特別番外「雲外蒼天物語7」
ネビーの家は彩り繁華街から結構遠いようだ。彼は制服で俺の前に現れることが多いけど、今夜のように私服の日もあって、休みの日に遠いところにわざわざ足を運んでくれていたと今更知った。そのことに今気がついたと謝罪とお礼を告げたら、早歩きや軽く走ってだと近いと笑顔が返ってきた。
歩き続けて、街中から少し離れて川の近くの土手を歩いていたら、長屋のような形の建物が見えて、あそこが家だと告げられて、こんなに広い敷地に二軒も建物があるのが彼の家なのかと驚き。
ユウと「地区本部兵官は稼いでいて金持ちなんだな」とヒソヒソしていたら、彼の家は長屋の一部屋で衝撃を受けた。稼いでいて金持ちとは逆のようである。
「地区本部兵官って……儲からないんですか? 俺の家とそこまで変わらないって……」
「ん? ああ。貯金の為に貧乏時代から住んでるだけで再来年くらいには家が建つ予定だから夢のない仕事ではないぞ。下っ端地区兵官でも金銭管理をしっかりしたら小さめでも二階建ての町屋を借りられる。ただいま帰りました」
彼の人生は順風満帆だと思い込んでいたけど、貧乏時代があったとは。ネビーが一番端の部屋に声を掛けたら、心地良い声がして扉がゆっくりと開いた。
あ軒先の光苔の灯りで照らされた女性は丸っこい顔に垂れ目で少し厚い唇をしていて、元気溌溂猫顔のレイと違い、色っぽい大人の女性という雰囲気。
「お帰りなさいませ。初めまして、こんばんは」
「たまに話すユミトさんと彼の友人のユウさんです。二人に何かご馳走しようと思ったけど、夕飯は要りませんと言うていなかったので連れて来ました」
ネビーは「彼女は婚約してくれたウィオラさんです」と俺達に教えてから、二人を腹減りにさせるけど、二人を待たせて自分だけ急いで夕飯を食べて近くの店に行くと話した。
「三等分するのはどうでしょうか。そうしたらお店でも三人で同じくらい食べられます」
「それも考えましたけど、片付けが三倍になってしまいます」
「構いませんよ。かきを沢山いただいたので今日はかきご飯です。多めに炊きましたからご飯は三人分あります。少なめにはなりますが」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
一番端は婚約者の部屋で、ネビーの部屋はその隣だった。結婚の約束をしたら隣同士で暮らすのだろうか。分からないのでユウに聞いたら恋人関係の実態や婚約の中身を知らないから分からないと言われた。
ネビーの部屋は俺が住む長屋の部屋よりも広くてかまどもあって、机と本棚があって、壁にはどこかの街の浮絵が貼ってあった。机には木製の小さな飾り物が並び花カゴに花と草が生けられていて、俺の無機質な部屋とは異なる。
床の間はなくても奥は上座。手を洗った後にそちらへ促されたので断ったけど、客は向こうと言われたのでユウと二人で部屋の奥側へ並んで着席。正座したら疲れるからあぐらで構わないと笑いかけられた。
俺やユウはいつも厚着——かめ屋のどてらを四枚借りている——をしているけど、この部屋は火鉢があるので温かい。
しばらくしたらウィオラがお膳を運んできてくれて、所作が美しいので少々見惚れた。上品なお膳の上に並ぶ物を運ぶ側ではなくて運ばれる側は初めてで緊張。一方、ネビーはとてもくつろいで見える。
お膳の上にあるのは「かきご飯」という知らないご飯、湯気の立っているお味噌汁、焼かれた魚の切り身、三種類の漬物、それから人参とレンコンの煮物。三等分と聞いていたように魚も煮物も少ないけど他は普通の量に見える。
「ウィオラさん、今日もありがとうございます。いただきます」
俺とユウも慌てていただきますとありがとうございますと挨拶。
「本日もお疲れ様でした。今、お茶もお持ち致します」
「彼らはきっとそういう事をしたことがないので、疲れていなければ一曲何かお願い出来ますか? まぁ、俺が聴きたいだけですけど」
「新年総会が目前ですので嫌だと言われても聴かせますよ。聴きたくない方をうっとりさせるくらいでないとおじい様に叱責されますので」
曲? なんだ? と思っていたら彼女はお茶を用意してくれた後に、俺達の目の前に琴を運んできて演奏を開始。
かめ屋の受付部屋で綺麗な女の人が演奏しているなぁとか、監獄に慰問だと男性達が来て演奏会はあったけど、こんなに美しい音色や曲は初めてで、ボーッとして食べるのを忘れて途中で箸が落下。
「あはは。二人して箸を落としたり米を落としたり聴き惚れ過ぎだ」
せっかくすこぶる良い演奏なのにネビーは途中で去って、しばらくして戻ってきて、曲が終わると俺達を別の部屋へ連れて行った。
俺はネビーとレイの父親と再会。しかもネビーが居なくなったから、ビクビクしながら何が始まるのかと身構える。
今日は父親だけではなくて母親もいて、彼女はかなりレイと顔が似ている。ネビーは父親似でレイは母親似だったようだ。
そうしたら、様子を見て娘を叱るので息子が頼むことをお願いしますと頭を下げられた。
「お世話になりまくりなので、役に立てることはしたいです。ネビーさんに常に聞いて相談しますし隠し事もしません。わざと痛い目に遭わせて怒るのはちょっと可哀想というか、今ではダメなんですか?」
「欠点を直してきたつもりだけど足りないので、親が生きているうちにもっと良い人間にして本人が不幸になったり困らないようにしたいです」
「でないと将来、もっと可哀想な目に遭いますし他人様に迷惑をかけたり傷つけます。この件は娘一人の事だけではなくて他にもありますので」
こうして俺はレイの護衛監視役を担う事になった。家が近くないようだけど、たまに今夜一緒に来た友人と遊びに来ると良い。レイには内緒で、今日の曜日だと家族が出払って少ないからその日に。
大家族だから人が少ないと寂しいので賑やかさに来てくれると嬉しくて、俺達もたまには色々なものを食べられるからお互い様みたいに誘ってくれた。ネビーはポンっと生まれたのではなくて、この親だからそう育ったと感じる。
この日はこの後、ネビーが近くの酒処へ連れて行ってくれて好きな物を頼ませてくれて、俺達の来年の目標はこうだとか、その為にはこうしようなど色々助言してもらった。
ネビーはそんなに飲んで良いのかという程飲んで、後半は独り言みたいになり、このまま伸びていけば自分や他の身近な男達がお見合い相手を用意して、俺達にも家族が出来るから大丈夫。
家族は重荷だったり足枷になることもあるし時に不幸にされるけど、良いものでもあるから任せろと髪の毛をぐちゃぐちゃにされた。
「あはは、ワカメみたいだな。ワカメ兄弟」
この人、酔っ払いだ。酒の酔い方は人それぞれで、笑ってなる人だけはわりと好きだと思っていたらネビーもそちら側のようでホッとする。
「ユウさん、君も同じ剣術道場に通え。金が惜しかったら二週間に一回とか頻度を少なくして。家族無しと家族がいないような二人だからそれで兄弟だ。よし、兄はどっちか決めろ」
「どう考えてもユウです」
「まあ、俺もそう思う。お前、俺以上に世間知らずだから」
「所詮は他人だから裏切られる事もあるけど、お互いに裏切らないぞ、助け合うぞと思っていると心強いから仲良くしろよ」
「うわぁ、ユミトは裏切りそう」
「なんでだよ! お前だろう! 昨日もうどんを一本多く食べやがって」
「それはその前の日にお前がきつねを多く食べたからだろう」
「あはは。そうだ、やれやれ。遠慮し合って心の中に溜めていると爆発して仲直り出来なくなったりする。あと金の貸し借りは禁止。俺を挟んで喧嘩してもよかだからな」
飲みの後、眠いから明日の出勤が平気なら泊まっていかないか? とネビーに誘われた。あの暖かそうな部屋で寝るのは俺もユウも賛成だから二つ返事で了承。
そうしたら風呂屋も奢られて、朝食付きで起きないといけない時間には起こすと言ってもらえて幸運。
俺とユウはたまには贅沢するぞと風呂屋に行くからお互いの裸を知っていたけど、ネビーの裸は初めてで筋肉隆々で驚愕。おまけに風呂屋から彼の家までの間に女に絡んでいた三人組がいて、彼が注意をしたら刺されそうになって、あっという間に返り討ち。素早くて呆気に取られた。悪人達を見回り兵官に任せて歩き出したネビーに俺は彼に質問。
「貧乏時代があったそうですけど、ネビーさんってなんでも持っていますね」
「なんでも? なんでもってなんだ」
「仕事が出来て、強くて、有名人で、家を建てる予定で俺達にご馳走してくれるから金もあるし、色っぽくてかわゆい上に琴も上手い婚約者さんがいるし、うんと優しそうな親もいます」
「そう言われたらまぁ、色々持っているな。二人の年くらいの時も二人よりはうんと恵まれていた。金はないけど将来に希望があって励めば登れそうだし、家族総出で応援してくれる仲良し家族。俺は自分を不幸だと思った事は殆どない」
「ネビーさんの一番辛かった事ってなんですか?」
「一番……は難しいな。俺は恵まれているから、君達の気持ちに寄り添えない時がある。それは先に謝っておく」
「いえ」
俺達は三人で暖かい部屋で寝て、目が覚めたらネビーは隣に居なくて、とりあえず厠へいこうとしたら手前の部屋にあぐらで寝ているネビーがいた。
彼の目の前にはお膳があって、灯りと共に本が開いて置いてある。何の本かと思って覗いてみたけどちんぷんかんぷん。座ったまま寝ている彼の顔は苦悶に歪んでいた。
「ネ……」
ネビーさん、おはようございますと言い終わる前に彼はパチっと目を覚まして、息を荒げて、自分の両手を見つめて「ああ、夢か……」と呟いた。
「あの、おはようございます。大丈夫ですか?」
「……ん? おお。何でユミトがここにいるんだ?」
「えっ? いやあの、昨夜連れてきてくれたからです」
「そうだっけ。あー、呼んだ。そうだった。今、何時だ⁈」
丁度良く鐘が鳴り始めて、その音は俺の家に聞こえてくるものよりも小さいけど時刻は五時のようだ。俺とユウが起きようと思っていて、ネビーもそのくらいには起きるから起こすと言われた時間。
「二時間も寝ていたのか。うわぁ、仕方ない」
元々、送ると言われていたのでユウを起こして身支度。その間にネビーは制服姿になり、三人で俺達の部屋へ向かって歩き出した。俺とユウは前を歩いて、ネビーは片手に本で読みながら歩いている。
会話するような雰囲気ではないので俺はユウと話して、途中でネビーが朝食だと握り飯とたくあんという組み合わせのものを買ってくれた。
そうして歩いていたら「朝からスリをするな!」とネビーの逮捕劇を目撃して、またしてもこんなに素早いのかとビックリ。その後、少ししたら今度は迷子の男の子を保護。
「起きたら猫がいないって猫は遊びに行くものだから親に言うてから探しに行かないと」とネビーは男の子を肩車をしながら歩いて、子どもを家に送り届けて、行き交う人に声を掛けつつも、片手で開いて読んでいる本の内容なのか、ブツブツ謎の言葉を呟き続けている。
この日を境にネビーは俺を訪ねて来なくなり、アラタに「ルーベル先輩は試験前だし仕事も多忙なのに、臨時招集で北部海辺街へ行った」と教えられた。多分、帰ってきてわりとすぐ東地区へ出張だそうだ。
「そうなんですか……」
「短時間睡眠で元気な体質って言うけど化物だ。火消しの大半もそうだし、兵官にもちょこちょこいる。体の作りが生まれつき違うみたいだけど、その分仕事を増やされるし、自分でも増やすってしんどくないのかなぁ。俺は化物の仲間じゃないからここで少しサボり。先輩が、倒れるからサボってこいってさ」
その通りでアラタは俺の仕事後を狙って来て、夜勤中と言いながら俺と花札でこいこい中。とりあえず、こいこい宣言。
年末年始は事前に知っていた通りネビーとは会えず。年が明けたらかめ屋の旦那に「三ヶ月の有期雇用奉公人に変更して、この店で身分証明書したい」と提示された。家は長屋から独身職員寮で、仕事内容が変わる代わりに給与は上がる。
少し迷い、親しくして一緒に励んでいる友人がいるから今の長屋で暮らしたいと伝えたら、それなら家賃補助を出して社員食堂を利用する権利を与えると言われた。
「二人分金を払えば二人分の食事を持ち帰ってええ。そうかそうか。友人が出来たとは聞いていたけど、そんなに親しいのか。それに君は友情に厚いんだな」
「そのようにありがとうございます!」
年明けからは無期限奉公人で給与はこのくらいと昨年言われたけど、それよりも低い評価なのはなぜなのかと緊張しながら問いかける。今年の俺の目標の一つは、受け身で過ごさないことだから。
「俺に悪いところがあるなら直します」
「君に落ち度はない。他の奉公人の事など全部を見渡して決めないとならない。長い期間よく働いてくれている人達を優先した結果、君にしわ寄せだ」
これまでがとんとん拍子で出来過ぎだったと自分を慰めてみたけど落胆してしまう。
しかし、この後に俺が一番親しくしている友人、ユウという青年はまだ根無草のようで、地区兵官から彼の生活振りの記録を渡されて読んで、俺と同じ三ヶ月の有期雇用を考えているので興味があるか聞いて手紙を渡して欲しいと言われて、気分が一気に良くなった。
「本当ですか⁈」
「君と違って独身職員寮、社員食堂の利用権も家賃補助もない。君と長所が違うようなので仕事内容も異なる。ただ、給与は同じだ」
「彼はあちこちで働いていて、どこかで声が掛からないかなと言うていたので喜ぶと思います!」
「この店と関係のあるお店でかなりの回数、日雇いをしているからそこからも話を聞いた。空きが出た時に、彼はどうかとふと思いついて、自分でも調べたけど良さそうだ。そして君がさっき彼の為に寮に入らないと聞いて決意した。つまり、彼の後押しをしたのは君だ。君を担保に、彼の日雇いは飛ばす」
「ありがとうございます」
「手前味噌だが良い店でこういう風に声を掛けたりツテコネで人を集められるから求人は出さない。君達くらいの生活者には運の良い話だと思う。是非、彼にここで働こうと勧めてくれ」
この日の夜、ユウに無言で手紙を渡したら、読んだ後に大興奮だったので俺も騒いで二人で狭い室内で踊った。
「なにがズルいだ。お前は俺がしていた日雇いの日々を飛ばしたぞ!」
「あはは、やめろ。ハゲになる」
ユウの髪をぐしゃぐしゃにしたら、やり返されて、良かったなと背中を叩いたらやり返されて、気がついたら俺達は長屋の前で取っ組み合いの喧嘩。今日も様子を見に来てくれたアラタに「近所迷惑だ!」と怒られて部屋の中で軽い説教を食らう。
アラタはオルオと異なり期待されているようで、ネビーと似たところがあるのでたまにこうして説教される。俺達とそんなに変わらない年なのにしっかりしている。
こうして俺とユウはかめ屋の同僚になり、身分証明書はお互いに「旅館かめ屋の三ヶ月限定奉公人」みたいに変更。
デオン剣術道場は厳しい道場なので、通い続けられるとそれがまた信用になるから、月に一回分の稽古代を払うので通いなさいとかめ屋の旦那に言われて、俺は節約の日々になるけど月に四回、ユウは月に一回デオン剣術道場に通うことになった。
俺は本当は兵官育成で通うべきだけど、金が払えないからまずはユウと同じく手習門下生。
悪夢の頻度はどんどん減ってきて、目にうつるものがどんどん色鮮やかで光って見えるようになっている。
こんなに順調で時々怖くなって、そうするとほぼ必ずネビーに「悩みがあるのか?」と問いかけられる。彼がそうやって気がつくのは俺のことだけではない。一緒に街を歩いて彼が誰かに何もしなかった日はない。なぜ、彼はすぐ気がつくのだろう。
俺はあと十年しても彼のようになれる気がしない。なりたいからどうしたら良いのかと質問したら、今もそうだけど十年前の自分はバカ過ぎたからすんなりなれるか追い越せると言われた。
同じことをオルオに問いかけたら、元が違うから俺らはなれないで終わり。アラタに聞いてみたら、そうなりたいと願って背中を追って、真似し続けたら近寄れるだろうと言われた。
「屯所にはルーベル先輩以外にも沢山尊敬出来る人がいる。その全員を追いかけて、教わって、叱られて、改善していけば俺もきっといつかアラタ先輩のようになりたいと言われる。それが今の俺の目標。そうしたら、きっと結果は自然とついてくる」
「俺、まずはアラタさんみたいな人を目指します。オルオさんは何かズレているというか、色々見えてない気がして」
「彼は使えないとか、お前はダメって言われ過ぎて腐ってるって先輩達が言っているのを耳にした。職員不足だから切り捨てるよりも教育って方針らしいからきっと変わる」
人は変わる。良くも悪くもどんどん変化していく。更に自ら望んだり、自ら決断して変わることもある。つまり、何度でも変われるのだから良い変化をしたいと進み続けたら、振り返った時に同じ自分なのに別人になっている。
流され続けて変わるのではなく、悪い気持ちに引っ張られて変わるのではなく、良い見本を追いかけて変わりなさい。アラタが胸に刻んである師団長の言葉だそうだ。
ネビーが忙しいとアラタや彼の先輩が来たりするし、友人知人が増えたので俺はもう知っている。羨ましいくらい持っている側だと思っていたネビーは、そこそこ苦労人で今も彼なりに苦戦している。
剣術道場でデオンにけちょんけちょんに言われる姿を見たし、疲れているとド忘れするらしくて面の紐を幼馴染らしき人に結んでもらっていた。
教えたらきっとそんな人生は嫌だと言われる俺が、他人の目から見ると恵まれている男だと思われることも、もう知っている。
知り合いが沢山出来たので、辛い事があった人や家族がいない人が俺だけではないというのも、もう知っている。
ネビー・ルーベルは人気者なので、彼のお気に入りになったり彼に指導されたい人は沢山いるので、俺は羨望だけではなくて嫉妬される。
かめ屋は人気奉公先なので、たまたま女将に拾われただけの俺はやはり羨ましがられるだけではなくて妬まれる。
人は見たいように世界を見る。
その上で家柄、仕事、肩書き、容姿などで偏見も挟んで相手を見る。しかも意識してではなくて育った環境や価値観などで無意識に。
俺は最近、レイと居るとイライラするようになっている。優しいし、かわゆいし、一緒にいると楽しいけれど、そうでもない面もある。俺は最近、レイが好きだけど嫌いだ。
彼女がかめ屋で料理人になれたのは家族親戚のおかげらしい。特にルーベル家と次女姉リルにうんとお世話になってきたそうなので、それなのに「うるさい」とか「文句しか書いてなさそうな手紙がまたきた」みたいに愚痴を言うのである。
俺には手紙を書いてくれる家族なんていないので、心配しているという理由なら、内容は文句で構わないので欲しい。俺とレイは殆ど変わらない年齢なのに、見えている世界が違い過ぎるように感じる。それから他人から聞いたネビーが俺くらいの時ともかなり違う。
俺はもう、レイが親やネビーに痛い目に遭わされるのは可哀想とは思わない。彼女はぬくぬく幸せな時に、教える為にわざと怒られたり何かされておいた方が良い。俺みたいに一人になった時、本番で大怪我したら大変だから。
どのように言われて何をされるのか知らないけど、レイが反省しなかったその時は俺は少し、人生は何が起こるか分からないと教えようと思っている。そうネビーに伝えたら、彼は「そういう感情は妹への心配に近い。兄に続いて妹も出来たな」と笑ってくれた。




