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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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日常編「リル、お茶会へ行く1」

 実家へ行った帰り道、ふと見たら幼馴染のイオの恋人になったミユが男の子二人といて、どう考えてもこのまま歩いていると向こうも私に気がつきそうなので、人見知り克服も兼ねて話しかけることにした。


「こんにちはミユさ……」

「リルさん!」


 私と目が合った瞬間、ミユはとても深刻そうな表情で私に駆け寄ってきた。


「リルさんの家の井戸水を分けて下さい! 私のお見舞いの時に下さった魔除けのお水です! ご利益があった気がするので、今日中にお見舞いで渡したい人がいるんです!」


 詰め寄るように早口で話しかけられたので少しびっくりして後退りしそうにった。


「……。ええですけど……」

「すみません、不躾に」とミユは眉尻を下げた。


「帰るところなので一緒に来ますか? 少し遠いですけど。ミユさんの家は実家の方でしょうからそれとは反対です」

「はい、是非お願いします。途中で水筒だけ買わせて下さい」

「それは我が家にあります」


 ミユと一緒にいた男の子の一人が「それなら僕達は二人で帰る。お見舞いのことは親に自分達で言えるよ」と告げた。


「じゃあね、ミユちゃん。僕、絶対に今日インゲのお見舞いに行くから病院でまた会おう! 行こう、クルス君。あそこの兵官に迷子って言えばええ!」

「うん。失礼します」


 今日中に魔除けの井戸水を贈りたいのはインゲという人なのだろうか。


「家へ御一緒するのはあの子達が兵官さんと歩き始めたらでも良いですか? これから暗くなるのに送れなくて」

「はい」


 男の子達は見回り兵官に話しかけて少しして、優しげに笑う兵官と歩き出した。こうして私はミユと歩き出したけど彼女は何も話しかけてこないし、顔色が悪いから何をどう話しかければ良いのか、どういう風に気遣えば良いのか悩む。


「すみません。お見舞いしていただいて、あれこれいただいて、冊子も貸してくださったのにロクにお礼をしていませんのにこのように」

「いえ。手紙もお礼の品もいただきました」


 入院中の楽しみになったり、応援したいイオ経由で返してもらうのは縁結びの後押しな気がしてロメルとジュリーの冊子を貸したら、退院後に彼女からお礼の手紙とおせんべいの詰め合わせをいただいた。イオ、ネビー、ロイ、私という風に伝わってしたので多分ミユはイオと話をしただろう。

 喋ってもくれなかったというミユがどうやってイオの恋人になったのか私は非常に気になっているけど、今はとてもそんな事を聞ける雰囲気ではない。

 ロイがネビーから聞いた話だと「イオが分かってないから分からん。あいつ、普通の火消しよりも老若男女に優しいから過去の女遊びに目をつむって仮恋人になってくれたのはそれっぽい」だという。恋人ではなくて仮恋人とはなんなのかというと触るのは禁止で、会いに行ったり口説くのは良いらしい。


「あの」

「はい」

「ご利益があった気がしたのはなぜですか?」

「あの水は傷洗い水になって、それを使っていただきました。このようにお医者さんの予想より少なくて済みました」と火傷跡を何箇所か見せられた。予想よりも少なくてこれだと、もっと酷かったかもしれなかったという事だから良いことだけど決して「少ない」という跡ではないから悲しくなる。


「跡がもっと残っても死ぬより遥かに良いから気にしなかったけど、やはり嬉しいです」

「通り道なので実家へ行く時はあの病院に寄ってお医者さんか薬師さんに渡すようにします」

「他人の私をお見舞いして下さったり、優しいのですね」

「いえ」


 優しいのは彼女だとネビーやイオから聞いている。あんなに火傷してこうして跡が残ったのは、お店が燃えた時に友人を探しにいって庇ったからだと教わっている。

 彼女の瞳の中には自分の一番好きな景色である天の川があって、その星は全部優しさの結晶だと感じると、この間イオは恥ずかしくなるくらい惚気ていた。特に親しくなかった幼馴染だけど、お嬢さんの事は俺の知り合いの中だとリルちゃんが相談相手に適任と言われてここ最近は兄と共にちょこちょこ話したり、ロイと共に手紙をやり取りしている。


「あの」


 気後れしていないで話しかけるぞ。


「はい」

「結納祝い、楽しみです」


 まもなく彼女はイオと結納するから皆でお祝いするそうで私とロイはネビーに誘われたから行く予定だ。


「友人二人やト班二人と奥さんとネビーさん以外、誰に声が掛かっているか把握していなくて。来て下さるとは嬉しいです。ありがとうございます」

「私の姉と夫も行きます。私よりイオさんと仲良しです」

「ありがとうございます」

「はい」


 私が言葉の続きをパッと出さなくてまた会話終了。ミユはやはりとても不安そうな顔をしていて顔色が悪いから気を紛らわせてあげたい。


「あの。イオさんが今日まで出張していてお土産を買ってきてくれました。その中に初めて知った編み物というハイカラなものや新絢爛(けんらん)花魁の吹雪花魁の普段着浮絵があって、興味があれば冊子のお礼にお貸しします」


 話題を悩んでいたら話しかけられた。


「編み物ですか?」

「はい。ご存知ですか?」

「我が家にあります」

「リルさんは何をお持ちですか? 私はこのような帯留めです。卿家さんですから茶会とか、何かあれば話題になるかもしれないので良ければ」


 ミユは手提げから編み物で作られた帯留めを出して私へ差し出した。


「かわゆいです」

「糸が太い組紐みたいですよね。こんなに太い糸を見た方がありません」

「毛糸です」

「毛糸というのですか」

「こう、ぐるぐる角がある、ふわふわして見える白い毛がもこもこした動物、羊の毛を糸にしたものです。ふわふわだと思って触ると油っぽくてベタベタしてるそうです」


 セレヌが我が家に来た時に描いてくれた羊の絵を思い出しながら手で形を作って説明。


「ハイカラに詳しいのですね」

「いえ。文通している旅医者達が教えてくれました」

「旅医者の友人がいるんですか」

「はい。旅行中に知り合って友人になりました。興味があれば編み物をしてみますか?」

「えっ? してみるってなんですか?」

「毛糸と編み棒があって少し覚えました。なのでこちらの帯留めを見本に借りたいです」


 ミユの顔色が少し良くなったのは嬉しいけど彼女はとても驚いた顔をして私をジッと見据えたので戸惑う。


「ハイカラ品が家にあるだけではなくて作るものがあるんですか⁈」


 ミユの声が少し大きくなった。


「旅医者達が我が家に遊びに来てくれた時に売ってくれました。あと編み方も少し教えてくれました」

「是非、作るところを見てみたいです」

「結納祝いの日に持って行くか悩んでいて、質問しようと思っていたから会えて良かったです」

「うわぁ。友人も喜びます。ハイカラ品がどうやって出来るのか見られるなんて」


 ようやく彼女は愛想笑いや、無理矢理ではなくて嬉しそうな本物笑顔を浮かべた。少しの間だけでも不安や心配が吹き飛んだのなら安堵。


「皆で順番にしましょう」

「ええんですか⁈」

「はい。もたもたして、喋るのが苦手なのでハイカラで釣ります」


 変な事を言ったつもりはないのに、くすりと笑われてしまった。ハイカラ釣りという表現がおかしかったのだろうか。悪意のある笑みではなくて温かみのある優しい笑みなのでこういう人と友人になれたら良いなとか、イオの惚気はその通りなのかもという気持ちが湧いてくる。


「旦那様の友人とお花見をした時に、一緒に来た婚約者さん達ともそうしました」

「私もさっき、物で釣ろうとしました。イオさんはネビーさんと親しそうですし、リルさん自体もイオさんの幼馴染なので仲良くなれたらなぁと」


 私も釣られていたようだ。しかも編み物に食いついて誘ったから見事に釣れている。


「物知らずで、絢爛(けんらん)花魁ってなんですか?」


 会話が弾んだり、親しくなれるかもしれないのでこの話題にも釣られよう。


「多分人気の花魁です。私も良く分かっていません。流行りや噂に疎くていつも友人から教わっています」


 彼女は手提げから丸めてある紙を出して広げてくれた。吹雪花・という文字が書いてある浮絵で、会話の流れからして花・は「おいらん」と読むのだろう。


「綺麗な絵です。すこぶる美人そうです」

「多分、この髪型や帯結びにこの斜めがけの小さな鞄が流行る可能性があります。友人がそう言っていました。この帯結びはかわゆいです」


 お洒落に見える斜めがけの小さな鞄はまだどこのお店でも、行き交う人々の持ち物でも見かけた事はないけど、この帯結びはもう知っている。


「花結びですね」

「もう知っているのですか?」

「はい。春に友人に教わりました。華族のちび皇女様達の中ではわりと定番らしいです」


 お花見の時に、リアにかわゆい帯結びだから気になると尋ねたら結び方を手紙で教えてくれて練習したら上手く出来たからたまにしている。


「春にもうですか⁈ 編み物といい情報通です」

「最近なんだかそうです。結納祝いの日に教えます」


 このように褒められるとほくほく気分になる。


「ありがとうございます。なのに私は何もないです」

「いえ、あります。吹雪花魁を知れました。あとあの、写師さんって聞いています」


 この本や書類を別の真っ新な紙や筆記帳に書き写してくれるのが写本屋などで働く写師だから、お礼状に(つづ)られていた彼女の字はルシーや義母、嫁仲間のようにとても美しかった。


「ええ。あっ。わりと綺麗な字で早く書くのは得意なので何かあればお礼分くらいは無償で引き受けます」

「いえ。去年から読み書きを始めたので、色々な人と文通をして練習中です。たまに相手をして欲しいです。上手になるには書くのが一番と言われました」


 文通相手を増やしたいし、仲良くなりたいからこう言ってみたけどとても緊張してドキドキが凄いことになってきた。


「えっ。去年読み書きを始めたのですか?」

「はい。貧乏だったので私は寺子屋より家事の練習の方が役に立つと家守りの修行でした。勉強は後からって」


 貧乏だったので、は余計だったかも。義母に自分の話をする時は言葉を選びなさいとたまに怒られる。


「私とは逆ですね。私は今家守りの修行中です。コツなど色々知りたいので私こそ手紙をやり取りして欲しいです」とミユは快諾してくれたし私の貧乏だった発言を無視してくれた。


「私からお手紙を書きます。兄にイオさんに渡してもらいます」

 

 この後、写師は仕事柄色々な書物を書き写すから文学に詳しそうなので面白くて読むのが難しくないものは何かと質問したら親切な回答をくれた。

 町内会の地域まできたら、買い物帰りらしきクララに「リルさん、こんにちは」と話しかけられたので立ち止まる。


「こんにちは」

「お客さんですか?」

「はい。兄の幼馴染の……」


 仮恋人と言ったら仮とはなんだと始まる。しかし恋人ではないから恋人と言うと迷惑かもしれないので私は言葉選びで悩んで言葉を詰まらせた。


「リルさん、どうしました?」

「クララさん。三日後に結納する方はなんですか?」

「お兄さんの幼馴染さんと三日後に結納する方ですか。こちらの方はリルさんの幼馴染ではないのですか?」

「はい。幼馴染が火事から助けた方です」

「初めまして、写師の娘のミユと申します」

「初めまして、クララです。リルさんと同じ町内会なので色々お世話になっています。リルさん、お見合い相手でええのでは?」

「あっ、そうですね」

「火事から助けたってすこぶる勇敢な幼馴染さんですね。それは恋穴落ちしそうです」


 イオはミユの命の恩人くらいの勢いなので普通はそうなると思うんだけど逆なのである。


「クララさん、火消しです。それで恋穴落ちしたのは彼の方です」

「えっ? 助けたのに恋穴落ちってなんですか? リルさん、火消しに知り合いがいるんですか⁈」

「はい。仲良くない幼馴染です」

「仲良くないんですか」

「はい。兄とどんどん仲良しで私とは年々疎遠です。なのに私の祝言祝いをしてくれたり優しいです」

「ちなみにどこの組の方なんですか?」

「地元のハ組です」

「ハ組と言ったら最近はザック様ですけど、まさか記名を頼めたりしますか?」


 ハ組のザック……って子どもの時に同じく子どものアイシャを口説いて振られて畜生! と張り切った結果、地元の人気者になった火消しだった気がする。

 ルカと幼馴染達と話している時にルカがアイシャに「男を見る目がない」と言っていて、美人だと人気者と接点があるんだなと考えていた記憶がある。あとアイシャは機織り見習いだから長屋からあまり出ない私と違って人と知り合うんだなとか。


「記名するのはクララさんの浮絵ですか?」とミユが質問したらクララは大きく頷いた。


「はい。旦那様が拗ねるから隠しているけど人気者浮絵集めは昔からの趣味です。たまにえいっと記名を頼みに行くのも趣味です」

「リルさんと手紙のやり取りをするので確認してみます。ザックさんは名前しか知りませんが彼の知り合いは知っています」


 ハ組の火消しならイオに頼めば終わりだろうにイオは恋人ではなくて知り合いと呼ばれてしまうみたい。


「うわぁ、とんでもない話です。図々しいんですが、旦那様がかなり贔屓(ひいき)なんですけどハ組のラオさん。友人達と出掛けた時に火事を見て、たまたま担当地区外にいたラオさんが頼りになりまくりだったらしくてむしろそちらを。幹部の方は難しいですか? 祭りなどで中々捕まえられなくて」


 クララのこの発言に私はびっくりしてしまった。


「ハ組のラオさんはミユさんの義理のお父さんになります」


 両親の幼馴染だからどっちかに頼めば記名どころか会って握手してくれるだろうと続ける前にクララが喋って、しかもミユへ近づいた。


「……ハ組のラオさんの息子と結婚されるんですか⁈」

「は、はい。一応その予定です」

「うわぁ! あの、あの! 何かするからラオさんと会えますか⁈ 握手して欲しいです! 私ではなくて旦那様ですけど。行くので。そちらの地域へ行きますので! 菓子折りか何か持って行きますから!」

「それも確認してみます」

「ん? ハ組のラオさんの息子? 未婚は確かイオさんとタオさんで……」


 クララはミユを上から下まで眺めた。


「ミユさんでしたよね?」

「えっ、ええ」

「唯一星のミユさん!」


 その話ってこの間クララから聞いた楽しい話だ。


「ご存知なのですか……。恥ずかしいのでやめて欲しいと頼みました」

「最近話題の方とここで会うなんて驚きです」

「あっ。唯一星のミユさんってミユさんですか。火消しさんが試合で言うたって教わったから、繋がっていなかったです」


 私はロイと母とルル達と共に仕事で兄も参加する海辺街のお祭りへ行ったけど、クララは火消しの六番隊が主催する初夏祓い祭りへ行って競技大会を観覧。

 綱登りの試合で勝った火消しが「俺の一番星はミユさんだ! 一番だと二番以降がいるって怒るから唯一星だ! 唯一星のミユさーん!」と叫んで面白かったとか、唯一星のクララって囁かれたいという話を聞いたけどまさかイオの事だとは。


「リルさん。私、ハ組のイオさんが叫んだって説明しませんでしたっけ? ラオさんの息子なのにいつも負けまくりで旦那様が怒っていたけど今回は一位で驚いたとか色々話した時に名前も言うた気がします」

「ハ組の火消しさんって言うていました」


 でもハ組で「ミユさん」と聞いたらイオとミユを連想してもおかしくないのに繋がっていなかった。


「そうでしたっけ? そうかもしれません。リルさんとミユさんはこれからお茶でもするんですか?」

「我が家の魔除けの井戸水をお裾分けします」

「そこそこ急いでいるのでいただいたら帰る予定です。早めにお見舞いしたい友人がいて」


 話が面白くて忘れかけていたけど、ミユは今日中に魔除けのお水を持ってお見舞いに行きたいんだった。


「誘おうと思ったけどそれどころではなかったですね。急いでいるのに立ち話をしてすみません」と私よりも先にクララが気遣いの言葉を発してくれた。


「いえ。大至急ではありませんので。記名の件など確認しておきます」

「新絢爛(けんらん)花魁の下街風お洒落浮絵を貸してくれたので返すからそれと一緒にお手紙を書きます。旦那様から兄、イオさん、ミユさんと渡してもらうのでクララさんも頼み事の手紙を書くとええ気がします」

「そうします。新絢爛(けんらん)花魁の浮絵を持っているんですか?」

「はい。クララさん達と見て楽しんでから返します」

「ちなみに誰花魁ですか?」

「吹雪花魁だそうです」

「……売り切れて全然買えない、見られない、謎の新花魁じゃないですか! 一区の新しい人気者です!」


 ミユに情報通と褒められたけど、彼女も情報通だ。


「今度中間地点で簡単なお茶会をしましょう。聞きたいことが色々あるし、違う地域の方と話すのは楽しそうです。その辺りも手紙に書きます。急いでるのに引き止めてすみませんでした。リルさん、また明日」

「はい。楽しみにしています」


 さて、こういう出会いや会話があったので私は結納会で会ったミユにクララとアルトがラオに会える機会を作れないか相談。紆余曲折を経て火消し達のお嫁さんがお茶会を開催してくれることになった。

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