21話
土曜日の15時頃、義母とロイと一緒にフォスター家へご挨拶。明日のヨハネとのお出掛けにはフォスター家の長女クリスタも参加するからだ。
義母とロイはクリスタの祖父と両親と居間で何やらお話。私はクリスタの部屋に招かれた。
クリスタは17歳で来年からお見合いをする。明日はその前の練習。ヨハネと気が合って望まれれば万々歳らしい。
「結婚なんて、まだまだ遊んでいたいです。それに働くのも楽しいです」
「クリスタさんはどちらで働いているんですか?」
「父の職場で雑務です。週に2回。いっそ職場恋愛をしてみたいです」
私達はジョーカー抜きゲーム中。せっかくロイが贈ってくれたし、楽しかったし、異国の遊びは話のきっかけになると思って持ってきた。
「リルさんは結婚してどうです? ロイさんは無口で喋らんですし、テルルさんは厳しいので疲れそう」
またこの話。
「旦那様はたくさんお喋りしますよ。それにとっても優しいです。今日もこのトランプを贈ってくれました。色々な方と仲良くなれますようにと」
「そうなんです? リルさんの結納品かと思いました。あのロイさんとどういう話をするんです?」
「今日はこのトランプのことを教わって、それから……」
賭けの話をしようと思ったら、キスを思い出してしまった。何度かキスして名前を呼ばれて、頭を撫でられてまた何度かキス。3回繰り返したらロイは「出掛けるまで勉強します」と寝室を出て行った。
「それから?」
「来週お出掛けに連れて行ってくれるそうで、どこへ行きたいか考えておいて下さいと」
「気が利くのは知っていましたけど、優しいんですね。夫婦でお出掛けかあ。リルさんの楽しそうな顔を見たら、少し結婚に興味が湧きました。あっ……」
クリスタはずっと抜いていなかったジョーカーを抜いた。これで私は残り1枚。クリスタは残り2枚。
2人だとここからが勝負。楽しく……。
「リルさん、帰ります」
襖の向こうから義母の声。襖がゆっくりと開く。義母が座っていた。
「クリスタさん、明日は嫁がお世話しますので気楽に楽しんで下さい」
「こちらこそよろしくお願いします」
2人が礼をしたので、私も慌てて頭を下げた。
「あら、変わった札ですね。クリスタさんのものです?」
「お義母さん。旦那様が贈ってくれました。異国の遊びでトランプといいます」
「へえ、ロイが」
「テルルさん、母も呼んで1回遊びません?」
「私ならここにいます」
クリスタの母親が義母の後ろから現れた。それで腰を下ろして義母の隣に正座。
「トランプなんて初めて聞きました」
「私もです」
義母もクリスタの母親——ドリス——も興味津々そう。2人とも入室してきて私とクリスタの隣に腰を下ろした。
それで私達は4人でジョーカー抜きゲーム。義母が負けて悔しがりもう1回。次はドリスが負けて、さらにもう1回。次はまた義母が負けた。
鐘の音を聞いて帰宅するも、義母は悔しかったようで帰宅後に義父とロイを呼んで3人でジョーカー抜きゲーム。3回して全部負けて不貞腐れた。
その間夕食の準備をしていた私に、それを教えにきたのは義父。
「母さんの好きなきゅうりの漬物に変えてくれ」と言いにきた。
その日、私は祓い屋にトランプを持っていき、今夜も一緒だったルリにこっそり話した。ケイトがお風呂の隙に。
それで予定を合わせて彼女の家で、クララやエイラにも声を掛けて、皆でトランプをしようということになった。ルリの娘にも会わせてくれるという。
長屋の友達と思っていた子達とは違い、一方的に話をされるのではなく、遊び仲間にしぶしぶいれてもらえるのでもなく、ロイみたいに何かあればお祝いしてくれる友達が出来るかもしれない。
☆★
日曜日はヨハネとクリスタと3人で甘味処ランプへ行った。
クリスタは緊張していたけど、ヨハネがお話上手で優しいので3人で楽しく過ごした。
お菓子の感想、他のお菓子の話、それからトランプの話などで盛り上がる。
トランプはヨハネがロイに教えてくれたらしい。しかもトランプをくれたそうだ。
ロイが仕事の休憩時間にヨハネにこの地区の祓い屋の話をして「何か少し珍しい、数人で遊べそうなものを知っていますか?」と聞いてくれて、それならトランプは? という流れ。
ヨハネは知人にトランプを5つ貰って広めてくれと言われていて、誰に渡すか考えていたらしい。
もしもトランプを欲しいと言う人がいたら、中央区の雑貨屋を伝えて欲しいと頼まれた。
ヨハネは帰りに菓子茶屋を3軒回り、自分の買い物のほかに私とクリスタにも手土産を買ってくれた。
さらに「リルさんがロイさんに小物を買ってもらった店はどこです?」とうらら屋へ行って私に手拭い、クリスタには小さな簪を買ってくれた。
それでクリスタを家まで送ると、ヨハネは「よければまた3人で美味しいものを食べに行きましょう」とクリスタに告げた。
その後、ヨハネと2人でルーベル家へ。ヨハネは玄関で「本日は素敵なお嬢さんと引き合わせていただきありがとうございます」とお礼。その後、義父と将棋を始めた。
着替えて台所へ行くと、義母が来て今日の様子を聞かれた。2人で料理をしながらどんな話をしたか伝える。
「また3人で、ねえ。ロイやリルさんを通して文通でもするつもりかしら。簪なんて、そうでしょう。そうですか」
「文通ですか?」
「ヨハネさんは次男坊で割と気楽ですから、あまりに格差婚だったり余程酷い嫁でなければ反対されませんからね。気の合う娘を探したいんでしょう。まあ、入れ込んだら他にも文通相手がいたとかで、泣かされるかもしれません。ヨハネさんなら勝手に2人で会うとか、そういうことはせんでしょう」
そう言うと義母は「フォスターさん家に行ってくる。見送りはいりません」と出掛けた。
(入れ込んだら他にも……。色々な娘と会って決める。次男坊は割と気楽なのか)
わざわざ義母が口にしたのは私に学ばせるためだろう。またしても勉強することが増えた。
☆★
翌日月曜、今日は盛り塩無し! 最初の祓い屋は1回しか遊べなかったけど、次はどうだろう。
いつも通りの1日を過ごし、夜に近づくにつれてドキドキしてきた。今日からまたロイと一緒の部屋で寝る。
夜のお勤めもある気がする。結婚してから、なかったことの方が少ない。
そろそろ寝ようと寝室へ。ロイは寝室にいなかった。座ったまま部屋に入り、襖を閉めようとしたらロイが来た。
邪魔になるので横にずれる。ロイは部屋に入ると襖を閉めて、自分の布団に仰向けに寝転んだ。その後こちら側を向いた。片手に頭を乗せて横になっている。空いてる手で手招きされた。
「はい旦那様。何でしょう?」
「リルさん、頼み事は忘れました?」
近くに座ると手を握られた。ロイはニコニコ笑っている。
「頼み……」
「ええ」
「ロイさん」
すごく緊張してきた。手を握られているのもあるし、ロイの目がギラギラして見える。うん。今夜もお勤めはあるみたい。そんな予感。
「はい」
「ロイさん、ご用は何でしょうか?」
「今日、ヨハネさんにお礼を言われました。フォスターさん家のお嬢さんとリルさんと3人で楽しかったそうです。ありがとうございます」
「私も楽しかったです。手土産に手拭いまで買っていただきました」
「手拭いです?」
「うらら屋へ行きました。クリスタさんは小さな簪です。桔梗でした」
「そうですか。桔梗は誠実や……。いや、誠実の花らしいです。そうですか。リルさんも横になります?」
これは横になりましょうだ。
「寝るなら暗く……」
立ち上がろうとしたら引っ張られた。体勢を崩し、あっと思ったらロイに組み敷かれた。
「このままでええです」
頬を撫でられ、キスをされ、浴衣の帯が解かれる。いくら光苔の灯籠の灯りは強く無いとはいえ、明るいのは恥ずかしくてならない。
いつも通りあちこちを好き勝手され、いつものように終わると思っていたのに今夜は違った。
抱き起こされて、ロイの上。座るロイの上でぎゅっうと抱きしめられた。
「そろそろ慣れたでしょうし、色々しましょうか」
色々? 何? どういうこと?
「あの、旦那……」
何度かキスをされ「頼み事は?」と耳元で囁かれた。名前を呼ぶのはまだ全然慣れない。旦那様、と口にすると悪戯っぽい楽しげな顔で好き勝手される。
知らない事をされて、気持ち良い気はしたけど、恥ずかし過ぎたし疲れてぐったり。
夜のお勤めはまだ序の口だったらしい。




