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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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ちび旅行編「ぷらぷら」

 春風亭の簡易宿所を無事に確保出来たので観光!

 その前に二人でお洗濯。今日と明日は安く泊まって明後日は春風亭の中では安い、私達の身の丈に合った部屋に泊まる。

 簡易宿所は残りあと一組で満杯だったので助かった。

 元々今日は春風亭の簡易宿所の確保は難しいだろうから安宿や安い簡易宿所を探しながら観光をする予定だった。

 春風亭の料亭は予約でいっぱいだったので諦めて洗濯後に昼食探しもする。

 

「大河から続く川で洗濯ってなんだか贅沢ですね」

「はい」


 洗うのは肌着と足袋。もう午後だけどよく晴れているし空気も乾燥気味だから今から洗って干して、夜はそのままにしたら明日の朝には乾きそう。

 春風亭の簡易宿所客用の洗濯場所や使える道具でお洗濯。私が洗ってロイは絞り係。力持ちが絞ってくれるのはとても助かる。

 宿の敷地内だから野宿と違って盗まれる心配がないので嬉しい。

 いよいよ観光だ! と宿で借りた簡易観光地図を片手にロイと歩き出した。


「まずは隣の隣の大通りにある大河ですね。噂の水上都市。そこで昼食を探しましょう」

「はい。ワクワクします」


 春風亭は高台を造っていたり、少し丘になったところにあるから大河を眺められる部屋があって人気だそうだ。

 それでいて北東農村区への関所も市場も近い観光拠点でもある。

 高い宿なほど簡易宿所なし、は多いし門構えなどで安客が入る勇気も中々出ないから私とロイも知らなかったら春風亭に入ったりしなかっただろう。

 宿屋ユルルの系列店なので簡易宿所以外だと下から二番目くらいの部屋しか私達には厳しい。

 安宿探しだとどんどんここから離れないとならなかった。


「それにお腹も減りました」


 隣の通りへ出たら塀に囲まれている川と橋が現れて私は石造りの橋は初めてだから張り切って歩いた。

 

「ロイさん、緑の変な生き物がいます!」


 橋から川と河原を見下ろすと犬くらいの緑色をしたトカゲみたいな生物を発見。

 トカゲよりも顔が長くて体にボツボツやトゲみたいなものが生えている。


「旅人の奥さん。橋から身を乗り出さないで下さい。この川は大河とは違う川で人を食べる魚がいます。あの緑のも人を食べる獣です」


 身を乗り出していた私の前に棒が現れて体を後ろに押された。棒を持っているのは地区兵官で私に笑いかけると棒を縦にして去っていった。

 その地区兵官は次に私のように橋から身を乗り出して下を見る旅装束の中年男性にまた同じように注意。


「リルさん。離れて下さい。人を食べる魚や獣って恐ろしいです」


 ロイに両腕を掴まれて橋の真ん中の方へ連れて行かれた。

 その直前に緑色の生き物が大きく口を開けたのであれは私の体を横から噛める口の大きさだと慄く。


「大きな口でした。怖いです」

「早く遠ざかりましょう」

「はい」


 しかし人を食べるという魚は少し気になる。危ない獣は見られたけど濁り気味の川で魚の影は分からなかった。

 橋を渡ると商店街のようで露店やお店が色々ある。反対側は民間や小さな宿や食事処だ。

 

「リルさん! 気持ちの悪い魚が釣られています!」


 ロイが歩き出した方向に日用品店みたいなお店があって張り紙がしてあった。


(ピアリ製品?)


 玉虫色の魚が釣られている。白目ではなくて赤目で瞳は黒いけど目の部分は紙に見える。

 普通の魚の口よりも大きくて下顎が少し出ていて歯も他の魚よりも大きくて太い。こんなのに噛まれるのは嫌だ。


「噛まれたくないです」

「このような魚もいるんですね。リルさん、綺麗なものが売っています。すみません、ピアリはこの綺麗な石ですか? こちらは貝ですか? あとこの魚はなんですか?」

「いらっしゃいませ旅の方! どちらからお越しですか?」

「南地区からです」

「おおー! 海を見たことはありますか? 南地区でも東側住まいだと遠いって聞きますけど」

「我が家は西側で早歩きしたら三時間くらいで海へ行けます。妻の実家からならもっと近いです」

「それは遠路遥々ようこそ東地区へ! それも北側まで。私は商売ばかりで東地区から出ないから羨ましいです! こちらの魚はピアラリアっていう魚です。そこの川にもいます。鱗は磨くとこのように美しくなります。奥さんにお一つどうですか?」


 気持ちの悪い玉虫色を磨くと緑っぽい蝶貝のようになって綺麗になるとは不思議。ピアラリアから文字を抜いてピアリなのかな。


「飾り物が色々ありますね。そんなに高くない。妻もだけど母も喜びそうです。この魚は人を食べるって本当ですか?」

「腹が減っていなければ無視してくれて助かりますけど逆だと集団で襲いかかってきてお陀仏です。痛くて逃げられなくて溺れ死だとか」


 人を食べるだけではなくて溺れさせて殺す魚。東地区の川には殺人魚がいた!

 南地区の私の行ったことのない場所にもいるのかな。浅瀬には来ないと聞くけど海にはサメという怖い魚がいると漁師に聞いた。


「恐ろしい魚です。だから見張りの兵官がいるんですね」

「そうなんですよ旦那さん。ここは旅行者が多いし今は豊漁祭の時期で旅人が増えていますので。あの川は川漁師の中でも許可を得ている者しか漁禁止です」


 漁師が漁をするなら殺人魚の見た目は不味そうだけどそれなりに美味しく食べられるのだろう。

 ワッて集まるなら沢山いるということなので食糧として助かる。

 殺人イカのプクイカはすこぶる美味しいから殺人魚ももしかしたらうんと美味しいかもしれない。

 この見た目は嫌だけど(さば)いたら見た目なんて分からなくなるし、と私は釣られている殺人魚を見つめた。


「殺人魚は食べるとどんな味ですか?」

「えっ。いやあ、奥さん。ピアラリアは食べると食中毒を起こすらしいので誰も食べないです」

「そうですか」


 食べられないのに漁をするのは……ピアリにして売るのか。緑色の人を食べる獣は食べられないのかな。

 あの生物は大きかったから美味しく食べられたら助かる。屈強な兵官や漁師が捕まえてくれそうな気がする。


「あの殺人緑獣は食べられますか?」

「えっ。いや、あの、奥さん。殺人緑……ダイラスですね。ダイラスは食べると死ぬって言うので食べられないです」

「そうですか」


 殺人魚も殺人緑獣も怖くて危ないだけってこと。


「……リルさん。この辺りのお店は宿から近いのでお土産は最終日に買えます。水上都市を見に行きましょう」

「はい」


 ロイに手を引かれたので歩き出す。少し歩くとロイはクスクス笑い始めた。


「リルさん、食べられますかって赤鹿や牛の時もそうでしたよね」

「変ですか?」

「いえ。楽しかったです。ピアリに興味がなくて食べられるか考えていたとは」

「殺人イカが食べられるなら殺人魚も食べられると思いました」

「リルさんと生きていくと飢え死にしなそうです」

「腹減りしても飢え死はしない気がします」

「あっ」

「どうしました?」

「未成年門下生の時はリヒテン先生の道場から出稽古生が来ていたんですが、たまに自分達が別の道場へ出稽古へ行くことがありました」


 ふむふむ。これは何の話だろう。


「通り道につつじが沢山咲いていたんです」

「それは綺麗そうです」

「ええ。白と桃色とあるから綺麗でした。あそこは今もそうなのかな。リルさんと散歩に行きたです」

「来年の春か初夏ですね」


 昔を思い出して美しい景色を一緒に見たいって嬉しい話題。


「ええ。それでネビーさんがツツジはこんなに咲くのに食べられないし蜜も毒って役に立たないって言っていたなって」


 ……。


「ツツジを食べるとか蜜がどうなんて考えたことがなくて驚いたから少し覚えています」


 こう言われると私も食べられない沢山生える草や花に対して時々そんなことを考えていると思った。


「道を歩かないで棒で草むらを払いながら歩いて草抜きをしていました。それで何人かついていってワイワイしていて、自分は友人と何をしているんだろうって眺めていました。彼の手に持つ草が増えていくのが謎で」

「食糧確保です」

「ええ。今なら分かります。レイさんとお出掛けした時もこれは食べられる草とか花って教えてくれていましたよね」

「ああっ。そうです」

「ルルさんも春は食べ物が沢山摂れる季節ですとか、桜はお腹にたまらないって」

「食べられるなどが基準になっています!」


 貧乏育ちの私達は何でも食と結びつけるようになった疑惑。


「ええ。リルさん達だと当たり前の会話なんでしょう。これは危ない、もルルさんに言われました。何があっても元気に生きて欲しいという教育方針のたまものですね」


 ネビーを全力で兵官にして、ルカは職人で、私は家守りをしっかり出来るようにそれぞれ励ませた。

 残り三人いるけど三人が働いて部屋を買ってくれていたから確かにどうにかなりそう。

 貧乏腹減り家族はバカにされるけど貧乏人がこれをしたら畜生になるからこうしろ、ああしろとビシバシ性根を鍛えられた。

 両親、特に母に言われて直さなかったことは結婚してから直すようになり人付き合いが前よりも上手くなった気がしている。つまり両親のお説教は合っていた。

 疲れているのにガミガミうるさい、と反抗期気味だったのだろう。

 良薬口に苦し、という言葉を覚えてその通りな気がするし、後から振り返らないと分からないことは沢山あるなと最近思う。

 今、ロイが元服前のネビーの奇妙な行動を理解したりルルやレイとのお出掛け時の事を振り返ったように。


「おおー! 見えましたよリルさん!」

「本当に水の上に建物があります!」

「見たことのない木ですね」

「はい」


 ここは少し高台のようで上から見下ろせるから色々見える。

 どうやって造りあげたのか分からない大きな石橋が川の途中にある集落までかかっていて、またそこから向こう岸まで別の橋がある。

 背が高くて大きくて根っこが川に沈んでいる木にくっつくような建物や、川の上にどうやって建てたのか分からない家が沢山。

 川は少しだけ濁っているけど太陽の光が水面に反射してキラキラしているし屋根の色も様々で綺麗。

 大きめの船もあるけど二、三人しか乗らなそうな小船が沢山ある。手すりのない橋があちこちに繋がっているけど落ちそうで怖い。


「島のところと河原が水上都市なんですね。川の上でも暮らそうってすごいな」

「上地区とは別の国みたいです」

「ええ。昼食はここから近いところに市場があるのでそこで屋台が良いそうです。確か左です」

「はい。そうでしたね。市場はあそこのようです」


 人が沢山いるので改めて身の安全を確認。両親にもネビーにも義父母にも言われた。

 財布は紐で着物に結んである。ロイとはぐれないようにする。特に私はちんまり気味なので人混みに埋もれる。

 着物の袖か帯を掴めと言われたけど手を繋いでいるから大丈夫。

 観光地で金持ちみたいな格好だと手提げは引ったくられる、とネビーに言われて手提げを斜めがけに出来るように工夫した。


「あっ、ロイさん」

「どうしました?」

「迷子になった時の待ち合わせ場所を決めていません。皆に言われました」


 エドゥアール温泉街旅行の時に決めていなくて後から確認されて義父母から叱責。行く前にも言われたのに旅行したら楽しくてロイも私も忘れてしまった。


「旅行前に近くの小屯所(ことんしょ)って決め……。見てないですね。小屯所(ことんしょ)

「はい。宿よりも近いからさっきの殺人魚の店にしますか?」

「殺人魚の店って響きがアレです。まあいいか。愉快なので。そうしましょう。一刻待って会えなかったら宿で待ち合わせです」

「はい」


 お腹が減り過ぎているから市場も気になるけど景色も気になる。ぷらぷら歩きながら大河を眺めていたらふと思った。


「ロイさん」

「はい、リルさん。なんでしょう」

「あの柵のない橋を渡ってみるのはええですか?」

「ダメですよ! 強い風が吹いて落ちたらどうするんですか⁈」


 今日は無風に近いのに。すこぶる残念だけどこう言われる予感はしていた。私はもう長屋の独身娘ではない。

 崖釣りも禁止されてしまって岩に座って足を下ろしてぷらぷらという楽しいことは二度と出来ない。


「小舟に乗ってみるのはどうですか?」

「転覆したら困ります。溺れ死にます。あれっ。そもそもリルさんは泳げますか?」

「泳げません。川や海は流されそうだから深く入るなと言われて育ちました。特に父と兄に」


 その父と兄は川や海で泳いでズルいと思って育った。ルルとロカは無視してトト川の深い方に行って友達に泳ぎを教わって私は目を離すなと母に怒られた。

 レイは海の海岸近くでどうしてそうなったのか分からないけど溺れかけてから水の中に深く入るのを嫌っている。これは私が不在時でルカが怒られたという。


「泳げないならなおさらダメですよ!」

「大きめの船はええですか?」

「うーん。それは船の方に事故件数を聞きます」

「丸い大きな桶みたいな……」

「ダメです」


 ダメ元で聞いてみたけどやはり安全そうでないと断固却下っぽい。

 こうして思い返すとルル、レイ、ロカは叱責されていない? と思ったけど怒られて暴れて怒って部屋を出て部屋に入れない罰を与えられていた。それでルカや私が部屋に入れて怒られるという。ネビーに俺も甘やかしているけど甘やかすなと怒られた。


「ロイさん」

「はい」

「ルル達をぶーたれ暴れ娘にしたのは主に私な気がしてきました」

「突然どうしたのですか?」


 今考えていたことをロイに説明。


「リルさんってぼんやりしているんじゃなくてあれこれ頭の中で考えていますよね」

「うーん。家事の時は無心だったりこれをしたらあれ、みたいに段取りを考えているからぼんやりです」

「ぼんやりではなくて集中です。ぼんやり、と言われ慣れていても言葉選びには気をつけましょう」

「はい。ロイさん、今みたいに叱って下さい。私を甘やかしてばかりいてはいけません」

「ぶーたれ暴れ娘になるからですか?」


 ロイは肩を揺らして笑ったけど私は多分ぶーたれ暴れ娘にはならない。いや、ぶーたれはあるかもしれない。


「過去の例だとぷらぷらサボりとか嘘つきとか盗み食いだと思います。バチが当たるから気をつけます」

「素直で良い子で真面目なリルさん、ではなかったらしいですからね。大体そうだけど時々違う。親戚付き合いが増えたら少しずつ新しいリルさんを知って楽しいです」

「私も町内会に参加したら知らないロイさん話を聞いて楽しいです」

「あっ! リルさん! うなぎ屋です! 市場の手前の店先でさばいている豊川うなぎ屋ってここです!」


 東地区の大河のうなぎ飯は必ず食べる方が良くてアデルが予算別にいくつかお店を手紙に書いてくれた。

 南地区にはうなぎは全然いなくて私はこれまで名前を知らなかった。


「ロイさん。夕食の予約をしましょう」

「ええ。予約が無理なら我慢し続けて並びましょう。おすすめされたお店なだけあって並んでいますねえ」


 わたあめの次の候補はうなぎ飯!

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