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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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特別番外「雲外蒼天物語8」

 アラタとオルオによれば年明けから国から各兵官に対する「離職は死罪命令」が解けて、離職者がわりと出て、人員不足なので幹部は会議や調整や穴埋めで屯所に泊まりが多いらしい。

 レイに尋ねたら知らないようで、元気付けないとと彼女は何をしたら良いのかと色々悩み始めた。

 ネビーに言われたので、俺とユウはあちこちの女性と常識的に接するようにしていて、今のところレイも含めて誰も特別とは感じない。

 若い女はほぼ全員かわゆい生き物なので、隙があればちょっと触ってみたいなぁと考えている。レイだけは相変わらず女ではなくて別の分類。あと、ネビーが「悪女」と言ったところ、俺を自分の為に利用している様なところはずっと引っかかっている。それで、でもそれは悪いことなのだろうか? とたまに悩む。


 レイは年明けに俺とユウに「あけましておめでとうございます」と、おせち料理という俺達からしたら豪華で美しいお弁当と、手作りの練り切りという綺麗なお菓子を贈ってくれたし、裁縫はからきしの俺らの縫い物もしてくれる。

 世話になって世話をする間柄だから、彼女は俺を利用しているのではなくて、それは持ちつ待たれつである。俺とレイは、俺とネビーやアラタ、オルオと同じような関係ではないのだろうか。なのに、ネビーには「悪女とは付き合うな」と言われたので、そこがずっと腑に落ちていない。

 

 レイをそのうち叱る、痛い目に遭わせると聞いているけど今のところその気配はなさそう。なにせ彼は忙しそうで俺やユウの前にもあまり現れない。ただ、相変わらず、手紙はくれるしアラタやオルオに伝言もしてくれている。

 ネビーと手紙で予定を調整して、悪いけど来てくれと言われて、指定された日の指定された時刻に彼の家を訪ねたら、部屋から返事はなくて扉も開かない。


「こんにちは。あけましておめでとうございます。お久しぶりです。ネビーさんに御用ですか?」


 隣の扉が開いて、なぜか少し息の上がっているウィオラに声を掛けられてドキリと心臓が跳ねた。練習しているけど、まだまだ女という生き物に慣れない。


「はい。約束をしています」

「私が起きた頃に帰宅したので疲れて眠っているのでしょう。声を掛けてみますね」


 彼女はネビーの部屋の鍵を開けて中へ入っていった。扉が閉まったのでしばし待機。


「なぁ、ユミト。やっぱり変だよな? 前にここに来た時も思ったけど、あの二人ってもう夫婦みたいだよな。ええなぁ。とびきり美人ではないけど癒し系のかわゆい人だし、あのすべすべ肌は触り心地良さそう。ちょっと覗いてみないか?」

「えっ? 覗きなんてやめようぜ」

「将来、俺らはああいう風にお嫁さんに起こされるって知ったらやる気が出そう。今は我慢って、未来にええ事があるって知らないと我慢出来ない」


 ユミトさん、起きて下さいと優しく起こされると少し想像してみて、優しい母は朝だけは「起きなさい!」と珍しく怒ったり、監獄でガンガン音を鳴らされて起こされる事しか思い出せず。この街に来てユウと過ごすようになってからは、たまにユウに蹴られて起きる。俺は蹴るなんて嫌だからめちゃくちゃ揺する。つまり、俺も淑やかな癒し系の女性が男をどう起こすのか見てみたい。


「それもそうだな。でも、人がいるから無理だろう」


 長屋と長屋の間にある机と椅子のところで料理の下処理している人達がいて、こっちを気にしている様子なので俺達は結局覗きはせず。

 少しして扉が開いてネビーだけが現れて、眠そうな顔で「悪い」と告げた。目の下に隈があって、あまり顔色がよくない。ただ、唇の一部が赤く色付いていて察する。


「なるべく早く支度するから、そこの椅子で待っててくれ」

「……はい」


 ネビーが引っ込んで少しするとウィオラが部屋から出てきて、俺達に会釈をして「お茶を用意しますね」と笑いかけて去った。


「おい、見たか? あの唇、俺らが外にいるのにあの人は何をしていたんだ。羨ましいにも程がある」

「そうだよな? あれは絶対にそうだよな?」

「上品で奥ゆかしい感じの女なのに朝からエロい。俺も早く嫁が欲しい」

「俺も欲しい」


 地区兵官になりたい俺はともかく、ユウはかめ屋の無期限奉公人になって一年したらお見合いを始めても良さそうらしいので、自分はそう遠くない未来に妻帯者になれる可能性だと彼は嬉しそうに笑った。ユウの鼻の下が伸びている。


「あら、あなた達。あけましておめでとう。息子に用事?」

「こんにちは。あけましておめでとうございます。約束をしていて来ました。ネビーさんの支度待ちです」

「あけましておめでとうございます」


 空のカゴを抱えているネビーの母親に笑いかけられた。

 

「待たせるなんてごめんなさい。落ち着いてきた仕事がまた忙しいみたいで。今、お茶を淹れるわね」


 ネビーの隣の隣の隣の部屋に入った母親は扉を開いたままにしたので「あらウィオラさん、ありがとう」という声がした。

 それでその後に「あんた! いつまで寝ているのよ! さっさと働きに行きなさい!」という雷が落ちたような怒鳴り声。思わずユウと顔を見合わせる。


「嫁は欲しいけどあの嫁よりも朝からエロい嫁がええ。優しくて起こしてくれてエロ付き。最高だ」

「それって事前に分かるのかな」


 気配がして顔を向けたら、お盆を持ったウィオラが真っ赤な顔で固まっていた。これはなんか、かなりかわゆい。


「……」

「……」

「……」


 話しかけてはいけない雰囲気なので黙っていたら、彼女は無言で湯呑みの乗ったお茶を机にそうっと置いて、慌てた様子でネビーの部屋に入って行った。


「今は人がいないから好機じゃないか? 浮絵じゃなくて、見てみたいよな」

「……うーん。まあ……」


 俺は知り合いが増えたから監獄で教わったり周りの会話で自然と覚えた最低限の知識よりも、もうかなりの事を知っている。俺らはお年頃なので、色々興味津々。断るべきだと分かっていても断れないのは、俺が未熟者だから。


「あれだ。裏に回ってみよう」


 動こうとしたら「分かりました。寝起きでつい。すみません」と渋い顔のネビーが部屋から出てきて、後ろから赤い顔でしかめっ面のウィオラが追いかけてきた。


「すみませんでは済みません。ネビーさんの後輩達に慎みのない女性だと覚えられてしまったのですよ!」

「俺が半分寝ていて、半分夢の中で、そのせいでガッツいて襲われたって言うて下さい。いや、俺がそう言うから、朝からそんなかわゆいくない怒り顔を向けないで下さい」


 俺らに色欲にはくれぐれも気をつけろと言うくせに、この人は朝から色ボケ。羨ましいからムカつく。


「私は四六時中笑顔の人形ではありません。笑顔以外見たくないのなら絵や人形と結婚したらどうですか?」

「笑顔以外見たくないなんて、そんな事言うてないじゃないですか。朝からその顔はやめて下さい」

「今は朝ではなくて昼前です。それに私が私の機嫌で表情を変えて何が悪いのですか」

「悪くなくてよかな事だけど、見たくないってだけです」

「それなら機嫌が悪い時は一切会いません。一先ず今から機嫌が治るまでそうします」

「ちょっ、待って。待って下さい。せっかく二日振りに会えなのにそんな事を言わないで下さい。見たくないけど見たいから見ます。なんなんですか、その揚げ足取りは」

「自分の言葉に責任を持ちなさいと妹さん達にお説教しているのですから、ご自分がそうして下さいという話です」


 俺とユウのせいで喧嘩が勃発したようだ。ネビーは部屋に入って扉を閉めたウィオラに対して、しばらく「ウィオラさん」「ウィオラさーん」「ウィオラさん」とすがり付くような態度。なんとも情けないというか、なんというか、見たくない姿である。

 その後は「何でそんなに怒る」と呟いて、かなり不機嫌そうな顔になった。

 剣術道場でデオンや、彼と親しそうな人に怒られているのを見た事があるけど、目上の人だけではなくて女の尻にも敷かれる男のようだ。

 ネビーは「すみません。既に遅刻なので、出掛けましょうか」と不機嫌声を出してウィオラに背を向けて俺達に声を掛けると歩き出した。

 腕を組んで怖い顔のネビーの後ろをユウと二人で歩いていたら、待たせてすみませんとか、しょうもないところを見せてしまいましたと謝られた。


「コホン。ウィオラさんは別にエロくなくて俺だ。俺が寝ぼけて手を出しただけ。勘違いしないように」

「は、はい」

「はい」


 この後、俺達は雅屋というお菓子屋兼小物屋へ行って、ネビーが箱入りのお菓子を買うのを眺めつつ、愛想の悪い美人店員をユウがボケーッと眺めているから少し揶揄う。


「ユラさん。朝からウィオラさんを怒らせたんですが、どうしたら機嫌が良くなると思いますか?」

「今度は何をしたのよ」


 美人店員ユラはネビーやウィオラの知人のようだ。


「寝ぼけて襲って、そこの後輩に気が付かれて……君達。なんでウィオラさんは朝からエロい女なんて会話をしたんだ?」

「いえ、あの。いやぁ……」


 お前が喋ろ、みたいにユウに肘で小突かれたので俺は渋々「ネビーさんの口に少し紅がついていたので……」と小さめの声を出した。


「ああ。そういうこと。それは俺が悪い。そもそも俺が悪いけど」

「あんたのせいでウィオラがエロい女って言われて、それを耳にして自分は違うのにって怒ったってこと」

「そう、それ。二日振りに顔を合わせたのに朝からかわゆくない怒り顔で見たくないって言うたら、それなら見るなって言われて、見たくないのはウィオラさんじゃなくて怒り顔のことなのに聞く耳を持たない」


 彼はそういう風には言わなかったし、どちらかというとウィオラの言い分の方が正しい感じだったけど、ネビーは自分は悪くないと考えているようだ。


「朝からって今はもう昼よ。うるさいわね。毎回、毎回、しょうもない痴話喧嘩を聞かせるな。どうせしばらくしたらウィオラも来るから二人して鬱陶しい」


 愛想が悪い店員だなと思っていたけど、口も悪いようだ。無愛想な上にこの口調なので、美人なのにかわゆくない。勿体無いとはこういうことをいう。


「来る気がするよな? 金を置いていくからなんかこう、機嫌が直りそうなお菓子と……あれ。あのリボン。似合いそうだからあれを下さい」

「無駄遣いするな、貢ぐなって言われているんだから財布の紐を締めなさい。その怖い顔じゃなくて眉毛を下げてごめんごめんって迫れば、あんたバカの機嫌はイチコロよ。ネビーさんが帰ってこない。ネビーさんが帰ってこない。ネビーさんが倒れるってうるさくて耳が壊れる」

「えっ? そんなに心配してくれていたのか?」

「いらっしゃいませ〜。本日は冬季水曜限定、はちみつ甘酒がございます。帰宅までに体を温めるのはいかがでしょうか」


 無愛想店員ユラは一気に可愛らしい笑顔になって声も少し高くなり、口調もゆったりで優しくなった。口が悪いのも態度が悪いのも嫌なのに、なぜか今の落差はなんだか良い。

 他の客が小物を見始めてネビーに背を向けた瞬間、ユラは笑顔を崩して彼を睨んで顎を出て行けというように動かした。それで俺達は退店。

 機嫌が悪かったネビーの機嫌が治ったのと、先程の店員が気になるので彼に質問しようとしたら先にユウが彼女ともっと話してみたいと感じた場合、どうするべきかとネビーに問いかけた。

 俺が少し話を聞く前にユウがこんな事を言い出すとは。少し他とは違う女性なので話してみたいとか、そう思っただけなので、それならユウに譲ろう。


「ユラさんは独身で恋人もいないから文通お申し込みするのはよかです。受け取るかは知らないけど」

「……文通お申し込みってどうやってするんですか? 方法は分かるけど中身の方です。何となくは知っているけど実際どうしたらええのか知らないです」

「俺が相談に乗ったら俺がユラさんに、みたいになって嫌なので若旦那さんやアラタさん、道場の雅そうな人に指導を受けて下さい」

「そうします。ユミト、お前も一緒に誰かに聞こうぜ。いつか役に立つから」


 梅の香りがほんのりして気分が良いこの時期は、職場や手習先で新年の挨拶会がよく行われるそうで、今日はデオン剣術道場で簡単な茶会と餅つきがある。

 忙しいけどずっとお世話になっているからネビーはそれを手伝うそうで、俺達はその手伝い。今日は俺達の成人組の集まりではなくて子ども達の集まりだから、弟分達の為に働くということ。


 ユウがネビーに師匠デオンの現役地区兵官時代について聞いているけど、俺はその話を若干聞き流して、かわゆい生き物も怒れば怖いし、嘘つきのように態度を変えられるんだなぁと行き交う女性達を眺めた。

 世界がどのくらい広いか知らないけれど、この街のどこかに俺のお嫁さんになってくれる人がいる可能性があり、キスさせてくれるらしいとか、むしろその先もある。

 女性達の唇や尻を見て、嫁は一人なのでたった一人ならどういう人が良いのかと思案開始。同じ年頃の女は誰でも同じように見えていたけど、最近はそうでもなくて違いを感じる。

 違いは分かるけど、どれが良いかと言われると「かわゆくて優しい人」なので悪女そうだと感じない限り全員良い気がする俺は、まだまだ女という生き物を実物ではなくて虚像として認識しているのだろう。だんだん歩く速度が遅くなり、ネビーとユウとはぐれていた。


「だからすみませんって言いましたよね?」

「なんだその言い方。すみませんで済んだら兵官は要らない。ちょっと来い。腕が痛むから薬師処へ行く。お前のせいだから金を払ってもらう」

「すみませんで済まないなら兵官を呼びましょう。貴方みたいな難癖……」


 かわゆい生物、それもユラみたいなすこぶる美人が強面の男に絡まれていたので思わず間に入った。見た目が良くても中身はアレな女がいるのはもう学んでいるけど、今の状況だと男が悪そう。


「なんだお前」

「ありがとうございます。さようなら。貴方も早く逃げて下さい」

「おい、待て!」


 美人が走り出して、男も走り出そうとしたので俺は思わず彼の腕を掴んだ。


「触るんじゃねぇ! 離せ!」

「女の尻を追いかけたいなら、その言動を改めろ」


 美人の一つ結びの髪がはらりと広がってひらひら、ひらりと布が地面に落下。その結果、俺の右の草鞋を花柄の布が覆った。足を止めた美女が振り返り、俺達——というか俺が腕を掴んだ男——を見て顔をしかめて、俺には優しい笑顔を向けて、布をそのままにして再度走り出した。


「やるのかテメェ!」

「喧嘩なんてしません。殴ったら兵官を呼びますよ」


 そこにネビーとユウが近寄ってきて、俺が腕を掴んでいた男は「うわっ、あれって一閃兵官だ」と口にして美女とは逆の方へ逃亡。

 美女の髪が風で広がった時にした甘い、甘い、甘い香りがなぜかまだして、さらさらと広がった髪と彼女の顔がぐるぐる、ぐるぐると頭の中を回っている。足元の布を払って、ネビーにこれはなんなのかと質問。


「何って髪飾りだ」

「女が使っている飾りって意味不明というか、別になくても良いって思うけど、これはキラキラして綺麗です。高そうだから返さないと。でも、どこの誰か分かりません」

「俺の方からは顔が見えなかったから俺には探せないな。ありふれた柄の着物や帯や下駄だったし。高そうだからってこれは安物だ。本人にとっては安くないかもしれないけど、逃げる事を優先したから要らないっちゃ要らないんだろう」

「俺は顔を覚えました。美人は沢山いるけど、なんかこう違いました」

「探して見つけたら突撃する前に俺に言え。問題ない女か軽く調べるから。生活態度が良くて金遣いにも問題なくて有期雇用になったから、文通までなら許す。相手が受け入れてくれるかは別として」


 揉めていたようだけどなんだったと問われたので説明したら、その感じだとぶつかった事を口実にどこかに連れ込んで狼藉とか、むしろわざとぶつかった男だろうと解説された。そういうことはちょこちょこあるので取り締まっているという。

 よく気がついて、よく助けたと言われて嬉しくなった。ただ、地区兵官になるって言うなら地区兵官が来る前に、ろくでなしの腕を離すなと怒られた。


 その後、俺は隙間時間を使って彼女を探すようになった。そんなに真剣に探すなんて惚れたんだな、とユウやアザミに言われたので多分俺は初恋をした疑惑。

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