24話
2階からトランプを持ってきて居間のテーブルに置き、台所でお茶の準備。確かに今日は冷える。
ロイとずっとくっついていたから温かかったけど、離れると少し寒い。でも隙間風の入らない家だから快適。
2階の衣装部屋や寝室に部屋干しした洗濯物はまだ乾いていなかった。夕食の準備を少しする。ロイが呼びに来たので居間に戻った。
トランプは向かい合ってするみたい。今度はくっつかれなかった。少しホッとしたような、残念なような、寂しいような……残念で寂しい。
「何人かで楽しむのに、大富豪というものを教わってきました」
ロイがジョーカー抜きゲームの時のように私とロイに交互に札を配った。
「3が1番弱くてキングの次は1、2、ジョーカーの順で強いです」
「はい」
「ジョーカーにはスペード3だけが勝てます。弱い3の中で使える貴重な札です」
「はい」
私の札の中にジョーカーもスペードの3もいた。つまり、このスペードの3は強い札にはなれない。
「弱い札から順番に出して、早く札が無くなった方が勝ちです。ジョーカー、スペードの3、2あと後で説明する8を最後の札にしたら負けです」
「頭を使わないといかんのですね」
「そうです。他の細かい規則はやりながら説明します。最初は勝ち負けなしでやりましょう。リルさんから好きな札を出して下さい」
「はい」
使えない弱い札、スペードの3を出す。
「リルさんジョーカー持っていますもんね」
「はい」
ロイはスペードの4を出した。
「同じ柄が続いたら、この先は同じ柄しか出せなくなります。それから数字が3、4と続いたのでさらに5しか出せません」
「スペードの5は旦那様が持ってます」
「リルさんがないので自分の番です」
それでスペードの6も私は持ってない。ロイが出した。その後は私がスペードの7を持っていたので出して、8も同じ。
「8を出したら仕切り直しになります。8切り言うそうです」
ロイは重なっていた札を端に移動した。
「リルさんが切ったのでリルさんからまた始めます」
「はい」
「同じ数字の札が複数枚あったら出して良いです。そうすると自分も同じ枚数出さないといけなくなります。ジョーカーは他の代わりにもなるのでキングとジョーカーを一緒に出したらキングが2枚と一緒です」
「はい」
沢山札を持っているけど、邪魔なのは3。3はあと1枚しかないからハートの3を出した。
そうやって続けて、ジャックを出したら強さが入れ替わる——ジョーカーは強い——というのも覚えた。
また8切りで札の山が端に移動する。
「リルさん、同じ数字で3枚持ってる札はありますか?」
「はい」
「それとジョーカーを出して下さい」
「はい」
5が3枚とジョーカー。
「同じ数字が4枚出たら革命です。大反乱です。ジャックの時の後退と同じで弱かった札が1番強くなります。ジャックの時と違って仕切り直しになっても、ここからは2が1番弱いです。ジョーカーはいつも強いです」
「弱い札をどんどん捨てた後に革命になると大変ですね」
「このゲームは複数人でするので滅多にないそうです」
「はい」
これで大富豪の説明は終わり。一応、私の勝ちになった。
「それでですね、このゲームはここからです」
ロイはまた札を半分に分けた。
「さっき勝った人は負けた人から強い札を2枚貰えます。なので大富豪です」
「ああ、このゲームの名前ですね」
「はい。さっき負けた自分は大貧民です。リルさんは代わりに自分に好きな札を2枚渡して下さい。スペードの3みたいな使える札や既に複数枚ある札を好きなように残せます」
「はい」
「4人だったら2番目に勝った人は富豪、下から2番目の人は貧民。つまり、勝ち続けるほど有利です。最低3回して、大富豪は2点、富豪は1点で、点数の高い人が勝ちらしいですけど点数は無視してワイワイすることが多いみたいです。このゲームは人数が2人以上いた方が盛り上がると思います」
私とロイで遊ぶために教わってきたのではないということ。お嫁さん達とどうぞ、という意味だろう。優しい。
「2人だと自分が持ってる札で相手の札が分かりますね」
「参加者が全員ない言うたり、説明した規則で仕切り直しです」
「はい」
「明日、父上や母上も混ぜてしてみましょう。母上と毎晩ジョーカー抜きゲームは飽きてます」
「はい。私もです」
ロイは少しうんざりした顔をした。私もそう思う。
先週から毎日、義母はジョーカー抜きゲームに夢中。
食後に家族4人で3回して、義母はほぼ負けている。
義父やロイは心理戦に強そうだけど、私は考えてもうまくいかないので、なぜ義母が私より弱いのか分からない。
義母は強くなったら他の家の奥さんと楽しみたいらしい。
規則を覚えるのに大富豪をもう1回した後、神経衰弱を教わった。
全部の札をひっくり返して裏側にして、同じ数字の札を探す。ジョーカーは使わない。それだけ。
簡単なのに札探しは難しい。ロイは賢いからすぐ札の場所を覚えてひょいひょい札を取っていく。
「また勝ちなのでリルさんは3つも自分の頼み事を聞かないといけないですね」
圧倒的大差でロイの勝ち。ロイはトランプを箱にしまっていった。
「今のも大富豪も賭けでした?」
2つではなく3つ。山崩しの分は、緑茶を淹れてではなかったっけ?
「まずは山崩しの分ですね」
「はい。何ですか?」
私がダメと断りそうなこと。それで優しいロイが言いそうなこと。簡単な頼み事。何だろう?
なんだかワクワクする。
ロイは座ったままズリズリ私に近寄ってきた。両手で頬を包まれる、のかと思ったらつままれて引っ張られた。
キスかと思った。キスされたかった。
痛くない強さ。ロイは困り笑いになった。何で困らせたんだろう。
聞こうとしたらロイが先に声を出した。
「冷えたんで風呂に入ります」
「はい」
ロイの手は私の頬から離れた。ロイの着替えの準備、と立とうとしたら左手を掴まれた。中腰で停止してロイを見下ろす。
「リルさんも入るんですよ」
……はい?
「何でもしますなんて、言わん方が良かったと思います」
ロイはニヤリと笑い、私を引っ張って腕の中におさめてしまった。
それでキスされて嬉しいなと思ったものの、数えられないキスに変化して、ここは居間! っとあたあた。
「大丈夫。まだ帰ってきません」
「でも、んんっ」
しばらくキスをするとロイは「お風呂へどうぞ」と私から離れていった。
一緒にお風呂はからかいだったみたい。私もいつかロイをからかう!