特別番外「ロカと兄と姉6」
七月になって気温が上がってきて雷雨は減った。元々の勤務にはまだまだ戻らないけど休みが現れて幹部帰宅禁止令も終了。
過密勤務を延々ではなくて日勤、夜勤、準夜勤のどれかに強制残業状態に変化。
通常業務へ少しずつ戻していくので仕事中に剣術道場へ行く時間もある。まあ、強制残業の一つだけど。
変化してからの俺はまずは準夜勤。十七時出勤で昼前に帰宅。
夜中の一時が退勤時刻だから狂った勤務だけど仕事中の休憩時間が増えたし帰宅するお母とジオにお帰りと出迎えられて用意してくれている昼飯を食べられる。
一石多鳥と言ってくれて嬉しかったけどやはり気になるのでウィオラに通ってもらわなくて済んで気楽。母も毎朝来てくれていたからそれも。
ウィオラと屯所で小一時間夕食はこの上ない癒しだっけど同僚と親しくなっていく感じに妬くから嫌になってきているところでもあった。
体力があるのもあって家に帰れるこの勤務だと多方面で精神的に安らいでかなり楽。
問題は帰宅したら爆睡して十六時頃に起きてすぐに支度して小走りで出勤なので、準夜勤だとウィオラとほぼ会えないこと。この勤務になってから一回しか顔を見ていない。
しかし明日の土曜から夜勤に入れ替わるので昼過ぎに帰宅したら一時出勤まで休み。これは休憩と呼ぶけど激務で頭のおかしくなっている俺としては休日だ。
準夜勤で出勤して夜中から明け方に仮眠をする時間があったので昼前に帰宅しても眠くない。
退勤時間から仮眠して働くっておかしいけど深いことは考えないことにする。
普通に休んだ感覚。しかし油断大敵だから帰っても寝ておく。
夏は南西農村区へ出張して西瓜をお裾分けされるからウィオラと食べる、と約束したけど出張予定が組めなそうなので普通に二つ買って帰宅して川で冷やした。
幼馴染達に文句を言いたいから西瓜割りをするので夕飯の差し入れを持って来い、と言ったのでとりあえず寝る。
目が覚めたら夕焼け空ではなくて、母に尋ねたら俺はまだ三刻眠ったところだった。
「もう寝れなそう。水汲みとか薪割りとかなんかある? 昔から過密予定だったからこのくらいだと結構元気かも」
同僚は死屍累々だけど俺みたいな体力バカは結構元気になってきている。
その分皺寄せが来るけど「辞職は死罪」が終わって辞職者が大量発生したら自分達が困るから体力に合わせて休めるように幹部が工夫中。
皺寄せで腹を立てる者へは出世するぞとか残業代とか上手く誘導。
タイミングが違ったら俺はその采配する側の一員ではなかったので疲れる。
でもやる事が沢山で猫の手も借りたいくらいだからどんどん教えてもらえて助言や助力もされるので逆に伸びる好機。
「顔色がええし元気に見えるけどそんなのしなくてええ。勤務も休みもまだまだおかしいんだから家のことは無視しな」
「ありがとう。あっ。そもそも中官試験の勉強があった」
「来年にしたら? っていうか今年受ける人はいるの?」
「あと三回しか機会がないから受けるに決まってるだろう。三十歳からは上官試験ってそうなったら一生跡取り認定されなそう。豪邸が町屋になる。ルーベル家にも悪い。レイスやユリアにジオの防波堤になりたいから成したい」
そんな悲しいことは嫌だけどガイとロイに一気に不幸があったらレイス、ユリア、ジオが卿家の子として続くには親戚やガイとロイの友人の力が必要。俺はかわゆい甥っ子姪っ子のためにそこに並んでおきたい。
「それなら家事のことなんて丸無視しな。あんたが考えるのは健康と仕事と勉強と自分の縁談」
母にベシンってと背中を叩かれた。
「痛いな馬鹿力。でもありがとうございます」
「勉強と自分の縁談……。ウィオラさんとロカを迎えに行って待つ間勉強する」
「教え上手そうだからコツを聞いたら?」
「ロカがウィオラさんが補助に入る授業は覚えやすくて面白いって言うてるから余裕が出来たらそうしようと思ってた。忘れてたからありがとう。支度して行ってきます」
二人を区立女学校まで迎えに行くなら寝巻きの浴衣ではなくて格好つけたい。暑いから羽織りなしの着流しにするけど。
勤務時間外でも何かあって走ることがあるからそれ重視で草鞋ばかりだけど今日は下駄にしよう。
父の奉公先の大旦那や同僚達から元服祝いだと贈られた着物と下駄をウィオラの前ではまだ着ていないと思ってそれにした。
着物はこの時期には少し暑い生地だけど昼過ぎで少しずつ気温が下がってきているのでこれでも良い。
(あれがムーシクス先生の婚約者、すとてときならよかだけど逆だと落ち込むから格好つけよう。イマイチだったって言われたくない。変わらないから顔はともかく)
格好つけようにもお嬢さん先生達や女学生達が現在憧れる男の流行りがサッパリ分からない。
(ニックの真似をしとくか)
一番退勤時に寄りやすいところに住んでいるから幼馴染のニックに声をかけてイオ達に伝言してけれと頼んだ。
イオもそうだけど嫁に飽きられたくない、とニックはコロコロ髪型を変える。つまりどこかで流行を仕入れている。確か片方だけ後ろへ流していた。
(俺の顔で鏡を見て髪型を整えるってなんか気持ち悪い。っていうか伸びたから切りたい)
顔の良いイオやニックはともかく俺ってどうよ。
(いや、リルが化粧と髪型でマシになってそれなりにかわゆいから俺も誤魔化せるはず。自分で切らないで整師へ行こう。時間が出来るまで伸ばしとけ。結ぶ流行りもあるかもしれないし)
つまり俺こそ髪型で誤魔化すべき顔だ。色々試してウィオラに聞こう。妹達はリル以外は口が悪くて当てにならない。
支度をしたから部屋を出たらジンが帰宅したところだった。
「あれ、ジン。早くね?」
「営業先からの帰りで通るから寄っただけ。母さんに買い物とか何かないか聞こうと思って。お前はお洒落してどこ行くんだ?」
お洒落してってそのジンがわりと小洒落ている。営業だからだろう。それで今日の俺達は偶然にも虎斑竹の下駄がお揃い。
「早く目が覚めたからウィオラさんとロカを迎えに行こうと思った。待つ間は中間試験の勉強をしてようかと。重い買い物はないって言うてた」
「ならジオと少し喋ったら店に戻ろう。西瓜割りって連絡帳に書いてあったから親父も俺らと同じ時間に出勤した。だから皆で同じ時刻に帰ってくる」
ふと、ジンが義両親を親父や母さんと呼ぶのもすっかり定着したなと思った。
昔はお義父さんにお義母さんだったけどいつから変化したんだっけ。
「おう。ニックの髪を真似したけど彼女の同僚や女学生にムーシクス先生の婚約者はイマイチって言われると思うか? 流行りがサッパリ分からない」
「珍しく髪をいじっていると思ったらそういうこと。なんかそれだとちゃらちゃら遊んでそうだから全部あげとけ。ほれ」
髪型を直された。
「リルのやつは前髪があるとブサイクめからそこそこかわゆくなるけど俺は前髪で誤魔化さなくてよかなのか?」
「いや、別にリルちゃんも前髪なしでブサイクじゃないだろう。お前は似た顔だからって貶すな」
「事実だ。その坊主めでも似合うお前の顔ならなんでもありだけど」
「洗うのが楽だから伸びてきたらこれにするけどルカさんがすこぶる不機嫌になる。これはブサイクだからやめろって。先月から伸びろ伸びろって頭をあちこちつつかれる」
ジンは呆れ顔で肩をすくめた。ジンは肩ぐらいまで伸ばして結ぶところまできていきなり坊主近くにする。
先月、また喧嘩したのかと思ったし毎回思う。
痴話喧嘩だろうけどそんな喧嘩をするのにジンはこれだけはルカに譲らない。それだけ何度も髪を切るのが嫌だってこと。ジンの自己主張は珍しいから毎回愉快。
「まあ結局好みは千差万別ってことだよな。ロイさんが酔ってリルをかわゆいかわゆい言い始めると似た顔だから自分の事みたいで気持ち悪くなってくる。酔い過ぎで俺とリルを間違えるからなおさら」
「言えてる。リルちゃんもウィオラさんにそうやって間違えられたりして」
このように雑談をしてくだらないことを言える時間があるって素晴らしい。
「気になるな。あまり飲んだことがないって言うて酔っ払うとどうなるか知らないらしい。引っ越し祝いの時は赤いのと眠そうなくらい」
「それは俺も見た。その顔、飲ませたいってことだな」
「二日酔い手前くらいまでは。お前とルカとだな。それかロイさんとリルか六人で。見張りがいないと。ウィオラさんの夏休みにかなぁ。ルルを排除してルーベル家の離れでだな」
「ガイさんがお前の仕事が落ち着いてきたら三面打ちしたいらしい。ほら、前回全員に負けてそこで止まっているから。親父とラルスさんと五面打ちとか言い出したし」
「ラルスさんに熱心に教えているのはそれか。あはは。ガイさんは何を目指しているんだか」
このままだと延々と喋りそうなのでじゃあな、と手をあげて出発。
そういえばジンとルカもついてくるとかついてこない、みたいな話があったな。
試験対策本を片手で持って周りに迷惑をかけないように注意しながら勉強。
仕事でもうしていることで大体頭に入っているのでたまに本に視線を落として確認して前を向いて頭の中で考えてまた確認の繰り返し。
地元だと街中へ出ると制服を着てなくてもわりと挨拶されるから挨拶を返しながら歩く。
出てこなくて引っかかって確認したところや間違えたところの頁を折っていく。
そうして目的地に到着したので門脇に立って寄りかかって下校時間まで暗記を開始。
もう帰る生徒もいるので門は開け放たれている。チラッと確認したら門の内側に椅子に座った中年男性がいた。
門が解放される時間帯の不審者対策の見張り役は確か生徒の男家族に順番に当番が回ってくる。
(っていうか突然来て会えるのか? 早く会いたいから来たけど。まあいいか)
平日のウィオラは趣味会に関与しない。ロカは趣味会に参加する。二人が帰る時間は大体同じなので校内で待ち合わせて一緒に帰宅。
ロカのいる集団登下校の見張り役が交代ではなくて毎日ウィオラになったから有り難がられているらしい。
これまでは心配症の親父が毎朝ロカを集団登下校の集合場所まで送り迎えをしていたけどそれも今はウィオラ任せ。子ども扱いで嫌だと言っていたロカは喜んでいる。前に連絡帳にそう書いてあった。
(成人女性に任せられるけど俺はそれこそ送迎をつけて欲しい。でも大人に対してやり過ぎ。お嬢様でも成人したら少しずつ一人で歩かせるっていうラルスさんが正しい)
区立女学校の先生は平家でも手が届きそうな高嶺の花とか、登下校の経路に商店街があるから俺はわりと心配。
防犯という意味ではなくて単に横取りされたくないだけ。
下校開始までは読書に集中可能と思って折った頁を中心に覚える努力。
「すみません」
声を掛けてきたのは俺より十歳くらい上に見える兵官と若い兵官の二人組だった。
「お疲れ様です」
「待ち伏せ行為は区民の迷惑ですので立ち去りなさい。そもそもその帯刀はなんですか。身分証明書を提示して下さい」
「……おお。通報されました? あっ。非番の地区兵官で婚約者と妹を待っています」
同僚は多いので面識のない者は多々いるし今は特に私服だ。
壁に寄りかかるのをやめて直立して会釈をして身分証明書を提示。そこに仕込み刀の常時帯刀許可の記載もある。
治安が良い、防犯機能が働いていると分かったのでこれは良いことだ。
「……。失礼しました!」
同僚なので身分証明書で階級まで分かる。年上に見えるけど広い意味での部下疑惑。
「いえ。良い仕事振りです。アラド師団長に会うので仕事振りを伝えます」
「とんでもありません!」
「制服で来たらサボりみたいだけどこれはこれで区民を不安がらせたり同僚の仕事の邪魔でした。邪魔してすみません」
「待ち伏せ自体は家族のこともあるのでそんなに気にしないのですが帯刀していたので気になりました。同僚の可能性も考えて声を掛けるべきでした」
「いや、その可能性は考えずに先程の声掛けでよかだと思います」
「いえ、本当に失礼しました!」
広い意味では部下だけど明らかに年上なので目上でもある。出世していったらたまにこんな変な感じになる。下っ端新米幹部なのに。
「中で待てるものなのか確認します。失礼致します」
帯刀している男が門脇に長時間いたら不審者。仕事中なら俺も気にかけるのに気がつかなかった。
自分は地区兵官で地元ではわりと顔が知られているという傲慢な気持ちが心のどこかにあったのだろう。反省しないと。
授業参加や発表会で校舎へ入ったことがあるので受付事務所へ行って職員に声を掛けた。
身分証明書を提示して生徒の兄で約束していないけど迎えに来たことと、どこで待てば良いか確認。
「常に臨時勤務出来るように帯刀しているので不審者と間違われて区民に不安を与えましたし同僚の仕事を邪魔したので怪しまれないところに居たいです。門の内側でしょうか」
「それでしたらこちらの腕章をつけてお待ち下さい。ご存知のように待合室もありますが自主的に見張り役に参加とは助かります」
集団下校のお迎え者は事前に腕章を渡されていて待合室で待機だったと思い出す。臨時の時はこうして事務所に声を掛ける。
その規則を忘れて門の内側、と言ったからかなんか誤解された。
差し出された筆記帳に記名をして明日妹を通して返却するように言われた。椅子を用意すると言われたので断る。
門へ戻って門の内側で見張り男性の隣に立って挨拶と事情説明。それで勉強をするのでと断って読書。
ウィオラは十六時が定時で早く帰れることもある。しかしロカが十六時まで趣味会なので何かしてどこかで待ってどこかで合流して帰宅だ。
(仕事が早く終わってロカを待つ間は何をしてるんだ? 気がつくのが遅い。聞いてみよう)
十六時の鐘が鳴ったのでソワソワしてきた。趣味会不参加者は少ないようで、これまではまばらだった下校者がみるみる増えてきた。
これまでの退勤職員は気にしなかったけどここからはウィオラとロカを見つけたいから要確認ということで本は閉じて懐にしまった。
「ありがとうございます。失礼します」と品の良いお嬢さん達にお辞儀をされるので目の保養。
「あの。ロカさんのお兄さん。ご無沙汰しています」
講師制服の女性に話しかけられた。一昨年の担任の先生なのは覚えているけど名前は忘れた。
ロカが良い先生と褒めていた。去年の担任は普通で今年の担任は若干嫌いらしい。
(名前なんだっけ。ああ、そうだ。なんとかアードさん)
「お疲れ様です先生。一昨年は妹がお世話になりました」
「お疲れ様は地区兵官の皆さんです。激務らしいですね。痩せられました。ロカさんのお迎えですか?」
俺はやはり痩せたのか?
「はい。痩せた自覚はないんですがお気遣いありがとうございます」
妹と婚約者という言葉は飲み込んだ。
(ウィオラさんは職場で婚約指輪から婚約者のことを尋ねられたら卿家の次男さんって説明してるって言うてたな)
その通りでわざわざ生徒の兄、と言う必要はない。
「春に婚約した噂を聞きました。おめでとうございます」
「自分の婚約が噂になるとは驚きです」
(ロカが俺を気にかけてたらしい担任を泣かせたからか?)
「他の話題の兵官さんや火消しさんのように生徒に人気のある方ですからそれなりに噂が入ってきます」
「そうなんですね」
「私達と同じ女学校講師と婚約されたと聞きましたが国立女学校にお勤めの卿家の方ですか?」
元担任なので生徒の兄は卿家の養子、と知っているからこういう推測なのだろう。
これはどうしたものかと思っていたら「お兄さん!」とロカの声。視線を向けてウィオラも発見。ロカ達の集団が近寄ってきた。
「よお、ロカ。学校お疲れ様。仮眠して早く目が覚めたから迎えに来た」
ロカの友人達にも挨拶。知っている顔ばかりだけど二名新しい顔だ。ウィオラと目が合ってこれは「ウィオラさん」と声を掛けて場面なのか悩む。
女学校講師の制服は季節に合わせた生地で三種類あって時期により色が異なるのは知っているけどウィオラの制服姿をまだ見ていなかった。ようやく見られた!
(かわゆい……。生徒は自分の着物に紺色の袴なのになぜ講師はこのかわゆさ。あれ、ウィオラさんが素足?)
純白の着物に区立女学校の校章が刺繍されているのはアードと同じ。半襟は自由のようだ。
それで同じく区立女学校の校章が刺繍されている薄桃色の袴を履いているのはアードと異なる。
(なんだっけ。そうだ。袴の色は既婚者か二十五歳以上で桃色以外の三色から選べるようになる。最初から選べるのかと思っていたらその理由で、だから余計に目立つってウィオラさんが言うてた。知っている人は知っているって)
袴の紐の結びが異なりそれはロカとお揃いで花になっている。これはどういう仕組みだ。
足元も自由のようでウィオラは素足に朱色のサンダルを合わせている。
日傘を差しているのもかわゆい。白い無地という何も凝っていない安物のようで柄の形などそうは見えない。全体と合っているのがまた良い。
「お兄さん。ぼんやりしていますが疲れていますか?」
ロカが横に移動してきて袖を少し引っ張られた。
「えっ。いや、ウィオラさんの制服姿を初めて見たからつい」
ロカにだけ伝えるように返事をした。
しかも俺が一番好みの夏の制服。国立女学校や私立女学校講師も夏の制服は白い着物なのでいかにも清楚可憐、で昔から目の保養。
アードでも上品な奥さん風で良いと思うのでウィオラだと数割増し。
「ふーん。その心は? はい、どうぞ」
ロカに耳打ちされた。
「えっ」
「ほら。その心はなんですか? 初めて見たなら感想がありますよね? 皆さん、お兄さんは激務で中々会えないウィオラ先生を迎えに来て初めて夏の制服姿を見たので一言あるそうです」
これ、ロカに遊ばれてるよな。ロカと親しい友人達は俺とウィオラの婚約を知っている。
皆見てるから先生の婚約者として恥ずかしくないように雅に、とロカに囁かれた。雅に?
ウィオラに恥をかかせないように……雅に……。
「なでしこのような帯結びですね。朝も夜も手に取り持ちて……です」
恋ひぬ日なけむ、はさすがに言えないし有名なので伝わるだろう。
見かけるようになった撫子だったら毎朝毎朝この手に取って毎朝欠かさず愛おしむのに、そのくらい恋しい、だけど思わず毎朝毎夜に変えてしまった。
ウィオラはボッと顔を真っ赤にして俺から顔を背けて扇子を出して開いて顔を隠した。今のかわゆい顔を見たいから扇子をどかしたい。
ロカの友人達がきゃあきゃあ騒ぎ始めた。これは恥ずかしいと視線を泳がせたら目を丸くして少し頬を赤らめているアードと視線がぶつかった。
「まあ……」
「コ、コホン。婚約したのは国立女学校講師の卿家の方ではなくてこちらの豪家次女さんです」
「ムーシクス先生の雅な婚約者さんってロカさんのお兄さんでしたの」
ほうほう。俺は雅な婚約者なのか。ウィオラが職場で同僚に俺についてそう語ってくれたことがあるってことなのでこれは朗報。
「ええ。まあ、はい。生徒の兄と先生が、なんてわざわざ言うことではないので。婚約したのは彼女が勤務開始する前です」
これは恥ずかしいのでアードに別れの挨拶をしてウィオラ達と逃亡!




