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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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日常編「川釣りとその頃の話2」

 売り言葉に買い言葉でネビーと外で喧嘩のはずが母の「ええ大人がやめなさい!」というかなり大きな声で俺達は停止。


「ロイ。お嫁さんの妹には何の思い入れもないようで、ネビーさんも妹さんが大事ではないようですね。彼女はそのうち大恥をかきますよ」


 フンッと鼻を鳴らすと母は襖を開いて「エルさん。レイさんへのお説教はそのくらいで。少々よろしいでしょうか」とエルに声を掛けた。

 母はなぜレイを叱らないと思っていたけど、俺が浅はかだった。母は俺がどう対応するのか観察していたということだ。レイに直接説教、ここへ来てすぐにエルに何か根回しなど、動くべきだったのに何もしていないようなものなので先程の捨て台詞だろう。


「うげっ。ロイさん。レイは何かやらかしました? あっ。そもぞレイはリルと釣りじゃなかったんですか? なんでいるんですか?」

「レイさんはリルさんが起こしても起きなかったので約束通り置いていかれました」

「あー……。リルは人を起こすことをすぐに諦めますからね。しかも寝起きの機嫌が悪いレイですし」

「リルさんは自分のことはしっかり起こしてくれます。レイさんはそこそこお行儀良くしていました。箸の持ち方、座り方、畳の歩き方など成長しています。リルさんのお手伝いも沢山しました」

「レイの褒めるところはそこってことですね。悪いところはなんでした?」


 今朝の様子を教えて、言葉遣いと一人で喋り続けるところは気になると伝えたら「家で叱っていることと同じです」とネビーは渋い顔。そこにレイが「兄ちゃーん。雷オババがひどいんだよ!」と半泣きで駆け寄ってきた。レイに抱きつかれたネビーが彼女の頭を撫でる。


「どう酷いか聞いてやるから座れ。浴衣に鼻水がつくからやめろ」

「うん」


 ネビーに目配せされたので俺も着席。まず、何がどう酷いのか確認すると、彼女は自分はこういう約束を守ってええ子にしたのにと主張したので、ネビーはそのことについてレイを褒めた。それから怒られた内容について聞き取りを開始。


「俺は実際には見ていないからレイが本当のことを言うているのか、ええ子だったのか違かったのかはロイさんに聞こう」


 この後、俺はネビーと共にレイにお説教をすることになったけど、彼女の言い訳と主張がわりと激しいのでこちらもついつい口調が強くなり、元々正論で主張をねじ伏せる性格なのでレイをどんどん追い詰めることになり、最後は「ロイ兄ちゃんなんて大嫌い!」という台詞を投げつけられた。それでレイは逃亡。


「多分、ルカのところなんでしばらくしたら連れ戻します。よかな事を沢山言うてくれて、ありがとうございました。ったく。あの屁理屈娘。ロイさんの正論はよかな薬です」

「大嫌いは……思ったよりも胸が痛いです」

「俺なんて何百回言われたか分かりません。家族以外に言われると身に染みるはずなんで助かります。レイはしばらくルーベル家に出禁。そういうことにして今回の反省点、言葉遣いと相手の話を聞かない事をしばらく重点的に躾けます」

「子育てって難しそうですね。自分はついつい甘やかしてしまって。あとワーッて言われると話せず」

「ロイさん、俺はこれから稽古に行くけど一緒に来ますか?」


 帰ってくる頃には、レイは反省して「大嫌いなんてごめんなさい」と謝りに来るはずなので、少しここから離れませんか? と提案されて二つ返事で首を縦に振った。

 道場に通い自由なネビーと俺では違うと最初は断ったけど、二人なら心良く受け入れてくれそうだと言われたので。


 ☆★


 その頃のリル達——……。


 鮭は二匹釣れたので、義父とシンバに見張ってもらって、私とジンとベイリーおエリーは栗拾いに行くことにした。


「自生している栗の木なんてあるんですね」

「はい。あの辺り……無くなっています!」


 栗林があったところに木が無くなっている。


「掘り起こして運んで村に植えたりしたのかなぁ。リルちゃん。そんなに背丈の大きな栗の木じゃなかったよな?」

「うん……」


 これではロイに栗の甘露煮が作れない。鮭や他の魚が釣れたというほくほく気分が一気に冷えてしょんぼりしてくる。


「……ジンお兄さん。あそこのキノコ。松茸みたいに見えない?」

「えっ? どれ? リルちゃんって目がええよな」

「こっち」


 気になったところに近寄っていったら、やはり私が見つけたのは松茸疑惑。


「この松茸を売ったら栗を買える?」

「買えそう」


 私の丸まった背中はピンっと伸びた気がする。


「もっと沢山、探そう……」


 今、私は黒い塊を見かけた気がする。


「欲張るとまた熊が出るから早く帰ろう。ジン兄ちゃん! さっき、黒い塊が動いた!」

「えっ? 熊? 危ないから戻ろう」

「それは怖いから早く川へ戻りましょう」

「熊みたいなベイリー君と熊ってどっちが勝つかしら」

「エリーさん、なに、恐ろしい事を言うているんですか!」

「えへへ。熊なんて見たことがないので見学……」


 呑気なことを言い出したエリーのことはベイリーが手を掴んで引っ張り、私達は急いで松茸を一本を採って義父達のところへ戻って釣りを再開。今度の私はベイリーとエリーと三人であまり大きくない魚を狙い中。


「松茸を見つけるとは驚きです」

「嬉しいです。これで栗を買えます」

「ロイさんは栗の甘露煮が好物ですからね。誕生日祝いは無しで秋に栗を贈るって約束していてそろそろ買うので松茸は松茸で美味しくいただいたらどうですか?」

「そうなんですか⁉︎ それなら松茸はご飯にします」

「是非、ロイさんに持たせてお裾分けして下さい」

「はい」

「それなら私はまたルーベルさん家に泊まろうかしら。その日に松茸ご飯にして欲しいです」

「それならベイリーさんのお弁当を一緒に作りましょう」


 エリーは代わりに何か招待券を手に入れてくると言ってくれた。私が教えた料理を家で作ると、またハイカラ料理で嬉しいと喜ばれるらしくて、そのお礼に親に栗もせがんでくれるとか。


 ☆★


 ——……その頃のロイ。


 未成年門下生の稽古相手になったら面白くて、さらに「彼の姿勢や話し方などを見習いなさい。

「具体的な手本は大切です」とデオンや彼の息子に俺は皆の手本になるぞと言われて全体に紹介されて嬉しくて、稽古後は弟弟子達に懐かれてさらに嬉しい。俺自体が懐かれたというよりもネビーが懐かれているから、一緒に俺もという感じで、近寄り難いと言われる普段の俺とは真逆の状況なので、彼についてきて良かった。


「えー。俺は帰って勉強するからお前ら、ロイさんに居残り稽古をしてもらえ。いや。どうせ俺と同じく、お前らも剣術だけ出来るバカなんだろうから勉強会だ。ロイさんはすこぶる賢くて教えるのも上手いぞ」

「えー! 勉強嫌い。稽古! ネビーさん稽古! 稽古ったら稽古! この前もまた今度なって言うたんだから今日こそ稽古!」

「さっき一緒に稽古しただろう。バカは地区兵官にも警兵にもなれないから勉強会だ。あと敬語を使え。俺は目上の人間で兄弟子だぞ? 稽古を離れたらだらしな過ぎるってデオン先生達に報告しておくからな」

「いやだぁ! じゃなかった。嫌です! ネビーさん、密告なんて男らしくないぜ?」

「男も女も関係なく密告、告げ口する者は多い。告げ口する隙さえないのが格好よかだ。この世の全てが稽古って言われてるだろう?」


 この後、リルの実家へ帰ることになり、弟門下生が三人くっついてきた。これから俺指導で勉強会だという。今日の俺はわりと流されるままだ。


 ☆★


 その頃のリル達——……。


 お昼少し前で釣りは終わり。今日はこのまま皆でかめ屋へ行って厨房を借りる。立ち乗り馬車に揺られながら、いつも素っ気ないベイリーが揺れるからと言ってエリーにそっと寄り添ったので、仲良しは良いことだとほんわか気分。

 かめ屋へ着いたので義父だけ先に中へ入って外で待機。しばらくして女将セイラが来て裏口から私達を入れてくれた。

 ベイリーは包丁扱いを教われる。義父とシンバは部屋で飲みながら将棋と今日の釣りの成果を報告。エリーはお風呂、ジンはひくらしのことで、と案内されて最後に私は「リルさんはこちらへ」と義父達とは異なる部屋へ。


「冬のお膳の盛り付けを考え中で。今日はよろしくお願いします」

「なんの話ですか?」

「テルルさんに聞いていませんか? 十一月に向けて戦略会議です」


 そういえば、眠いなぁという時にそういう話をされたようなされていないような。

 料理人達数名と女将と息子さんで十一月の松竹梅膳について、大体決まっているけど更に改善するところはあるか、という会議みたい。

 

「まず料理顧問役員のリルさん。最近仕入れたハイカラ情報はなんですか?」


 料理こもん役員って何? こもんって着物の小紋のこと? 料理の小紋ということは下っ端役員ということだろうか。


「えーっと……。文通友達には手紙を送ったところで返事はまだです。お茶会で金魚月池の話を知りました」

「それは別に目新しい話ではないですね」

「母上。金魚月池とはなんですか?」

「なぜ知らないのですか。経営者になるんですからあらゆる文学に精通しなさいと日頃から言うていますよね。その話はこの場ですることではないので後ほど。リルさん。他には何かありますか?」

「最先端のかすていらを食べました。たまごと粉と砂糖を使っていそうな事しか分かりません」

「息子以外にも知らない者がいそうなので金魚月池話とお茶会でどのように知ったのか教えて下さい。続けてかすていらを知らないのでその流行りについても」


 喉がカラカラになる予感がして、家に帰りたくなってきた。


 ☆★


 ——……その頃のロイ。


 母がなぜリルの実家まで着いてきたのか発覚。リルの姉が産んだ赤ちゃんをとても嬉しそうな顔で抱っこしているので、目的はこれだったのだなと傍観。

 俺とリルもそんなに遠くないうちに親になるのかなぁと考えながら、和やかに会話している母とルカを眺めている。


「ロイさんもよければ息子を抱っこして欲しいです。幼少時は病弱気味だったそうですね。こんなに立派に健康に育ったご利益をつけて欲しいです」

「ご利益があるならそうしたいですが、このように小さな赤ちゃんに触れたことがないので怖いです」

「ロイ。自分もそのうち父親になるんですから、練習させてもらいなさい」

「是非。触れたことがないならなおさらどうぞ」


 母にこう持つ、と指導されながら赤ちゃんを受け取ったけど、甥っ子ジオは早速泣き始めた。


「わっ。わぁっ。だ、抱き、抱き方が悪くて泣かせました!」

「ルカ〜。この泣き方はおしめか?」


 開けっ放しの玄関扉の向こうからネビーが顔を出した。


「多分そうだと思う」

「変えてきて洗ってくる。ロイさん、ジオを抱っこしてくれていたんですね。ありがとうございます」

「ネビー、ルルとレイにちゃんと教えてね」

「分かってるって」


 ネビーはサッとジオを俺の腕の中から持ち上げて「うわっ。臭い。母ちゃん〜。おしめを変えるからルルとレイも集合」と言いながら部屋から出て行った。母上、と呼ばないと母に怒られるぞと心の中で呟く。


「ネビーさんは慣れていますね」

「はい。私達上三人は下の三人のお世話をしてきたので慣れています。三人とも、いつか親になるんだから今から練習しなさい、と言われて育っています」

「リルさんもそのうち跡取りを産んでくれるでしょうから頼もしいです。ロイ。せっかくだから見てきなさい」


 これは素直に賛成意見なので「はい」と告げて隣の部屋を覗いてネビーに声を掛けたらどうぞと言われた。


「見るよりも手足を動かす方がええから拭くまでと洗濯は俺らがするので、ロイさんは新しいおしめに変えてみましょうか。ルルがロイさんに説明しろ。教えるともっと上手くなるから」

「はいはーい」

「ルル。返事は?」

「短くはいです!」


 レイが居ないのはなぜかと尋ねたら、彼女は今エルが料理指導中だかららしい。稽古から帰宅した時に、母と帰ろうとしたら母はルカといて、三人で話していたらレイが来て謝罪と「もっと頑張ります」と言い残して去った。なので、その後の彼女が何をしているかは知らなかった。

 赤ちゃんのうんちなんて見たことがなかったけど、あまり臭わないし色が緑色で白いつぶつぶがある。


「ネビーさん。ジオ君はもう病気ですか⁈ 便が緑色だし白いものも混じっています」

「えっ? いや。このくらいの赤ちゃんのうんちは緑や黄色ですよ。白いのもよくあります」

「そうだよ。ロイさん。これは普通です」

「そうなんですか……」

「俺は専門だからか無かったけど、ロイさんが通った小、中、高の学校には子育ての科目はないんですか?」

「ありません。それは女学校で女性が習うものです」

「それだと女が稼いで男が家守りだと困りますね。まあ、周りに教えてくれる人がいますけど」


 彼は不器用らしいのに、おしめを外しておしり回りを拭いていく手つきはテキパキしている。


「じゃあ、俺は洗濯してくるんで後はよろしくお願いします。ルル、よろしく。ロイさん。終わったらルカのところに返しておいて下さい。俺はそのまま勉強するんで。出したら腹が減るって分かりやすいな。どんどん飲んで、でっかくなーれ、でっかくなーれ」


 ふぇっ、ふえっとジオはまた泣き出したのにネビーはジオを置いていった。ルルに教わりながら新しいおしめをつけようとしたら、お小水が顔に直撃。


「あはは。ロイさん、避けるの下手くそ〜。手拭い、手拭い」


 顔と手くらいしか濡れなくて、ルルが拭いてくれた。風邪をひいちゃうから赤ちゃん優先、と言われたのでおしめつけを続行。それからルルに案内されて洗面。


「ロイさん。行こう。早う、ジオを抱っこして!」

「えっ。抱っこは一回しか練習していなくて、歩くなんて落とし……」

「さっきそんなことを言うていたからロイさんが練習しないと。早うって言うてるでしょう! もたもたしないで! リル姉ちゃんみたい。ジオはお腹が減っているんだからかわいそうですよ」


 前にリルにもたもたしている、とは誰に言われていたのかと問いかけたら主にルル、と彼女は口にしたけど多分このこと。恐る恐るジオを抱き上げてそうっと、そうっと隣の部屋へ行ったけど、その間にもルルに「早うして下さい」と怒られた。


「聞こえてきたけど、ルル。早くって言うのを禁止されたのに破ったでしょう」

「それは……ジオがかわいそうだからつい」

「ロイさんは抱っこにまだまだ慣れてなくて落とさないように、怪我しないように慎重にって思ってくれているのに急かしたら危ないでしょう? ジオがかわいそうだから早くお乳って考えてくれたのはありがとう」

「うん……。ロイさん、ごめんなさい」

「いえ。自分が危ないので慎重だと伝えたら良かったです。お互い様ですね。こちらもすみません」

「ふふっ、今度はお乳とは分かりやすい子ですね」


 また説教が始まるかもしれないと思ったけど、母の目はジオを見つめていて柔らかい。


「少し飲んでは寝て、短時間で起きて泣くのでたまに幼馴染にお乳を任せて爆睡しています」

「そうした方がええです。体を壊してはこの先の長い子育てを完遂出来ません」

「あのね。テルルさん。ロイさんはジオにおしっこをかけられたの。あっ。かけられたんですよ。避けるのが下手でお顔にびしゃあって。あはは」

「あら。そんなことがあったんですか。ちょっとロイ。貴方、いつまで部屋にいるの。授乳するんだから出て行って扉を閉めなさい」

「えっ。あっ、はい。すみません。失礼しました」


 慌てて外に出たら、弟門下生に「ロイさん、勉強を教えて下さい。ネビーさんだと分からないです。ネビーさんからロイさんはすこぶる賢いと聞きました」と手招きされた。


「ほどほどですが、皆さんくらいの勉強内容なら教えられます」

「お願いします!」


 弟弟子三人と一緒にネビーまで「お願いします」である。俺は明日寝坊しない範囲なら何時に帰宅でも良い。この慕われている感じは嬉しいから勉強会が長くなっても構わない。しかし、母はいつ帰ると言うのだろうか。

 母は自分の姉の娘、姪っ子が小さい頃も結構可愛がっていたし近所の親しい奥さんの娘や孫ともそこそこ遊んでいる。

 子ども好きだから、まだまだ子どもと遊びたくて帰りたくないのかもしれない。母はほどなくルカ夫婦の部屋から出てきて、その際はルルと一緒でとてもニコニコしていて、それで二人でレオ家の部屋の方へ入って行った。

 ロカが見当たらないと思ったら、向かい側の部屋から女の子と共に登場。


「兄ちゃんおはよう! うわあ! ロイ兄ちゃんがいる!」

「ロカ。ロイお兄さん。それから挨拶が先だ。やり直し」

「ロカはちゃんと挨拶をしたよ?」


 言い方が、言い訳する時のレイにそっくり。妹に悪い事が伝わっているの図。


「この嘘つき女! 嘘をつくな! こっちにきてロイお兄さんに礼儀正しい挨拶をしなさい。しっかり挨拶を出来たらロカがハマっているかぶをしてくれるかもな」

「ロイさん! こんにちは!」

「こんにちはロカさん。お元気そうで何よりです」

「何をしてるの?」


 俺のところへやってきたロカはいきなり足の間に入ってきて目の前の筆記帳を覗き込んだ。


「おいロカ。ロイさんは俺やジンみたいな、お前のお兄さんとは少し違うからその位置に座るな。一人で横に座りたくないならこっちに来い。家族以外の男の人にそんなにくっつくのははしたないぞ」

「ロイ兄ちゃんは家族でしょう?」

「だからロイお兄さん。それで親戚と家族は違う。書いて説明してやるからこっちに来い」

「はーい」

「ロカ。返事は短く」

「がみがみオジジが出たぞー! ロイ兄ちゃん逃げよう! 足臭オジジにさらわれるー!」


 座るのをやめて立ち上がったロカに手を繋がれて引っ張られたのでついついていく。ロカとの身長差で走り出した彼女に中腰でよろよろした足取りになる。


「あっ。ありじごくにありがいる。ロイ兵官。救出しないといけません! ロカ隊長ががんばるから道具をちょうだい。ありが食べられてしまいます!」

「えっ? は、はい。道具ですね」


 と、言われても何を渡せば良いのだろうか。とりあえず近くにあった枯葉にしてみる。

 ロカは顔立ちがリルに結構似ているので、幼い頃のリルはこのような姿だったのかなと思うとほんわかする。


「副隊長は素晴らしい道具をお持ちですね。それではかわいそうなアリを救出しますよ!」

「お願いします」


 敬語と注意する前に直っているので遊びに付き合うことにする。

 しかし、この後すぐにネビーが来てロカを連行。彼がお説教をすると彼女は怒って母親のところへ行って、メソメソしながらルカの部屋へ入り、しばらくしてへしょげ顔でネビーに「ごめんなさい」と告げた。


「よし。しっかり反省したようだからロイさんと遊んでもよかだ」

「本当?」

「足し算の勉強になるからかぶで遊んでもらえ」

「うん! ロカは強いからうんと勝てるよ!」


 この後、俺はちびリルことロカと楽しく花札で遊んだ。この札にはこういう意味がある、みたいな話をしたら食いついてくれて更に楽しい。


 ☆★


 ——……この日の夜のルーベル家。


 俺と母が先に風呂を済ませて、いつまで経っても父とリルが帰ってこないからどうしたものかと話していたら二人が帰宅。父は酔っ払っている様子で上機嫌なのに、リルはげっそり顔である。

 夕食を作る時間前に帰ってきて、ベイリーやエリーと一緒という話だったけど二人しかいない。


「母さん。母さん〜。今日も大物を釣ったぞ。かめ屋で弁当にしてもらって、他は氷蔵だ」


 機嫌の良い父は無視して玄関で立ち尽くして俯いているリルの様子を確認。彼女はやはり、とてもぐったりして見える。


「父上が気遣わなかったようですみません。大丈夫ですか?」

「お」


 お?


「お腹が減りました。早くお弁当を食べたいです」

「そ、そうなんですか。それなら早く支度しましょう」

「はい。着替えてきます。すぐに準備します」


 鮭ご飯〜、鮭ご飯〜とリルは嬉しそうな顔で歌いながら廊下を歩き始めた。


 この日の夜、俺とリルは今日どのような一日を過ごしたのかお互いに話してから眠りについた。

 リルと釣りは楽しそうだけど、母一人を留守番にするのはなと思ってついて行かないけど、今日はかなり変わった日だったので次も俺は留守番係をしよう。

 それにしても子育てとは大変そうなので、あの騒がしいルル、レイ、ロカでもっと慣れよう。振り回されたり、叱ったり、遊んだりした今日のように。

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