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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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246/380

未来編「ルルのお見合い」

 初デート後は文通だけだったルルとティエンは初夏で天気の良い本日、第一回目の正式なお見合いを行う。一目惚れで文通お申し込みをしたのはルルだけど、ありがたいことに今日はティエンの方から結婚お申し込みをしてくれる。

 紆余曲折を経て場所はかめ屋になり、本人と両親の六人でお見合いの予定がそれも変更。我が家側はルルと両親とネビーになり、ティエン側は祖父と両親とティエンになり、私とロイとラオが仲人として参加することになった。

 かめ屋が無料——後で下心か出てきそう——で貸してくれた部屋にて、私とロイは二人で上座で右手側にルル達、左手側にティエン達である。全員の自己紹介が終わった瞬間、先に口を開いたのは私達と並んで座るはずだったのにしれっとティエンの祖父の隣を希望した仲人ラオだ。


「レオ。食事が不味くなる話は聞きたくないし、食事が来てからだとうんと嫌だから、ごちゃごちゃした話は後にして、先に結論から話さないか?」

「それなら一言で終わる。娘は火消しの嫁にはやらん。以上。っ痛」

「おほほはほ。すみません。夫は娘離れが出来ていなくて誰が相手でも反対なので無視して下さい」と母が愛想笑いを浮かべた。おそらく机の下で父の体のどこかをつねっているだろう。従業員達が料理を運んでくれていて、今月のお品書きと違うから試作品を出されていると分かる。


「子離れ出来ない父の代わりに普通の父親役は長男の自分が担当します。よろしくお願いします」


 予想に反して、ネビーは妹おバカを封印するようだ。ジンとネビーは自分達のどちらかを参加させて欲しいと父に頼んで、ジンが仕事で時間が作れず、逆に今日のネビーはたまたま夜勤明けだったのでネビーが参加することになった。


「子離れ出来ないレオって、ネビー君は妹離れ出来ない兄だろう。っていうかエルさん。顔色が悪くないか?」

「本当だ。ここに来るまではいつも通りだったけどどうした」と父が母の顔を覗き込んだ。


「すみません。健康が取り柄でこんな事は滅多にないんですが急に気分が……」

「別室で休ませてもらいましょう。すみません。女将さんか若女将を呼べたらお願い出来ますか?」とロイが従業員へ声を掛ける。


「うっ……」

「母上、俺の羽織りに吐いて下さい」

「いや、我慢……。飲み込む……うっ」

「いや、我慢しなくてよかだから」


 母の隣に座るネビーが羽織りを脱いで父が母の背中をさする。


「お客様。こちらをどうぞ」と従業員の一人が茶こぼしを持って来てくれた。


「いえ……こんなええも……」

「羽織りでも茶こぼしでも洗えば済むから我慢しなくてよかだって」

「別に腐ったものは食べてないし、こういう風邪も流行ってないから緊張か?」

「お米の匂いが……。ん? えっ?」


 母は父を見て、目の前に少し前に出されたお茶碗を見て、また父を見て思いっきり顔をしかめた。


「うわぁ……。あー……。ない」

「ない? ないってどうした」

「月のものよ! まだ干上がってなくて、珍しくいつもの時期が過ぎてる。そろそろだろうって気にしていなかったけど、私は毎回米がダメになるのよ!」


 母のこの発言に父は目を丸くして、ネビーは父そっくりな顔で同じような表情を作り、私は「えっ?」と声を漏らした。


「おいおいおいおい! 身に覚えがあるからそういう発想になるんだろう! お前ら何人作る気だ! すぐ出来るんだから干上がってからヤレ! 分かってて欲しくて作ったのか⁈ この年でまた赤ん坊って……かわゆいな。ついに弟か?」


 怒りかけたネビーはへらっと笑った。


「うわぁ。あれだ。お兄さん達と一緒に旅行で浮かれたんでしょう。時期的にも雰囲気的にも絶対にそうだ。ええ宿に泊まったって何回もうっとりしてるもん」とルルが指摘。

「親父達が死んでも俺らで育てられるからええか。弟、弟、弟になれ」


 ネビーが母のお腹に手を当てて念じ始めた。


「お兄さん。ご存知のように妹はかわゆいよ。年が離れている程かわゆいよ」

「妹はもうお腹いっぱいだ。あと全員同じくらいのかわゆさだから年が離れていようがいまいが同じだ。弟、弟、弟、弟、弟になれ」

「でもまあ、私も妹は二人いるから弟がええな。兄に似ない弟が生まれろ〜。弟〜」とルルは母の方へ向かって両手を出して指をうにうに動かし始めた。


「母上に似たら色男で下手したら遊び人になるから俺みたいな顔の方がよかだって。それかお前みたいに異性に追いかけ回されて苦労する。俺ののっぺり凡々顔でも多少そうなんだから」

「確かに。リス顔弟〜、リス顔弟〜。リスが生まれろ〜」

「女でもよかだけど今度こそ男、男、男」


 えーっと、とロイに目配せされたけど、私も困惑しているから言葉が出てこない。


「ご懐妊かどうかは数ヶ月したら判明しますし、ご両親に何かあった際の話は家族親戚で簡単な会議をするとして、この顔色ですので別室で休んでいただきましょう」


 ロイは掠れ声を出した。


「エルさん、とりあえずそこに横になれ。レオ、お前は俺はすぐ子持ちになるから禁欲だって言っていたのにやるな。俺も娘が欲しかったのに、全然なうちにサエさんの月のものは終わっちまった」

「えー……。もう一人って……まさか。ロカの時に最後って決めたのにまさか。食あたりか風邪だろう。でもエルさん、とりあえず横になれ」

「皆さん、すみません」


 母が横になってしばらくして若女将が来て、従業員から体調不良者がいると既に聞いていたのか「お部屋と布団を用意してあるのでどうぞ」と言ってくれた。


「失礼します」とネビーが母を抱き上げて退室。席と席の間が空いたからかルルは父の隣に移動した。


「ねぇねぇ、お父さん。男の子かな、女の子かな。驚異の女家系だから女の子かなぁ」

「えっ、ああ。別にどっちでも元気に生まれて健康に育てば……」

「我が家は健康運も驚異だから安産で元気な子が生まれるね。私、実家に帰ろう。人手がいた方がええもん。お祝いだお祝い。祝い酒だー! はいはい、飲んで飲んで」

「おおー! ルルちゃんの言う通りだ。祝い酒だ! 飲むぞレオ! サレフさん、お酌するんで逆も頼みます」

「めでたい気配でよかですな! 絶対酒が美味くなる。飲みましょう、飲みましょう」


 放心気味の父とウキウキしているルルと、ラオとティエンの祖父が飲み会を開始。


「旦那様」

「はい」

「今日はルルとティエン君の一回目のお見合いですよね?」

「そのはずなんですが……。それどころではなくなりましたね……」


 ユアンとランも私達同様に困惑気味だけどティエンは「おめでとうございます!」とにっこり笑顔て手酌で飲み始めた。


(うち)の鼻垂れ半人前が、お宅の別嬪(べっぴん)お嬢さんと縁結びしたいって言うんですが、何を成したら許されますか? 金は既に問題ないです。俺の稼ぎと親の稼ぎと本人の稼ぎで平均的な火消しの家くらいなら与えられます」


 ティエンの祖父が話を始めてくれた。最初は書類の交換で、そこからお互いに質問会だったんだけどすっ飛ばされた。


「レオ。サレフさんはひ孫が見たいって言うからポックリ死ぬ前に祝言しないか? お前が嫌いな火消しの女遊びは祝言後こそ禁止だ。だからとっとと縁結び。新婚なんて絶対、張り切って働くぞ」

「娘を半人前の嫁にする気はないし、上地区本部へ転属予定なんて、そんな遠くに大事な娘をやるか!」


 母とネビーが居ないので、このままでは父が野放しになる。


「準官でも今の評価だと半人前じゃなくて一人前だ! 稼ぎも特別手当がある分問題ない! お前が祝言した時よりもよっぽどええぞ! 自分の事を棚に上げるな!」

「うぐっ。それは……」

「女関係だってお前はエルちゃんに手を出しやがっただろう! 俺らのエルちゃんを大変な嫁姑戦争に放り投げやがって! 俺はサエさんだったけど、俺らのエルちゃんだったのに! 幼馴染としてまだ怒ってるからな!」

「それもそうなんだけど……」


 どう見ても父、劣勢。


「お前の長男は東地区から、その娘さんを奪って来たじゃないか!」

「それは息子と我が家なら安心して任せられるって言うて下さって、おまけにウィオラさん本人も望んでくれたからだ! 一、二ヶ月に一度は実家へ連れて行くってお前の息子に出来るのか⁈ 馬にも乗れないくせに!」


 父はようやく言い返したけど、これは父が胸を張れる事ではなくてネビーだ。馬にも乗れない癖にって父も乗れない。ティエンはラオの息子ではないのに父はそういう扱いをするみたい。


「そうだそうだ。ティエン、お前は馬に乗れるようになれ!」

「そうだ! お前は馬に乗れるようになるまで祝言禁止だ! ラオさん。孫のその手続きってどうなっているんですか?」

「面倒だから補佐官に投げようと思ったけど自分の事だから自分で手続きしろってティエンに丸投げしました。こいつは補佐官予備軍でもあるんで何でもさせようかと」

「はい! 広範囲で働きたいので乗馬してあちこち出張出来る火消しはどうだと煌護省とやり取り中です!」


 私の交友関係から彼はやる気に満ちていると聞いているけどティエンはやはり偉い。


「ほれレオ。お前の長男同様に尻を叩かなくても励む男だ。他に文句はあるか?」

「普通の火消しならともかく、将来性抜群の優良物件なんだから、チヤホヤされて浮気したり娘を捨てそうだから嫌だ」

「ルルちゃんだって美人過ぎるから結婚したって狙われ続ける。だからこっちも同じ条件だ!」

「離縁する時に孫はこっちのものだ」

「そんなの火消しの子は火消しのものに決まっているだろう!」


 ティエンの縁談なのにラオが父と話を進めていく。


「だから最初から嫌だって言うてるんだ。条件が合いませんでした。よってこの縁談は終わりです」

(かどわ)かしてきたのはルルちゃんだろう! 譲れ!」

「嫌だ! 娘の子は娘のものだ! ルルは文通以外は望んでない!」


 いや、望んだ結果がお出掛けや今の席なんだけどと突っ込みたくても私は父達の勢いに上手く入れず。


「半分は息子の子だ。それで火消しの血は火消しのものなんだよ!」

「そうだそうだ! ひ孫は絶対に渡しません。そこを譲らないなら破談だ破談。すこぶる美人で目の保養でおまけに……惜しいよな。性格良しの美人で酒も将棋も好きで蛇投げが特技ってそんなお嬢さんは滅多に居ない。いや、ひ孫は譲れません!」

「それなら破談です! 火消しとは最初から縁がないんですよ!」


 父、ラオ、サレフが勢い良く立ち上がって睨み合いを始めたからロイもますます口を挟めず。


「ちょっと待った! 俺はそんな要求はしませんから破談はやめて下さい! ラオさん、何を勝手に決め付けてるんですか! あとジジイは黙ってろ!」


 ティエンも立ち上がった。


「初めまして、改めましてルルです。姉がずっとお世話になっています。父の働くひくらしもお世話になっています。ありがとうございます」


 もう酔い始めたのかルルがこの状況を無視してランに笑いかけてお酌しようとした。


「ティエン、半人前は黙ってろ!」

「えっ、あっ。はい。こちらこそお世話になりまくりでありがとうございます。お人形さんみたいで驚きです。あの、美人さんなのに息子でよかなんですか?」

「うるせぇよ! 半人前ってさっき一人前って言ったばかりだろう!」


 礼儀正しい彼しか見てなかったけど、今のティエンは兄みたい。


「あの、息子はちび助だし、見た目も平均以下だし、ロイさんを目指すと言うて励んでも結局蛙の子は蛙であんななんですが大丈夫ですか? いや、お見合いくらいしてくれるとは心が広いですね」

「立派な肩書きで人柄も良いのに親が貶めるなんて、謙遜し過ぎは良くないですよ。隠してもバレるから言いますけど私は見た目詐欺で上品で大人しそうなお嬢さんとは真逆です」


 お父様もどうぞ、とルルはユアンにもお酌をした。


「そんな風には見えません」

「うるせぇティエン! 火消しの癖に親権は譲るなんてどういう了見だ! 表に出ろ!」

「ちょっとあんた。見惚れてないで挨拶をしなさいよ」

「えっ? いやだって、見ろよ。本当にお人形さんだ。しかもリルさんの妹さんだぞ。卿家の親戚でこのようなとびきり美人ってティエンには高嶺の花過ぎる。夢を見るのは自由だけど無謀だ無謀」

「表になんて出るか! 邪魔するなら帰れ! 格上相手に上から目線はやめろ! しかもそういう話はもっと後のことだろう! 二回目のお出掛けをさせて下さいと頼んだり、結納お申し込み時に整えておくべき条件は何ですかって席なのに!」


 手前と奥の会話が混じって耳も頭も変になりそう。何これ……。


「旦那様。どうしましょう」

「えーっと……。どうしましょうか」


 とりあえず父達とティエンは無視して、二人でルルの近くへ移動してユアンとランと話そうと思ったけどルルがペラペラ喋っている。


「……か良し大家族なんです。それなのに半日歩き続けてようやく実家に帰れるような所へは行きたくありません」

「うんうん、それはそうです」

「そんな事を言わない女性が娘さんになる方が嬉しいですよね?」

「言わない方が心配になりますよ。親と不仲で育つとどこか歪んだところがあったりするんで。逆にしっかりした方もいるから一括りには出来ませんけど」

「私はかなりお見合い経験済みですが、ティエンさんはこれからの方だから半年や一年くらいは他の方と私を並べた方がええと思います」

「この書類に縁談経験について書いてありますね。こんなにお見合いしてきたなんて、このように沢山縁談話があるなんて凄いです。息子は全然」

「見た目で釣れるんですよ。ルルさんだから、貴女の中身のここがええって方はいませんでした。ティエンさんには恋人がいたことがあるそうですが私にはいたことがありません」


 そんな事ないけどルルはその前にどんどん袖振りするし、書類を見た分析結果でお断りも沢山ある。


「えっ? 恋人がいたことがある? そんな話は知りません」

「そうなんですね。ランさんは旦那さんとどのように縁を結んだのですか?」

「いやぁ、私達は幼馴染の腐れ縁です」

「ええなぁ。両親と同じです。私の憧れ上位。一人前になるまで待ってて欲しい。私も立派な女性になれるように励むわ。幼馴染婚ってすとてきですよねぇ」


 話し方とトロンとした目で分かるけど、ルルはもう酔っ払い始めている。ちびちび飲んで寝る直前だけかなりの酔っ払いという事も多いけど今日は飲むのが速くて一度の量も多い。


「ルルさん、お祝いとご挨拶の場ですからほどほどにしましょう」

「ロイさん、ロイさん。私は忘れるかもしれませんが酔う時は本音しか出てこないから後で教えて下さい〜。私はもう見た目詐欺でガッカリなんて言われるのはうんざりなんです。何年かぶりの自分からなのに、ある程度親しくなった後だと最悪。だから先にあれこれ見せる事にしたんです」


 ロイが止めてくれたけどルルはその制止を振り払って手酌、ロイにお酌、ユアンにお酌、ランにお酌と動いていく。


「ルル、今日はご挨拶だから。それは二回目でもええよね?」

「それにしてもティエンさんって面白いですね。兄ちゃんみたいなのに、お嫁さんはお嬢様って言わないなんて。お嬢様に会ったり交流していないからじゃないですか? 本物お嬢様は下街男性に大人気なんですよ」

(うち)のガサツな息子に本物お嬢様なんて無理です。同居する私も息が詰まる」

「お母上、世の中には下街男性や長屋オババと上手く付き合えるお嬢様もいるんですよ。私の義姉です。ほらここ」


 背後の父達は相変わらずうるさいので会話を拾わないようにしている。一方、ルルはまだ大人しそうなので様子見でランと一緒にルルが用意した書類を眺める。ルルが手で示したのは家系図だ。


「私はしがない平家お嬢さんですが、ここに特大の得があります。娘さんが私立女学校に通ったお嬢様に気に入られると私の妹みたいにどんどんお嬢様教育をしてもらえます。見て話すだけでも勉強になります」

「お兄さんのお嫁さんはお嬢様なのですか」

「今年の春、結婚したばかりです。お嬢さんと結婚したいって二十七年間禁欲して女性を選り好みしてついに発見。背中を押したのは私です。イノハの白兎のルルとは私のことだぴよん」


 他にも定期的にあるけど、昨年末から最近にかけてルルは縁結びの手助けを三回したから、酔ったりふざける時にこれを言う。頭の上に両手を当てて兎の真似って子どもみたい。


「愉快でかわよかなお嬢さんだこと。無知ですみません、イノハの白兎ってなんですか?」

「イノハの白兎とは〜、昔々、とあるところに白兎がおりました」


 ルルはレイス達甥っ子姪っ子、ご近所さんの子達に語り聞かせをしてくれていて、そこにお芝居をするウィオラからも教わっているので小芝居が特技になりつつある。こういう酔い方なら良いかとルルのイノハの白兎話に耳を傾ける。


「自分が兎ではなくて人ならば、誰よりも美しい彼女の伴侶になるのに。人はなぜ見た目で判断する。美とは老いれば失われる。炎に焼かれれば失われる。怪我をすれば失われる。私がかつて醜くかったように。そうなんですよ! なんなのもう。顔はともかく胸元や尻やらうなじやら鼻の下を伸ばして見てきて気持ち悪い!」


 あっ、多分ルルの中で酔いが振り切れた。私は慌ててルルからお酒を取り上げようとしたけど「嫌っ」みたいに避けられた。懸念通り、ルルは徳利から直接お酒を飲み始めた。


「リルさん。よかですよ。お見合いが進むと見られてしまう姿です。本人に直す気がないんですから。後でお説教はしますけど」

「でも旦那様、直させたいです。失礼です。すみません、ユアンさん、ランさん。妹はこのよう……」

「そうよそうよ! 見た目が何よ! なんで乙女は白兎に惚れないのよ! あんた、やたら美味いからこの酒を追加して。普段飲み過ぎ、使い過ぎなんだからたまには私に貢ぎなさい」


 ランも徳利から直接飲み始めた。


「そうなんですよ〜。お母様。これでは健気で一途な白兎が可哀想です」

「お母様なんて痒い言い方はやめてちょうだい」

「私は逆です。見た目しか無い〜。兄ちゃんの足を引っ張りまくって、ルカ姉ちゃんみたいな器用さがないから職人はやめておけって言われて、リルお姉さんみたいな慎ましい良妻賢母とは逆で、レイやロカみたいに追い続けられる夢もなくて、何をしてもそんなに燃えないし、何をしても人並み以下。顔しかないんです!」

「ルル、そんなことはないから。ほらほら、お客様の前で泣かないの。ルルは根回し上手で咄嗟の出来事でもすぐ動けるし頭も働くでしょう? 私は真っ白でぼんやりするのに。広く浅く、なんでも器用にこなせるのは才能だし、ルルの知識量は努力の結果だよ」


 私は懐から小さい手拭いを出してルルの涙目を拭った。


「そうですよ、ルルさん。独学で区立女学生以上の知識を有してまだ磨いているではないですか」

「優しいリル姉ちゃんと離れたくないー。あんなのもう嫌だ。皆メソメソするし私も辛かったー。近くてあれなのに遠いともっとになるー」

「私がお嫁に行った時のことだよね?」

「そうだよ。遠くになんて行きたくない。なのにはい、縁なしってならないなんておかしいよ! 私はおかしくなった! 縁結びの副神様に何か試されてる!」


 ここへネビーが戻ってきて「うわっ、おいルル。挨拶席でそんなに飲むな。すみません。ロイさんとリルは何をしていたんですか。でもよかか。最大の欠点を見せられるから」と呆れ顔を浮かべながらこちらへ近寄って来ようとして父に捕まった。


「お前だってルルが半人前の嫁になるなんて心配で眠れなくなるよな⁈」

「半人前って俺がこの年だった時と比べたら一人前だろう。これでも不服ならデオン先生に頼めばよかだ。ティエンさん、なぜか入門してきたから」

「それだ。今後、娘の相手は全員デオン先生のお墨付きをもらおう」


 この日、酔っ払いルルとランは意気投合しつつ嫁姑問題は嫌だから交流して相性を確認したり練習しようとなり、ティエンは「前向きな意味で転属話が無くなって師匠に祝言しても問題無い弟子と評価されたら結納お申し込みします」と宣言。

 ティエンは我が家——父——が望む結納可能な条件を満たしていないし、ティエン側はルルをまだまだ知らないのでお互い半結納はしないで、片方が他に興味が逸れたら破談と決まった。

 半結納しないってことは二人は今後しばらく恋人未満の関係ということなので、なんだか解せない。

 予感では破談にならないで、ルルは引っ越しどうのうは気にしないと言い出して、トントン拍子に進む気がする。よって、私はロイは馬を借りて上地区本部の方へ二人で遊びに行けるのか確認したり、ユリアとレイスがもう少し大きくなれば土日で家族で遊びに行けるかロイと検討することにする。備えあれば憂いなし。


 次の二人のお出掛けは今月中となったけど、この間の初デートがかなり痒いかったので、私は次の付き添い人をルカやウィオラへ頼むつもり。それか二人のデートは夫婦か家族のお出掛けに付き合わせたいと思う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もー終始楽しくて読みながら笑ってしまいました!(笑) レオは自分を棚に上げすぎですが、まぁ父親としては仕方ないか…と思いつつもモヤモヤしてたのが、今回はラオ達が多分読者皆が思ってること全部…
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