未来編「リル、晩酌をする2」
お酒当て遊戯をしたら、私は家族に命令しまくれると気がついたので、今度はルカとジン夫婦と飲まないかとロイに提案。お酒好きのロイは二つ返事で了承。
なので、母のお見舞いに行く日を土曜の夜にして、ユリアとレイスも連れて行って家族四人はお泊まりという手配をした。
母は相変わらず具合いが悪そうで心配だけど、悪化はしていないので夏を超えたら大丈夫とは産婆さんとお医者さん談。
さて。今日の晩酌で邪魔なのはお酒大好きかつ家族親戚の中で一番酒癖の悪いルルである。ルカに「私に任せて」と言われていたので、どうしたのかと思っていたら、父と共にティエンの家に送り出したらしい。
「お父さんには破談がええならそれはそれで話し合わないとって言って、ルルには結納したいなら大いに議論してもらいなさいって言うた」
ルカ家族の部屋に四人で集まって晩酌準備をしていたら、そう教えてくれた。
「あの二人はもう、さっさと結納でええよね」
「何、言うてるんだよリルちゃん。ルルちゃんが引っ越してもよかなのか? 俺は嫌だ。妹は全員徒歩一時間圏内じゃないと嫌だ。レイちゃんが年明けから一年間オケアヌス神社に住むって言うのも嫌だ」
「うわぁ。薄情者。ネビーの時は東地区で一年の半分を過ごす生活は仕方ないって言うたのに妹だとこれ」
「野郎はよかだ。そもそもあいつ、定期的に出張で居ないし」
「あっ、そうだった。リル。ネビーもルーベル家に居候に変更で」
四人で輪になって着席して乾杯したら、ルカにそう告げられた。
「そうなの?」
「そうなんですか? 一昨日、道場で会ったけど何も言うていませんでしたよ」
「昨日の夜、いつものようにルル達と寝たネビーが朝寝ぼけてロカにウィオラ〜って抱きついて、首にキスしたらしくてロカが激怒しました。もう兄ちゃんとは寝ないって」
お酒を飲み始めていたロイが吹き出してむせた。
「ネ、ネビーさんは何をしているんですか」
「結納中とこの間、お母さんにもお父さんにもしたらしいです。朝はボケているから間違えても仕方ないですけど。結納中、レイもあったって。ルルも去年、ウィオラさんの着物を借りていた日にいきなり膝枕されたことがあるそうです」
「あいつ。最悪だーって、部屋の隅で丸まっていました。襖越しにいるのがウィオラさんだと思って、ルカさんを口説いたこともあるよな」
「これまでそんな事はなかったから、やっぱりこれまで女は居なかったんだろうね。分かり易いし、バカだからすぐに分かる」
兄はロカに食事を一緒にとって、母と過ごす以外はルーベル家にいれば。特に寝る時間。二度と一緒に寝ない。そう言われて凹んでいるらしい。
昨年、兄と両親やルルやレイとの間にそのようなことがあったなんて知らず。
その兄は今日から我が家で寝ることにしたそうなので、日勤終わりにここへ帰宅して家族と夕食をとった後に出掛けたそうなので、私達とすれ違ったのだろうとのこと。
「その感じですと女性がいる場で寝たら、怖いですね」
「相変わらず女を避けているんで大丈夫かと。前はお嬢さんと結婚出来なくなるって言うていましたけど、今はウィオラさんに誤解で捨てられたくないって言うてます」
「男と寝たら、その人に抱きついたりキとスするのかな。ジン。面白いから何回かネビーと寝てよ」
「嫌だよ。なんでネビーに抱きつかれたりキスされなきゃいけないんだ。ロイさんにさせろ」
「えっ。ちょっとジンさん。自分だって嫌ですよ。ジンさんがして下さい」
この話題から、ロイとジンが勝負して決めようと言い出したので梅酒当て遊戯を開始。今夜も私は全問正解だったので一番。次はルカで四種類正解。ジンとロイは二種類ずつで引き分け。
「夫婦としてもリルとロイさんの勝ちかぁ。なんなの。リルが絶対勝つ勝負で挑んでくるなんて。珍しく私に頼み事? それともジン?」
「答えが意外だったから、ルカとジン兄ちゃんにも、兄ちゃん達へと同じ質問をする」
個人的な命令は後回しにして、まずは私達夫婦からルカ夫婦への質問。
「ルカさんの一番なんて無い」
「えっ?」
「ルカさんは何もかも全部合わせてルカさんなんだから全部ひっくるめてよかだから」
ジンがしれっとした顔で、しれっと惚気た!
「それならルカさんの苦手なところもないですか?」
「特にな……くないです。俺の髪型に文句を言ってくるところ。別に顔は同じなのにクドクド、クドクドうるさいです」
「誰だって髪型で印象が違うでしょう! 面倒なら私が整えてあげるって言うているのに、夏は坊主がええって、坊主って、また坊主。せめて坊主手前にしてよ」
ジンは髪型など見た目に割と無頓着で、髪を伸ばしに伸ばして結んでも邪魔になると丸坊主になる。ツルツルの坊主になるのは大体夏だ。つまり、今である。色男のジンは今年もツルツルの丸坊主。
「ルカさんは俺の顔が好きなのかよ」
「そんなこと言うて無いでしょう。顔もってだけ。私が丸坊主になったら嬉しいわけ?」
「ルカさんが丸坊主……は見てみたいかも。かわいゆいんじゃないか?」
ジンの口から衝撃的な発言が飛び出した。ルカは私と顔を見合わせて、頬をひきつらせて、ロイに「リルが坊主になったら嬉しいですか?」と質問。
「リルさんの坊主はあまり見たくないです。病気で、とかならよかですけどわざわざは」
「普通はそうですよね。ジン、なんなのあんたは。色々な髪型をしてもどれも同じみたいに言うから張り合いがなくて、本当につまらない」
「そう言われても同じに見えるんだから仕方ないだろう。服はあるけど髪型は別に。どれもかわゆいから同じ。言うておくけどボサボサ頭は別だからな」
「ボサボサ頭と坊主が同じ立ち位置じゃないから変だって言うてるのよ」
この流れで、ルカにジンの苦手なところを尋ねたら、今のこの会話の少し変わっているところではなくて「ぼけーってしているから女に言い寄られてヘラヘラしているところ」と言われた。
「ルカさん以外に興味が無いからヘラヘラなんてして
ない。このヤキモチ妬き」
「それはそっちでしょう。仕事で喋っているのにすぐに不貞腐れる。ヤダヤダ。余裕がない男は心も狭い」
惚気てるんだか、貶しているんだか分からない感じから口喧嘩に発展。
「それで? 次はリルから全員に命令だけど、もう決めてあるの?」
ぎゃあぎゃあ言い合っていたのに、ルカはしれっと話題変更。
「ルカさん。その前にジンさんの一番好きなところを言うて下さい」
ロイが話を戻した。ルカはぶすくれ顔で俯いて、そっぽを向いた。
「そんなの本人以外に言うことではないです」
「負けたのに逃げるんですか?」
「ちょっとロイさん。ルカさんを責めるようなことは言わないで下さい。それを聞いて何になるんですか? 俺が知っていればよかだって言うているんだからそれでよかですって」
「そんな大した事ではないですよね。何になるというか、まぁ、自分もそこを気をつけて夫婦円満的な」
「そういうことなら言いますけど、一番は難しいけど優しいところです。だからロイさんと同じなので大丈夫です。リルはいつもいつも、ロイさんを褒めています。ありがとうございます」
ルカの不機嫌顔は終わって、彼女はロイににこやかな笑顔を向けた。それで次は私からそれぞれへの小さな命令。
「旦那様は後で言います」
「はい」
「ルカは今度のルルの付き添い人を変わって」
「……嫌だよ! 私はロカ担当になったの。ルルはあんた担当」
「担当制じゃない。私だって嫌だよ。次はルカ」
「簡単な命令じゃないから却下!」
「簡単だから却下は無理」
負けたんだからルカさんで、というロイとそれは簡単な命令ではないから却下というジンが言い争いを開始。
「リル。レイにさせない? レイももう成人組じゃん。ようやく叩き潰されて、今凹んでいるから丁度ええよ」
「それ、ええね」
「お母さんが元気になったらお母さんなんだけどなぁ。まっ。お母さんは安産の副神様だから大丈夫でしょう。食べたものは吐いたら勿体無いって貧乏根性でほぼ吐かないから、栄養は取れてそうだって」
「まだ芋ばっかり?」
「うん。レイが市場で色々な芋を買ってきてくれる。栄養が違うかもって」
「レイに頼むにしても一回は見本を見せないといけないよね? ルカで」
「押し付けないでよ。ルルはルーベル家が担当なんだからリル」
「負けたからルカ」
「リル」
「ルカ」
「リル」
「ルカ」
「リル」
「ルカ」
「リル姉ちゃんどこー! リル姉ちゃん! ルカ姉ちゃん」
ここにルルが帰宅。部屋の鍵は閉めていなかったので、スパンっと扉が開いて酔っ払い気味に見えるルル登場。
「あー! なんで四人で飲んでるの?」
「ルル、お父さんは?」とルカが質問。
「ティエンさんのお祖父さんとラオさんと歌って踊って寝た」
「一人? どうやって帰ってきたの?」
「ルルさん。一人で帰ってくるなんて危ないです」
「俺でーす! 夜道は危険なので、ちゃんと俺が送ってきましたー!」
「皆さんこんばんは。ルルさんを遅くまでお預かりしてすみません」
ルルの後ろからひょっこりと顔を出したのはイオで、隣に妻のミユも登場。
「じゃあ俺らはこれで。ミユ。たまには二人でのんびり散歩だ散歩。散歩しようぜ。いや、花街に行くか」
ゲホゲホッとロイとジンが同時に吹き出した。私もびっくりしてお猪口を落としかけ、ほぼ同時に「そのような発言はやめて下さい!」というミユの大声が響き渡った。
「怒らないでミユちゃん。夫婦なんだから普通のことだろう。怒らないで良くない? 待って。待ってミユ。一人で歩くのは危ないから待って。ミユちゃーん!」
イオ夫婦が去ったら、若干変な空気になってしまった。その空気を切り裂いたのはルルだ。
「夫婦で花街に行ってどうするの? 別々に男女を買うの? それが夫婦の普通なの?」
ルルのこの発言に、ロイとジンはさらにむせた。
「夫婦や恋人用みたいな宿があるの。泊まらなくて、休めるところでもある。子持ちだと特にそうだけど、家やそこらで二人でのんびり出来ないでしょう? 他の家族に聞かれたくない話が時にはあるよね」
ルカがしれっと説明してくれた。こういう話は私は苦手なので助かる。
「二人でのんびりイチャイチャするところがあるんだ」
変な空気を変えてくれた、ルカの説明の仕方が台無し!
「別に何もしなくたって、落ち着いて二人で話したい時ってあるじゃん。大体、家族と同居が多いから」
「つまり、姉ちゃん達も行ったことがあるの?」
「あのー。そういう話だったら、俺の居ないところでしてくれない?」
ジンがそろそろと手を挙げた。
「っていうか、私の花街見学はいつなの? 社会勉強の為に一回だけ行く予定が兄ちゃんが忙しくてずっと行けてない。仕事が忙しくなくなったら、ウィオラさん、ウィオラさん、イオさん、ウィオラさん、ロカさんで全然構ってくれなくて、結婚したら嫁嫁嫁ロカ嫁嫁ー!」
ルル、レイ、ロカは平等なのにこの言い方。ルルは早く兄離れした方が良い。
「ジン兄ちゃーん。ジン兄ちゃんの出番なのに嫌だ嫌だって言わないでー。ルルを花街に連れてって!」
「だから誤解を生むような言い方をするな!」
「ジン兄ちゃーん」
「だからもう大人なんだから、抱きつくのは無しだって!」
うん。ルルは早く兄離れした方が良い。仲良し兄にくっつきたいルルと、阻止しようとするジンの図はもう何度も見ている。
ルカと目が合った。適度ではなくて結構飲んでいてうるさそうなルルをこの部屋から追い出そうと以心伝心。
「花街見学なんて行かせる訳がないだろう! 婚約して速攻行きそうだから却下。結婚したら夫に連れてってもらえ」
「あー! ジン兄ちゃんが兄ちゃんに入れ知恵したんでしょう! 結婚前に何もしないに決まってるじゃん」
「絶対、多少は何かするから絶対ダメだ。俺は絶対に許さない」
「別に花街に行かなくても多少なら場所があるから別にええんじゃない? このあれはいやこれは嫌っていう袖振り魔人の週末のんべぇ、酒飲みオババをもらってくれるって言うんだからあげようよー。優秀な火消しさんで礼儀正しいなんて貴重中の貴重だよ?」
「そうだそうだ! 引っ越すことと、モテて浮気しそうなこと以外なにも問題ないぞー!」
「そこが一番の問題でしょう」
「そこが一番の問題だろう!」
ロイとジンが同時に叫んだ。
「ミユさんに聞いたんですよ。遊んでいたらしいイオさんをどう飼い慣らしたのか」
「あいつは勝手に忠犬になっただけだろう。それまではネビーに説教されてもどこ吹く風で、飲み会って言うと女を両隣に座らせて、こっちとベタベタ、あっちとベタベタしていたのに。飲み過ぎたー、眠いーとか言い訳して」
ジンがしたこの話はイオの結納会や祝言日にちょこちょこ耳にしたので、私としては懐かしい話題。
「えっ。ジン兄ちゃん。イオさんってそんなだったの? いや。そうだよね。なにせ兄ちゃんにまで強要して、じゃんけんして勝ったら俺らとキとスをしてやるーとか遊んでいた人らしいじゃん?」
「強要してって、単にバカにされて、うるせぇ。俺にも出来る。俺はビビりや小心者じゃないってノリノリで参加していたらしいぞ」
「やめてー! 兄ちゃんの若気の至りは聞きたくないー! あっ。ジン兄ちゃん。ウィオラさんに教えたら不潔って離縁されるかもしれないから教えちゃダメだからね!」
「この間、その話題が出たけど知ってるみたいだよ。若い頃は少しお痛をしただけって、許容しているみたいだった」
ルカがそう言うと、ルルは彼女の隣に座って手酌で飲み始めようとしたので慌てて徳利もお猪口も回収。
「ちょっと何。リル姉ちゃん。なんで奪うの!」
「飲み過ぎ」
「飲んでないよ〜。どう見たって飲んでないでしょう? ねぇねぇ。ルカ姉ちゃん。さっきの話を教えて。誰がウィオラさんに密告して、なんで許してくれたの? 十年くらい前の少ない回数のことだから許されたの? 私なら嫌だなぁ」
「ルル。レイとロカがルルと話したいなぁって言うてたよ。お母さんがルルって言うていた気もする」
さすがルカ! と心の中で拍手。わぁい、とルルが部屋から出て行った。さり気なく、徳利を一本持っていったことは指摘しないでおく。
「こんなに早く帰ってくるとは思わなかった。今のうちに逃げよう。あの顔はまだ序の口って顔だよ。ティエンさんの前だから、そこそこにしたってことだよ」
「逃げるってどこに?」
「いっそ、ティエンさんの家とか? お父さんがいるから、お父さんの失礼な発言を止めがてら」
子ども達はもう寝ているし、ルル、レイ、ロカがいるので今夜は少し調子の良い母に声を掛けてコソコソと出発。そうしようとしたけどレイとロカに見つかって、ルルを押し付けるなと怒られた。
「なんなのよー! 皆して私を邪魔者扱いして! お嫁にいってやる! ルルはもうお嫁にいく! ルルがいなくて寂しいって咽びにゃいてもおしょいんだからねぇ!」
まだ序の口ではなくて、ベロベロだこれ。
「「「「じゃーんけーん」」」」
ぽい、で姉妹じゃんけんはルカの負け。ルルのお世話係——話を聞く係——はルカに決定。ジンはルカを一人にはしないので夫婦で対応してくれるようなので私はロイと逃亡。
ロカとレイに誘われたので、狭くなるけど子ども達と七人で寝ようとなった。
「……なんですかこれ」
「なんですかって、ロイさんの子ども二人と甥っ子のジオです」
「なんで嫁入り前の娘が男性と手を繋いで寝ているんですか!」
三人が揃ってお昼寝をする時、ユリアとジオは隣同士になるのに今更怒るってどういうこと。
「旦那様。うるさくしないで下さい。三人が起きます」
「こんなの起こすに決まっています。ユリアを連れて帰ります!」
「うるさい! 起こすなら出て行って下さい!」
うるさいのでロイを追い出したら、レイとロカに「姉ちゃんのそんなに大きな声は珍しい」と驚かれてしまった。
「つい」
「拗ねて可哀想だから相手してあげな」
「そうだよ。ロイさんは常に優しいのに可哀想だよ」
妹二人はほらほら、と部屋を追い出された。ロイは拗ねた顔で部屋の扉のすぐ近くでしゃがんでいた。
「あの。大声を出してすみません」
「……ユリアは嫁に出しません」
「ジオを婿取りですよ」
「……婿取りもしません」
「知らない家の息子さんに拐われるように嫁になるのでもええんですか?」
「それ。自分のことですか?」
「ジオなら教え放題ですよ。それにジオは優しいええ子です」
「……はい。でも嫌です。嫌だぁ」
「まだ半元服もしていません。十年くらい先のことは考えないでええと思います」
なんとなく、ロイの隣にしゃがんで少しくっついてみた。
「ここに二人で来ると不思議です。長屋なのに旦那様がいるって」
「そうですか?」
「服も少し下街っぽくしているから面白いです」
「へぇ、面白いんですか。なんの感想もなさそうに見えていますよ」
「イオさんの着物をまた借りたりしないですか?」
「見たいんですか?」
「はい。なんとなく、たまに」
イオが結納した頃に、ロイは火消しの着物を着てみたいと着たことがある。髪型も変えて雰囲気が違くなって、普段とは異なる格好良さがあった。そのうちまたしないかな、しないかなと思っていたら数年経過してしまっている。
「んー。本当にすまし顔リスは言ってくれないと分かりません。それならイオさんに頼んでみます。リルさん」
「はい」
「四人で飲むはずが二人です」
「はい」
「明日の朝はお互い休みのようなものですので、夜の散歩に行きませんか?」
「はい」
出発して、長屋が遠ざかると、どちらともなく久しぶりに外で手繋ぎ。夜、二人で出掛けるなんて全然ないので新鮮。
「自分達も行きますか?」
「どこへですか?」
「花街です。歩いていけるとなると小花街ですけど」
小花街は遊楼がなくて、待ち合わせ茶屋と連れ込み茶屋しかないところ。連れ込み茶屋を使うのは主に夫婦や恋人なのでこの名称はやめて欲しいと思うのは私だけだろうか。
ただ、かなり前にそれなりの家の人達は蓮華茶屋と呼ぶことは覚えたので前よりも言いやすい。
「蓮華に行こうってことですか?」
「たまには旅行してよかな部屋に泊まったような気分を味わうのも悪くないかなぁと」
「……それなら、小耳に挟んだ室内に橋があって、部屋に金魚がいるところがええです」
ロイは誰から聞いた、とは尋ねなかった。近所だと町内会の人と鉢合わせる可能性があるから少し離れたところ、ということで嫁仲間とたまにそういう話題になる。
この話は、祓屋でクリスタに教わった。その時にアイラから聞いたふわふわ装飾のところも気になっている。その話をすると梯子しようと言い出しそうなので黙っておこう。
この後、恥ずかしいことに蓮華茶屋内の鯉が泳ぐ橋がある領域でイオとミユに遭遇。
「……」
「あれっ、ロイさん。俺達に感化されたんですか? さっきまで少し飲んでいたんですよ〜。四人でする趣味はないのでじゃあ」
「か、か、帰り、帰ります!」
「ちょっと待ってミユちゃん! ミユー! 家だと膝枕すらロクに出来ないんだから帰らないで! テオとナオが俺らが居ないって泣き喚かない日は珍しいからお願いミユ! 夜一人で歩くのはかなり危ないから帰しませーん。ミユ、行くぞ」
「いやっ、恥ずかしいから帰ります」
ミユはイオの肩に担がれて部屋に連行された。イオはいつもミユに対して下手に出ているのに、強気な時もあるみたい。横抱きはミユが恥ずかしがると思ったのだろうか。肩に担ぐって、犯人連行みたい。なんとなく無言でロイと部屋に向かった。
「……ここ。イオさん達の隣の部屋ですね」
「帰りましょう」
「帰りませんけど部屋は変えてもらいましょう」
「帰りましょう」
「帰しません」
「別のところにしましょう」
ふわふわ装飾のふわふわのとはなんなのか気になると話して移動を提案。私の思惑とは別に、二人で夜出掛けられる日は貴重なので梯子しようと言われた。予想していたのに私のバカ。
ただ、断らなかったのも私だ。新婚夫婦に感化されたのか、ロイは龍歌もじりや言葉も増えたので、最近の自分達は新婚の頃みたいで楽しいので。




