特別番外「ルシーとリルの話」
ルシー話を書いたら感想であったので、少し戻って出産後の何でもない話も書きました。
とんでもないことに我が家へ遊びに来たルシーがこの町内会で出産した。偉すぎる人と広まると大変なので、デオン剣術道場関係の奥様ということにしてある。
ルシー、ルシーの母親、ルシーの旦那様、付き人一人、守衛二人が増えたのはちょっと大変。
義父母の寝室はルシー家族に明け渡し、義父の書斎はルシーの旦那様の仕事部屋になり、二階のロイの書斎を付き人と守衛二人にして、義父母は離れでルルと生活に変更。それで、私とルルと付き人セナの三人にたまに義母も加わって家事をすることになった。
産後、一ヶ月は家の中にいないと妖や鬼に狙われて危険というのがこの町内会のしきたりなのでルシーと赤ちゃんは外に出るの禁止。皇居華族は三ヶ月お屋敷から出てはいけないそうだ。
ルシーが産んだのは初孫で跡取り息子だからどう屋敷に連れて帰るか思案中らしい。ルシーの旦那様の名前、イニス・アビマヤアグニマは呼びにくいし覚えにくいから苦手。ルシーにこっそりそう話したら彼女は赤ちゃんの頭を撫でながら微笑んだ。
義父、ロイはいつものように出勤。ルシーの旦那様も本庁回りという仕事を得てあるので、とくっついて行った。義母はルルとルシーの母親と買い物に行って、この家にいるのは付き人セナと守衛二人。三人で洗濯と掃除をしてくれているから私はルシー係。
「なぜそのような苗字なのですか?」
「彼のご先祖様は始皇帝陛下と親しい武人だったそうでアビマ、アグニ、ヤマは全て武器の名前らしいんです。ヤマと続けると自分の武器の名前をつけた山になるから畏れ多い、ということでヤマは分解されたそうです」
この子の名前は何になるのでしょうか、と彼女はとても愛おしそうな目で赤ちゃんを眺めている。私の子達もルシーの赤ちゃんと並んで爆睡している。二人とももう二歳で歩きまくりだから、あっちへちょろちょろ、こっちへちょろちょろするので昼寝まで大変。昼寝時間を間違えるとぐずるのでそれも大変。
「二年くらい経つとこのような大きさになるとは不思議です」
「あれっと思ったら歯が生えていたり、ハイハイしたり歩いていて驚きます」
「突然亡くならないか、風邪をこじらせて亡くならないか、半元服に至るまで気が休まらなそうです。どうか丈夫な子でありますように」
「我が家は六人兄妹全員元気なので健康の副神様かもしれません。健康運がうつりますように」
私はそっとルシーの赤ちゃんの頬をつついた。
「皆さん元気とは、どのように育ったのですか?」
「貧乏だから風邪をひくなと、お洒落よりも厚着とか、風邪をひいている人に近寄る時は嫌がられても嫌でも手拭いで顔を覆いなさいとか、手足は常に洗いなさいとか、元気な時は沢山動けとか色々です。あっ」
あととにかく塩水は魔除けだと、塩水でうがいをしていたし昔は鼻からも入れられていた。鼻がぐずぐずしてきた時や人が沢山いるところへいった時はまた今もたまにする。塩は安くないけど鬼や妖に狙われて病気になる方が高くつくからだと。
「えっ。鼻からですか?」
「はい。父がところてんの筒みたいなものを作って鼻に入れられていました」
「痛くないのですか?」
「教わった通りに作る薄い塩水だと痛くないです」
どう作るのかと尋ねられたので後で紙に書いておくと伝える。
「他には何かありますか?」
「大きくなるまで危ないことはするなと言われて育ちました」
「それはその通りですね」
「でも兄は屋根に登って飛び降りるし川の深いところにも入りまくりでした」
「それでも丈夫に育ったんですね」
「大怪我は……あります。妹が誘拐されかけたのを見つけた兄が取り返した時にわりと怪我をしました。あと犬に噛まれたのと……あっ」
私も屋根に登りたいと登ったものの降りるのが怖くなって抱っこしてもらったけど、蝶々が飛んでいて気になって動いたら、兄の平衡感覚がおかしくなって一緒に落下。庇ってくれたから私は無事で兄は着地に失敗して捻挫。確かあれはまだ兄が沢山長屋にいたから半元服前のことだ。
「どうしました?」
「私を庇って捻挫しました」
「いつも妹さんを助けているのですね」
「そういえば四女が川遊びをして溺れかけて助けに行って水を沢山飲んだからか次の日から高熱を出しました」
「まぁ、それも妹さんのことですね」
「……殴られて帰ってきたのも姉の時です。末っ子……もあります。兄一人に妹五人は大変なので次の子も男の子の方がええ気がします。授かりものなので選べませんけど」
思い出したら何かお礼をするべきな気がしてきた。そこへカラコロカラ、カラコロカラと玄関の呼び鐘が鳴ったので対応したら制服姿のその兄だった。馬の手綱を握っている。
「産後って余所者は家に上がらない方がよかなんだっけ?」
「うん。でも兄ちゃんは一応、この家の人だから多分ええよ」
「娘と孫のところに行くのに護衛と道案内って雇われたから、これからルシー様の実家へ行ってくる。ついでに地区本部に出張。終わったらまた出張。別によかだけどガイさんの手配はよく分からない」
「疲れる?」
「出張は勉強になるし楽しいこともあるけど、帰ってルル達が泣いたり騒いだりくっついて回るのが疲れる。嬉しいし面白いけどさ」
「そっか。何か持っていく?」
「逆で夜明け屋で貰ってきた祝酒とそこらで買った塩。風呂に入れるかなって。買うって言うたけどまたくれた。余りは俺も味見したいからロイさんに飲み干すなって言うておいてくれ」
じゃあな、と兄は馬に乗って去っていったので昔はごめんと言う暇は無かった。ルシーのところへ戻って実家だと赤ちゃんの湯浴みの時にお酒少しと塩を入れていたから兄が祝いだと持ってきたと伝えてお酒と塩を今夜使う……カラコロカラ、カラコロカラとまた玄関の呼び鐘が鳴ったので対応。
「よお、リル。お前の親友が出産するって聞いた。しかも遠くから来てくれた時にって。色々無いかと思って祝いも兼ねてバババッとカゴを作った。同僚もだけど、ルカとジンにも健康運をつけろと参加させたからご利益ありありのはずだ」
父の背中には確かにカゴが背負われている。
「ありがとう。お父さんも多分ええはずだから上がっていって」
「しばらく魔除け期間だろう? かめ屋の旦那さんに注文関係とレイの様子を見て帰るし仕事もあるからもう帰る」
それなら実家に手土産と思ったけどあっという間に遠さがっていて、兄は母似のようで顔と同じく父似でもあるなと改めて実感。
ルシーのところへ戻って父から貰ったカゴを見せた。
「すぐ寝られるように敷物や着物もあります」
「このようにありがとうございます。急なことなのにもう作ってくださったなんて。色々な模様が組み合わさっている凝った代物ですね」
「はい。私の親友が遠くから来てくれた時に出産は何か縁があるぞと、気合いを入れて作ってくれたようです」
早取っ手もあるから帰る時に運びやすそうだと話していたら、またしてもカラコロカラ、カラコロカラと呼び鐘が鳴ったので対応。
「親父はもう来た?」
今度はジンだった。
「うん。さっき来た」
「ネビーは?」
「その前に来た」
「ネビーは忘れ物をした。親父に俺も用があるからかめ屋に一緒に行くって言うたのにカゴが出来たぞって騒いで俺の話を聞かないで出て行ったから追いかけてきたんだけど遅かったか。ネビーは無理だとしても親父は捕まえられると思ったのに」
「お父さん、わりと足が速いよね」
「夫婦揃って話を若干聞かないし足も速いし少し忘れっぽいド忘れ夫婦。ネビーって良いところも悪いところも親から濃く受け継いでるよな。あいつもルカさんが用意した出張用の袋とお弁当を忘れていった」
「ルカは今日、家にいるの?」
「母さんが月一回でデオン先生の奥さんのところへ稽古に行く日だから家のことをしてくれてる」
「ああ。今日だね」
「急に出産したのはリルちゃんの文通友達って聞いたから俺とルカさんから軽いお祝い。わりと遠くから遊びに来たのに急に出産だと色々不安だろう?」
そう言って私に風呂敷を渡したジンは「じゃあ」と駆け出した。
「お茶……」
血は繋がっていないけど、何年も毎日一緒だからかジンも両親や兄に似てきた気がする。愚痴を言ったのに、そのジンもせっかちで足が速め。
ルシーのところへ戻ってジンから受け取った風呂敷を開くと中身はおはぎと布に包まれたたまごが沢山だった。
「栄養をつけてという意味ですね。ありがとうございます」
「食べられる時に食べるとええので、おはぎを食べますか?」
「沢山あるので一緒にどうでしょうか。セナさん達もお呼びして」
「用意します。抹茶と緑茶とほうじ茶とどれがええですか?」
「ありがとうございます。リルさんが楽なもので良いですよ」
「それならお祝い茶会風にします。手間はあるけど楽しいので」
現在、ロイの書斎に飾ってある「松樹千年翠」を持ってきて義父母の寝室に床の間はないけど上手いこと飾って赤ちゃんの長寿を願い、床の間の花カゴは父作の「来幸」を義父の書斎から持ってきて赤ちゃんの頭側に置いて、ふと思ったので花札の光札も並べてみた。
「あら、すとてときな絵の花札ですね」
「友人が息子と娘の出産祝いに作ってくれました。自作の絵を札に仕立ててくれたんです」
「ロイさんのご友人には画家がいるのですか?」
「いえ。絵は趣味です。でもかなりのめり込んでいるので本物さんみたいに上手です」
「もしかしてリルさんが私に送ってくれる絵を描いて下さっているご友人ですか?」
「はい。元々は旦那様の学生時代の友人で私も親しくなりました」
「ここにいる間にお招き出来ないかしら。親子の似顔絵を描いていただきたいです。いえ。実家の家族も来るので皆で。簡単で構いませんしお礼代はしっかりお包み致します。私、あの方の絵がとても好みでいつも楽しみにしているんです」
「それならお義母さんとルルが帰ってきたら……。あちらの家まで行って頼んでみます」
「いえ。手紙を認めますので郵送して欲しいです」
「いえ。善は急げです」
今から家を出たら夕方にはアレクの家に到着するので家で待たせてもらって、仕事帰りの彼に頼んで……帰りは? 暗くなってから一人で帰るのは危ないと怒られる。
「……」
「リルさん?」
「まずは簡単茶会をしましょう」
赤ちゃんとルシーは布団の上のまま、セナ達を呼んで三人もルシーの周りに座ってもらっておはぎを出して小さい火鉢と薬缶を使って簡単にお盆点て。そこへ義母とルルが帰ってきたのでアレクの家に行くと伝えた。
「行くのは良いですが帰りはどうするのですか」
「かめ屋にお父さんとジン兄ちゃんがいそうなので一緒に行ってもらおうかなぁと思っています」
二人が別々に来てそれぞれルシーへお祝い品を置いていった事を説明。
「一時間も経っていないのでまだ居そうです。そのままアレクさんの奥さんに頼んであの辺りや画家仲間に彩り屋やかめ屋を宣伝してもらえないか頼んできなさい」
「はい」
ひくらしの大旦那さんが、特注品を請け負うことが多い父その他一部の職人は通常勤務を外れて本格的に中流層専門店——店舗なし——を構えようという行動を起こしている。
息子さんを店主にして一番注文を取ってくる——取ってくるのは義父母とジンだけど——父を看板職人に据えてルカとジンはその補佐職人。ジンに関しては息子の補佐業務もしてもらうという。そのお店の名前がひくらし彩り屋の予定だ。日用品店ひくらしは日々の生活品を売っている庶民狙いのお店なので、その生活に彩りをといういみで彩り屋という名前が候補。
独立しないでひくらしの大旦那さんやその家族に職場の家族と成り上がれるぞと父やルカ、ジンはとても張り切っている。
そういう訳でルシーが書いた手紙を持ってかめ屋へ行ったら既に父もジンも帰った後で、これは困ったと少し途方に暮れたら旦那に「難しい顔をしてどうした」と尋ねられたので事情説明。
「それなら誰かと帰りにあちこち回ってきてくれ。セイラか娘に聞いてくるから。最近情報不足で新しいものが欲しい。料理でも流行りでも何か頼む」
働く代わりに私は護衛を確保出来てルーベル家まで従業員に送ってもらえると言ってもらえた。こうして私はかめ屋の女将と護衛荷物持ち従業員と副料理長とかめ屋を出発。
帰りにあちこち寄るというので行きは真っ直ぐアレクの家へ向かったら立ち乗り馬車の関係で遅めになって彼はもう帰宅していた。
「自分の贔屓とは嬉しいから是非頼まれたいです。出産祝いになるようなのでお礼代は要りません」
「我が家は魔除け中なので来る前にこのお酒と塩とお水で体を拭いてから来て欲しいです」
「ええ。もちろんです。出産したばかりの女性がいる家には上がらないものですからね。せっかく遠出するから妻も連れて行きたいので、妻をどなたかの家で待たせてもらうことは出来ますか?」
軽く話し合って、週末土曜に夫婦で南三区六番地へ来てくれる事になって、女将に少し相談したから二人は無料でかめ屋宿泊を獲得である。帰り道にかめ屋の女将にこう問われた。
「文通友達が来ているのならその方に他地区の話を聞くだけで周りのお店と差別化できそうなんですけどそういう発想は無かったんですか?」
「あっ。そうです」
「帰りにどこかへ寄らなくても良さそう。どこかで一杯飲んで帰りましょうか。リルさん。家のことは誰かに任してあるんですよね?」
「はい。でも早く帰宅して友人のお世話をしたいです」
「それもそうですね。それならテルルさんと飲もうかしら。仕事は好きだけどたまには息抜きしたいもの」
この帰り道にかめ屋の女将は画家のたまごを雇って似顔絵描き会をしようかしらと思いついたので、それは楽しそうで人が集まりそうだから出店を開くのはどうかと提案。出店はもちろんひくらし関係。
私は前よりも駆け引きが上手くなったぞとほくほく気分で帰宅して、義母に結果を報告したら「全く釣り合っていません」とまた怒られた。
「そうですか?」
「情報は安売りしないわよって言うておきます。全く。あなたはいつになったら釣り合いを学ぶのかしら」
こう言い残して、義母はセイラと飲みに行った。従業員と一緒なので送り迎えは要らないと言われたけど心配なのでロイが後で迎えに行くことに決定。
お風呂に入ろうと思ったらルルに「姉ちゃんお酒を追加〜」と言われた。どこにいるのかと思っていたら週末でもないのに飲んでいた!
「えっ、一人酒?」
「違うよ。イニスさんとガイさんとだよ。ロイさんは平日禁酒令で悔しそう」
「追加〜じゃなくて自分でしなさい」
「私は今日、リルお姉さんの為に沢山働きましたよ? かわゆい甥っ子と姪っ子がおかさんって騒ぎまくりの中夕飯を作るのは大変だったなぁ〜。疲れたなぁ〜」
ねぇねぇねぇ、ねぇねぇねぇ、と私の周りを回ってつんつん指で腕をつつかれたので軽いため息。
「はいはい」
「リルさん。はいは一回!」
「はい」
「あー。今、実家に帰れって思ったでしょう! 私は居なくてもええもんねぇ。でも寂しいよ? きっと寂しいに違いありません。ルルちゃんが実家だけで暮らすと寂しくて咽び泣くことになるよ〜。ああ、ルルがいなくて涙がよよよ〜、よよよ〜」
これは多分、もう酔っ払い気味だ。
「ルル。ルルが飲んでいる相手が誰か分かっているよね?」
「分かってるよ! 今、こいこいしてるの。ユリアとレイスの花札を見せびらかした流れで私は猪鹿蝶をお見舞いよ!」
雷義母が居ないから余計にルルは自由な気がする。
「子どもの顔を見たいはずだからやめなさい」
「ルシーさんに怒られてしょんぼりしてるの。すやすや寝てたのに赤ちゃんを抱っこして泣かせたし、疲れているのにまとわりついてテルルさんに追い払われた。ガイさんから色々聞いたり、ユリアとレイスで子守りを練習している」
お酒よろしく〜とルルは上機嫌で去っていった。そこへカラコロカラ、カラコロカラと玄関の呼び鐘が鳴って対応したらレイだった。彼女一人しかいない。なぜか男性のような格好をしてほっかむりしている。
「えっ。レイ。どうして一人なの?」
「えっ? なんで? 一人で来られるよ」
「こんな夜に危ないでしょう!」
思わず大きな声を出してしまった。
「うわっ。リル姉ちゃんのそんなに大きな声を久しぶりに聞いた。危なくないよ。ほらほら見て見て〜。男装してみたの。どう見ても男の子でしょう? レイさん。あなたは特別に預かっているのですから門限とかうるさいからさぁ」
「ダメに決まってるでしょう!」
「うわっ! 雷リルだ。くわばらくわばら。人が何人か増えて大変そうだから女将さんに相談したら何日か休んでええって言われたから来たの。炊事は任せなさいな。ってことで三日間泊まるね。ユリアはもうお風呂に入った? レイスー! ユリアー! レイさんが来ましたよー! 遊びましょう!」
「うるさくしないで。もう寝かしつけた」
「ええー。早寝だね。寝る子は育つけどせっかく来たのに寂しい。でも明日の朝から遊べるからええか」
自由人のルルに続いて自由人のレイが増えて人出はあるけど疲れる気がしてならない。
「レイ。手洗い。あと魔除け」
「鬼や妖なんていないから平気平気。手洗いうがい鼻うがい! それは大事だからするけどね。あとやっつけ酒も必要だ! あっ。テルルさんに聞かれたら怒られる。コホン。ご機嫌麗しゅうございますテルルさん。いや、これはやり過ぎだよね」
家族総出で教育したつもりなのにルルもレイもペラペラお喋りの下街娘のまま。二人とも裏と表を使い分けるようになって、猫被りルルと猫被りレイが完成しつつある。
レイは手洗いうがい鼻うがい後にやっつけ酒でも手を洗ってから、しおらしい態度でルシーに挨拶をして、ちょうど起きていた赤ちゃんを抱っこ。
「かわゆいです」
「お顔立ちはあまり似ていませんが仕草や声は似ていますね。私には姉妹がいないので羨ましいです」
「兄弟はいますか?」
「ええ。年の離れた弟がいます。両親と共に来てくれるそうで久しぶりに会うからとても楽しみです」
「ええですね。私には兄も姉も妹もいるから弟も欲しいです」
「レイさん。良かったらお兄さんやお姉さん、妹さんの話を教えていただきたいです。授かりものですがこの子にも妹や弟が生まれたら助け合ったり楽しく過ごして欲しいです。どのように遊んだりしました?」
レイのお喋りが始まってしばらくしたらイニスがやって来て赤ちゃんの様子を確認してからルシーに一人で横になって休むのはどうかと提案。
「お乳の時以外は見られます。皆さんのご協力がありますので大丈夫です。一昨日出産したばかりですから沢山体を休めて欲しいです」
「ずっと休んでいるので大丈夫です。また抱っこに挑戦してみますか?」
「はい! 講義を受けてきました!」
レイスとユリアが産まれた後のロイを思い出してほっこり。ロイは赤ちゃんのお世話の経験がないから右往左往していた。
☆★
二週間後、賑やかな生活が終わって人がわっと減ると急に寂しくなった。
それから二週間後は逆に町内会は小祭りでワイワイしている。この町内会の全てにお世話になったので、ということでルシー夫婦が手配した餅つき大会と甘酒配りにひくらしが出店や玩具作りで宣伝を便乗。餅つきと甘酒配りにはかめ屋も関与。
ルーベルさん家のリルさんは大人しいのに人脈が凄くて、今度はそれなりの家柄の華族のお嬢様関係ですって。学生時代に親しくなった方で、文通し続けていたそうなんです。
なんかそんな噂が回ってきたけど、私は寺子屋に通っていないという話で寺子屋ではなくて女学校になり、人脈が変わっているからここの町内会のお嬢さん達が通っているところではなくて、ロイと同じく一区の国立女学校に通っていた。そんな噂があるのも知っている。
嫁仲間はしっかり貧乏長屋の次女って知っているのに、どうしてそうなるのか不思議。ルーベルさん家のお嫁さんの実家は学費貧乏だったそうですよ、という噂からきているのは理解出来るけどなぜなのか。
私とルシーの文通は頻繁に続くけど、中々会えないまま月日は過ぎて、次に顔を合わせたのはルルの結婚式の時だった。約束していた十年後の冬より早くて嬉しい。なにせルシーの弟とルルの結婚相手が文通友達だったので。
ルシーが「レオさん。おいで」と告げた時に父が振り返って自分のことでは無かったとデレデレした顔になり、母に背中をバシンッと叩かれたのはおかしかった。




