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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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未来編「リルとレイや家族の話」

 レイが雅屋へ帰ると、彼女の同僚やかめ屋で出来た友人達からちょこちょこ苦情が入るようになった。彼女は悪くないのになぜ辞職になってしまったのか、と。

 基本は勝手に妬まれただけなのに連帯責任はおかしいという苦情だけど、中には相愛そうな二人を引き離すなんてというユミトとレイの仲を心配するような声もある。

 このような話はかめ屋の経営者の耳だけではなくて、私と親しくしている料理長や副料理長などから直接も告げられた。


「ユミトさんは妹に何の感情も抱いていませんし、レイも同じくです。共通の話題、兄のことで盛り上がって少し親しくしていただけです」


「連帯責任は風の噂ではないでしょうか。母の具合が少し悪いので実家近くで働きたいと言うてそうしただけです」


 私は何度もこういう話をした。レイにはこんなに心配してくれたり気にかけてくれる人がいる。今回の件は面倒事ではあるけれど、そう改めて感じて嬉しくなる。その中で、知らなかった話を耳にした。


『レイさん、自分が家に居ない方がお金も世話の手間も減るって言うていたから逆に家族が困ってそうなら帰るんですね。私には帰る家が無いって泣いたら年末年始の一緒にいてくれたりいつも優しいです』


 私の見知らぬレイの友人は、そう口にしてレイへの手紙を渡してくれた。この日の夜、台所で義母にこの話をしたら「知らなかったのですか?」と言われてしまった。


「真ん中で甘やかす上ばかりなので我儘(わがまま)に育ちましたけど、根は優しい子で気遣いも出来ます。家族相手だと気が緩むようですけど」

「お義母さんが知るレイと私が知るレイは違いますか?」

「二児の母なのに貴女はまたそのようなことを。誰でもそうです。私が知るロイとリルさんが知るロイが違うように誰もが相手の一部しか知る事が出来ません」


 以前も似たような事を感じた事があるのに指摘されてしまった。夜、寝る時にロイとこういう話をしたら彼にも「レイさんはあまり勉強に興味のない自分の寺子屋代は無駄で、その分ルルさんやロカさんが通うとええと言うた子ですから」とまたしても知らない話をされた。


「そうなんですか。それなのに今回、あちこちから自分の事しか考えてないって言われ過ぎです」

「いえ。それはそれ。これはこれです。それでこうやって実は、という話を知って他の方も色々考えます」


 私はモヤモヤした気持ちを抱えながら数日を過ごして、住み込みになったウィオラに家のことと子どもを任せてロカがクルスと会う時の付き添い人になった。

 ロカは嫌だ、私かルカかウィオラと言うけど現在実家の家守りはルルなので付き添い人もルルが良いのだけど、ロカがルルを嫌がる気持ちが分かるし母の顔を見たいから根回しして引き受けた。


 区立女学校の校門前でロカを待って合流して、予定通りにいつもの茶屋へ。ロカに母の様子を聞いたらあまり変わらないそうなので心配になる。

 茶屋の前でクルスと待ち合わせて、いつものように挨拶をして、お店の中へ入って私は一人で着席。二人の姿は見えるけど会話は聞こえないという位置だ。

 今日の二人は、毎月この日は直接話そうという日で、ロカは母の様子で少し迷ったらしいけど、その母に「心配ばかりしていると疲れるから息抜きしてきなさい」と背中を押されたそうだ。

 

 読書をして過ごして小一時間経過して鐘が鳴ったのでお会計をしてクルスと挨拶をして解散。そう思ったら彼に呼び止められた。


「あの」

「はい、なんでしょうか」

「やっぱりこう、お父上にずっと秘密なのは良く無いと思っています」

「ご両親からそのような内容の手紙をいただいています。今、我が家はロカの姉の縁談で立て込んでいるので落ち着いたら話し合いましょう」

「はい! よろしくお願いします!」


 こうしてロカと帰路につき、ルルから頼まれている買い物は無いと言うので実家を目指す。クルスは相変わらず好青年だなぁ、とほっこり。ロカが恥ずかしそうに「別に友人だから秘密も何もないのにね」と小さな声を出したことにも和む。


「だからあのユミトさんとレイも、別に文通するとか誰か交えて会うならこれまでみたいに友人なのに一切会うなってなんなのかな」

「お父さん?」

「ジンお兄さん。お兄さんも参加するみたい。この間、レイさんが仕事を辞めていたってユミトさんが来た」

「そうなんだ」


 彼は夜に来て、その時にレイは居たけどジンが応対して妹に悪い虫がつくのは嫌なので転職先は教えないとか、接近禁止令が出たんだからもう関係の無い相手なのでネビーに会いに来る以外は来るなと言って、彼を追い返したらしい。

 ユミトの担当は兄なのでジンはこれを兄に報告。担当としてはムカつくけどユミトには落ち度があるし、レイの兄としてはジンと同じだからそれで良いとなったそうだ。


「レイちゃんが帰ってきたって、わって幼馴染が縁談話を持ってきて、怒ったお父さんが雅屋さんに頭を下げてレイはせっかく実家に帰ってきたのにすぐ住み込みになった」

「この短期間でそんなことになったんだ」

「ご飯は一緒でお風呂屋の帰りに雅屋さんに皆で送ってるの。早く新しい家が建たないかなぁ。そうしたらほいほい人が来なくてルルもレイも安心。美人って大変だねぇ」


 ルルが我が家へ住み込みになったのはこういう事も理由の一つだったけど、レイも似たようなことになるとは。


「ルルは平気なの?」

「ルルはこれまで屍を作りまくっているから今更突撃してくる人はいないみたい」

「そっか」

「レイは今、朝早く仕事だから帰りが早くて毎日ご飯を作ってくれるの。だから毎日美味しい。ルルって料理が下手じゃん」

「そんなことないと思うけど」

「姉妹の中で一番下手。なのに学生は勉強しなさいって私に手伝わせないの。ルカ姉ちゃんと味付けで喧嘩。ほら、ルルは濃い味が好きでしょう? でもお兄さん達は薄味好きじゃん」


 そう言いながらロカはニコニコしている。


「久々に沢山ルルがいて楽しい? レイも増えた」

「リルお姉さんも泊まるとええよ。お兄さんは飽きているから子守りの手伝いをしろーって追い出して姉妹だけ集合。きっと楽しいよ」

「姉妹集合なのに、ウィオラさんと仲良しなのに、彼女を除け者にするの?」

「違うよ。新婚なのに別居で可哀想だから二人にしてあげるの。お兄さんは私と過ごしたいから別居にするって言うておいて、私と寝てウィオラさんって呼んだり、ウィオラさんお茶をお願いしますって姉妹を間違えるの」


 兄もルーベル家に住み込みで、母と妹達に会いに来る方式にしたら良いからそう伝えてと言われた。理由はウィオラが寂しそうとかなんとか言えば良いと。

 とりとめの無い話をしてたら実家へ着いて、ロカと二人で母の様子を確認したら寝ていた。


「今日は青白く無い。沢山寝るとええ気がするよね」

「そうだね。顔色が悪くなくて安心した」


 ロカは着替えで私は割烹着を身に付けて夕食の支度中のルルとレイに声を掛けた。


「リル姉ちゃん。来てくれてありがとう。あと付き添い人、お疲れ様」

「特にすることはないから楽にしてたら?」

「リル姉ちゃん代わって。レイに怒られまくってたー」

「家守りでお嫁にいくつもりなんだから料理は要でしょう? 私はリル姉ちゃんのお世話をしてるのって全然してないってことじゃん。ええとこ取りしてたって気が付かなかった! 縫い物だってええ加減だったし!」


 ルルとレイがぎゃあぎゃあ言い始めた。去年レイの勉強には偏りがあると発覚した後みたい。今年はルルの家事が偏っているとレイが叱るとは愉快。

 レイが周りの注意を聞かなくてロイに怒られて反省したように、ルルはルルで私や母や義母の注意を「こだわりが強い人達に言われても〜」とのらくら逃げていたけどレイにまで言われたら変わるかも。

 しばらく傍観していたらロカがやってきて「お嫁に行って離縁されたら自業自得だから放っておけば? レイ、ルルより私に教えて」とロカ登場。


「あのねぇ。厨房で先輩にそういう口の聞き方をしたら何も教えてもらえないよ」

「ここは厨房ではありませーん。学校でもありませーん」

「ウィオラさんと仲良しなんだから見習いなさいよ! 日頃から気をつけて四六時中お嬢様みたいになりなさい!」

「そうだそうだ。ルルの言う通り、一人だけ女学校に入って卒業まで居られる予定なんだから四六時中お嬢様になれー!」

「私が入ったのは区立でウィオラさんは私立だもん!」


 長屋と長屋の間の共同椅子に座って眺めていたら、三人にリル姉ちゃんは私の味方だよね? みたいに捲し立てられて昔を思い出した。

 家を出てからもたまにあるけど、その度に思う。これが毎日はうるさ過ぎる。大人しく勉強しているはずのジオのところへ逃亡。かわゆい甥っ子は小等校の宿題をしていて、少し分からないというので教える。そこへ母が顔を出した。


「あら、リル。来てたの。よく来たわね」

「今日は夕飯を食べたら帰る。具合どう?」

「元気よ元気。って言うても説得力が無いわね。少し食べられるようになってきて眠くてならないわ。夕飯を食べたらって帰りはどうするの? 危ないじゃない。お父さんとジンは納品間近で帰ってこないかもしれないわ」

「ううん。兄ちゃんに頼む。頼まなくても送ってくれそう。今日、日勤でしょう? ウィオラさんの顔を見に来るだろうから一緒に帰る」

「それもそうね」


 母と甥っ子と和やかに過ごしていたのに、うるさい三人娘が突撃してきて「リル姉ちゃん聞いてよ!」と三方向からぎゃあきゃあ言われて、まだまだ具合の悪い母が「リルはもうルーベル家のお嫁さんなんだから三人だけで喧嘩なさい! このバカ娘達!」と激怒して、疲れたように見えたのでちょっとルル達に苛立ってしまった。


「私がご飯を作るからルル達はご飯抜き!」

「うわあ。リル姉ちゃんが怒ったー」

「雷オババの怒りがリル姉ちゃんに伝染したー」

「鬼リスこちら。手の鳴る方へ」

「あはは。早くルカ姉ちゃん、帰ってこないかなぁ」

「長屋で五人姉妹集合は全然ないから楽しいー」

「面白いよねー」


 逃げろーっと三人が去って、真面目に料理を再開したと確認が取れたので母とジオのところへ戻った。母に「誰似なのよあの子達は」とボヤかれた。母似だと思う。母に呼ばれたのでジオを残して二人で別の部屋へ。

 二人だけの話はレイとユミトの事だった。ロカから聞いた、ユミトがここに来たけどジンが居場所を教えず、手紙も受け取らずに追い払ったという話。兄がユミトを途中まで送ったらしいけどその時にどういう話をしたか教えてもらえないそうだ。


「別に恋仲では無かったし、向こうも特にそういう目で見ていなかった訳だけど、レイは少し気にかけていたじゃない?」

「レイはお母さんに何か言うた?」

「何もよ、何も。だから気になってて。ペラペラなんでも喋るような子だから、言わない時は周りに気を遣っている時でしょう?」

「つまり、聞いて欲しいってことだね」

「ルカに頼んであるからルカと話しをして欲しいの方。ジンがかなり怒ってて宥めるのに疲れてそうだし、ネビーでさえジンに気を遣っているわ」

「そっか」


 世話になっているネビーの妹相手に密偵(すぱい)をして、話を聞けばレイに色々お世話になっていたのにそれなので、薄情者だなんだとジンは腹を立てている。

 そこはネビーも賛同するところだけど仕掛けたのは自分だし、彼にはまだまだ頼れる相手が居ないから自分が敵対関係になる訳はいかないと一歩引いているそうだ。

 ジンとネビーは盛大な喧嘩をして、飲んで、ケロッと仲直りしたそうだ。他の男性が相手ならいつものようにジンと二人で壁になるけど、ユミトに関してはレイの兄はジンだけ。そういう決着らしい。

 ここへルカが帰ってきたので今の話を少ししたら、あっけらかんとした様子でこう告げられた。


「レイは私も普通の人みたいで安心したってさ。この年まで初恋を知らないなんてとか、周りの恋感情が理解出来なかったけどほんの少しだけ分かったから自分はおかしくなかったって。ルルみたいにお見合いをしたらもっとハッキリ分かるかなぁって言うてた」

「本心っぽい?」

「頑張れーって思うけど、邪魔するだけみたいだから会いたいとか直接応援したいとかは無いって。ネビーを応援したらユミトさんを応援するのと同じだからネビーの世話をするってさ」


 安心したのか母はまた眠いと部屋を去った。


「かなり遅いけどほんのり初恋、少し気になるくらいってあるわよね〜。イオ君格好ええ、みたいにさ」

「えっ。待って。そうなの? いつ?」

「恥ずかしくて兄ちゃんより強い人って言うて、イオ君がネビーに脅されて泣く前」

「ルカの初恋はジン兄ちゃんじゃないんだ」

「いや、あれは初恋もどきっていうか、格好ええ〜優しい〜ってあるじゃん。リルがニックと仲良くしていた事よりもずっと子どもの恋話だよ。恋ですらない。こ、くらいだね」

「ルカさん。今、なんて?」


 ひゅおーっと風が吹き抜けて、初夏なので生ぬるい風のはずなのにブルッと寒気がして振り返ったら扉のところにジンがいた。


「恋ですらない。こ、くらいだね」

「その前」

「リルとニックは恋仲手前だった」

「その前」

「イオ君に初恋じゃなくてこ、くらい」

「それ!」

「イオ君は昔、人気者だったんだよ? いや、昔じゃないか。ずっとだ。ジオくらいの時の話で全部ジンが最初なんだからええじゃん。妬くなら髪飾りを作って〜」

「ジオくらいの時の話……あー、そんな前のこと」


 ジンは夜食を取りに来たそうで、ルル達が父とジンのお弁当を作って持たせてお見送り。兄はいつ帰って来るか分からないので女だらけで夕食。

 レイが仕事後なのに料理を殆どしてくれたので、片付けは私とルカと思ったらルカとルルとロカですると言われた。レイに「少し話しがあるの」と言われたので察する。

 普段はロカが使っている私達子ども部屋でレイと二人になったら彼女はしばらく無言。


「どうしたの?」と促してみる。


「ルルにお見合いってどういう感じか教わったの」

「そうなんだ」

「ルルと私の条件を考えた」

「そっか」

「お母さんは調子が悪いから我が家の条件はルカ姉ちゃんに聞いた」

「ルカはなんて?」

「博打と暴力とお酒を飲み過ぎる人でなければあとは私の気持ちって。私が稼げるからヒモでもええって言われた。ヒモに家事も育児も全部押し付けて、押し付けた結果きちんとしそうな人なら。ルーベル家は何になる? ルルに自分で聞きなって言われたし私もそう思う」

「我が家に泥をぬらなそうな人なら誰でもって言いたいけど、お義母さんが張り切ると思う。前はルルさんの縁談は任されますだったけど気がついたらレイさんの時は、レイさんの時はって言うてるから」


 義母がレイの条件に合う良家の子息を探すだろうから彼女の条件は何かと質問。


「何でユミトさんと居ると楽しかったのかなって考えたら、私と同じで目指しているものがあって頑張っているからかなぁって。だからそういう人がええ。つまりお父さんや兄ちゃんみたいな人。ジン兄ちゃんもそうだよね」

「目標があって励んでいる人。分かった」

「それで私は仕事をずっとしたいから仕事をさせてくれる人」

「それは大賛成」

「前から言うているように、あと十年は修行したい。だからあんまりお見合いに乗り気じゃない。でもルルが、働かせてくれる人なら早く結婚でも問題ない。家のことは使用人にほぼ丸投げしたらええって。そういう家もあるだろうって」

「嫁入りじゃなくて婿取りにして(うち)か実家で暮らしたら?」

「それも言われた」


 練習した方が良い気がするけど、気持ちが乗らない。新しい職場に慣れるまで気持ちが疲れるだろうから余計に。だから初お見合いは直ぐじゃないと嬉しい。あれだけ行きたかった市場へ行きたい欲も無くなってしまった。レイはそう続けた。


「兄ちゃんが言うてたの」

「何を言うてたの?」

「十人十色だから、世の中の人は全員、必ず誰かに対して無神経だって。私は家族からの注意がウザいとか手紙を読みたくないって愚痴ったけど……ユミトさんは家族が居ないでしょう?」

「ユミトさんに愚痴っていたんだね」

「うん。ユミトさんが私に薄情気味なのはユミトさんの地雷を踏みまくったんだろうって。興味の無い相手にそれなら問題ないのにこれだから、こういうのを気が合わない、縁が無いって言うって」


 兄はレイの傷口に塩を塗ったようだ。


「……レイ。辛いよね」


 泣きそうな顔だけどレイは涙を流さず、ゆっくりと首を横に振った。


「ううん。自業自得だからええ。家族は結局皆怒っているけど本気で怒っていた訳じゃないから、喧嘩で済んで良かった」

「次はロカかなぁ。何年か前にルルが似たようにあちこちから怒られたけど覚えてる?」

「似たように、っていうのは覚えてない。私達下三人はよく怒られているから」

「上三人はレイ達が小さい頃に沢山怒られてた」


 この日、兄は全然帰ってこないのでとりあえず皆でお風呂屋へ行って、母は体を拭くだけで良いと言うので私達はかなり久しぶりに姉妹五人でお風呂に入った。

 お風呂屋から帰宅しても兄は帰ってこなくて、泊まるかもしれない話はしてあるのでこのまま泊まろうかなぁと口にしたら、ロカの提案で姉妹川の字で寝ると決定。そこへ兄が帰宅したので、泊まろうとしていたけどウィオラに会いに行くなら帰ると告げた。


「会いに行くなら? もしかして俺を待ってた? 先にルーベル家に寄って向こうでご馳走になって寝に帰ってきた」

「そっか。それで遅かったんだ。残業かと思った」

「今日の残業は少ししか無かった。帰るなら送るぜ。そうしたらウィオラさんにまた会えるし」

「リル姉ちゃんと川の字で寝るから送らなくてええよ! 帰らなくてもええようにしてきたって言うてた」


 ロカが兄にそう告げるとルルとレイも「川の字に寝るの」と口にした。


「それでこの布団なのか。寝てばっかりで死にそうなばあちゃんを呼ぼうぜ。寝てそうだから連れて来るが正しいな」

「それならばあちゃんの周りに布団を敷こう」

「今日、何回も様子を見てるけど寝てばっかり。昼ごはんは食べたけど夜は寝てて食べてない」


 私はそれもあって実家に帰ってきた。六人で祖母の部屋を訪ねたら彼女は目を覚ましていたけどぼんやり天井を見つめていて体を起こさない。しかし、私達の声掛けに微笑んで「ほっ、ほっ、ほたる来い」と歌うように告げた。


「去年の蛍かなぁ」

「蛍狩りに行くか。ばあちゃん、おんぶでどうだ?」

「レオ、夜は眠ないと。あんたをおんぶするのは明日」

「そっかそっか。明日だな。寝る前に食べないと」

「そうね。お腹が減ったもの。今、準備するわね」


 体を起こした今日の祖母は、兄と父を混同しているけど他の孫のことは認識していたのでレイが食事を用意しに行って、ルルとロカで祖母の体を拭くことにして、私とルカと兄は三人で蛍探しに向かった。


「やっぱりばあちゃんは近々死にそうだなぁ。新しいひ孫まで持つかな」

「新孫じゃなくて新しいひ孫ってウィオラさん?」

「おめでたなの? そんな感じはないけど」

「俺は親父の子だからそろそろ知らせみたいな悪阻とか何か始まりそうじゃないか? 少し二人で過ごしたいけどきっと早い」

「それはそうかも。でもどうだろう。私とリルはお母さんに似ないで不妊傾向だよ。ひ孫が増える前に孫が増える疑惑だね」

「そういやそうだな。ってことは俺もすぐには父親にならないのか? ばあちゃん、食べられるうちは生き延びそうだから孫の次のひ孫誕生まで長生きしますように! よって次のひ孫は遅くなりますように。俺もルカもリルも遅くでお願いします。早くてもよかだけど」

「ばあちゃん、食欲はまだそれなりにあるし散歩したり縫い物や刺繍を長くしていることもあるから死にかけだけどあれはもう少し生きるね」


 暗いから見えないけど、多分ネビーやルカの顔は強張っていそう。私は私の顔がそうな気がする。私達は両親と異なり家族を失ったことがない。

 私は結構、怖い。これまでぜんぜん考えたことがないけど、祖母の死が近づいてきているので死んだらどこへ行く、みたいな事を考え始めて眠れなくなる時がある。

 

 三人で集めた蛍を祖母の部屋に放って皆で寝て、朝起きて昼間見る蛍の気持ち悪さに皆でぎゃあぎゃあ行って、翌日の夜は昨年と同じく家族親戚で集まって蛍鑑賞。夜はまた、祖母の部屋に蛍を放った。

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