日常編「幼馴染1」
今週金曜の夜に義父の部下が我が家に飲みにきて泊まって翌日一緒に出勤するというので義母と共におもてなしを考え中。
「茶碗蒸しを自慢したから茶碗蒸し、と言っていたけどいっそ全部決めてくれないかしら」
縁側に座って洗い終わった桜の軸取りをしている義母は「うーん」と小さく唸った。私は台に登って洗濯物を干しながら思案。
「その桜の塩漬けも使いますか?」
「お父さんは桜の塩漬けを使ったものが苦手。私は桜ご飯が好きですけど」
「エイラさんに相談してご飯を半分こする作戦を実行します。お義父さんは白米でお義母さんは桜ご飯です」
「それはどうも」
この家族はこうなのにこっちはこう、と面倒そうなエイラと私はたまに食費を同じだけ出してお裾分け作戦を始めたからその応用。
ブラウン家は味の好みにはうるさくないけど煮物の具材の種類や硬さなどにうるさくて、我が家は味の好みにうるさいけど煮物の具材の種類や硬さにはうるさくないのでそういうことが出来る。
「あっ。たけのこ掘り。とっくにたけのこ掘りの季節です。掘りに行ってたけのこ祭りはどうですか?」
「掘りに行ってって、あなたはまたそういうことを。どこへ行くのですか? 山へは行かせません。また熊に遭遇したらどうするんですか」
「行くのはひくらし関係の竹林です。間引きの意味も含めてこのくらいは掘ってええと言われます」
「ああ。ひくらしさんの。それなら家族で行くって事ね」
「はい」
私の掃除で家中綺麗だし今日は自分の調子が良いから縫い物はするので実家に行ってたけのこ掘りを出来るか聞いてきて、と頼まれた。
お昼は勝手に朝のご飯の残りをお茶漬けにするから何もしなくて良いという。
竹林関係者が家族友人知人などに売ったり配るからたけのこは八百屋にさあまり流通しないそうで高い。
私はいつも無料だったたけのこの値段の高さに昔から驚いていた。
たけのこ掘り後は食べない分のたけのこを売って代わりに色々食材を買ってもらえたので春はとても好き。
洗濯を干し終えて、支度をした後に家を出て実家へ向かった。
「こんにちは、ルーベルさん家のお嫁さん。買い物でしたら一緒に行きませんか?」
初めて祓屋以外でオーロラに会って、具合が悪くて不機嫌ではなくて、にこやかな彼女は初めてなので戸惑う。
「すみません。実家へ帰るところです」
「竹細工屋さんでしたっけ? それならこのくらいのザルが壊れて修理に出すところだったので修理をお願いしても良いですか? 今とってくるので」
「一緒に行きます」
オーロラの家へ行って玄関口で待ってザルを受け取って自分のカゴに入れた。
「前に別のザルの修理を頼んだらこのくらいだったので。足りなかったら言ってください」
「はい」
お金を渡されたので受け取ってお財布にしまって再出発。
実家までは早歩きだと一時間かからないけど疲れるからのんびりめに歩いて一時間強くらいが目標。
天気が良いし風もほどほどに吹くから歩いているだけで心地良い。
なぜか知らないけど途中、ぶち猫が私のそばにきてついてくるので猫と散歩みたいになった。
!
いきなり若い男性に顔を覗き込まれたので後退り。背が高くて茶色っぽい長めの髪の上半分を前髪ごと後ろで結んでいる髪型。おでこはそんなに広くないけど狭くもない。
目はきっくり二重まぶたで大きめでのっぺり顔の私と違って目鼻立ちがはっきりしている。
(何? ぶつかっていないのに難癖?)
じりじり後ろに退がったら彼はニコッと笑った。
「やっぱり。リルちゃんだろう!」
名前を呼ばれたから知り合いのようだけど私は彼が誰だか分からない。
「どちらさまでしょうか……」
「えっ? 分からない? イオだけど。そりゃあ最近っていうか結構昔から話してないけど、ちょこちょこ顔を合わせることはあったよな? 最後に会ったのはいつだっけ?」
名前を言われて誰だか分かった。父の友人、火消しラオの息子の一人でかつてネビーと同じ寺子屋に通っていて、そこから火消し見習いでも一緒だったからネビーとうんと親しい私達の幼馴染。
「服と髪型で分からなかったです」
「この着物は新しくかった。髪型は最近流行りらしいから結んでみたけどどう思う? っていうかどこへ行くところ?」
一度に二つも質問しないで欲しい。
「いち……」
「俺は用事帰りで夜勤前にネビーに会いに行こうと思っていたところ。休みなのか仕事なのか、仕事なら何勤務か知らないけど帰り道みたいなところだから見に行けばええかって。何?」
会話に入れなそうな時は手をあげてみる実験。学校では発言する時に手をあげて「どうぞ」と言われてから話すと聞いたので。
「喋るので待って欲しいです」
「分かった」
「一度に二つの質問は大変です」
「一度に二つの質問? そんなことしたっけ? あっ。したな。最後に会ったのはネビーの誕生日祝いをしてやるってあの長屋で飲んだ時だと思って、髪型はなんか反応が悪いと思った。どこへ行くのか聞いたけど、その前に俺はなんだと言いたくて喋り続けた。ごめんね」
喋らなくて文句を言われることはあったけど、逆にごめん、という言葉を聞くことがなかったので衝撃的。
(やっぱり私も話す努力をしなかったから……)
「いえ」
「それで俺はネビーのところだけどリルちゃんはどこへ行くの? お嫁にいって家はここらじゃないから実家かなって思った。つまり目的は同じじゃないかと思って。通り過ぎてから、ん? このネビーみたいな顔は見覚えがあるぞ。でもこんなにかわゆかったっけ? って悩みつつ」
火消しは口が上手いので褒められたら全部お世辞だから聞き流せ、と言われて育ったけどかわゆいと言われると悪い気はしない。
「はい。実家へ行きます」
「なら一緒に行こうぜ。昔は一緒に遊んでいたけど全然話さなくなったよな。レオさんやネビーが火消しは若い女にはばっちい、みたいに言うて遠ざけるから。酷い話だよな。あっ、荷物持つよ」
そう告げるとイオは私からそっと手提げとカゴをとって持ってくれた。一年以上ぶりに会ったし、最後に会ったのは温めたお酒の入った徳利を渡しに行った時に「ありがとうリルちゃん」という言葉をもらったのが最後。
しっかり話した記憶はもっと前で兄への伝言を預かっただけ。
もっと昔になるとようやく兄も交えて一緒に遊んでもらって、足が遅いとか、もたもたしているおちびちゃんは置いていこうとネビー達においていかれた。
遊びたくて兄達を追いかけて迷子になって探しにきた母に怒られた記憶がある。ネビーは「妹の世話をしなさい」ともっと怒られていた。
イオは鼻歌混じりで歩いてニコニコしながらついてくる猫に視線を移動。
「なんだお前。俺に懐いたのか? かわゆいから飼ってやるか。欲しい奴が誰かいるだろう。あっ、なんだよ。女好きのオスか」
猫が私の方に回ってきて裾に体を少し擦り付けながらついてくる。
「踊り踊れよ、よいよいよーい。花が咲いたら都は豊か。あいそれ、よよよ! よよよ! よいよいよーい」
「……」
いきなり歌い出した!
「かわゆい君達! 春でも火の用心だからな!」
歌い出したと思ったらイオは若い女性に手を振った。色男だからか女性二人組は頬を赤らめたけどコソコソ何か言いながら小走りで去っていく。
「あっ。仕事中じゃなかった。これじゃあ不審者だ。あはは。制服なら火消しさーん、なのに」
「……はい」
火消しって、イオってこんな感じだっけ。話してきていないから分からない。
「リルちゃんは相変わらず大人しいな。まぁ、顔がネビー似だからそれもそうか」
?
ネビーは大人しくない。
「兄はうるさいです」
「確かにあいつはうるさい。うるさいけど静かな時は静か。この間も遊ぼうぜって長屋まで行ったのに俺は妹の世話があるとか勉強があるとか相変わらず忙しそう。ネビーって昔から忙しいな」
この調子でイオは春花祭りに誘ったのに今年は妹達と行くと言って付き合ってくれなかったとか、最近付き合いが悪いとか、前からあいつは付き合いが悪いみたいにペラペラお喋りを続けていく。
(やっぱり私は地元というか元の世界の人達は苦手……)
話を聞くのは面白いけど私も話せた方が楽しいのはもう知っている。
その時、ぐううううううと私のお腹の虫が盛大に鳴った。
「……あはは。元気な虫の声。昼飯時だからそうだよな」
「すみません」
「昼飯はどうするつもりだった? 俺は何にも考えてなかった」
「私もです」
「おっ。ならさ。天丼を食べない? たけのこの天ぷらが食べたい。久しぶりに会えたし祝言祝いを何もしていないからご馳走するよ」
「あの、いえ」
「遠慮しなくてええよ。行こう行こう」
ネビー達年長者三人に言われて、義父母から助言を受けて貯金配分や生活費の使い方を見直した母は仕事をほぼ辞めたので母がいるはずだからたけのこ堀りの話をして妹達と少し遊んで帰るはずだったのになぜか特に親しくない幼馴染と天丼屋へ行くことになった。
「リルちゃん、好きなのを好きなだけええよ。あっ、ちょっと待った。今月の給与をまだ色々分けてなくて手持ち……は大丈夫だな。ちんまりだし大食いだって記憶もないから大丈夫」
イオは財布の中身を確認すると私に笑いかけた。私が彼と食事をしたことはないのに大食いではない記憶ってなんだろう。
「ありがとうございます」
「たけのこ、エビ……はやめてシロギス……。春野菜天丼にシロギスを追加しよう。リルちゃんは? あっ。リルちゃんってそういえば文字が読めないんだっけ。前にネビーがそう言ってた気がする。興味なさそうだから別の話をしてるって。上から読むから……」
話し続けそうなので私はまた少し手をあげた。
「ん? あはは。手もちんまり。俺は大きいだろう。っていうかあのリルちゃんが人妻か。イーちゃ、待ってってよちよちしていたのにエロいな。そういえばちょっと見ててって言われたけどリルちゃんはアリをずっと見て喋らないからつまんなくて置いてって怒られたことがあった」
手を重ねられたしエ……なんて発言をされて困惑。
イオの手はロイのように私の手よりもうんと大きいしロイよりも厚みがある。
「いえ、あの。話したかっただけです」
私は慌てて手を引っ込めた。
「話したかった? 俺と? いや、話してたよな」
「あの。タイミングです。私はもたもたしています」
「あー、そうか。言われてみれば俺ばっかり話してたね。もたもたかぁ。俺はせっかちだけどのんびりしたい人もいるよな。周りもこんな感じだからついつい。ごめんね」
また謝られた!
「いえ。十人十色です」
「じゅうにんといろ? なんだっけそれ」
「十人いたら好きな色は十種類あります」
「皆違うってことか。そりゃあそうだ。じゃあ上から読むからそれがええって言うてくれ」
「あの、読めます。漢字はたまに分からないけど他は完璧です。花嫁修行で勉強して今も勉強中です」
「おお。そうなのか。それならゆっくりどうぞ。俺はせっかちだから先に頼むけどのんびりでええよ」
そう告げるとイオは私にお品書きを渡して注文をした。お酒まで頼んだので驚き。
私はお品書きを眺めてご馳走してもらえるなら贅沢なものにしつつ、高すぎると悪いから桜エビとそら豆のかき揚げとシロギスにしてみた。
「なんだ。決めるのは早いな」
「はい」
「そういえば足もわりと速くなかったっけ? ネビーと顔が似ていると速いのか? って昔思ったことがある」
「自分では分からないです」
「このぐらいで喋ればええのか。あっ、ありがとう」
家でするから手がほぼ無意識に動いて、お酌をしたらお礼を言われた。
「旦那さん、裁判所のお役人さんだっけ。ネビーに聞いた。父親が俺らの親玉だからネビーの経歴も勤務態度も筒抜けで合格だから、養子にして出世の後押しになるような仕事を振ってくれるんだってな」
「はい。お義父さんは煌護省で働いています」
「俺ら火消しは役人なんて嫌いだけど、仲のええネビーがその嫌いな役人の養子って変な感じ。今後、役人に文句があったら全部ネビーに言うつもり。すこぶる感じのええ家族って聞いたけど実際どう?」
「はい。新しい家族もみんな優しいです」
「旦那さんはネビーと同じ剣術道場なんだってな。火消しの嫁は嫌だっていうのに役人には紹介するのかよってムカついた。あっ、俺はお断りっていうかリルちゃんをもらう候補には手をあげなかったから」
そうだと思う。
しかしふと思う。俺は、ということは火消しで私をお嫁にしたい人もいたの?
「弟が俺はネビーさんの弟になりたいって言うたけどレオさんが火消しは絶対嫌だって門前払い。親父、その件だけは怒ってる」
「……そうなのですか」
「俺もネビーと兄弟になりたかった。今も半兄弟だけどそれはハ組の若いのは皆だから。人気なのに火消しは最後の手段って酷くない? って思っていたけど他に出てこないだろうって親父と話してた」
「……」
「まぁ、レオさんに言われたからな。ネビー目当てはダメって。娘が欲しいじゃないとって。ネビー目当てなら下の娘が大きくなってからでもええのかって言われてそうですって言うた弟は怒られた」
「……。私はそのように不人気だったそうです。同じ家なら下の妹が大きくなってからがええって」
「そう? 今の旦那さん以外にもネビーの先輩が気にかけててお見合いすら出来なかったからしばらく落ち込んでたらしいし、ニックなんてまだ引きこもってるぜ」
「……」
ニック?
ニックはお弁当の恋人に振られて引きこもった、という話を前に聞いた気がするけど私?
「顔がルカちゃんみたいなら俺も手をあげたけどリルちゃんはネビーに似てるからさぁ。あいつを口説くみたいで嫌だ。こうやって喋るのはええけど。ネビーに逆も嫌だって言われる。友人が妹に手を出すなんてあり得ないって」
「そうなんですね」
……。
ニックの話が気になるけど聞けない。
「あいつは俺の妹に近寄るなって昔からうるさい。ルルちゃんがこのまま美女に育っても火消しはまた門前払いだろうし俺ら幼馴染の弟も却下だろうな。あっ、リルちゃんも飲む?」
「お酒は甘くないと苦手です」
「それなら梅酒かな? すみません、梅酒を水割り出来るようにして持ってきて下さい!」
飲む気はなかったのに注文されたのでこうなると残せない。言い方を間違えてしまった。
天丼はほぼ同時に来たので私は食べる時は無口だと伝えて黙々と食事。
イオは大盛りなのに私よりも速く食べ終わってお酒の徳利を追加した。
「無言で食べると味がしっかり分かってええかも」
私は小さく頷いた。
「なんか別にネビーのところに行かなくてええ気分になってきた。リルちゃんの顔がわりとネビーだから。居るか知らないけどこれ、渡しておいて。どうせ返事をしないんだろうけど」
少しはだけ気味のイオは着物の懐から手紙を出して私に差し出した。兵官さんへ、と書いてある。
「渡しておきます。誰からか言わなくても分かりますか?」
「多分。前に一緒にいたのを見かけました。お願いしますって、俺にじゃないのかよっていう。いつもは俺になのに。まっ。一週間遅いけど。今の俺はこういう恋文とか誘いとか興味なし」
「……これは恋文なんですか?」
「多分。照れながら渡されたから。お礼の文って言うてたけど中身は違そう」
兄に恋文……。つまり私に姉が増えるっていうことだ。
ん?
「あの」
「ん? 何?」
「どうせ返事をしないと言いました?」
「言うた言うた。いつもそうだよ。お礼なら今気持ちを受け取ったのであとは誰かに親切にして下さい。それで手紙を受け取らない。受け取って貰えないからこんな感じで周りに渡される」
「……兄の性格なら喜んで受け取って自慢すると思っていました」
「いや、全然。あいつ、好みが細かいっていうか理想が高いから」
「お嫁さんはお嬢さんといつも言うています」
「そうそれ。女学生や女学校の先生にデレデレしてて俺もまぁ気持ちは分かると思っていたけど良家のお嬢さん達って中々近寄れないんだな。喋ってもくれない」
不貞腐れ顔になったイオは「返事くらいして欲しいのに」とか「せめてこっちを見て欲しい」と言い始めた。
「……お嬢さんと話したいのですか?」
「まぁね。毎日お見舞いに行ってるんだけど無視されてる。俺は昔から結構人気者だからこんなことなかった。眉間にシワで一言も喋らない。ずっとなんか難しい本を読んでる」
「その方はご病気なのですか?」
病気の人にらぶゆは切ない気持ちになるし、相手の女性にもそういう気持ちがあるかもしれない。
「いや、火傷。この間火事現場から助けたんだけどその時にさ、目が綺麗だった。俺はあんな目を初めて見た。同僚を庇って燃えそうだったあの目の中は夏星で煌めいてた」
イオはデレデレ、ニヤニヤ笑い始めた。こういうのを惚気という。
命を助けてくれた人と話さない女性の気持ちは私には分からない。イオは嫌そうな顔になってお酒を呷った。
「本の内容が分かったら会話になるかと思ったからとりあえず勉強してそうなネビーに聞いてみようと思って。そうだった。リルちゃんと話したらネビーっぽいと思ったけど話し方が全然違うし俺の目的はそれだった」
お互い食べ終わったから行こう、と言われて会計を済ませてお店を出た。
並んで歩いている間、イオはまたしても歌い出したしまた若い女性に声を掛けている。
「病院のお嬢さんは他の方にらぶゆだときっと嫌です」
「らぶゆ? らぶゆって何?」
「すとき、です」
「すとき? すときって何? すてきのこと? 他の方に素敵。俺は十人いたら半分くらいの奴が素敵だ、火消しだ、頼れる男って応援してくれるぜ!」
話が噛み合っていなくて話し方が兄に似ている。
「す……きです」
「えっ。いやぁ、好みじゃないから困る。リルちゃんに好きって言われても俺はそそられないから無理。いやしようと思えばそこそこ色々出来るけどネビーにぶっ飛ばされたくないしネビーみたいだからあいつの顔を見てこいつに手を出したのかって思うとうへぇってなる。ごめんね」
「違います!」
本当に話が噛み合ってない!
「違うの? 火消しとして好きってことか。それはありがとう!」
「違います」
「えっ?」
「らぶゆは好きというような意味です」
「……そういう会話の流れってこと。分かりづらいな。リルちゃんって昔からこう、なんか変わっているもんな。顔が赤いけど暑い? 今日、結構暑いよな。はい、うちわ」
腰の帯にさしていたうちわを差し出してくれて優しいけどまたしても噛み合っていない。
「照れです。らぶゆは言いやすいです」
「あー。すときで好きってこと。好きって言うのは恥ずかしいからってことか。何それ。らぶゆは言いやすいって言いやすくても意味が分からないんじゃ相手に伝わらないぜ」
「はい。先に説明すれば良かったです。らぶゆはハイカラ語です」
「ハイカラ語? 俺は流行りにそんなに疎くないけど知らない」
「ロメルとジュリーです」
「ロメルとジュリーって何?」
「中央区でしている舞台です」
「舞台? おお、役人さんと結婚したから中央区なんて行ったのか。縄張り争いになるから俺らは他の地域にあんまり行かない。まぁ、海は行くけど。どういう舞台なんだ?」
私はイオにロメルとジュリーの話をすることになった。




