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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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特別番外「ロカと姉と兄3」

 第三者に尋ねるとまた違った角度からその人物が浮かび上がる、というのならウィオラに聞く前に友人ユラに尋ねたら何か分かるかもしれない。

 ウィオラから兄への気持ちは小さいのかとか、ウィオラに熱烈っぽくて寂しそうな兄を約一週間放置して時間を全く割かないのはなぜなのか。

 今ユラが琴を弾いているように、毎日話し合いをしている気配はない。


(一日一時間くらい……。その前に往復二時間強がある。先生は私と十七時少し前に帰宅で寝るのは何時だろう。遅くて0時なら六時間。兄ちゃんに時間を使うと残り三時間になる。お風呂屋と夕食と料理と学校のこと……)


 0時就寝だと早起きのウィオラにしては遅寝になる。もっと早く寝るかもしれない。

 料理、特に下準備はほとんど母がしているけど十八時頃に家を出るまでウィオラも食事をしつつ料理に参加している。

 なのにこれまで毎日毎日通ってくれていたってこと。特別制度が出来る前は会えない荷物運搬だった。


(早く読みたいからって言うた。あれっ。毎日お世話係は嫌かもしれないって思ったのは私だ。ウィオラさんは違うって言うた。兄ちゃんは……。大丈夫ですかって書いてあったな……)


 パラパラ読ませてくれて兄がウィオラを気遣うようなところはいくつもあった。


(……。お母さんも毎朝だけど息子のことで仕事が家守り。ついでに買い物とかルーベルさん家に行ったり、お父さんを早起きさせて洗濯しな! とかルカ姉ちゃんやジン兄ちゃんにも……)


 毎日屯所へ通うことは気持ちが小さかったら頼まれてもしない気がしてきた。

 こんなに忙しい人とは嫌とか、落ち着いたらゆっくり交流しましょうとか、疲れているからすみませんとか色々言える。


(通わないと兄ちゃんに袖振りされると……は思わなそう。あの熱烈な感じのお兄さんに対してそんな心配する? しないよな。大丈夫ですか? 疲れていたら休んで下さいって書いてあった!)


 落ち着いて噛み砕いて考えてみたらウィオラも兄にそれなりに気持ちがあるから毎日屯所へ通ってくれている気配。

 そして一ヶ月以上、出張期間以外毎日六時間中三時間程時間を割いて通ってくれた人に一週間放置って考え方は違う気がしてきた。


(朝も洗濯物や料理で、乾いた洗濯物に香とか部屋の掃除もしてくれているから三時間どころじゃない!)


 むしろ自分はこの一ヶ月半、何を考えて何を見て生活してきたのか疑問。

 ウィオラが兄に会いたくて会いたくて毎日屯所通いをしていたのなら……それなのに妹達へどうぞ。

 兄は絶対に会いたいだろうしウィオラもそうなら私達こそお邪魔虫。

 兄ちゃん可哀想、ではなくて譲ってくれてありがとうと言うべきなのに言ってない!

 熱烈で寂しそうな兄が会いたいのは妹よりもウィオラ疑惑。なにせ浮かれバカだから癒しはウィオラさんと言った。

 自分は自分はと騒いだのはルル、レイ、私。


(騒いだのに先にルカ姉ちゃんが呼ばれた。文句を言ってウィオラさんがたまには譲ればええのにってお母さんに言うたら……本当は二人までだって。意味分かるわよねって言われた)


 どう考えたんだっけ。あれをしなって言われて深く考えないうちに命令されたことをした記憶がある。

 二人まで良いのに兄は一人だけと言ってウィオラと会っていた。


(分かってなかった!)


 そもそもウィオラは気がついたら今の生活に馴染んでいて当たり前みたいに一緒に過ごしている。

 兄と隣に引っ越してきて、五年も家出していて長く住み込みで暮らしていた一区からきて私の通う学校の先生になるというから世話焼きオババの母が慣れるまで一緒に家事をしようと誘った。

 五年も家出をしていても住み込みでお店の使用人がいるから練習が足りなくて、魚屋や八百屋で値切るのも知らなかったお嬢さん。しばらくしたら兄と結納したと言われて、なんだかついつい昼休みに食事に誘っていて、登下校中に面白い勉強話をしてもらって……。

 得体の知れないかまとと女が兄をたぶらかしたと思ったけど、すぐに違うと分かって彼女と仲良くなったので「兄を袖振りしないで」と思っているけど、兄は激務中で四月末から家に全く帰ってこないから早速結納破棄の危機な気がしている。

 そう思っていたけど兄のせいではなくて私が足を引っ張っているっぽい。


(ウィオラさんは私のことを連絡帳に書いていたのに私は自分のこととか兄ちゃん大丈夫? みたいなこと……)


 ユラに突撃する前に両親の部屋へ戻って家族と兄の連絡帳を改めてザッと確認。


(これをして欲しい、ウィオラさんは新生活で疲れてないか、これが食べたい、新制度……)


 空白、お礼、長文、このくらい寝てる……。返事ばっかりで自分発信はウィオラへの心配ごとで頼むって書いてある!


(書いてある。ウィオラさんを気にする言葉が何度も出てきてお母さんが返事をしてる。私はお母さんが書いたからって書いてない! お父さん、ルカ姉ちゃん、ジン兄ちゃんも付け加えてる……)


 金槌で頭を打たれた気分って多分こういうこと。誰と話すか悩んで毎日いる家族は後回しでも話せるけど明日帰るらしいユラとは無理なのでまずは彼女にすることにした。

 緊張しながらウィオラの部屋の前に立って声を掛けると少しして彼女が扉を開いた。


「浮かない顔ですが、またお話がありますか?」

「はい。話があるのはウィオラ先生の友人のユラさんです。忙しいですか? 明日帰る前にと思いました」

「ユラですか?」

「はい。相談です」

「彼女に聞いてみます」


 人見知りはしない方だけどかなり緊張してきた。ユラが私の前に来て笑っていない目の笑顔を浮かべて「こんばんは、場所はどちらが良いですか?」と問いかけたので喉が鳴る。


「あの。忙しいのにありがとうございます。場所は私の部屋でええですか? お茶を用意します」

「私はどこでも良いです」


 顔の系統は異なるけどルル並みに美しい人が品良く笑っているのにやはりなんだか怖い。

 ユラを部屋へ招くと背後から「お茶は私が淹れますね」とウィオラが声を掛けてくれた。


「ありがとうございます」

「たんぽぽ茶で」


 ユラを部屋の手前部分の座椅子へどうぞ、と招いて自分は向かい側。


「私に相談って謎ですけど、とりあえずウィオラがお茶を持ってきた後が良いですよね? わざわざ二人でってことは」


 微笑んでいるけど「ふーん」というように冷めた目で上から下まで観察されている。


「はい」


 沈黙。ユラは私を見るのをやめて部屋の中を観察し始めた。


「地区本部兵官が長屋ってどういうことかと思ったら四部屋。この部屋は気になっていました。妹さん達の部屋って聞いたけどなぜ両親達の部屋の隣ではなくて長女夫婦とお兄さんの部屋の間なのかなって。なぜですか?」

「特に考えたことはなかったです。母に聞いてみます」


 そう言われたら気になる。なぜだろう。


「知ったから何、はないので別に聞かなくて良いです。ウィオラが来るまで暇つぶしになると思っただけですので。それなら学校って楽しいですか?」


 丁寧だし微笑んでいて口にした言葉も悪い内容ではないし空気が重たいと感じたから話題を振ってくれている。なのに刺々しい。私の周りにはいない感じの大人だ。


「たまに嫌なこともあるけど大体楽しいです。あっ、学校には通わなかった方ですか?」

「いえ、通えなかったの方です」

「私の姉達と同じです。私は末っ子で兄も姉も大きくなって稼ぐ側になって両親が養う人数も減ったから通わせてくれています。知識は宝だから沢山勉強しなさいって。ありがたい話です」

「そうですね。知識があるのとないのでは大きく違うことがあります。月曜や水曜日に来た妹さん達は学校には通ってないのですか? あと隣で暮らす職人のお姉さん」

「職人の姉は見習いになって寺子屋で習うようなことを奉公先で教わりました。昔、少し寺子屋に通ったらしいです。月曜に来たのはレイでレイは寺子屋にしっかり通って後は今働いている奉公先で勉強で特別扱い気味です。今日来ているルルもレイと似ています」

「今日来ているもう一人の子持ちのお姉さんもそうですか?」

「リルお姉さんは花嫁修行で旅館で三ヶ月勉強して、その後は嫁ぎ先で義理のお母さんから色々教わっています」

「五人いて色々違うのですね」

「私は記憶が少ないけど貧乏大家族だったのでその時その時の精一杯、と聞いています」


 ユラが何か言いかけた時にウィオラが部屋を訪れて私達にお茶を出してくれた。

 入室から退室まで手本のような動きや声掛け。部屋を出る時に優しい笑顔で手を振ってくれて嬉しかった。


「それで私なんかに相談ってなんですか? そもそも私がどこの誰とか分かっているのですか?」

「母がウィオラ先生の前の職場の、一区にある置き屋で一年くらい一緒に働いていた友人って言うていました。だから芸妓さんでお名前はユラさんです」

「ええ、その通りです。それで相談はなんですか?」

「あの、相談というか質問です。ウィオラ先生って兄の話をユラさんにしますか?」

「……」


 ユラは瞬きを繰り返して小さく頷いた。今の間はなんだろう。


「しますよ」

「その、お兄さんはこれまでで初くらい忙しくて全然帰ってこなくて、その間にせっかく婚約したのに袖振りされたら落ち込み過ぎて倒れるかもしれないから、こう、ウィオラ先生が困ってることとか嫌なことがあれば、お兄さんにコソッと言うて励ましたらええよとか、悪いところを直したらええよって言えると……。思いました……」


 私は我が強くて勝ち気なはずなのに声がどんどん小さくなっていった。ジッと見つめられていて、その目がとても怖い。


「前の恋人の時に落ち込み過ぎて倒れる感じになったんですか?」

「えっ? 前の恋人なんていないです」

「そうなんですか? 肩書きとそこそこの見た目にあの性格なら女性に困らなそうなのに。未婚なのも不思議なくらいです」

「はい。多分困っていないです。昔からお嫁さんにする人としか出掛けないって言うていましたし手紙も受け取らないし……でもお見合いしていたんですよ! 私が元服したらって言うていたのにお嬢様達を袖振りしてたってルルから聞いて、お父さんとお母さんは知っていたけど私達はうるさいから黙っていたって」


 私が元服したらって言っていたけど先に祝言予定でホッとした。

 先に結婚したら良いと言うと、する時はするけど今は今の生活とか、お前が嫁にいくか婿をもらうかで俺の生活も建てる家も変わるとかあれこれである。


「女嫌いって噂を聞いたけどお見合いしていたんですね」

「お兄さんは女好きです。そう言うていました。お嫁さんはお嬢さんなんだから女好きに決まっているだろうって。嫌いな女もいるだけって。男を恋人や伴侶にする気はサラサラないってよく言うてました」

「お嫁さんはお嬢さんならなんでお嬢様達とお見合いをして上手くいかなかったんですか?」

「ルルが情け容赦ない自分側に都合の良い条件をつけたり興味ないって一回のお出掛けで全部袖振りしていたって教えてくれました。兄がまさかちび皇女様達を袖振りしていたとは。兄なのにお嬢様を選り好みしていたんですよ!」

「それなのにウィオラとは一週間で結納したんですね」

「はい。私の知らないうちにデートして、知らないうちに縁談話をして、気がついたらウィオラ先生は私達と一緒に生活していて、あっという間に結納していました」


 姉妹の中で私が一番蚊帳の外だったから不満。私の学校の先生になります、というのがきっかけだから良いけど結納お申し込みについて行ったルルやレイみたいにあれこれ直接見聞きしていない。


「それなら知らないだけかもしれませんね。お兄さんに昔恋人がいても知らないうちにデートをして、知らないうちに恋仲で、知らないうちに破局でしょう」

「恋人は居ないって言うていたから居ないと思います。今回みたいにネビーの女は誰なのって騒ぎになります。他の家族も親戚も兄の友人達もようやくとか色々言うています。今はまだ恋人やお嫁さんより妹バカだとかも。あっ、兄のことではなくてウィオラ先生のことが知りたいです」


 つい、問いかけられるまま兄の話をし続けてしまった。


「本人や祖父君がいるのになぜ私に聞くのですか?」

「聞きたかったからです」

「なら先に同じことを質問します。お兄さんはウィオラへの不満を言っていますか? あと彼の困り事はなんですか?」

「ウィオラ先生への不満は聞いたことがないです。困り事は連絡帳に書いてあって、私は子どもで浅はかだったからぼんやり眺めてしまっていたけど家族が色々しているから解決済です。私は今日、兄は疲れているのにお説教させて疲れさせてしまいました」


 問いかけられて口にしたらまた情けない気持ちになってきた。


「彼はどういう風にお説教するのですか?」

「正座って言うて……。じゃなくて私が知りたいのはウィオラ先生のことです。私は先に言いました。代わりに教えて欲しいです。お願いします」

「知人の婚約者は妹にどういうお説教をするのか気になって。そちらを先にうかがっても良いですか?」

「知人? ウィオラ先生と一年間一緒に働いた友人って聞きました」

「ウィオラは勝手にそう言うけど知人です」

「勝手に……だとウィオラ先生のことをそんなに好きじゃないんですか? それならなんで遊びに来て泊まっているんですか?」


 ウィオラは友人っていたのに、ロイは深い絆のある仲かもしれないって言ったのに、兄より優先してもらっているのに感じ悪い!


「貴女は好きなの? ウィオラのこと。好きならどこが?」


 どこがって一年も一緒に働いてウィオラの良いところも分からないってこと?

 そんなのすぐに分かるのに。


「ウィオラ先生の長所はすぐ分かるのになんで聞くんですか?」

「聞きたかったので」

「それなら言いますけど、皆に優しいし、楽しいし、お洒落だし、ちょっと変だから面白いし、物知りだし、お兄さんのお世話をして支えてくれているし、琴も三味線も歌も踊りも凄いし、そういうこと以外に礼儀作法などお手本になるところが沢山あります。嫌いになる人は嫉妬して八つ当たりしたりする意地悪な人です」

「そう。ウィオラってなんでも持っている人ね」

「なんでもは持っていないです。そんな人はいません。世間知らずだからお店で値切ることも知らなかったし、しましま蛇を見つけられないから河原に一人で行くのは禁止ですし、ルルやユラさんみたいなすこぶる美人ではなくて普通にかわゆいくらいで照れ屋過ぎるから……」

「待って」


 微笑んでいたユラが少し顔をしかめた。


「なんですか?」

「貴女がウィオラを世間知らずって言うの?」

「先生は勉強は出来るけど分からないことが沢山あります。たけのこ堀りなのに斧で切ると思っていたり時々変なんです。斧だと掘れないって言うたらそもそも掘るんですねって。ウィオラ先生も箱入りお嬢様はダメですねって言いますよ」

「そう。ねえ、貴女が人生で一番辛かったことって何?」


 急になんの話だろう。


「一番辛かったこと……。一番……難しいです。ルカお姉さんが難産で死ぬんじゃないかと思ったこと、高熱になった時、リルお姉さんが消えて帰って来なかった時、お兄さんが出張って言うて出掛けていつもと違って全然帰ってこなくて帰ってきたら包帯だらけだった時、お父さんが捻挫した足を間違って踏んだ時……。お母さんが誰とも口を聞かないくらい怒った時……他にも色々あるけどその辺りが横並びです」

「リルお姉さんが消えて帰って来なかった時だけ分からないのだけど何かしら」

「私は六歳で毎日一緒にいたのに急にお嫁にいったんです。一週間で結納して三ヶ月花嫁修行をして秋に祝言で会えたのは年末です。挙式は見ました。教えてくれなかったから知らない人だと思っていましたけど。暴れてうるさいから秘密にされました。現に姉ちゃんがいないって暴れて騒ぎまくりでした」


 ずっと怖い目をしていると思っていたけど今の彼女は寂しそうに笑っている。いつからこう変化したのだろう。


「高熱が出た時は家族皆が心配してくれました?」

「はい。でも皆でもないです。うつって寝込んだレイやお母さんは……お父さんの時もあったしお兄さん二人の時もありました。リルお姉さんとルルだけ全然風邪をひかないです」

「末っ子なのにルルやレイってお姉さんは呼び捨てなんですね」

「ルルはお姉さんだけどお姉さんっぽくないところが多いのでルルです。レイは末っ子です末っ子。甘えただし自分が中心がええ性格でうんと世間知らずです。嫌いな勉強をしないからルルに怒られて勉強させられています。甘やかし係みたいなお父さんでさえ怒ります。ルルは皆に世話焼きされてばかりだけどレイにだけは世話焼きです」

「そうですか。私はそろそろ眠いので寝ます。失礼します」


 そうなのか。結局私はユラから聞きたいことを聞けなかった。彼女は微笑んで軽く会釈をして立ち上がった。


「あの、すみませんもう一つ。ウィオラ先生はお兄さんを好きですか? 婚約してくれたし毎日会いに行ってくれていたから好きは好きだと思うんですけどどのくらいですか?」


 ユラに問いかけたら彼女は私を見下ろして顔をしかめた。


「どのくらいって、人の気持ちをどうやって測るのですか?」

「この友達くらいとか、妹の半分くらいとかです」

「恋慕は友情や家族愛とは異なるはずだから比べられないと思いますよ」

「そうなんですか? でも家族になるから家族とは比べられそうです。家族になれるぞ、と思って結納して家族と横並びだから大丈夫って祝言するんですから」

「友人も家族も居ない人は何と比較するのでしょう」

「えっ」


 友人も家族も居ないなんて人がいるの?


「そんな人いますか? 親がいないと生まれてこないです。親が一人っ子同士で祖父母も亡くなっていて両親が死んでいて一人でも、誰かと助け合わないと生きていけないから誰かいそうです。親に捨てられてもそうです。捨てられても親はいます。嫌いなのと比較できます。嫌いの逆って」

「嫌いの逆?」

「こんなに嫌いな人とは正反対。つまり大好きってことです。大好きを並べたらどのくらいか分かって、うんと大好きまでいくと優劣がつかないのでそれはそれ、これはこれです」

「貴女、愉快ね。こう、思い込みが激しいっていうか視野が狭くて。世間知らずってお嬢さんみたいな人のことを言うのよ。でもあまり不愉快じゃなくて面白かったわ」


 そう言い残してユラは部屋から出て行った。ウィオラが出したお茶を一口も飲んでいない。


(……大人びているって言われるのに逆のことを言われた!)


 寂しそうなのがなんだか気になって私は彼女を追いかけて部屋を出た。


「あの。なにが寂しいんですか? ウィオラ先生とは友達になれませんか? 知人なんて、先生きっと悲しみます」


 振り返ったユラは三日月の灯りの下にいるのにまるでここには居ないような錯覚がした。


「貴女には友人が沢山いる?」

「沢山はいないけどいます」

「それなら友人ってなにかしら。知らないから教えて下さい」

「えっ……。知らない? 知らないってなんですか?」

「辞書には対等に親しくしている関係を指すって書いてありましたけど、対等に親しいってどういうことですか?」

「友人は友人です。一緒に遊んで楽しく過ごしたり、辛い時は元気になるように助けたり、悩みを聞いたり……」


 違う、みたいな目で見つめられているから声がどんどん小さくなっていく。

 友人ってなに?

 対等に親しい……対等ってどういうこと?

 相手と優劣がなくて同じ程度のことを対等という。友人と自分に優劣はないからその通り。

 でも女学校に通う私と見習いを始めた幼馴染には優劣……ではなくてどちらにも良さがあるから優劣とは異なる。私は父の背中を追いたくなっても出だしが遅いし幼馴染は女学校の範囲の勉強を知らない。でも知らない世界同士の友人だから教え合える。

 友人だよな。私は自分が友人だと思う人達を思い浮かべて並べてみて私と相手に優劣なんてないなと確認。家など優劣はある気がするけどそれはそれ、これはこれな気がするけど対等に親しい関係が友人?

 私は私に友人がいると言ったのに指摘されて定義を突きつけられたら混乱してきた。


「面白いから私とウィオラが友人なのか決めてくれる? 話しをするから」

「友人かどうか決めるのはウィオラ先生とユラさんです。そうです。対等に親しいはお互いが決めるってことです。色々持っているものは異なるけど相手をバカにしたりしてなくて楽しかったり助け合ったりです」

「分からないの。友人なんていたことないから。家族も居ないわよ。私には金しかない」


 友人も家族も居ない。そんな人いますか? って目の前にいたかもしれなくて、それで私はそのユラにその言葉をポイって投げた。

 これは私にはあまりにも衝撃的な事態だ。

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