に手拭いを巻くことに。


「二人の看病をしたら必ず手洗いですよ。それじゃあ、テルルさん、リル、お休みなさい」


 はいはい、寝なさい。辛くなくて退屈になったら声を掛けてくれたら何か持ってくると言われて居間から義父母の部屋へ。

 母は「リルの分の布団を失礼します」と押し入れを開けて、あっという間に布団を敷いて私に向かって「しこたま治し葉茶を飲んで出して寝なさい」と歯を見せて笑った。


「言うて無かったかもって気がついたんだけど、帰ってくるなとは言ったけど、頼るなとは言うてないからね。頼ってくれて嬉しかったわ」


 帰ってくるな、という言葉の印象が強くて記憶があいまいだけど、そういえば花嫁修行前と花嫁修行中にそんなことを言われたような……。

 母に頭を撫でられた結果、まだお腹が痛かったのになぜか爆睡。義母は私の隣の布団で寝ている。

 目が覚めたらもう朝で、しかも義父やロイはもう出かけていて、中庭には洗濯物が干してあり、居間には半衿をつけている母がいた。


「あら、起きたの。顔色が良いわね。テルルさんはまだまだダメで、夜中に厠と部屋を何度も往復したらしくて寝不足で、さっき寝たわよ」

「家のことは大丈夫?」

「そろそろ一回帰るけど平気、平気。ご飯は食べられる?」

「……うん」

「その顔色だと少し暇だと感じそうだから、はい」


 縫い物を差し出されたので受け取って、座っていなさいと言われたので着席。

 ロイと義父に滋養のあるものをと頼まれて、かなりの額の予算を渡されたからと、お粥はまたしてもたまご入り。

 そこにすりつぶした海老の身とほうれん草も入っている。


「これは治し葉茶ね。沢山作ったからうんと飲みなさい。とにかく体の中からキノコ毒を出さないと」

「うん。ありがとう」


 お昼の分も作ってあるから、洗濯物や夕食の準備でまた来る。母はそう告げて帰宅した。

 私はもう上からも下からも何も出ないようだけど、怠いから母に甘えてゴロゴロしながら読書。

 目を覚ました義母は厠と寝室を行ったり来たりで辛そう。

 少ししたら、カラコロカラ、カラコロカラと玄関の呼び鐘が鳴って、こんにちはーという声。

 聞いたことのある男の人だなと玄関へ行って、どちら様ですか? と尋ねる前に「こんにちはー。ハ組ト班のイオですー!」と言う発言。


 玄関扉を開いて応対したら、昨夜長屋でネビーと軽く飲んでいたから腹痛だと知っている。

 それで母が、わりとさっき家に来て「時間があったらちょっと様子をみて必要なら薬師所へ運んで」と頼んだらしい。


「俺、今日は休みでそれをエルさんが覚えてたってこと。リルちゃんの顔色はわりとええな。問題は義理のお母さんって聞いた。テルさんだっけ?」

「テルルさんです」

「テルルさんね。病人対応も火消しの仕事の一つだから確認してええ?」

「むしろお願いします。私は良くなったのにお義母さんはあまりと心配していたところです」


 イオを家に上げて居間で待ってもらい、義母のところへ行って事情説明。

 

「大袈裟ですがエルさんのご厚意なら……ありがたく……」


 辛そうなのでイオにお願いして、義母の様子を確認してもらった。

 イオは義母に軽い質問をして、脈を確かめた。


「リルちゃん、悪化したり良くならなかったらまた来てって言われた?」

「食べられない、飲めない状態なら来てって言われました」

「持病があるって話はした? 確か、何かあるんだよね。それでリルちゃんは誘拐婚。レオさんがリルは役に立っているようで大事にされてって言うてた時になんかそういう話も聞いた覚えがある」

「持病……言うてません! それどころじゃなくて忘れていました!」

「そうだよな。何歳か知らないけど、見た目としてはこのくらいの年齢で持病で手足がたまにイマイチって言うと石化病。当たり?」

「そうです。持病があると違いますか?」

「うん。ちょっと若いけど色々兆候が少ないから中年だけど老年性なんだろう。中年性でもそうだけど老年性石化病の場合、治し葉は効かない。飲んでいる薬はある?」

「あります!」


 それを持って、義母をおぶって同じ薬師所へ行ってくるから私は休んでいるように。

 治りかけに頑張ると体を壊すから養生だそうだ。


 小一時間して義母とイオが戻ってきて、義母を布団に寝かせて、普段飲んでいる薬や頓服で使う薬から推測出来る相性の良い薬をもらえたから、もう大丈夫と言ってくれた。


「ありがとうございます」

「リルちゃんは更に顔色がええから、お粥じゃなくておうどんがええな。休みだけど親父にしごかれるのと勉強もあるから、作ったら帰る」

「もう十分です」

「こういう考えは忘れていたけど、ネビーと俺は昔々、火消し見習い時に兄弟だったんだぜ。それは班が解消されても、あいつが兵官を選んでも無くならない関係。つまりリルちゃんは俺の妹みたいな存在ってこと。妹でも病人でも火消し兄には甘えるものだぜ」


 そうなんだ。そうなの?

 ほらほら寝ろ、本を読んで横になっていたならまたしていなさいと言われたのでそうする。

 イオは薄味で野菜をしっかりくたくたに煮てくれた、たまご入りのおうどんを作ると帰宅。

 その時に、リルちゃんがお世話になっている家も俺らハ組が気にかけるから、困ったら頼ってくれと言われた。この地区担当の火消しをこき使ってもええんでとも。


 美味しくてペロッと食べられた。兄は料理が壊滅的に下手で、だから嫌だと全くしないけど、病人の世話をする火消しだと料理上手みたい。

 その少し後に、エイラが来て困っていないかと尋ねてくれた。次はクララ。

 母や火消しの幼馴染が助けてくれたから平気だと教えて、思い出したから「このくらいでも火消しさんを頼ってええそうです。お粥を作ってとか。そう言うていました」

と伝えた。


 私はどんどん元気になり、義母はあまり厠へ行かなくなり、ようやく深い睡眠。

 元気になってきたので洗濯物を取り込んでいたら、母がジンと来て、母は夕食作り、ジンは風呂の水汲みをしてくれた。

 それでジンは水汲みが終わると母の夕食作りを手伝い、二人で「家のことがあるから」とそそくさと帰った。

 その時に、夕飯の片付けはガイさんとロイさんがするって言うていたからと告げられた。


 もう夕飯が居間に並べられていて、母が「リルはかなり顔色がええから普通に食べて体力を取り戻しなさい」と言ったので私も同じものを食べる。私が食欲がかなりあると言ったのもある。義母はまたお粥。

 

 翌日、私はもう元気いっぱいで義母は遅れて四日後にわりと元気になった。


「頑丈で、しかも頼れる人が色々いる嫁で助かります」


 義母に褒められて「やっぱり嫁がいるのは悪くないわ」と微笑んでくれたので嬉しい。

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読ませて頂いています。 リルが褒められる話でホッコリしました。 買ったキノコなのに悪さをするなんて難儀でしたね。 僭越ながら、リクエストです。 ☆テルルさんに、リルが「嫁がリルさんで良…
[良い点] リルさんが褒められるとニコニコしちゃう♪*゜ [一言] 八百屋め…
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