未来編「リルとレイの話」
本日はロイがレイにお灸を据えた。常識を守りなさいという指摘に納得して反省したと思っていたら、嘘をついて継続していたと発覚した結果だ。
ロイの書斎でレイと二人きりになったけど、彼女はとてもへしょげた顔をしている。謝られて、元々視野が狭いのに腹を立ててさらにそうなって、バカだから周りにどれだけ迷惑をかけることになるかとか、家族に何かあるかもしれないということを考えなかったなどと告げられた。
「まだ、何もなくて良かったね」
「あったでしょう? 兄ちゃんがロイさんとリル姉ちゃんのところにわざと後輩の人達と来たって聞いた」
「来たけど、後輩に練習をさせて下さいって和やかな感じだった」
「そうなの?」
「うん。ユミトさんと妹が広い意味で同僚だから、例え話に使いますって。兄ちゃん、後輩二人はユミトさんとレイが少し親しくしていることに気がついてない。聞き取り能力や観察力が足りないって怒ってた」
「うわぁ。ルカ姉ちゃんはそうは言わなかった。兄ちゃんはブチ切れてるって言うていたのにそうなんだ」
「怒っているけどもっと怒っているのはルル。だから発案者ははルルで企画取りまとめはお義父さん」
「えっ。ガイさんとルル?」
最初にレイが父と兄に怒られた時に反省してそうだったのに、実際はそうではないとユミトが兄に密告したから両親と兄は話し合って、ルーベル家に話を持ってきた。少々レイを懲らしめたい、と。
兄がふと、ロイと私にすぐ相談よりも二人に対して何かしたいかもしれないと考えた結果、まずは義父母に相談したからだ。盗み聞きしていたルルが怒って、レイに甘くしてはいけないと義父母に詰め寄ったらしい。
「忙しくても、いつも周りを気にかけてくれている旦那様が最初に何かあるって気がついた」
「私だけではなくて親以外も試されたってこと」
「うん。兄ちゃんとルルとロカ以外。お父さん達はルカとジンを試したかったみたい」
ロイが軽く調べた結果、親戚会の時に兄に相談したけど兄に返り討ち。義父母の指示で次は私、ということでロイは渋々私に秘密にして、程なくしてルルが気がついた振りをして私に報告したから、ロイに相談しながら調査開始。
兄の祝言準備、ルルの縁談が重なっていたのでその後にレイと話そうと考えていたら今度は母の妊娠疑惑で今日に至る。
「それで今になった」
「それぞれ試された結果、どうなったの?」
「旦那様は調査が甘くて、兄ちゃんが担当って知る前に兄ちゃんと話しをして、調査不足は損をするってお説教された。お義父さんがかめ屋の旦那さん達に、兄ちゃんが後ろにいるって私達に教えないように頼んでいたの」
レイは苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「リル姉ちゃんは?」
「かめ屋は私の領域だからレイも当然私の管轄なのに、先に旦那様が気がついた。それは一人で荷物を抱え過ぎだから気が付かないのですって怒られた。その後、レイと上手く話せなかったことも怒られた。息子と娘の反抗期に同じようなことになるからこれは練習でしたって」
喉がカラカラになる前にお茶で喉を潤すことにする。なので、机の上の湯呑みを手にして口に運ぶ。
私はこの件で義父やロイ関係の人付き合いを減らせる事になった。あと、かめ屋関係の仕事も減らしてルルとロカの付き添い人の配分も他の姉妹へ移行予定。つまり、私は楽になるのだ。
「兄ちゃんは?」
「最初に動いたから特にない。でも罠にはめるな、薄情者って言う旦那様やジン兄ちゃんと喧嘩してる。私とルカは、お義父さんや旦那様が賢さや回る口を与えた兄ちゃんが怖いから近寄らない」
兄は昔はもっとバカだったのに、良い見本がいて教わりまくった結果、あまりバカっぽくなくなってしまった。
相変わらず日常生活でド忘れやバカなことはするけど、仕事関係や大切なところではあまり。あと、今回のようにすぐ義父に相談したり頼るからでもある。
父もすぐに義父に相談するので、最近の義父は息子は三人いるって思っているみたい。ジンは父やネビーやロイに聞くから義父とは親子というよりは釣り仲間。
「ウィオラさんは?」
「各方面に怒っている兄ちゃんを宥めてくれたから、お義父さん達に褒められた」
ズルいけど彼女はお嫁に来たばかりなのと、下手につつくと新婚バカ兄が激怒して収集がつかなくなりそうなので、触らぬ副神様に祟りなし状態。
今回の件で彼女は全然発言しなくて、レイとも接触しなくて、私達姉妹に「心配ですね」くらいしか言っていない。しかし、両親や義父母によれば各方面にブツブツうるさい兄をやんわり諭したり怒りを他に向けてくれていたとか。
「ルカ姉ちゃんとジン兄ちゃんは?」
「お父さんと兄ちゃんにけちょんけちょんに言われて喧嘩中」
「……全然そんな風に見えなかったよ⁉︎」
「レイの前だから隠したんだと思う。二人ともレイのせいにはしないの。多少はしてるけど。ジン兄ちゃんは知らないけど、ルカは跡取りなのに自覚があまりなかったってへしょげてる。いつも旦那様と私、兄ちゃん任せだったのはその通りって」
「ルルにぶち切れられたけど、ルルは私に怒ってるだけ? ガイさん達に何か言われた?」
「いつも私の補佐役とか、リル姉ちゃんはぼんやりだから私がいないとって言いながら全然ですねってお義母さんにネチネチ言われて喧嘩した。それで、私とも喧嘩中」
義母が母の許可を得てルルに嫌味を言いまくったので、リル姉ちゃんが常日頃私を頼らないからこうなるって八つ当たりされて、頼めることは頼んでいるのでそれは八つ当たりだと反論したら、五倍くらいになって返ってきて、ルルに口では勝てないから聞き流している。
痒いから嫌なだけなんだけど、それならティエンさんとのデートの付き添いはしないと突きつけてルルから逃亡中。お喋りルルは楽しい時は良いけど、私や誰かに怒っている時は「うるさい」としか言いようがない。
落ち込んだ顔をしていたレイがますます暗い顔になった。
「うちは皆、仲良しなのにあちこちで喧嘩してるんだ……」
「いつも喧嘩してるでしょう」
「これはそれとは違うよ」
「同じ。喧嘩する程仲がええ。それぞれが誰かと喧嘩している理由をレイを理由にしたらレイは反省するでしょう? どう見ても反省してるね。お義父さんはやる気を出すとお義母さんよりも凄いの」
「私、ガイさんに怒られなかった」
「首に縄をつけて家に縛りつけても役に立ってくれないし逃げるから、罪悪感につけ込むんだって。そういう訳で我が家からレイにお仕事を頼みます」
「罪悪感につけ込む……。言うんだね。頼みたい事って何? 怒られて終わりよりもその方がええから頼まれる」
「うん、そうだよね」
義父母のレイに対する依頼はこれ。かめ屋の厨房で長く働いて欲しい中途採用者がいるけど、彼は性格に少々難あり。我が家を使って自尊心と高い鼻をへし折るけど、その際にレイの立場は持ち上がる。
そうなると普段から少々風当たりの強いレイにますます反感を抱く者も出てくる。反感なら良いけど、自分には後ろ盾がいないと腐ると困る。実力ではなくてゴマすりで働き続けられるのも困る。
「なので、揉め事を起こしたレイも懲罰って事でしばらく他のお店に出向して欲しいの。このように、実際は罰ではないけど」
「マオさんの事だよね。ロイさんが今日、踏み潰したの。頼まれたって言うてた」
「今日だったんだ。レイと話した後にするとは言っていたけど。仕事が忙しいから同時にしたのかな」
「かめ屋の役に立つし、私は贔屓されてぬくぬくあの厨房で働きたい訳ではないから考えるけど、どこのお店に出向するの?」
「お菓子作り教室担当のヘイさんの後継ぎと思っていたエイジさんが故郷に帰るって辞めちゃったでしょう?」
レイは元々お菓子職人になりたいと言ったのが料理人になったきっかけ。美的感覚が良いので盛り付けなどを頼んでいるし、甘味担当にも結構つけている。基礎と全体をサラッと修行は一通り終わったので、かめ屋の料理長や副料理長はレイを本格的に甘味部門の方に回したいそうだ。
かめ屋にいる甘味担当は出向か引き抜きかは別として、お菓子屋で修行してきた人達しかいない。なのでレイにもお菓子屋で修行して欲しいから、彼女が首を縦に振ったら提携店に修行を頼むそうだ。レイが不在期間の空き枠には提携店から、かめ屋で修行したい料理人が来る。
「レイは見た目もええし、子どもの対応もええ。そこは利用するべきだから、お店の見栄えを良くする仕事を回したいって」
「お部屋に挨拶回りとかそうだよね。他は料理長とか貫禄がある役職付きの人しかしないもん」
「うん」
レイがしばらく黙り込んだので、喋り続ける彼女としては珍しいので「どうしたの?」と質問。
「言われたまま動いているとバカから脱却出来ないから、この話に何を乗っけられるのかとか、他にも何か乗ってないか考えてた」
「ええことだ。手を引かれて、さぁこっちだよって連れて行かれても成長出来ないからね。むしろ上も下も関係なく、家族の手を引いてもらわないと」
「私じゃ役に立たないと思うけど」
「そう? 私はまた助けて欲しいな。レイが私に近寄らないから春の催し物関係は疲れた」
そういう訳で、私は少しはレイのお世話をしてきたのにと少し文句を言って、義父とロイの仕事関係の花見会、デオン剣術道場の花見会などレイが居なくて疲れたと愚痴る。
「今年もいると思っていた、効率良く仕切ってくれる役がいないから困った。あと、私の指示が上手いんじゃないってバレた」
「ごめん。忘れてた」
「お義母さんが出てきたけど疲れた、疲れた、疲れた。レイさんに何をしてもらおうかしらって言うてる」
「今日はそんな事、言われなかった」
「そのうち言われるよ」
「出向先ってかめ屋と親しくしているお店から選べる?」
「選びたいの?」
「お母さんが心配だから実家から一人で通えるところがええ。そうなると雅屋さんかなって」
第一候補のお店をレイの方から口にしたので心の中でにっこり。彼女は今回あれこれ言われて、先程自分をバカだと口にしたけど、そこまでバカではないしきちんと家族想いだ。
今回のことは、私が結婚して家族の気持ちを良く分かっていなくて「帰りたくない」と不貞腐れた私と似たようなものだと考えている。
「お義母さんが女将さんに、レイさんならお母上の側に居たいだろうから雅屋さん第一選択肢ですって言うた」
「そうなんだ。テルルさんにお礼を言いに行く」
「雅屋はかめ屋にひっついているんじゃなくて兄ちゃん関係。レイがかめ屋で良くしてもらっているようだからっていうのが最初の提携理由だから頼みやすいよ」
「えっ。雅屋さんってそうなの⁈」
「雅屋さんは昔からデオン先生のところ用に菓子折りを買うお店でしょう? 兄ちゃんが買い物中に押し入り強盗がきて返り討ちにしたんだって」
「そんな話、知らないよ!」
「私も女将さんから聞いた。兄ちゃんってほら、仕事の活躍みたいな事は言わないでしょう?」
それで雅屋には現在、兄がウィオラの為に頭を下げて雅屋で雇ってもらった女性奉公人がいる。ウィオラの元同僚で友人のユラだ。
ユラは美人で元芸妓なので集客に良いだろうということで雇ってもらえたそうだけど、彼女は手に職をつけたいからお菓子職人になりたいそうだ。彼女は現在、奉公の半分をお菓子職人修行として過ごしているけれど、雅屋の女性職人がおめでたで一人辞めた。
一人欠けたということは多忙になるから教えるよりも中途採用の方が良いので余裕が出てくるまでユラの修行は一時停止という話しが出ているという。あっという間に看板娘になったから、表に出ていて欲しいという思惑もあるそうだ。
「レイはもう基礎は出来ているから人手になるし、なんならユラさんをレイに丸投げ出来るでしょう? レイのお給料はこのままかめ屋が払う。それが雅屋さんへのお礼代」
「お金が浮く分、ユラさんを修行から外さないでって頼むってこと? 私を絡められなければ兄ちゃんがなんとかするってことだよね」
「うん。レイが抜ける頃には出産後の職人さんが戻ってくる頃にはユラさんが雑用くらい出来るようになってるはず」
「そうなると雅屋が経営している料理屋から一人、かめ屋に来るんだね。私の代わりかつ修行で」
「そう。あとウィオラさんに恩を着せると色々返ってくるし、兄ちゃんの機嫌も取れる」
「そこも読み取れた」
「ユラさんも天涯孤独だから、世話焼きお母さんが気にかけてる。レイが一緒に働くとウィオラさんだけじゃなくてお母さんも喜ぶよ」
「そうなんだ。ユラさんが天涯孤独とか、お母さんが気にかけているとか知らなかった」
この提案をレイはすんなり飲むと思ったけど、彼女は小さく唸った。
「どうしたの? 甘味担当より他の方がええ?」
「ウィオラさんに、ありがたみは分かっているけどより身に染みるから、少し家族と離れてみたいって相談したの。ほら、ウィオラさんは家出経験者だから。そうしたらね、いくつか提案してくれた」
「そうなんだ。彼女にどういう提案をされたの?」
「オケアヌス神社には女の子の孤児がいるの。正確には併設されている保護所」
彼女達の衣食住は寄付金で賄われていて、最低限の事は教わるけどウィオラの目から見たらその最低限は不足して見えるという。
勉強や芸事は教えられるからそうしているけど、生活に密着していて仕事も得やすい裁縫や料理や育児などの方が優先で自分はそこは苦手分野。
複雑な背景の子ばかりだから、問題行動を直したり、閉じてしまった心を寄り添ったり、そういう時間や人手が国から割かれている。どこかの養子になれば生活の基礎はその家が教えてくれるからと。
「でもね、私みたいに料理人になりたいとか、夢を持つと元気が出る事もあるでしょう? だから色々な分野に触れてもらいたいし可能なら教えたいって。養子になれる子ばかりじゃないし。私は家事を一通り叩き込まれたし、茶道教室も通わせてもらって今は自分でお金を払って続けてる。ルカ姉ちゃんが羨ましくて竹細工も少し出来る」
「ウィオラさん、レイにそういう提案をしたんだ」
「他にもあったけどこれが一番ええなって思った。ルルはそういう事は色々苦手だから私に頼みたいけど、私は今の仕事から離れないだろうから、これまでは特に言わなかったんだって。ルルは子守りや勉強を教えることは上手いからたまに助けてもらってるって言うてたけど、知ってた?」
「助けているというか、ウィオラさんに誘われてオケアヌス神社で勉強しているのは知ってる。沢山本があるしウィオラさんの講義は面白いって。孤児達と何かは知らなかった」
「ルルはオケアヌス神社で寺子屋の先生みたいだって」
自分に向いているのは寺子屋の先生だとルル本人が言う通りってこと。両親がルルはルーベル家にお金を借りてでも、本人に無理や苦労をさせてでも、区立女学校に編入させて女学校講師の資格を得られるようにした方が良かったと愚痴る気持ちは良く分かる。
義父母もこんなに勉強好きで賢くて、他がイマイチならお金を貸してでもルルを女学校って言えば良かったとやはり愚痴る。
ルル本人はそれをどこからともなく聞いたか聞き出して「ドタバタ茶道やベンベン琴のお喋り平家オババが女学校講師なんて何を言うてるの。私は寺子屋の先生でしょう! 悪ガキにもコラァーって雷を落とせるから」と笑っている。
結婚して子持ちになる前の余裕があるうちは、売り子だと変な男に付きまとわれるから、寺子屋の先生になって稼いでへそくりにする、と言っていたけどもうしているとは。
「ルルはお給料も貰ってるって」
「えっ。そうなの?」
「ウィオラさんが稼いでそこからだって。国からの予算分は無いから」
「もしかして、レイがオケアヌス神社で何かするってなったらウィオラさんが出すの?」
「うん。あと兄ちゃん。ウィオラさんも稼ぐけど浮絵代って言うてた。そういう意図していないあぶく銭は寄付金にするのが見栄えが良くて、それを妹に横流しだってさ」
「お義父さんの入れ知恵?」
「そう思ったらウィオラさんの入れ知恵。大豪家ではそうやってお金を家族に回す事は当たり前ですって」
と、いうことはルルは我が家からお給料をもらい、たまにかめ屋やひくらし関係で客寄せをして日雇い金を得て、義父がさせてくれている雑務仕事でもお金をもらっていて、さらにということになる。
それでいて私は皆のお世話担当で働いて稼げないからと皆から色々もらったりご馳走になっているので……さすがルル、ちゃっかりしてる。
「お母さんの具合が良くなって安定してきたら、ウィオラさんの提案はありかなって思ったの。半年や一年くらい違う世界を見てみようかなって。かめ屋はほら、なんだかんだ頭を下げれば戻れそうだから。私は図々しいから、ルーベル家は結局怒ってなかったからお願いしようって思って」
「漁師さん達と更に親しくなったら我が家は関係なく、受け入れてくれると思うよ」
「うん。あと家族親戚から頼んでもらうけど、これからは自分もその席に参加する。いつも居ないところで根回しが終わっていて、それは良くないなって」
「今後はそうする予定だったからそうして。元服したから子ども扱いは終わり。色々あって少し遅くなったけど」
「ウィオラさんの提案はええと思ったけど、リル姉ちゃんのさっきの話もええと思うので、順番にするということは出来そうですか?」
まず雅屋で働いて、かめ屋と雅屋とユラ——というか兄とウィオラ——の役に立った後にオケアヌス神社で働く。その際は海辺街で一人で暮らしをしてみる。
母のつわりの酷さが過ぎて安定するか、出産するまでは雅屋。
雅屋は実家からの方が近いのでかめ屋の寮は出て実家に帰る。もちろん、家賃も食費も家に入れる。
その辺りの話をかめ屋と雅屋と親としたいけど、話が下手な時に指摘されたり指導されたいから同行して欲しいと頭を下げられた。もちろん二つ返事で了承。
「皆わりと怒ったけど、なんだかんだ大人になったね。レイはもう色々な道を選べるし、こうやって頼られる」
「そう思っていたけど、今回ぺしゃんこにされた。これからもよろしくお願いします」
こうしてレイは雅屋に出向という形でかめ屋を一時的に去り、数年振りに実家暮らしとなった。それでしばらく雅屋で働いて、その後は海辺街へお引越し。
一人で暮らしてみたいと言ったけど、それは親が断固拒否したので、ウィオラのコネでオケアヌス神社に隣接する保護所住まいになり、半分くらいの時間はミーティアの分店メテオ勤務である。
この選択が、レイにあまり興味のなかったユミトの気を引くことになるなんてこの時点では誰も知らない。
おまけに大きな欠点はないのに不運や縁なしが重なって未だに独身だったジミーが、どういう経緯なのかロカとユミトとティエンに励まされて、ユラの男性に対して冷えている雪山の氷のような心を動かすことも、まだ誰も知らない。
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何か一つでも欠けると結ばれない糸がある。それぞれの運命の赤い糸が結ばれた瞬間はいつなのか、それは龍神王様と副神様だけが知っている。




