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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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日常編「リル、お茶会へ行く5」

 九月になったばかりなので夏の暑さはまだ続いているけど季節としてはもう秋なので気温とは異なり風はすっかり夏らしさを失っている。

 本日土曜日は町内会の共同茶室でエイラ主催の遊び茶会が行われて、控え室ではトランプとお喋りその他会が実施される。今日の茶会は招待制なので飛び入り参加は来ない予定。


 エイラの義理の祖母と義母は面倒くさいけど、私の兄がイオに頼んで入手してきた南三区で今人気の火消しと地区兵官の記名入り浮絵で大手を振って一日休みを確保出来たそうだ。茶道関係だと義理の祖母や義母の嫌味その他が少し緩いのも理由みたい。彼女は朝十時から十五時まで薄茶席を設けてくれて、学生時代の友人二人が水屋に入る。


 控室のおもてなし担当はクララと私でトランプ、投扇興、琴を用意してあって、その場の状況で好きに過ごそうという話になっている。

 クララの親友達は子育てで忙しいらしくてその辺りは声を掛けられないから私と共にリアとミユを誘い、サリとアイラは今日友人を増やすと言っていて、エイラは学校でも茶道教室でも親しくしていた友人二人を招き、私はエリーとクリスタに声を掛けた。それからミユが可能なら招きたいと言ったので彼女の幼馴染二人も来る予定。


 私は十時少し前に朝の炊事関係と洗濯と義父母の昼食の準備を済ませて共同茶室へ来た。つくばいのふちに魚の形の箸置きが置いてあって、つくばいの水の中にも同じものがいる。それから小さな花カゴにススキが飾ってあるのでこれはなんだろうと考えてみた。ススキで秋といえばお月見だけどそこに魚はなんなのか分からない。


「リルさん、おはようございます」


 屈んでつくばいを眺めていたけど声を掛けられたので振り返るとクリスタだった。


「おはようございます」

「つくばいに何があるんですか?」

「ススキと魚です」

「お月見に魚とはなんでしょうか」

「それを考えていました」


 そこにサリが来たので一緒に首を捻り、次にアイラも合流して皆で悩み、クララが現れて「金魚月池でしょうか」と笑った。


「あっ。私はもう知っているのに出てきませんでした」

「旦那様がロイさんがご友人から借りて……」

「おはようございます」


 見知ら背の高いタレ目の女性に挨拶をされたので皆で挨拶を返したら、サリが「メルさん。お久しぶりです。元気そうですね」と彼女に話しかけた。


「エイラさんとサリさんに招かれて嬉しいです。忘れられているのかなぁって」

「まさか。私達を忘れていたのはメルさんでしょう。今は忙しい、今は忙しいってそればっかりで」

「実際、忙しくて」

「そりゃあ結婚式が控えているから忙しいですよね。今日はエイラさんと簡単なお祝いをするんでゆっくりしていって下さい」

「ありがとうございます」


 名前は分かったけど誰だろうと思っていたらサリが紹介してくれて、ブラウン家の二つ隣のアベルヒ家から他の町内会へお嫁に行った方だそうだ。昨年の春に親戚関係で他の家の住み込み使用人になったから私とはすれ違い。

 つくばいの謎が解けたので清めて茶室へ入って控室へ向かっている時にアイラに「リルさん」と耳打ちされた。


「あの美人さん。若衆達の人気者ですよ」

「皆、美人が好きです」

「この間、旦那様がテツさんと飲んでいた時に酔って言うていたんですよ。アベルヒ家のメルさんは未婚の若衆とお見合いしないのかなって。しないで欲しい。俺達のメルさんって」

「俺達の、ですか」

「旦那様は私にお申し込みしたし、テツさんは昔から幼馴染のサリさんなのに俺達のってなんなんですかって言うたら、メルさんはロイさんとお似合いだからてっきりまとまると思っていたのにって」


 他人事だと思っていたのにロイの名前が出てきて動揺。


「私もそう思っていたんですよ。たまに二人で話していたり歩いていたんで。でもリルさんだったので違ったんだなぁって。幼馴染だと男女で一緒にいることもありますよね。うちの旦那様もたまにエイラさんやサリさんと立ち話しています」

「え、ええ。そうなんですね」


 私はそういう光景を見ていないけどそうなのか。


「俺達のメルさんってことは、皆が子どもの頃に少し意識していたのかなぁ。旦那様が酔ってメルちゃんはとか、エイラちゃんがとか、サリちゃんはって言い出すと少しモヤモヤします。私も幼馴染だったら良かったのになって」

「モヤモヤですか」

「リルさんはそういうのは無いですか?」

「はい。たまにあります」


 エイラとサリが一緒にいると、ふと昔話が始まってロイの話題が出る時があるので私もロイの小さい頃を見たかったと感じることがある。

 控室に入るとエイラと友人二人がもういたので皆で挨拶をして、エイラに今日の会費——五銅貨——を払って、午前中に来るのはこれで全員なので茶室へ移動。

 最初はクララを正客にして亭主のエイラが茶箱の月のお点前を披露してくれて、遊び茶会なので亭主以外もエイラに質問をして和やかな時間を過ごした。クララが金魚月池の話をエイラにしたので、今日はそれを取り合わせにしたそうだ。

 掛け軸はアイラが書いたもので「景星」はめでたいことの前兆として出るといわれる星だという。メルの結婚が決まったのでエイラとサリから彼女へのお祝いの一つでアイラに頼んだそうだ。


「お祝い茶席なのに、先程説明してくれた金魚月池というお話にちなんだ取り合わせって、人気者を独り占めすると痛い目を見るとはどういうことですか。皆、まだ、彼に会ったこともありませんのに。彼は人気者って噂になっているのですか?」

「人気者はメルさんの事です。メルさんに悪さをしたら痛い目を見るぞとお伝え下さい」

「そうでーす。私やエイラさんに若衆の皆が許しません」

「まあ。そういう意味でしたの。お団子が飾ってあったりススキなどのお月見は?」

「メルさんが少しうさぎっぽいからです」

「メルさんはタレ目うさぎ。ただそれだけです」

「私はおちょぼたぬき」

「私はほくろ鳥」

「ああ、カイさんでしたっけ。私達を動物と見た目の特徴に例えてからかっていたのは」


 そうなんだ。そう言われるとエイラは少しぽってりした唇でおちょぼ口が特徴的でたぬきっぽいような気がするし、サリは頬の二つほくろが目立って鳥っぽいし、メルはタレ目かつうさぎっぽい。


「リルさんは確実にリスですね」とクララに笑いかけられた。


「アイラさんは猫かなぁ」

「良く言われます。リルさんはずっとリスっぽいと思っていました」

「私はキツネかなぁ」

「クララさんは狐というより妖狐です。美しい傾国の美女」

「ちょっとアイラさん。傾国は余計ですよ。セヴァス家が傾いたって怒られたくないです」

「見た目続けて政務を忘れる程美しいって意味なので悪女の方ではないですよ」

「美女、美女っておだてても何も出ませんよ」

「出して下さい。私は今日、クララさんが集めている浮絵を見にきたんです」


 人が集まると私は聞く側に回ってしまう。自分は楽しいけど、ぬぼーっとして何を考えているか分からないと言われたくないから手を挙げて発言しようかと迷っていたら会話終了。それでお茶席も終了。


 この後は花月という、くじを引いて札によってお茶を点てたり飲む人が決まるという遊戯茶席にすることになっている。来月、エイラと友人達の教室でするそうでその練習だ。

 平花月だと私の勉強になってエイラ達も指導練習が出来るのでまずはそれをして、その後はエイラ達三人とメルとサリで香付花月というものを行う。

 私は初心者なので最初と最後は担当しないで、札が当たった時にお茶を点てるか飲む役だけする。クララは茶道はあまり(たしな)んでいなくて琴に集中していて、アイラは華道と書道に熱心だったから平花月は女学校以来だと楽しそう。事前に聞いていた私もワクワクしている。


 席入りがいつもと違うので、手本のエイラについていって四客に入った。その後は教わりながら平花月を楽しんで、皆に「リルさんは月札を引き過ぎ」と笑われた。

 皆で交代しながら幸せ服のお茶を点てたり、頂いたりを繰り返すけど、時間があるから交換ではなくて全員が月札を当てるまでにしようとなって私は五回も月札を引いたので、点ててくれるのが少なめのお茶でも五杯も飲んだからお腹タポタポ。


 平花月が終わったのでクララ、アイラ、クリスタと共に控室へ移動してそれぞれが持ってきた握り飯を食べながら雑談。その時も「リルさんは月札を引き過ぎ」と笑われた。

 

「花月はまだ聞いたことも無かったです。茶道って奥が深いんですね」

「月二回のお稽古と女学校の授業で学んで、卒業後はお教室は辞めたのでさわりしか知らないのでエイラさんに付き合うと楽しいです」

「私もそうです」

「クリスタさんは交際中のヨハネさんと茶会に行ったりしているから楽しそうですよね。別の意味でも楽しそう」


 クララがにんまり顔を浮かべるとクリスタは少し頬を染めて小さく頷いた。


「知識が多い方なので色々教えてくれて楽しいです」

「私、まだ会ったことがないんですよ。そろそろ結納ですよね? 秋になりますから期待ですね」

「リルさん。ロイさんから何か聞いていますか?」


 アイラに問いかけられたけど何も知らないので小さく首を横に振る。


「今日、ルーベルさん家はお泊まり会で賑やかだそうです。私はリルさんと一緒に夕食を作ります」

「そうなんですか? お泊まり会ってどなたが来るんですか? クリスタさんのこの照れ顔と明日朝からデートって事を考えるとヨハネさんはいるとして」


 明日はクララとアルト夫婦が付き添い人になってクリスタはヨハネと音楽会へ行く。


「沢山です」


 リアが夕方遅くなると心配だから迎えに行くどころか送りもする、と言ったウィルをロイが誘ってまた二人は我が家に泊まる。ハチも一緒ですこぶる楽しみ。

 そこにヨハネとクリスタのデート話が出たので、義父母がヨハネ君も泊まったらどうかと言い出した。

 

「それからこの間風邪で大寄せに来れなかったエリーさんも泊まります」


 今夜のルーベル家はお風呂屋へ行く。必然的に私とリアとエリーは未来の嫁仲間で裸の付き合いだ。


「私、あの方はとても好みです。愉快ですから。また会いたかったんでこの間はすこぶる残念だったんで、今日会えたら嬉しいです」

「楽しい方ですよね」

「どのような方なんですか? ロイさんの学生時代の友人の婚約者さんって事は聞いています」

「自由な方です。自由と言えば火消しさんというかイオさんですけど。あの方こそ自由ですよ。今日、また会えるから楽しみです。しかもラオさんを連れて来てくれるなんて」


 ミユを誘った結果、イオから手紙が来て「ミユが居るならお茶会に参加したい。なんでもするから頼む。休みの日なのにミユをリルちゃんに取られたくない」というような内容の手紙が届いた。イオはネビーの真似をしてロイに雅な文作り練習をし始めたのでそのロイ宛の手紙に私への手紙も入っていた。


「家の事があるから一緒に大寄せに行けなかったからクララさんだけ火消しさんと色々話したなんて羨ましいって思っていたので嬉しいです」

「旦那様が小躍り状態で、私達にお礼……」


 カラカラコンコン、カラカラコンコンと呼び鐘が鳴ったのでクララと二人で玄関へ向かったら荷物を持っているアルトだった。


「クララさん。噂のかすていらを買ってきましたよ!」

「売り切れなかったんですか?」


 かすていらって何?


「自分の三人後ろで終了でした。始発の立ち乗り馬車に乗った甲斐がありました」

「リルさん。かすていらは吹雪花魁が好んでいるらしい変わったケーキらしいんですよ。リルさんがラオさんを呼んでくれたから旦那様が皆に差し入れって」


 アルトは始発の立ち乗り馬車に乗ってどこまで行ったのだろう。今、まさに正午の鐘が鳴り始めたのでかなりの時間を使ってかすていらを買ってきてくれたということだ。


「ありがとうございます」

「いやあ。だって一緒の茶席に入れるなんて楽しみで楽しみで」


 アルトを控室へ連れて行こうとしたら彼の後ろからそのイオとラオ、それからミユと知らない若い女性二人が登場。


「こんにちは〜。少し早く着いたけど大丈夫ですか? 親父、こちらがこの間お世話になったセヴァスさん夫婦。リルちゃんはこちらの奥さんにすこぶるお世話になってるんだって」

「お招きいただきありがとうございます。茶会は好まないけど息子に頼まれたのと、なぜか知らないけど俺を贔屓(ひいき)にしてくれているって聞いたんでお言葉に甘えて来ました」

「こち、こちら、こちらこそありがとうございます!」


 アルトの声が少し裏返った。


「あはは。美人の奥さんはすまし顔。男にばかりモテて残念です」

「まさか。私もお会いしたかったです。皆さん、どうぞ中へ」


 クララとアルトがラオを案内し始めたので私はミユとご挨拶をして、彼女の友人を紹介されるのを待ってみる。つくばいを気にしたら説明してあげられるのでまずは様子見。


「こんにちはリルさん。お誘いありがとうございます。こちらが手紙でお知らせした私の友人です」


 スズとチエを紹介されたのでこちらも自己紹介しようとしたらイオが先に「言うたっけ。リルちゃんはネビーの妹だから俺の幼馴染」と口にした。


「ええ。ミユさんから聞いてます」

「ネビーさんと良く似ていますから一目見てこの方がリルさんだと分かりました。尋ねなかったので確信はありませんでしたが。やはり似ていますね」


 チエとは結納会で会ったけど、イオさんの幼馴染ですと、ミユさんの幼馴染ですという挨拶しかしていなかった。


「そりゃあチエさんがネビーの話題を避けていたからだろう」

「そうですよチエさん」


 彼女達は兄を知っているらしくて、チエというスラッとした美人は兄を避けたらしい。


「避けたのは兄がバカだからですか?」

「えっ? いえ」

「うるさいからですか?」

「いえ、あの」

「足臭というふざけ話のせいですか?」


 ネビーは足臭という噂話でこの美人が兄を避けたのなら、足臭話の始まりは私らしいので私は反省した方が良いかもしれない。


「あはは。何を言うてるんだよリルちゃん。相変わらず変わってるな。確かにネビーはバカでうるさくて足臭とか言われて貶されたりしているけどさぁ」

「リルさんから見たお兄さんはそのようなのですか?」

「なんでもないです」

「リルちゃん。そんな目を泳がせて誤魔化せてないって」

「ラオさんに案内するのを忘れましたがつくばいをどうぞ」

「今度は話題逸らし。誤魔化し方がネビーに似てて笑える。ますますちびネビーだな」


 この間の大寄せでハチに私とネビーは匂いが似ている説を突きつけられて、今日も似ている話をされて、性格は正反対なんだけどなと若干凹む。

 つくばいの趣向をミユはすぐに見抜いて、金魚月池の話はこの間の大寄せ後に、リアから色々話を聞いて本も読んだミユが三人に話したようなので私の出番は特になし。


「あっ」

「イオさん。どうしました?」

「俺、ミユに今日ネビーが来るって言いそびれてた。ミユっていうかチエさん。あいつ、今日は夜勤明けで妹のレイちゃんを連れて来る」


 これは兄を何かしらの理由で避けたいチエが今日、兄と鉢合わせしてしまうという意味だろう。


「いえ。あの、そんなに気を遣わないで下さ……」


 そこへ「よお、イオ。リル」というネビーの声がした。この町内会へ来る時用の服装のネビーとレイはどこからどう見ても貧乏人とは思えない。


「リルね……」

「レイ。リル、お姉さん。それかはまずは皆さん、こんにちはだ。習った礼儀作法を守れないなら帰るぞ」

「……はい」


 兄と手を繋いでいるレイが軽く手を引っ張られて、私を見て満面の笑顔から少し顔をしかめて「こんにちは、レイです。お世話になります」と会釈をした。先月末、つい最近誕生日を迎えたレイのお願い事が私と沢山遊びたいだったので今日、彼女はこのお茶会に参加して我が家に泊まって明日はロイと私の三人でお出掛けをする。午前中は家事の手伝いをしてもらうけど。


「よし、ええ子だ。他の方もいるはずだから今みたいにするんだぞ。ここにいるのは大体知っている人だから緊張しなかっただろう。リル、今日は頼んだ」

「うん」

「レイ、良く来たね。誕生日を迎えてまたお姉さんになったから立派な挨拶を出来たね」


 母がガミガミなので私とルカは褒め係。レイがペラペラお喋りをしなければこうして話せる。レイを手招きして隣に招くと彼女に手を繋がれた。


「では、自分は用事があるので失礼します。また後で改めて」

「ん? そうなのか? 後でっていつだ? あとなんで竹刀や剣術道具袋を持ってるんだ?」

「ルーベル家に顔を出して、ロイさんと友人に小一時間稽古をつけてからまた来る。終わったらまた稽古をつける。軽く指導して欲しいって頼まれてて」


 賢いヨハネの弱点は武術系で次の試験もそこがまた怪しいから今年はあちこちで特別指導をしてもらうそうだ。今日のこの話はロイが文通練習をしているのでそのお礼として要求したらしい。


「へえ、そうなんだ。知らなかった。お前って聞かないと言わない事が結構あるよな」

「なんで俺がお前にいちいち予定を言わないといけないんだ」

「いや、ほら。お前が不在中に来て帰ったら鉢合わせしなかったなと」


 イオはチラッとチエを見た。彼女は俯いている。


「お前とミユさんだけが来るんだと思っていた」

「俺はミユにお前が来るって言うのを忘れてた」

「……失礼します」とネビーが去った。


 こうなると、ネビーとチエに何があるのかますます気になる。私は四人を控室へ連れて行って、エイラの代わりに会費を集めるクララのところへ案内。レイの分は私——臨時お小遣いとロイがくれた——が払うけど、これも勉強になるからレイにお金を渡してさせてみる。


「お支払いありがとうございます。かわゆい。リルさんはリスだけど妹さんは猫系なんですね。お兄さんとお姉さんには似ていないってことは、父親似と母親似で分かれました?」


 クララに褒められたレイはお喋りを炸裂させて、自分は母親似で兄妹全員がどうなのかも説明。


「ねっ。リル姉ちゃん。お父さんに似るとリスになるんだよね?」

「そうだね」


 いつレイとクララの会話に入ろうと思っていて、やっと喋れた。ルル、レイ、ロカと三人揃わなければ大丈夫と思っていたけど不安になって来た。そう思ったけど、クララが投扇卿を始めていたクリスタ達を眺めるレイを誘ってくれて、彼女達がレイを接待してくれるような状況になったので安堵。


(ホッとしちゃいけないのか。私も会話に入らないと)


 大人数になる程話せないと、またしても痛感。ふとイオと目が合って彼が部屋の端で一人であぐらになっていると気が付いたので近寄る。


「居場所がないですか?」


 アルトとラオが居ないのは二人でどこかで話しているのだろうか。今、この部屋に男性はイオしかいない。


「居場所がないってなんで? 俺がいるところが俺の居場所だけど。居場所が無い人間なんていないから」

「えっ」


 そう言われたら確かにそうかも。


「いや待て。そういう話を急にするのは変だから……ああ、居心地が悪く無いかって気遣ってくれた? 俺だけ端にいるから」

「えっと。はい」

「いやぁ。ここからだと全体が見えるだろう。真ん中にミユがいて、かわゆい笑顔で楽しそうだから幸せいっぱい。ここは俺の特等席。リルちゃんなら隣に座ってもええよ。そこらの女だと妬かれて下手すると浮気だんだって捨てられそうだけど、リルちゃんなら誤解されないから」


 相変わらず良く喋るしあけすけな台詞も使うのでこっちが照れてくる。レイのお世話をしたいし、今日と明日はレイへの誕生日お祝いで沢山一緒に過ごすけど気になるから一旦イオの隣に腰掛けた。


「あの。一つ質問したらレイと過ごします」

「ん? 質問? 何?」

「その、気になって。兄とチエさんはなんですか?」

「ああ。知らないか。あいつはモテ自慢みたいなことはしないからな。しかも俺の婚約者の友人だし。今はリルちゃんの知り合いの友人でもあるか」


 モテ自慢ってことはチエは兄に気があるの⁈


「鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてるけどどうしたの?」

「兄が、ではなくてチエさんが、ですか?」

「そっ。ネビーに手紙を送ったら文通流しされて、そっちとお見合いする予定」

「文通流しってなんですか?」

「白山羊さんからお手紙着いた。黒山羊さんたら読まずに他人に渡してお前が返事をしろよと押しつけた。相手は美人でお嬢さんだぞと囃し立て〜。的なこと」


 イオは歌うように話して肩をすくめて眉毛をハの字にした。文通を他人に流したから文通流しってこと。私の目の前で読んだ手紙を、これは返事はしないから売ると破いたよりも悪質な気がする。


「酷いです」

「チエさんも最初は怒っていたけど気が合ったようだし、優しい人がおすすめする人は良い相手な気がするって益々乗り気になってる。だからそこまで酷くないし気まずくない気がするけどまだ微妙な空気だったな。その二人が上手くいくとネビーと師匠さんが仲人になるってことだし」

「デオン先生も関係あるんですか?」

「そこらの女ならいつもみたいに自分で袖振りするけど、チエさんは豪家のお嬢さんだから相談したらしい。文通流しって失礼だけど失礼でもないっぽい。こちらは貴女に相応しくないので、素敵な貴女が気に入りそうなもっと良い相手を勧めますってことだって。格上のお嬢さんで俺の婚約者の友人だから、そりゃあ気を遣うよな」

「……お嬢さんなのに袖振りですか」

「まだお嬢さんと縁結び可能ではないから準備不足だってさ。十年待っててくれないかなって少しボヤいていたけど、お年頃のチエさんはお見合いを二件掛け持ちする予定。ネビーが文通流しした相手の他にもう一人お坊ちゃんが登場」

「ボヤいたんですか?」

「お嬢さんを並べて選びたいから今、君に決めたから待っててなんて言いたくないってさ。そもそも今のまだ貧乏生活でお嬢さんとは縁が結ばれないって。リルちゃんの家の家計ってなんなの? そこそこ稼いでそうなのにどこに消えてるの?」

「教育費と貯金です」


 と、最近知って貯金は削られるけどまた実家のお金は教育費に使われる。


「貯金と教育費かぁ」

「はい」


 私は教育費が回ってこない貧乏くじなので、その分ルル達の教育は後回しにして家守り特化にするべく鍛えて玉の輿狙い。そのはずが狙う前にロイがやってきた。


「ロカちゃんは女学校って聞いたからそんな気はした。教育は大事だよな。なにせあのバカネビーも金をかけてもらって何とか専門高等校を出たから出世が早くなるもんなあ。本人も頑張っていたけど」

「はい。頑張っていました」

「あいつ。たまに飲むと半泣きになるんだけど、この間もリルは俺のせいで貧乏くじだったのにロイさんのおかげでって泣きついてた」

「……知らない話です」

「そんな気がした。リルちゃん、今度あいつと飲んでみたら? 俺、あいつが十年も独身でいるつもりっていうのが心配だから聞いて欲しい。十年後は片足ジジイでロクな女がいないって。若い女に走ろうにも同年代に取られまくりだ」

「義父母が紹介するから大丈夫なはずです」

「そうらしいな。でも心配。昔っからお嫁さんはお嬢さんってうるさいからなんなんだあのお嬢さん好きはと、思っていたけど俺も少し分かってきたかも。唯一星のミユは別にお嬢さんじゃなくてもかわゆいけど、あの集団はかわゆい。下街では見ない」


 イオは「リルちゃんも今はあの仲間とは不思議。世の中って何があるか分からないな」と歯を見せて笑った。


「俺もあと数年遊んでいるつもりだったのに年明けには既婚者だ。振られなかったらだけど。あっ、また俺ばっかり話してた」

「もたもたを直し中です」

「聞き上手って事だからええ気がするけど直したいの?」

「また、ぬぼーっとしていて不気味は言われたくないです」

「それは喋らないからじゃなくてお洒落してなかったからの方。あと前の方が笑って無かったかな。そんな会ってないけど。かわゆい娘を隠せってブサイク気味にしていてタオとかまんまと騙されていたってやつ。ミユも少し前まで天然記念物みたいなおさげにババア色の着物だった」

「そうなんですか?」

「ミユに聞くと分かる。レイちゃんがチラチラ見てるから行っておいで。これまでわりと疎遠だった分、色々話せたらもっと面白そうだからまた喋ろう。俺達って何かが少しズレていたら兄妹だったかもしれない訳だし。まあ、俺とネビーは火消し兄弟同等だからリルちゃんも妹っちゃ妹か」


 今の意味はイオの弟と私にお見合い話があったからだろう。ネビーと火消し兄弟同等というのは見習いの時に同じ班だったから。

 彼にニコッと笑いかけられて、手を振られたので会釈を返して立ち上がってイオから離れた。結婚してから友人知人が一気に増えたけど、昔からの知人との関係も変化していくとはイオの言った通り人生って不思議。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イオもネビーも阿呆なところあるけど、心根が優しいので見ててニコニコ。 [一言] でも、もっとロイリル夫妻のニコニコ話も見たい……お義母さんが「我が家の娘はー!」とリルさん大好きな話も見たい…
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