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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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特別番外「ロカと兄と姉10」

 朝起きたらウィオラの誤解は兄と彼女の二人の間で解けていた。いつもの朝を過ごしたけど普段と違うのは今日の登校には兄も混じったこと。

 三人で雑談しながら家を出たけど集団登校になると二人は見張りだから、と最後尾を並んで歩いて穏やかな笑顔で良い雰囲気。


「ねぇ、ロカさん。この間の文通お申し込みはどうしました?」


 ミシュに問いかけに少し心臓がドキッと跳ねた。


「母に報告したらそろそろ縁談練習もアリだから文通の練習をしてみたら? と言われて文通しても良い家や人だから我が家の情報を送ったところです」


 実際はさらに返事がきて、その文通開始の一通目は嬉しいけど戸惑うような内容だったところだけど恥ずかしくて言いづらい。

 私はこれまで人にズケズケ聞いていたので尋ねられる側はこういう気持ちなんだな、と感じた。


「私はあなたにはまだ早いってお父さんが反対していて何もです」

「私はロカさんと同じでせっかくだから練習してみなさいって。会って話してはいけませんよって。誠実なら会いたいですって家に申し込むから見極められますと言われたけど会って話す方が早いというか、感じが分かりますよね」


 平家と平家だとそこらで「こんにちは」みたいに話しかけたりすることもあるから会うために家に申し込むって変な感じ。

 そう思ったけど平家娘の私は家族に半元服したら男の子と二人で出歩いたり隠れて会ってはいけませんと言われて育ったからそうでもないか。


「文通だと嘘をつけます」

「嘘は言葉でも言えます」

「……私は恥ずかしいから最初は手紙でええな。髪型とか服とか悩むし話題も分からないから」

「ロカさんが照れてる」

「いつも皆を揶揄(からか)ったり恋話よりも他の話題のロカさんが照れてる」


 友人二人に左右から頬をつつかれてしまった。


「それはその。私はこう平凡で別にそんなにかわゆくないけど、それなのについでの練習相手に選んでくれたっていうのは嬉しいでしょう?」


 本気のお申し込みをされたとは恥ずかしくて言いづらい。本気風の練習かもしれないけど。


「こらっ。自分をかわゆくないって言うているとかわゆさが減りますよ」

「お申し込み練習なら返事をしても文通は始まらないから悩みますよね。お姉さんもそういう悪戯(いたずら)というか度胸試しの相手にされたことがあるって。きっとこれから増えます」

「あと家と家が合ってなかったとか。我が家はこうですって返事くらいしたいのにお父さんは卒業したらお見合い相手を連れてくるから却下って。文通から始まるって言うのが雅なのに〜」


 一人だけ上手くいったとか、一人だけ酷い目にあったとか、そういう差は不仲や喧嘩に続いたりするから色々言いたくないなと思う。

 でも二人とも私とうんと仲良くしてくれているからそういう風にはならないかもしれないから話をしたいという気持ちもある。

 

(こう考えるとウィオラ先生とユラさんの友情って不思議。遠慮し合って……遠慮してたか。でもそうでもないところもあって仲良し。私達と同じなのかな?)


 ウィオラをチラッと見たら兄はうんと優しい眼差しで彼女に日傘を傾けていた。

 もう何度も見ているけど私達姉妹や他の女性には決してしてこなかった少し熱っぽい眼差しなので恥ずかしいし少しモヤモヤするから顔を背ける。

 昨夜まではそんなに照れなかったしモヤっとしなかったけどつい二人の唇に目がいったのと少し妄想が勝手に出てきたからそのせいだ。

 好奇心などで質問しまくっていたのに聞かなきゃ良かったと後悔中。


「先生とロカさんのお兄さんは絵みたいですね。私もいつかあのようにしてもらうのかしら」


 女性にサラッと日傘を傾けるという格好つけをしているけど中身はバカです、と言いたくなる。


「絵になる二人ですね、なんて言われてみたいです」

「そうか……」


 な、と言う前に私達に文通お申し込みしてくれた男子学生達が全員いてこちらを見ていると気がついた。


「ねぇ、あそこ」

「会釈する?」

「そうですよね。前も会釈しましたからしましょう。ねっ、ロカさん」

「う、うん」


 三人で会釈をしたら私に文通お申し込みしてくれたクルスと目が合って会釈後に小さく手を振ってくれた。


「よぉ、ロカ」


 手を振り返そうと思ったら声を掛けられたので振り返ったら後方にいたはずの兄が真後ろにいて私の肩に手を置いた。


「何?」

「そこらの男性に手を振ってはいけません。見張りなので注意しにきました」

「なぜですか?」

「勘違い男が付きまといになったら苦労するし怖い目に遭うかもしれないからです。かわゆい君達も気をつけましょう」


 兄は私と同じく振り返っている友人二人に笑いかけた。


「ロカさんのお兄さん。そこらの男性ではなくて親の許可を得て文通する方です」

「そうでしたか」


 白々しい言い方で目が笑っていないのでわざとな気がする。


「お申し込みを、付き添い人をしていたお兄さんにした方々ですけど覚えていないですか?」

「ええ。忘れっぽいバカなので覚えていないです」


 私の友人の問いかけに兄はしれっと嘘をついた。覚えていない、は多分嘘だ。勘だけどそういう気がする。


「お兄さんは忘れっぽいバカだけど覚えてるでしょう? 挨拶の邪魔をしないで下さい」


 ムカつくし恥ずかしいことをしないで、という意味を込めて軽く睨んだけど兄はにこやかに笑っている。


「ネビーさん。いくら妹さん達が心配でも大人気(おとなげ)ないですよ。近寄ってきたから様子見なら分かりますけど挨拶くらいでこのように」

「別に。付き添い人がいるから堂々と近寄ってきて挨拶をするなら律儀で気概のある……」


 兄が唇を結んで笑顔から渋い顔になって顔を動かしたので視線を追ったらクルス達だった。


「先生、恥ずかしいです。変な髪型ではないですか?」

「ロカさん、来ますよ」

「う、うん」

「げっ。来るのかよ……」


 嫌そうな顔をした兄にウィオラが「ネビーさん」と苦言のような声を出した。


「おは、おはようございます! 先日は手紙を受け取っていただきありがとうございました」

「おはようございます。ありがとうございました」

「おはようございます。その、兵官のルーベルさんですよね? その地区本部の羽織りはそうです。この間は気がつかなかったんですが憧れていて大会でいつも見学しています。握手して下さい!」


 兄の仕事は夕方からで私達を送ったら帰宅して勉強して出勤まで休むと言っていたのになぜか制服を着てきた。

 なので兄はこういうことを誰かに言われることは予想していただろう。


「……」


 クルス達は兄の前に並んで会釈をしたけど兄は無言。


「あはは。朝から元気が良くて礼儀正しいですね。大会を見学しているとはありがとうございます。剣術の見学よりも仕事振りを真似して困っている人がいたら声を掛けたり兵官を呼んだりして下さい。それなりに働いているつもりなので」


 兄はいつもの愛想笑いを浮かべた。


「それなりなんてとんでもないです! 兄が火事から助けてもらったことがあります! それですっと前から憧れています!」

「彼が言うので見るようになって自分達もそうです」


 兄に話しかけてくる人は大抵こういう感じか「ちょっとルーベルさん。聞いてくれ」みたいに兵官に対する頼み方をする人に分かれる。それか兄贔屓(ひいき)の女性だ。

 慣れている兄は愛想を良くして格好つけるけど今の笑顔はかなり引きつって見える。


(妹バカ丸出しにならなくて良かった)


 俺の妹に近寄るんじゃねぇ、みたいに始まらなくて安堵。


「あの! その、そちらの先生とルーベルさんは恋仲なのですか? この間そう思いました」

「おい、よく見たら結婚指輪をしてる」

「うわぁ。やっぱり兄上は失恋だ」

「……」


 ヒナに文通お申し込みした男子学生の兄はウィオラに気があったみたい。兄の笑顔がますます引きつった気がする。


「ええ。こちらの先生の婚約者でこの子の兄です」

「ロカさんのお兄さんがルーベルさんなのですか⁈」


 ロカさん、とクルスに初めて名前を呼ばれたので体が少し熱くなった。


「あれ。でもロカさんって平家で苗字は無いと……。ああ、お兄さんは豪家拝命……。あの」


 やめて、と言う前に兄は不機嫌顔でクルスの顔を覗き込んだ。


「君、誰が俺の妹の名前を口にしてよかだって許可した」

「えっ?」

「ネビーさん。おやめください。すみません。お母上から常識的なお付き合いは許可されていますので気にしないで下さい」


 私がそうしようと思ったけどウィオラが先に兄の袖を引っ張った。


「ええ。常識的で本気なら。設定した目標の将来に向けてどう努力してどのような結果を出しているのか説明出来る全く女と遊ばない律儀な男というのが最低条件です。まず親や兄にそういう情報を提示するべきでは?」


 ルルやレイに男の人が近寄ると似た感じになるけど、私に対しても妹おバカさが出てきた!


「私をいきなり馬でお出掛けに誘った方よりも付き添い人に文通お申し込みや付き添い人に声を掛けて朝の挨拶の方が誠実です。遅刻するので行きましょう」


 兄の腕を両手で掴んだウィオラが歩き出して目を丸くした兄が引きずられて行く。


「皆さん、遅刻しないように行きますよ。私の前を歩いて下さい」


 ウィオラに声を掛けられた生徒達が前へ進んで行くので私達もクルス達に会釈をして歩き出した。


「あの! 俺、今言われたこともします! それも踏まえて返事をくれたら嬉しいです!」


 クルスはそう叫んだ。そんなに大きくない声だったけど耳にしっかり届いてどうして良いか分からなくて小さく手を振る。


「本気ですよ本気。ロカさん、あれは本気です」

「……実際の私を知ったら違ったって思うかもしれません。恋に恋するって言うでしょう?」

「恋をされたって自覚はあるのですね。手紙に何か書いてありました?」


 恥ずかしいから急いでウィオラの近くへ行って、ついでに兄に文句を言おうと思ったらその兄に文句を言われた。


「お前は何で手を振っているんだ。気を持たせて付きまといになったらどうする。まだまだ得体のしれない男には冷たくしておけ」


 友人二人もこちらへ来たのでこの兄を見て何やらヒソヒソ言い始めた。


「ネビーさん。ですからおやめ下さい。今朝、お母様にも言われましたよね? この調子なら寂しくても送迎禁止にしますよ」

「えっ。寂しいですか?」

「それはそうです。今日から準夜勤ですれ違って会えないようにネビーさんは多忙で話せる時間が少ないですから」

「あの、ついでにその掴み方ではなくていっそ腕……は組まないですね。生徒さん達の前では。いや、街中でも。結構見られるんでしませんね。家の中でお願い……あはは、なんでもないです」


 頬を少し赤くしたウィオラがパッと手を離すと兄は髪を掻きながら少しずつ後退りした。

 バカ。

 兄はこのようにバカ過ぎる。


「先生。お兄さんはいきなり馬でお出掛けに誘ったのですか?」

「コホン。ロカさん。あの場でお兄さんの過保護さを止めようとした私を揶揄(からか)うと味方が減りますよ」

「そうではなくて常識、常識とうるさいお兄さんが実際は非常識だったのか知りたいだけです」

「いえ。付き添い人は要りますかとかしっかり尋ねてくれましたし他にも色々。ロカさんのお兄さんは常識的な方ですよ」

「そうですか。でも先程の態度は常識的では無かったです」

「その通りですがロカさんがとても大切だと伝わってきました。ネビーさん。真っ直ぐな目をしたすとてときな男の子でしたね」

「……」


 兄はすこぶる不機嫌顔で腕を組んで無言。


「おいロカ」


 黙り続けるかと思ったら喋った。


「何?」

「どういう家のなんだ」

「小さい小物屋を営む豪家の次男さん」

「いくつだ」

「二つ上」

「進学するのか?」

「うん。美術系の専門高等校へ進学して商品の絵を描く担当になるって書いてあった。ミシュさん。ヒナさん。その。最初の手紙がきてまだ返事をしていないです」


 後で聞かせてね、と隣を歩くヒナに耳打ちされてミシュにはニコッと笑いかけられた。


「あの金魚草はなんだ」

「その。見た目はかなり違うけど鈴蘭みたいに連なっているからって」

「まぁ。あなたに幸せが訪れますように、とはすとてときな贈り物ですね。金魚草って愛くるしいですよね。色はやはりロカさんが黄色をよく身に付けているからですか?」

「あの。はい。あとその……た……太陽と同じ色って……」

「ロカさん。やはり彼は本気ですよ。君は太陽のようだなんて。僕は向日葵(ひまわり)……ロカさんの得意な絵で向日葵(ひまわり)を描くと良いですよ。もちろん気持ちが動いた後にですけど」


 ミシュににんまり笑いをされて私は自分がこれをしていたのだな、これはかなり恥ずかしいと少々反省。


「……。似たものをウィオラさんに今度贈ります。桜の君はなんだった?」


 兄のぶすくれ顔をウィオラは楽しそうに眺めている。妹バカで袖振りにはならないようでそれは安心。


「お兄さんには言いたくない」

「俺も聞きたくないけど言え。でないと親父に話すぞ。親父は誰でも全部お申し込みを握り潰すぞ」

「それはやめて」

「なら言え」


 ごにょごにょ説明したら兄はさらに顔をしかめて酷い顔。


「すとてとき……。こう聞いたら私へのお申し込みはついでというか明らかに練習です」

「ヒナさんも本命ではないから良いのでは?」

「えっ。ヒナさんにはお慕いしている方がいるのですか?」

「その、そこまでてはないのですが……。今はロカさんの話です」


 友人二人は顔を見合わせて兄を見て私に「無視しようと思ったけど気になります。これ、お兄さんは大丈夫なのでしょうか」と告げた。


「お母様が調べて文通しても良いと決めたのですからそんなに心配しなくても大丈夫です」

「ロカは唯一俺と結婚するって言うてくれたのに! 追い払えないまともな奴が近寄ってきやがった!」


 兄は「もうすぐ門ですし帰ります」と回れ右。今のは最悪な捨て台詞だと思う。


「ロカさんのお兄さんってお父さんみたいですね」

「優しくて凛々しくて格好良いのに意外な一面です」


 平々凡々顔の兄は癖のない顔だからかキリッとして凛と格好つけているとそれなりに色男に見えるらしいけど中身はバカだから詐欺である。


「なんなのもう。自分は婚約済だし最近まで赤ちゃんでよだれを垂らしていた妹に欲情するかバカとか言うのに俺と結婚するって言うてたってなんなの恥ずかしい。妹バカって自分で言うてるけど本当に妹バカ」

「あはは。副教室長さんからロカさんになった」

「確かにこれはいつもの学校用ロカさんや副教室長さんではないです」

「えっ? うん。気をつけていても育ちが育ちだから中々難しいです」

「ふふっ。さすがネビーさんはちびお父様ですね。私のお父様と似たような台詞でした。見ない振りをすると言っていたのにあのように突っかかって」


 ウィオラは愉快そうに笑っているけどあんな兄で良いのだろうか。


「先生。格好つけだけど中身はあんなですよ。あんなお兄さんでええんですか?」

「ええ、もちろんです。家族をとても大切にしているところも私はす……。皆さん、門番係さんに挨拶をしましょうね」


 す、の続きは好きだろう。ウィオラは門を過ぎたから集団登校の見張りは終わりというように私たちから離れていった。

 最近のウィオラと兄はますます親しくなったというか触れ合っていないのにベタベタして見えるのは気のせいではないと思う。

 気持ちがある同士がキスするとますます燃え上がるというのは本当なのかもしれない。


「ウィオラ先生、かわゆい。恋は女性を綺麗にするって本当ですよね」

「あばたもえくぼとか恋は盲目って言うから心配の方です。あんなお兄さんに夢中で大丈夫なのかなぁ」


 俺と結婚すると言っていたのにって何年前の話。しかも沢山言った記憶はないし、父にも義兄ジンにも言っていた。

 

「あの方達、下校時間にもいますかね。昼休みにロカさんの髪型を変えましょう」

「えー。でもこの羊巻きはかわゆいです。ウィオラ先生とお揃いでしたね」

「ええ。お姉さんもお揃いにしました。私の髪型変更ではなくて三人でお揃いにしたいから道具を持ってきました」

「自分でしようと思って練習しているけど上手くできないから助けてもらおうと思っていました」

「早くお昼休みにならないかなぁ」

「ヒナさんはお弁当の方ですよね」

「えへっ。見抜かれました?」


 いつもの日常なのに少しいつもと違う世界。我が家がいつの間にか貧乏ではなくなったように振り返ったらこんなに大きく変化していた、となるのだろうか。

 遠ざかるウィオラの背中を見て、振り返って遠ざかっていく兄の背中を見て、春まであの二人は他人で私とウィオラも他人だったのに今は居るのが当たり前なのでとても不思議だなと感じた。

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