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23話

 将棋の対局を1回してボロ負け。しかも明らかに負けると分かっているのにまた賭けをしたので、ロイに小さな頼まれ事をされることになった。


「賭けなくても、旦那様……ロイさんからの頼まれ事は何でもします」

「そんなこと本当に言ってええんです?」

「ええです。いつも優しいロイさんの頼みを断るなんてバチが当たります」

「バチなんて当たりませんから、嫌な時は嫌と言うて下さい。それでですね、頼み事は……うーん。何が楽しいかな」


 楽しいが基準なんだ。名前を呼ばれるのは楽しいの?


「ああ。サンドイッチ。母上が褒めていたので、今度作れる日でええのでお弁当にサンドイッチをお願いします」

「それでええんです?」

「小さい頼み事ですからね」

「予算もありますけど、食べたいものはいつでも言うて下さい」

「リルさん、基本は父上や母上優先です」


 よしよし、となぜか頭を撫でられた。その後耳と頬にキスされて、唇にもきた。居間だからソワソワするけど嬉しい。

 何回かキスするとロイは将棋の駒を全部箱にしまった。


「次は山崩しにしましょう。これは簡単です。音を立てずに駒を運ぶだけです」


 ロイは蓋をしていない箱をひっくり返して将棋盤の上に置いた。けっこう途中で落ちた。


「使って良い指は1本だけです。縦横端1列のところまで運べたら獲得。カチっとかコトッとか音が鳴ったらその場で交代です」

「多く獲得したら勝ちですか?」

「点数です。王と玉は10点。大駒、飛車と角行は8点。金銀は5点、桂馬と香車は3点で歩は1点」

「強い順に高得点ですね」

「そうです。相手を大声で脅かしてはいけません。複数の駒を同時に取っても良いです。獲得した駒に乗せて運ぶのも良いです」

「乗せて運ぶんです?」


 ロイは近くで散らばっている駒を2枚重ねて、1枚を近づけた。上に乗っている駒を別の駒の上に横滑りさせる。


「こうやっておんぶです」

「ああ。こういうことですか」


 ロイは駒を元の位置に戻した。


「じゃんけんしますか」

「はい」


 じゃんけんは卿家の跡取り息子でも知っているのか。初めての共通点な気がして嬉しい。結果は私の勝ち。


「先だと取り放題です」


 散らばっている駒を全部、5枚も獲得。どの駒を山から運べるか確認。横向きになっている飛車がある!

 その飛車に指を置いた時だった。ロイが耳にふっと息を吹きかけてきた。


「ひゃっ……」


 バラバラと山が崩れる。


「あはは。リルさん、ありがとう」

「だ、だ、旦那様! 今のは卑怯です!」


 振り返ったらロイは物凄く楽しそうに笑っていた。


「リルさんに初めて怒られました」


 クスクス、クスクス楽しそう。


「もうせんでください」

「はい。今のはもうしません。今のは禁じ手なのでリルさんの番で良いですよ」

「それなら旦那様の負けですね」

「ええですよ。リルさんにまた頼み事してもらいますから」

「また賭けです?」

「はい」


 バラけた駒を6枚取って、更に2枚獲得。音が鳴ってロイに交代。


「はあ、旦那様。斜めの駒はそうやって起こすんですね」

「そうです」


 ロイは器用だった。そっと駒を起こしたり、斜め角の駒もスッと運んでくる。

 斜めに乗っかっている駒をゆっくり平行にして下のコマと一緒に運んでくる。慣れてる。ちっとも私の番が来ない。



「旦那様、沢山遊びました?」

「リルさんはすぐ頼み事を忘れてしまいますね。あっ……」


 運び途中の斜めの駒が倒れた。


「ロイさんのおかげで1枚取れました。銀なので5点です」


 よし、負けるものかと山を観察。それからロイの技も思い出す。慎重に慎重に。


「んっ……」


 耳の次は胸。懐に手が入ってきて山が崩れた。


「あはははは。リルさん、ありがとう」

「もうせんと約束しました!」


 振り返って抗議すると、ロイはまたとても愉快そう。


「さっきのはせんと言っただけです」

「卑怯なのは同じです!」

「またリルさんに怒られた。仕方ないのでリルさんの番です」


 勝たせるためにわざと?


「私を勝たせてくれるということですね」

「頼みたいことがあるので勝ちますよ」

「何でも聞きますよ」

「多分これは勝たんとダメです。リルさん、続きをどうぞ」


 促されたので駒をどんどん取っていく。6枚獲得。その後1枚獲得して音が鳴ってしまった。


「よし。ここからリルさんに1度も交代せずに勝ちましょう」


 ロイは張り切った顔で駒を運び始めた。途中はうーんと唸り真剣な眼差し。

 勝たないとダメって、私が断りそうな頼み事? 優しいロイが頼みそうで私が断ることなんて何もなさそう。

 ロイが負けたら分からなくなるのか。私は悪戯心もあってロイの足の裏をくすぐってみた。効くのかな。


「ちょっ、リルさんそれは卑怯です」


 ロイの指が左右に揺れて山が崩れた。ロイは拗ね顔。確かにこれは楽しいかもしれない。ロイはまた楽しげに笑った。


「ロイさんに仕返しです。仕方ないので続きをどうぞ」

「頼まれたい、言うことですね。それでは遠慮なく」


 それでロイは全部の駒を獲得してしまった。圧倒的勝利。ロイは「リルさんの負けですね」と駒を全部箱にしまった。


「片付けときます。次はトランプしますか」


 ロイは立ち上がった。頼み事は?


「トランプ持ってきます」

「お茶もお願いします。緑茶がええです。今日は冷えるので早めに風呂の準備をしておきます。雨なので水汲みはせんでも溜める方法がありますけどそれは知っていますか?」

「はい。お義母さんに教わりました」

「それなら自分が教える事はないですね」


 ロイは将棋盤を持って居間から出て行った。義父の部屋に片付け。


(お茶を頼みたかった? それならダメと言わんのに)

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