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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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お祭り散策2

 大シーラは身が熱くて揚げたてだからサクサクしていたしうどん自体も出汁も美味しくて満足。 

 雷小(らいこ)の串焼きはアジに似ていると思った。お腹いっぱいになって旅行料理も堪能して満足。


「ルシーさん。ゆっくり座れているのでここでお土産を渡します。まずこちらです。旅医者の友人から贈られた絵の模写です。異国の景色が楽しいです。模写は旦那様の友人がしてくれました」

「まあ……。こんなに何枚もですか」

「一緒に見ようと思って本物も持ってきました。こちらはエレイン編みの白銀月国です」


 それから流星国の街並み、ベネポランスの泉、フィズ様とお妃様の肖像、青薔薇のお姫様が暮らすアルタイル王国の街並み、遊牧民という人達のテントや羊達の群れの景色、ボブレルス国の砂漠から見た宮殿。


「うわあ。知らない世界ばかりです。ベネポランスの泉はシホクの絵でかなり類似したものを見た事があります」

「友人が書いてくれたその国の説明は私が写しました。なので読みづらかったらすみません」

「いえ。こちらはお金では決して買えないお土産です。ありがとうございます」

「手紙に書いたように私は去年から読み書きの練習をしているので楽しいです。でもルシーさんやお嫁さん仲間の字が綺麗なので恥ずかしいです」

「私も手紙に書いた通りお嬢様から下働きで戸惑うことが多いです。掃除の工夫を教えて下さり助かっています。このような話題提供もです」

「私はルシーさんから教えてもらえる春霞の局話でハイカラさんと呼ばれていて助かっています。次はこちらです」


 ルシーの仕事は炊事はしないけどいつか役に立つかもしれないし話題提供になるかも知らないので私が義母と作った異国料理やお菓子をまとめた筆記帳。これも中身をざっと説明。


「実家に帰った時にこのキャラメルを作って職場の友人に渡すと喜ばれる気がします。売っているキャラメルとは固さが違いました。柔らかめです。ふわふわパンケーキも切って配れます」

「リルさんは料理のことになると饒舌(じょつぜつ)になりますね。ルシーさん。妻はコツコツ写本したり工夫を考えて増やしたり楽しそうでした。ありがとうございます」

「ありがとうございますなんてそんな。リルさん。こんなに沢山ありがとうございます。こちらもどこへ行っても手に入らないものです」

「はい。節約庶民なので工夫することにしました。次はこちらです」

「まあ。まだあるのですか」

「はい。生活圏内にある浮絵屋で買った浮絵です。海と私の実家近くを流れるトト川の人気の景色のところと今大人気の火消しさんです」

「えっ。リルさん、火消しも買ったんですか?」

「旦那様。ルカが下街の色男を回し見したら楽しそうって言うたので買いました。私達が皇子様や官吏が気になるように逆もかもしれないって」

「こちらは、は、は、破廉恥(はれんち)です! 上に服を着ていません。まあ、殿方の胸はこのように逞しいのですか」


 ルシーはじわじわ顔を赤くした。私もこれは少し恥ずかしい絵だと思ったけど長屋周りで半裸は見慣れている。

 同年代だと照れるから少々目を背けたり俯くけど年配者だとふーん、ってなる。

 元服前後は隠していたネビーも、ここ数年は暑い夏真っ盛りだと半裸どころか(ふんどし)に腰巻だけでゴロゴロして母が激怒。父もするから二人とも怒られていた。


「旦那様も兄も剣術で鍛えているのでムキムキです」

「まあ。ロイさんは外から見ても体格が良いですが着物の下はこのようなのですか。そちらの兵官さん達もですか?」

「えっ。見ますか? 二度とないでしょうから見られたいです」

「バカ者。龍国兵としての品位を保ちなさい。すみません。農村区出身の成り上がり者でして」


 後輩兵官が先輩兵官に軽く殴られた。


「今のはまるで兄のようです」

「そうでした。そのお兄さんの件で父が本日ロイさんとお話ししたいと言っていました。見学席で並びですので話しかけられると思います」

「はい。義兄の件とは何でしょうか」

「リルさんに皇居暮らしに役立つことをうんと沢山教えていただいているけどお礼にお金は不粋ですし先にそちらのご両親から丁寧に手紙で断られました」

「そうなのですか。それは知らない話です。元々悩んでいたのもありますので、銀行はありがたく変更しました」


 ルシーは銀行の財閥令嬢だから我が家の銀行とレオ家の銀行を変更した話は聞いた。

 私は今回の旅行前にロイと銀行へ行ってその手続きの見学をしたのでドギマギした。安心したのは大金を持ち歩くことはなくてお金の移動は銀行間でやり取り。

 地区兵官は銀行から銀行やお店などに大金を運ぶ時の護衛をする役も与えられているからネビーは輸送強盗をぶっとばすことがあるとロイが教えてくれた。

 知れば知る程ネビーの仕事は危険のある仕事。心配したらお前はもう成人したから、と言われて毎年遺書を書いてあるから何かあったらルカとジンと三人で両親と妹達を頼むと言われて後でロイの胸で少し泣いた。

 そのようにルーベル家の嫁になって知って嬉しい話の他に私は知ったことで悲しいことや辛いことや家族、特に両親やネビーとルカ夫婦の悩みを知ることになってそれは複雑。


「ええ。両親からそのように伺っています。煌護省の役人さんや裁判官事務官さんに何かは無理ですが地区兵官のお兄さんへでしたらこちらの方々のように私兵派遣などをお礼代わりに出来ると思っているそうです。その話をされると思います」


 そうなんだ。私兵派遣されると旅行みたいだし特別手当も出て出世得点にも繋がる可能性があるとネビーに聞いた。

 なのでご近所さんに俺を自慢しろ、である。それはもう義父がしていてそういうことを通じてネビーはお嬢さん嫁を手に入れるかもしれないなんて話もあった。

 義母が養子でも息子扱いになるからご近所の娘さんと縁結びは絶対却下。

 自分が責任を持って良いお嬢さんをネビーの希望も含めて探すから同じ町内会はやめて欲しいのでこの町内会のお嬢さんに近寄るなと頼んでいた。


「あとルシーさん。最後は(かんざし)です」

「まあ、まだあるのですか」

「はい。手紙に書いたかぎ針編みで作った編み物飾りの(かんざし)です。編み物は私が作って他は姉が作ってくれました」

「このような編み物の(かんざし)は初めて見ました。お姉様が作成した……確かお姉さんは竹細工職人さんでしたよね。愛くるしいですしこちらはとてもハイカラです。ありがとうございます」

「手紙にも書いた通りかぎ針編みが流行り始めたら編み方の図を送りますね」


 ルシーへのお土産代は筆記帳代と写本に必要だった墨代。それからこの(かんざし)の土台をルカに依頼した代金。

 アレクへのお礼代は用意していたけど異国の絵を貸したことで消えるどころかお礼をもらってしまったので一緒に外食。

 私の交友関係とお小遣いの範囲で出来ることを一生懸命考えて今回のものにした。

 

「はい。それも楽しみにしています。こういう品物の先取りは褒められるけど異国刺繍のように何かを作るようなものの先取りは煙たがれました。先輩の顔を立てるのは大事みたいで難しいです」

「それは大変です。私の周りではハイカラはなんでも許されるから気楽です」

「こんなに色々いただくとは思っていませんでした。どうしましょう。こうなると私のリルさんへのお土産はあまり、です」

「いえ。気持ちで十分なくらいです。手紙がいつもお土産くらいの勢いです」

「それは私も同じです。リルさんの手紙の内容は同僚達に人気で人の輪に入れて楽しいです」

 

 そう言ってルシーが私に贈ってくれたのは美しくて沢山の花柄が刺繍された帯揚げだった。事前にやり取りしたはずだけどこれは高そう。


「お金をあまり使わないもの、ということで悩んで特技を活かすことにしました。帯揚げをリボンにすることが流行っていると手紙に書いてありましたのでコツコツ刺繍しました」

「ルシーさんが刺繍したんですか。私も大喜びですがこのような柄を知らないのでお義母さんも目の保養ですと喜びます。手本にもしそうです」


 うわあああ。私も義母の刺繍を見ながら刺繍をしたくなっているけどますますそうかも。

 今している嫁の仕事で手一杯なので難しいというのは贅沢な悩みである。

 なにせその嫁の仕事に嫁友達と遊ぶとか好きな料理の工夫や習い始めたらわりと楽しい茶道のお稽古も含まれている。


「それで茶道を習い始めて遊び茶会をすると手紙に書いてあったので同じく刺繍した帛紗(ふくさ)です」


 小さい風呂敷に包まれている帛紗も同じように美しい。こちらの模様は宝柄。


「こちらもとても美しいです。こんなに沢山刺繍をするのは大変でしたよね。手紙で教えてくれた毎日の生活はうんと忙しそうです」

「その、友人なるものに何かを贈ったり、ましてや作ることはなかったのでとても楽しかったです。ありがとうございます」


 今、私は友人と呼ばれた。尋ねる前にそう言われた。


「私も同じです。隙間時間に少しずつ写本したり楽しかったです。文字を真似しようとして前より字が上手くなった気がします」

「読み書きを習い始めたのが昨年からとは思えなくて毎回変化しているので驚いています。家事のほとんどしていることも。しかも同い年でしたので更にです。色々慣れなくて落ち込んでもリルさんの私の文字と同じで練習や慣れですという言葉で励まされました」

「良かったですね、リルさん。手紙は送り合えるしご実家経由で荷物を送ることも可能だけど、会うのは中々難しいだろうから会って直接説明したり話したいって言うていましたから。残業ばかりで寂しがっているかと思ったら友人へ贈るものに夢中で」


 ロイはたまに拗ねていたけどその話をするんだ。無表情に近い微笑みなのでずっと緊張しているのは分かるけど沢山話して、私が言えてないことを話してくれるとはありがたい。

 なにせ私は少し泣きそう。町内会の仕事で話し合いの記録係をしてヒソヒソ字のことを言われていると気がついたけど、隙間時間で練習しても年月の差はどうにもならない。

 エイラやクララみたいに私の掃除や料理は凄いと良いところを見つけて褒めてくれる人よりもバカにされる気配の方が強い。

 面と向かって言われないのは結構嫌で、おまけに今の家には私の代わりにバシバシ言い返してくれる家族も昼間はいない。義母が時々庇ってくれるのは言動が怖いけど本当にありがたい。

 エドゥアール温泉街で護衛をしていた女性兵官がルシーを性格良しのお嬢様と褒めて憧れると言っていてその通りだと思っていたけど、今日もそう感じる。


「二人は同じように楽しんでいたってことです。話したいことが沢山ありそうなのでわたあめを買ってきます。串焼き魚の近くで見つけたんです」

「はい。お願いしたいです」

「お気遣いありがとうございます」

「女性同士の話もあるかと思いますので空いたそちらの席へ移動していただけますか?」


 護衛兵官にそう伝えてくれたロイって本当に気配り上手。

 こうして私とルシーは二人きりになった。


「お顔の変化が乏しくて分かりにくいですが優しい旦那様ですね。弟が楽しかったと言っていて私とリルさんが文通しているならまた会いたいとしばらく言っていました」

「そうなんですか。庶民案内なら出来ます」

「それがあの後火消しの息子さんと文通を始めて今はその方にすっかり夢中です。私とリルさんみたいに異文化交流で楽しそうと母に聞きました」

「異文化交流……そうです。異文化交流です。旅医者の友人の話題もあるのでより異文化交流です」

「リルさん。書ききれなそうなのでこちらの絵の話を教えて欲しいです」

「はい」


 少しずつ読み始めた紅葉草子は身分違いの悲恋ものらしいけど、私とルシーは女同士で女色家ではないので悲劇にはならないはず。

 どうなのだろう。この広い広い国の中で私達のような身分差の友情はどのくらいあって、大きな友情なのか小さいのか、長く続いているのか気になってくる。

 この国はどういう国らしいなど、セレヌの手紙の写しを読みながらルシーと異国の世界の絵を楽しむ。嫁友達に見せて話したら自分も周りも楽しかったからルシーともどうかと思ったけど正解だったようだ。


「ふふっ。局育ちだと側女の娘さんがお世話係として一緒に育って親友になることが多いらしいです」

「ルシーさんには居なかったですか?」

「使用人の娘さんなど居ましたけど遠巻きにされて話しかけても嫌そうと言うか怖そうでした。何もしていなくても主人の娘は恐ろしいもの、と学んでいきました。逆にこう、利用されているというかなんというか陰ではなどです」

「そうなんですか」

「自分の時間も少なかったです。茶道など複数人で学ぶ稽古では入内(にゅうだい)狙い者は足の引っ張り合いが多いです。なので不思議です。こんなに住む世界が違うのに同じ話で楽しめるなんて」

「私も不思議な気持ちです。一緒にお風呂に入ったのがええ事だったと思います」

「あの時、緊張しながら話しかけて良かったです。編み物が気になっただけですが次に会った時はなんだか予感がしたのです」

「予感ですか?」

「はい。誘ったら何かとても良いことが待っている。そういう予感です」

「……あの。私はさっきしました。ずっと仲が続いて今より親しくなりそうだと」

「エドゥ山はご利益の山と言いますが信じそうです」

「信じるとそうなるというので信じます」


 私達が笑い合った時にまたしても強い風が吹いて、それぞれの目からきらりと光る水が飛ばされていった。


 ☆★


 さて、二人は全く知らない縁であるがリルが友人になったセレヌの夫レージングはルシーの働く局の主である皇女ソアレの従兄弟。

 そういう訳でリル——セレヌ——レージング経由で、彼の知り合いの官吏やその親戚にルシー・アウルムの人柄や容姿の話が一部の高名官吏達へ広がり、彼女はやがて人柄良しの格上官吏達に見染められて、それより以前に文通していた高位官吏と玉の輿結婚に至る。

 ルシーの長男が生まれる場所はルーベル家で、逆子で命が危うかった彼の名前はレオになり出世していく。 

 

 ルシーの父親はリルへのお礼の一つとして年末の家族親戚一同の大宴会の警備役にネビーを私兵派遣制度による雇用で追加。

 この時は大きなことは何もなかったが息子が懐いた様子なのと話して人柄を気に入ったので翌年の初夏にネビーを再度私兵派遣制度で雇用。

 業務はルシーの弟と友人達の半元服祝い旅行の護衛兼案内係で場所は南地区の海辺街。

 海で泳いではしゃいで足がつって溺れかけたルシーの弟をネビーが救助。

 さらにその日の夜、夕食帰りに強盗集団が彼らを襲撃したが他の本命の護衛がイマイチだった中、ネビーが返り討ち。


 つまりルシーの勘はかなり鋭かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ルシーとリルの友情はとてもほっこりして好きです! 良ければリルとテルルのお弁当を職場で自慢するガイさんの話など読みたいです!
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