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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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日常編「幼馴染4」

 私はいつの間にか寝ていたようで「リル、リル」と体を揺すられた。合間机にいたはずなのに実家の部屋にいたので夢? と思った。


「起きたわね。あんたが飲んで寝るなんてびっくり」

「美味しい美味しいって嬉しそうだからつい飲ませ過ぎたというか注意しなかった。俺が悪い」


 私を起こした母に水の入った湯飲みを渡されたので水を飲む。ネビーはレイの間に座らせて二人で本を読んでいるように見える。

 情報通と褒められて嬉しくてついつい「どうぞ」と誰かにお酌されるたびに飲んだ結果、私は寝たようだ。


「リル姉ちゃんが起きた! 姉ちゃん、急に寝ちゃうからびっくりした。リル姉ちゃん、遊ぼう」

「レイ。リルはもう帰る時間。疲れていたみたいだからまた今度。そろそろリルは帰らないと。もうトランプで遊んでもらったでしょう?」

「母ちゃんの言う通りまた今度。その今度は木曜だ。さぁ、レイ。今日は月曜だから木曜は何日後だ? リルとたけのこ掘りに行ける日だ」

「えーっと、明日は火曜……火は水で消えて水があると畑に芽が出るから()だから木曜日!

いち、に、さんにち!」

「さんって漢字は横棒三本。みっかって呼ぶ。三日月の三日」


 その時は覚えなかったけど似たような説明を昔ルカがしてくれたな、と思い出す。


「なんでさんにちの月なの? 猫の爪月じゃなくて」

「なんでだろう。寺子屋の先生に聞いて兄ちゃんに教えてくれ。先生も知らなかったら物知りのロイさんに聞いてみる。ん? その前にリルは知っているか?」

「ううん。知らないから旦那様に聞いてみる」


 帰り支度をしていたらネビーに荷物が多いから送ると言われて母に荷物をまとめといたと言われてネビーがカゴを背負った。


「一人で帰れるよ」

「これは重たいし日も暮れてきたから。前のお前なら透明人間みたいに無視されただろうけど、今の小金持ちそうな奥さん風だとスリにひったくりに通り魔って狙われる」

「その通りで前よりも今のあんたの方が危ないから送ってもらいなさい。木曜はお父さんも行くかもしれない。大きな注文が入ってあんまり家に居ないけどリルと会えるならって働く時間をずらしそう」

「分かった」


 木曜に会う約束と月末、私は誕生日だからその日でお嫁さん仕事はお休みと言われていて家族で海へ行って潮干狩りの予定を再確認して今いる家族に別れを告げて我が家へ向かった。

 去年はルカとジンが休みで私とルル達と潮干狩りに行ってお祝いのアサリご飯を作ってくれたし、父は仕事の合間にたけのこ掘りをしてそれも夕食に出たし、母はどこからか「貰い物」と飴をくれた。綺麗な飴だったからルル達で分けてと渡したらすごく喜んだ。


「兄ちゃん、この後寝て出勤なら制服で家に来たら? 夕飯をごちそうするし家で寝たら?」


 土手へ登る階段のところで気がついた。


「いや。帰って稽古に行くからええ。稽古道具と道着と制服とこの荷物は待ちきれない。酒を飲んだから勉強は明日にする。頭を下げて脛をかじって仕事一筋にさせてもらうことにした。前もそうだったけどもっと。金の心配はもうないから仕事の役に立たない日雇いはもうしない」

「そっか」

「悪いけど俺、ロカは女学校に入れるから。ロイさんに相談中」

「うん。悪くないよ」


 帰ってくるなと言われていたけどそれは簡単に逃げるな、ということで私には帰る部屋はあった。さらには離縁時用の貯金もあったと発覚したけどネビーとルカとジンに頭を下げられて私はその貯金を放棄。

 ネビー、ルカ、ジンと四人で話し合った結果だ。

 ルーベル家はルル達三人が区立女学校卒くらいにはなって欲しいし私が跡取りを産んだら人手も欲しいし跡取り息子の嫁の家族はこう、と話す時に恥ずかしくないようになって欲しい。

 そうなると必要なのは教育費として使えるお金は両親が自分達が早逝した時用に貯めてきた子ども達それぞれの貯金とネビー達成人組の貯金。

 両親が耐えられる貧乏はさせると節約しまくって子ども達用に蓄えていたとか、部屋を買っていたなんて私達は知らなかったけど親戚付き合いをする流れで知って成人している兄妹で色々話し合い。

 私が離縁したら、両親が早逝したら、ルーベル家はなにをして欲しいのか、ネビーとルカとジンは親や妹達をどうしたいのか、そういう家族についての話し合いは私は人生初だった。


「ルルとレイにも悪いけどあいつらは中途半端に学校に編入させてもイマイチ。前に一緒にテルルさんに聞いたよな?」

「うん」

「また手紙で聞いたらロカが通ったら学校で教科書を写本するからそれを使ってルカもルルもレイも勉強出来る」

「そもそも私が使っている教科書を写本して勉強出来る。私も簡単なことなら教えられる」

「お前は家事があるからテルルさんな。それでそれをしてもらうのにはまずルルとレイは礼儀正しくならないと。母ちゃんが鍛える」

「うん。私が終わったから放置気味のルル達だったって聞いた」


 私ばかり怒られてとか、ルカと私ばっかりみたいな気持ちがあったけど優先されていたとは知らなかった。

 言ってくれないと分からないことは沢山あって成人したら色々聞くから去年から驚くことばかり。


「あの肝っ玉母ちゃんがテルルさんの手紙を読んで怖えって言うてた。笑っていたけど。ばあちゃんは放任主義だからばあちゃんが増えたみたいって言うてるけど母親同士だからばあちゃんみたいって言うなよ。なんか嬉しそう。まぁ、親父も母ちゃんも頼れる親戚ってこれまで居なかったからな」


 土手沿いを歩きながらヘラヘラ笑っていない珍しいネビーの横顔を眺める。

 先程までペラペラ喋っていたのに今は無言で笑顔でもない。ネビーはたまに黙り込むのでその時に何を考えているのか分からない。


「あのさ、兄ちゃん」

「ん? なんだ」

「忘れてた。これ、イオさんから預かった手紙。女の人から何かのお礼の手紙だって」


 懐から手紙を出して差し出したらしれっとした顔で受け取られた。歩きながら手紙を読み始めたのでソワソワする。

 兄は顔をしかめて手紙を端から細切りにし始めて切ったものを封筒に入れていく。


「何してるの⁈」

「もう読んだから」

「破るなんて酷いよ」

「気持ちに応えられない時点で相手からしたら酷い男なんだからこれでよかだ」

「……お礼の手紙じゃなかった?」

「お礼の手紙だけどそれだけじゃない」

「……そうなんだ。あの、きっと悩んだよ。どう書こうとか、どう渡そうとか……」


 ロイに手紙を書いた時のことや渡した時のことを思い出したので、ネビーみたいに破られていたらと考えたら悲しくなってくる。


「全員そうなんだからそれを理由に返事はしない。感謝だけの手紙なら保管したいけど場所がないからそっちも余程でなければ捨てる。ありがとうって気持ちを受け取れて相手が元気ならそれでよかだ」

「返事はしないの?」

「返事が来たと思ったら気持ちには応えられませんって内容だと余計に傷つく。俺はそう思うから返事はしない。心に響く言葉があれば別だけど。この手紙だと素性不明っていうのもある」

「素性不明なんだ」

「多少は書いてあるけど足りない。返事が来ないって突撃してこないなら他の男で良いって事だから別に」


 淡々とした声を出すとネビーは千切った手紙を封筒の中にしまって懐に入れた。後で売りにだすのだろう。


「でも……」

「目の前で破ったりはしねぇよ」

「うん。そんなことしたらよくない」

「なんだその腑に落ちないって顔は」

「だって、返事がこないのも悲しいよ……」

「だろうな。返事をしても悲しむから同じだ」


 喋らなくなったネビーに何を言って良いのか分からないので二人で並んで歩き続ける。

 人にぶつかりそうになったら教えてくれ、と言われて何かと思ったらネビーは片手で本を持って読みながら歩き始めた。

 本に目を落として前を向いて本を指でトントンと叩くのを繰り返している。


(歩きながら勉強するんだ)


 夕焼けに染まる街を眺めていたら懐かしい人物が前から歩いてくるのが見えてドキリとした。


「おお、ニックじゃないか。お疲れ様」

「おお、ネビー……とリルちゃん。こんばんは。いやこんにちは? 今ってなんだ?」


 お弁当の恋人と一緒にいたのを見たのが最後で、嫁いでから何度も実家に行っていて二回見かけたけど話さなかった幼馴染がネビーの前に立って困り笑いを浮かべている。


「こんばんはにしとけ。俺、腹が減ってそこの魚の串焼きを買ってくるからニック、リルをちょっと見てくれ。今のリルはひったくりの餌食になりそうだから護衛。臨時収入があったからお前の分も買ってくるから頼む」


 ニックも私も返事をしていないのにネビーは遠ざかっていった。


「……」

「……」


 ニックが何も言わないから私も話せない。

 淡い失恋をしたと思っていたのに昼間のイオの言葉が引っかかっている。


「あのさ。前に長屋に遊びにきた時にルルちゃん達と歌っていた桜、桜って歌って何?」

桜吹雪(おうふぶき)って歌。桜の吹雪って字で万年桜の曲だよ」

「万年桜って春に寺子屋で習ったあれか。ザッとしか知らないけど。曲の調べは聞いたことがあるけど歌は知らなかったから気になってた」

「寺子屋?」

「うん。俺、ネビーを見習って勉強しようかと思って特別寺子屋で文学勉強とかしてる。そこそこ金がかかるから張り切って仕事中。今日はその寺子屋に行く日だったからこの時間に帰宅」

「楽しい?」


 これが去年の今頃ならニックはきっと特別寺子屋で教わった楽しい話を私にしてくれただろう。

 ニックの話し方は前よりも遅くなった気がする。


「……あのさ。俺、リルちゃんはお喋りだったんだなって思った。春に編み物の話とか聞こえてきて楽しかった」

「トン達と飲んでたね」

「うん。だからさ、今度は夜に遊びに来てアイシャとかと飲もうぜ。酒無しでもええし。編み物の事とか万年桜の話も聞きたいし、結婚して元気かとか……。あとさ、言うてなかったから。言わないとって思ってて言いそびれたからおめでとう。幸せそうでなにより」

「……ありがとう」


 笑いかけられたけど困り笑いだし少し涙目に見えるので困惑。


「幼馴染だけでの結婚祝いをしてないから皆でするよ。俺が声を掛けてあとはネビーに言えばリルちゃんと予定を合わせられる。それでさ……だから俺の時もよろしく。ネビーと人を集めて祝ってくれ」

「うん。ごちそうを作る」

「その後に話したいことがあるっていうか、笑い話っていうか……俺、遅刻するから行くわ。ネビー! 俺、急いでるからもう無理!」


 叫んでネビーが振り返るとじゃあね、とニックは私に手を振って走り去った。

 何も買ってないネビーがゆっくりとした足取りで戻ってきた。行こう、と言われたので再び歩き出す。


「あいつ、何か言うてた?」

「おめでとうって言うてくれた。幼馴染達でお祝いしてくれるって」

「なんか話したそうだったから二人にしたけどおめでとうにお祝いかぁ」

「あのさ。今日、イオさんがニックは私に袖振りされて引きこもったって言うた」

「あの恋人の方かと思ったらそうかもって話を聞いてどっちか分からないし傷口に塩だから本人に確認してない」

「噂、なんで私なのかな」


 噂はたまに間違っているし元々の話から変化することもあるあるなので何がどうなってそうなったのだろう。


「お前に振られたのと恋人に振られた……恋人じゃないって言うてたな。節約で弁当をもらっていただけって。でもアイシャやスーには恋人って聞いたんだ。リルをくれって言うといてすぐに女を作ってムカつくからあいつとはあんまり付き合わねぇと思ったけどやっぱり幼馴染は許しちまうな」

「……えっ」

「あいつ、男は知識だ賢さだって言い出して俺と同じく文学とかの勉強をしてて前よりも気が合うから余計に。あっ。イオに言いそびれた。俺は忙しいからまずはニックに聞けって。お嬢さんと話すには文学とか、龍歌とか、流行りとか色々あるだろう?」

「イオさんがらぶゆの人はお嬢さんなの?」

「俺が聞いている感じだとお嬢さん。平家だけど仕事が写師でイオの話す内容からして大人しい文学を好む女性だから。リルが寝た後にイオに相談された本の内容、あれは多分末の松山って話だと思う。この間ロイさんに突っ返された文通練習の後に調べた話」


 ニックの話から遠ざかってしまったけど私はもう彼と縁を結びたいという気持ちはなくて、でも楽しく話してくれていた優しい幼馴染だから「おめでとう」と祝われて、将来「おめでとう」と笑い合えるのは良い未来だと思うから深掘りしないでおこう。

 ロイがこの話を耳にしたら私に何か尋ねるだろうけど私も知らない話、と言うだけだ。


「という訳で悪いけど寄り道するぜ。その女性のお見舞いに行く」

「えっ?」

「火傷は可哀想だしイオは気のええ奴だから誤解があるなら解いてやりたい。あいつが自分からなんて無かったし、しかも恋人にしたいって真面目なことを言うのも初」


 ネビーは「確かこっち」と歩いていつも違う道を歩いて途中で知らない人の家に声を掛けて芍薬(しゃくやく)を貰って病院へ向かった。

 片手と片足を火傷していてお金が気になるから退院しても良いけど家事も生活も大変なので入院していた方が楽、ということで彼女の入院費はイオが払っているという。


「入院費を払うから俺と会えってなんつう口説き方だと思ったけど、彼女の両親は感謝してるし命の恩人に惚れられるのもええって。火消しの嫁は平家では取り合いだけど大体親戚とか組の中で縁を回すから外嫁は難しいし」

「でもミユさんは話してくれないんだ」

「俺と同じくバカだからなんか余計なことを言うたんだろう」


 病院に到着して私は病院の入院するところといのは初めてなので勉強だと思って周りを観察。

 介護師に写師のミユという女性のいる大部屋へ案内してもらって一番手前の布団の近くの畳の上に上がった。


「こんばんは。初めましてミユさん。ハ組イオの幼馴染のネビーって言います。帯刀は地区兵官だからで許可証があります。隣は妹のリルです。お見舞いにきました」


 ネビーはミユに身分証明書をサッと見せた。知らない人にお見舞いだからこうするんだ。


「こんばんは。お二人ともありがとうございます」


 わりと無表情で丁寧なお辞儀をされた。顔も首も手当てされているので私と同い年くらいのに目立つところに火傷とは悲しくなる。

 私と違って垂れ目だけど同じ地味顔仲間。イオが同僚を庇って火傷と言っていたように優しそうな雰囲気や目をしている。


「こんばんは、リルです。お花とみかんをどうぞ」


 お見舞い品は私から渡してくれ、と言われているのでその通りにする。

 

「花はイオからで立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花っていうので早く立ち姿を見たいから芍薬だそうです」


 さっきネビーが貰ってきた花なのにこう言うんだ。


「……。ありがとうございます」

「あいつ、必死で面倒だと思うんですけど悪い奴じゃないんで元気になったら助けてもらったお礼にお茶くらいしてくれたら嬉しいです。お嬢さんには付き添いがいるとか、二人では出掛けられないとかきちんと教えておくんで」

「あの。ご友人なら困るというか迷惑ですと伝えてくれませんか?」

「言うても無駄なんで言いません。百回断られても口説くって言うていますから。接近禁止命令を出したい程ならどういう被害があるのか記録をして屯所に相談して下さい。裁判へ回すので」


 ミユは目を大きくして無言。


「リル、行こうか。付き合ってくれてありがとう。では失礼します」

「火消しの遊びに付き合いたくないです! 彼らと縁のない私にとっては非常識行為です。そういうのは訴えられませんよね? あの方、別に悪いことはしていませんから……」

「いえ、訴えられますよ。女性は基本的にか弱いんで有利です。そこまでしたくないのなら、お見せしたように自分は地区兵官で兄は裁判所勤務で父は煌護省勤めなので六番隊のネビー・ルーベル宛に非正式な陳情書でも対応します」

「あの、そこまで大事(おおごと)では……」

「火消しの火遊びは寄ってくる女と無責任にちゃらちゃら遊ぶことで地元の女やそれを分かっていない女にはしません。地味子ちゃんを口説き落としてバカにするとか、誰が早く落とせるか勝負とか、そんなのは逆に皆でボコボコにします」


 そうなの?

 火消しは寄ってくる女性と無責任にちゃらちゃら遊ぶの?


「無責任に遊ぶのですね」

「ええ。だから俺は妹達を火消しの嫁にはしたくないです。あいつらにいつも説教をしています。聞く耳があるから年々地味になっています。本人に確認したらきちんと話しますよ。あれこれ隠して騙し打ちするような奴ではありませんし、あなたのような雰囲気のお嬢さんとは遊びません」


 立ちかけていたネビーは再度腰を下ろした。


「あっ、文通お申し込みからがよかですか? そもそもお嬢さんとはそうした方がよかだからそう言うておきます。いつもの調子なら褒めたり触ろうとしたりしているんでしょうから」

「……それです。あの方、あの方は街中で見知らぬ私の頬にきとすをしたのです! 今も手に触れてきたり髪にも触りますし……」


 ⁈


「……はあ? あの野郎。かわゆい淑女そうなお嬢さんになにをしていやがる。そうなると話は別です」

「急にぶつかってきて、ただ驚いていただけなのに見惚れたなんて勘違いを。しかも覚えていないのです。あのような自惚れ屋で女性の貞節を何も考えない方は嫌いです」

「……」

「なんで私はあのような方に助けられたのでしょう。あの方がいなかったら火だるまでした……。他にも火消しさんはあの場にいたのにどうして……」

「あー。帰ります。夕食の支度があるので帰らないと。失礼します」


 ネビーの行動は早くてもう部屋から出て行こうとしている。


「あの、お大事にして下さい。失礼します」


 大部屋を出て廊下を歩いていたらネビーは髪の毛を掻いて「なんだイオのやつ。脈ありじゃねぇか」と口にした。


「えっ、嫌いって言われたよ」

「自分の価値観ではダメ男って思っているけど惹かれてるって感じだ。本気で嫌なら大事(おおごと)ではないなんて言わねぇよ」

「そうかな」

「違かったら慰め会だ。これでイオが気にかけている女がどういう感じか分かったから助言しやすい。雑でもよかな相手はともかくイオに頓珍漢(とんちんかん)な事を言いたくない」

「慰め会……。おめでとう会もする?」

「そりゃあ、どっちもする」

「今日二回もお祝いしてくれたから私も参加したい」

「二回? 二回ってなんだ」

「お祝いって、お昼に天丼と梅酒をご馳走してくれた」

「へぇ。あっ、イオにもう聞いたな。あいつ、いなり寿司がすこぶる好きだからお祝いの時はいなり寿司を作ってくれ。ちゃんと集金するから」

「うん」


 この後、病院を出たネビーは再び歩きながら勉強を開始。

 今日のイオは優しかったし、楽しい話などで怪我の辛さを誤魔化してあげたいと一生懸命人に尋ねて覚えようとしていたので私も少し彼を応援しようと思う。

 ネビーへの手紙に花言葉について書いたら花を贈るかもしれないのでまずはそれだな。


「あのさ」

「ん? なんだ?」

「兄ちゃんにはいないの? 恋人」

「なんだ急に。いないけど。いたらガイさんにそのうち縁談を下さいとかロイさんに将来のお見合いの為に雅な文通の練習をさせてくれなんて言わないし、紹介してお前ら仲良くしてくれって言うてる」

「昔はいた?」

「いない。自分は既婚者だからって俺をバカにしたいってことか? このやろう」

「違う。単に興味」

「卿家の奥さんになったから、そのうち俺にお嬢さんを紹介しろよ。早くても二十六歳だからまだ何年もある。だから無理だったとか誰もいなかったとは言わせねぇぞ」

「うん」

「遅いと三十歳か。俺の人生は七十年はあるはずだから人生の半分以上を嫁ありで過ごせれば問題ない。六人は多いから三人がよかで女の子は嫌だ。五人嫁にいった後にさらに三人嫁にいったら白目」

「私は姪っ子がええ。甥っ子がいるのもええけど」


 ルル達としたみたいに髪の毛をかわゆく結ったり花遊びをしたりしたい。


「ルカとジンの子は男か女か賭けようぜ。俺は男。リルは女。勝った方が先に甥っ子か姪っ子を抱っこだ」

「うん、ええよ」


 我が家へ向かいながらネビーは本で勉強しつつ、私が質問すると雑談してくれて、時折ネビーに人が話しかけてきたり挨拶をした結果、私の荷物に長芋が増えた。

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[一言] あ!賭け、リルちゃんが負けてるのにリルちゃんが先にジオ抱っこしてる!(笑)
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