日常編「リル、着物を買いに行く2」
春の反物は桜柄にしたいけどその桜柄が沢山ある。ロイと一緒に万年桜を観劇して話の内容も気に入ったので桜柄が良いけどその桜柄が沢山。
旦那と女将は去って年配の女性店員とお茶を点ててくれた店員が接客してくれている。
「歳を重ねても着るならこういう色味が入っていて落ち着いた雰囲気のものでしょうか。でも今は若いから悩みますね」
宝物の反物が前に並んでいるからわりと恐ろしいのにロイは平気で触れて私の体に当てたりする。目の前に鏡を用意されたので自分の顔が見えるけど私の頬はずっと引きつっている。
「リルさん。大丈夫ですか?」
「高いから怖いです」
「うーん。こう、小物屋の時のように少しはしゃいでくれると思っていたけど逆でしたね。妻は質素倹約家で助かるんですがその分贅沢が苦手でして」
店員にお世辞を言われたけど何て言って良いのかわからない。
「すみません旦那様。嬉しいけど怖いです」
「リルさん。これは一生分です。一年は三百六十五日。春に五回着るとしてうんと長生きして五十年。そうすると二百五十回着られます。つまり一回七銅貨くらいです。平日のミーティアランチくらいの贅沢ということです」
どういう計算?
小型金貨二枚は六十銀貨。一銀貨は三大銅貨だから三十銅貨。六十銀貨は……。
「旦那様、六十銀貨は千八百銅貨ですか?」
「ええ。合っています。二百五十で割ると大体七銅貨です」
「その割り算の暗算はまだ無理です。旦那様は凄いです」
「沢山着るとお得ですよ」
「そう言われると慎重に沢山着たいです」
大事に大事にして長生きして何回も使うと平日ミーティアランチくらいの贅沢なのか。計算って凄い。
それでこうやって私の気を楽にしようとしてくれたロイの考え方も凄いというか優しい。
「母も記念の着物を長く着ています。孫に贈るとかその際の資金に変えるとか考えています。リルさんなら大切に使ってくれるから買うんですよ」
「はい。ありがとうございます」
「桜餅好きだからこの色合いはどうですか?」
「落ち着いているしかわゆいですけど桜餅より万年桜のような柄はなんですか?」
鏡の中の私の顔色が良くなった。
「万年桜なら桜吹雪という名前の柄がございます」
「ありがとうございます。リルさん、リルさんは万年桜をとても気に入っていましたね」
「はい。綺麗でしたし幸せになりましたと話もええです。千代に八千代にです」
「願掛けにもなるからええですね。万年桜なら桜吹雪ですが…… いにしへの、もええ気がします」
いにしへの、だから古い何かだ。何?
「旧都……旧煌紙のような柄はありますか? それで桜だとなお良しです」
「旧煌紙とはなんですか?」
「旧都時代からある綺麗な紙です。美しさを競って作られた異国とお金代わりにも使える紙です」
龍歌を書いてくれた美しい紙は煌紙や旧煌紙ですよ。買う時に見ませんでした? とロイに言われた。見た目と予算で選んでそこまで見ていなかったので今度買ったお店に見に行こう。
「いにしへの、は龍歌ですか?」
「ええ。慈雨の都の八重桜今日大興ににほひぬるかな」
いにしえの昔の慈雨の都で咲き誇っていた八重桜が今日は大興の宮中でひときわ美しく咲き誇っています。
慈雨の都は龍神王様と始祖皇帝が作った旧都のこと。万物をうるおして育てたりひでり続きのときに恵の雨が降った都だから。
今は龍神王様が海を掘って土地も豊かにしてくれたからお引っ越し。
大興はこの国が大きく栄えるようにという意味を持つ皇居の別名で皇帝陛下を大皇様と呼んだりもする。ロイのおかげでまた賢くなった。
「旧都から今もずっと咲いている桜の柄ということですね」
「ええ。ふと思いまして」
「こちらは揉紙風で流水紋様に桜でしてこのように桜餅風に緑色も入っています。桜が吹雪いた後には水面に桜の花びらが浮かびますので春のちはやぶるでもあるかと。いかがでございますか?」
「揉紙風はこの絞りのところですね。桜餅でもありますとは流石お店の方です」
「万年桜に旦那様が教えてくれた龍歌の意味もあってさらに春のちはやぶるならこれがええです」
怖かったけど楽しくなってきた。こうやってロイと相談しながら決めた反物は一生の宝物の中の宝物。
義母が義父と選んだ着物は私に渡さないのは当然である。
「商売上手ですね。これはおそらく予算からはみ出ます」
「いえいえ。お値引きさせていただきます。今の龍歌の宣伝文句を使わせていただきますので。おすすめですが売り文句に悩んでいましたので勉強になりました」
ロイは私に小声で「おだてられたし先に値引きと言われるとこれ以上交渉しにくいです。ニ金貨以下なのに予算カツカツを取られます。上手いですね」と告げた。
それで二人で目を合わせて肩を揺らして笑い合う。小型金貨二枚以下だから安い反物でも良いのか。
これは呉服屋との戦いでもあるようなので燃えてきた。二人の思い出にちなんだ柄の反物を安く手に入れよう。
「春はこちらで、ちはやぶるでしたら秋もちはやぶるで探されますか?」
「いえ、秋は葡萄栗鼠文でお願いします。これは決まっています」
「……。旦那様」
「これは決まりです。春夏秋冬の秋は自分が決めるつもりでした」
「葡萄栗鼠文ですね。かしこまりました」と口にした店員が私の顔を見て肩を揺らした。
「秋は龍峰がええです」
「ではそれは冬にしましょう」
「秋の思い出です」
「葡萄栗鼠文も秋の思い出です」
「年をとっても使うのに栗鼠ですか?」
「落ち着いた柄もあります。子どもがふざけて孫もふざけます」
「ふざけるための柄ですか」
「はい。リルさんだらけで楽しいです」
……。
「紅葉がええです」
「天ぷら紅葉ということですね」
「……」
キリッとして人見知り気味顔だけどきっと仕事ではこう喋るという感じだったロイが砕けていて笑っていてとても楽しそう。
「リスでええです。秋はリスにします。リスの中から選びます」
「ああ、リルさん。夏は保留にしましょう。まだ二人で夏をほとんど過ごしていないです」
「はい。夏か夏が終わってから買いに来たいです」
「すみません。夏はまた来ます。いや、初夏こそ茶会へ行きそうです。夏にしたい事を先に決めましょうか。先に葡萄栗鼠文を見せていただきたいです」
葡萄栗鼠文はあっさり決定。反物はいくつか出てきたけど「このリスです」とロイの決定は早かった。
ロイが決めてくれた、というのも嬉しいから良いけど私はどんどんリス扱いされている気がする。
「旦那様、結婚式にも着るんですよね?」
「ヨハネさんは縁が続いたらきっと秋に祝言すると思います。勝手な予想ですけど。今年の年末に試験に受かって次の秋。なのでこの葡萄栗鼠文の出番です」
「私はまたリスさんと呼ばれます」
「結婚式なので皆が和んで笑顔になってええですね。クリスタさんも喜びます」
「はい」
それはおめでたい素敵な話。
「ベイリーさんとエリーさんの祝言の季節はいつでしょうか。予想はありますか?」
「うーん。あのお喋り熊はもう待てないと出世直後なのか、今さらだから記念の季節と言っても幼馴染ですから春夏秋冬色々ありそうですし……。ヨハネさんと被せないとは思います」
「ウィルさんとリアさんは縁が続くと次の春の予定です」
「そうなるとベイリーさんは年明けか夏……。ああ紫陽花。リルさん、夏は紫陽花柄はどうですか? 他にも何か足したり考えるとして。ウィルさんに相談された紫陽花の龍歌はええ意味です」
確か…… 紫陽花の八重咲くごとく……なんだっけ。
「紫陽花の八重咲くごとく、の後はなんでしたっけ」
「やつ代にをいませ我が背子見つつ偲はむです。今後の人生が末永く幸せでありますように紫陽花の小さな花の数だけ栄えるように、幸せがあるように、そういう意味です」
「意味の方は覚えていました。来年は結婚式が沢山です!」
「その可能性大ですね。それもあって今回の買い物です。まあ、卿家の同級生はわりと被りがちと言います」
一回目の出世後が目安だから似た時期になるのか。
「紫陽花……」
「どうしました?」
「長屋の近くに生えていないからぷらぷら散歩してとってきて部屋に飾ったりルル達と遊ぶと食えないとか大きくて邪魔って兄にちょこちょこ捨てられていました」
「食べられないとか邪魔って流石ネビーさん。花とかまるで興味なさそうです」
「他の花は興味なさそうなのに紫陽花は好きだけど嫌いらしいです。とってきてくれるのに少しすると捨てます。遊びに使って川に投げるんです」
綺麗だから好きだけどバカだから紫陽花に突っ込んで転んで泥だらけという嫌な目に合ったから長く見るとバカな自分が嫌になると言っていた。
ネビーは普段は全然転ばないのに考え事なのかたまに川に突っ込んで転んだり水溜りで転んできたり派手な転び方をする。
そういう時は自分で洗濯させていたけど忙しいからお願いと母に言われることもわりとあって大変なので気をつけて欲しい。
桜の枝や秋桜を私達に持ってくるとずっと飾っている。紫陽花は数日でルル達との遊び道具になる。他の花は持ってこないから興味なさそう。
私やルカが花を飾っても食えるのか? と言う。桜も秋桜も食べられるから非常食だと思っているのだろう。
「へぇ、つまりリルさんはその柄はあまりってことですか?」
「いえ。レイは紫陽花がすこぶる好きです。他の花もですけど特に。見に行こう、見に行こうって言います」
「レイさんはこの間花を集めて生花みたいに遊んでいましたね」
「はい。ルルがカタツムリで遊びたいのもありました。見に行ったらロカはカタツムリが嫌いで泣き出して大変です」
「ロカさんはカタツムリ嫌いなんですか」
「昔兄が大きいのをワッて見せて初めてのカタツムリが怖かったからです」
「うわあ。何しているんですかネビーさん」
「その夜ルルが兄ちゃんの鼻にカタツムリを入れました」
「ちょっ! ルルさん何してるんですか!」
「私が前に腹を立てて兄の鼻に花をさしたから真似です」
「何してるんですかリルさん。悪いお手本です。いや悪いのはネビーさんでしょう。どうせ」
「怒られたけど兄の方が怒られたから悪いのは向こうです」
「ルルさんの時も同じですね」
「前に悪い見本を見せた私も悪いと巻き添え説教です」
「紫陽花の思い出にはカタツムリが一緒でこんなに色々出てくるんですね」
「はい。長屋の近くになかった分印象的です。紫陽花は他にも駒にして遊んだり葉っぱでも遊んだり昔から色々しています」
「駒? 駒になんてなるんですか」
「はい。ルカはジン兄ちゃんとの思い出があるみたいです。なので紫陽花は兄妹の思い出です」
ルカが夫婦の部屋以外、私達の部屋の方にも紫陽花を飾ってくれてレイが大喜び。ネビーが少しすると捨て始める。
ルカが遊び道具にしても川に流すなみたいに怒る。ルカがネビーには感性がないと言い出して喧嘩になる。
ジンがさり気なくルカと妹達の頭に紫陽花を飾ってくれたり、ネビーに感性なしではお嬢さんにモテないぞと口喧嘩をふっかけたり、なぜそこからそうなるのか分からないけど最終的に単なる大はしゃぎみたいに変化。
いや、うるさかったのはルカとジンが何か喧嘩していたからだな。
ロカがルルとネビーの腕にぶら下がってもう離れろと言われている横で何か喧嘩していた。ネビーとルルとロカもうるさかったのか。
私はレイと父が作った花カゴに紫陽花を飾っていて「静かにして欲しい」と思っていた。一昨年はそんな感じ。
「ああ。そういうことですか。紫陽花は却下ですね」
「いえ。そこに旦那様が増えるとええなと思います。旦那様が兄妹に増えたのでええなと。夏に怪獣娘達を連れて紫陽花鑑賞や遊びです」
ルルとレイは皇女様のサンダルを履いてはしゃぎそう。
「楽しそうですね。ロカさんに泣かれるのは困りますけど」
「レイが泣かすんですよ」
「レイさんは前にロカさんと軽く喧嘩していましたね」
「レイは強くなれとか修行とか時々よく分かりません。レイは若干蛙が苦手だからロカが投げ出します」
あっ! ルルが蛙に慣れろ、蛙嫌いを治せ、修行と言っていたからレイはルルの真似だ。そのルルはルカに蛇でそれをされている。
そのルカは……私だ! 私は昔からわりと蛇も蛙も虫も平気。蛇投げで褒められるとかそういう理由からなのか生まれつきなのか。
姉ちゃん、洗濯出来ないよ、慣れないとって言ってルカの枕元に蛙を置いたりしていた。ルカに怒られるけど母が修行だみたいに……つまり母だ!
「大人しいリルさんはそれを眺めていたと」
「はい。様子見しつつキノコ探しです」
初夏はルル達三人を連れて遊ぼう。庭に紫陽花を植えないか義父母に相談することにした。
「あと夏といえば花火です。でも紫陽花柄が茶会的にもあの龍歌的にもええですね。リルさん達は玩具花火をしたことはありますか? なければルルさん達としましょう」
「たまには贅沢だと両親が買ってくれて少ししていました。確か……十三歳から毎年です」
牡丹花火と花咲花火を一人数本ずつ。両親がニコニコ笑って眺めていてネビーの合図で花咲花火を誰が長く咲かせられるか勝負。
牡丹花火は勝負ではないから打ち上げ花火だ! と手に牡丹花火を持つルルをネビーが肩車して跳んだり、ルカが大興奮のロカが火傷しないように寄り添ったり、レイに兄ちゃんと同じことをしてと言われて重たかったり色々思い出があるな。
「へえ。十三歳……ネビーさんの学費で一番キツかった頃だから気にして家計をやり繰りでしょう。学費を乗り越えたけど今度はジンさんの生活費が増えた。苦労させているし流石にというご両親の気遣いだったんしょうね」
我慢出来るならさせておけ。一番キツい時になんとかなったから貧乏基準をそこにしたという。
困った時に必要なのはとにかくお金だから子ども達用に貯金確保。
ネビーもルカも私も気がついていなかったけど寒過ぎるのに綿や炭代がない、薬代がない、みたいなのはなかったのはそういう事。
義父母と両親がお金の話をするのを私とロイ、ジンとルカとネビーも今後のためにふむふむ聞いた。
義父母とネビーとルカがやり過ぎだと言い出してネビーとルカが両親と若干喧嘩。
今後の家計やルル達の教育や両家の不幸時にどう助け合うか大相談会。桃の節句に行った親戚会の後半はそれだった。
「気遣いですか。ああ、そういう事だったんですか。私は兄の通学すら知らなかったです」
ネビーがやたら帰ってこなかった頃だ。最近聞いたら早朝から勉強、そこから学校、終わったら稽古まで勉強、それから稽古で終わったら夕食をそそくさと食べて半見習い。
兵官になる大事な試験前というのは聞いていたから朝から勉強と稽古に半見習いと思っていたら学生もしていた。
「ご両親が仕事を増やしてネビーさんは過密予定でルカさんも見習い卒業間近で仕事が変わってきたからリルさんの負担も強かった頃です」
ルカの家事分担が減って帰りが遅いなとか、家でも前より内職していたり、疲れているのか不機嫌顔みたいな頃もその時代だ。
急にガミガミ怒られた私はいじけて……この頃からちょこちょこ喋らなくなる頻度が増した気がする。疲れているのにうるさい、みたいに。
十二歳から奉公に出る人は出るから一歳年齢の高い私は家守り! と負担が増えた頃でもある。
それで負担が増えた分怒られる事も増えたからガミガミ言われて……こっちでも反論すると倍になって返ってくるから喋るのが嫌になって喋らなくなる頻度が増している!
「色々知って振り返るとそうみたいです。……珍しくちび饅頭や飴や玩具を貰ったのはもしかしたらそれです!」
あの頃のルカは私に何かの八つ当たりをしたりルル達ともちょこちょこ喧嘩していた。
逆にルカは急にリルは大変だよね、と優しくしてくれたりもした。
本を片手に握り飯を食べるネビーに勉強が気になるから尋ねたら気になることは教えてやると言われて後は毎日大変なお前は遊べと言われていたな。
両親やルカもそうで私が気になる勉強というか世の中の事は時間がある時に教えてくれてルル達の世話とか遊べ……遊べって言われてた!
なぜ私に読み書きをさせなかったのかなと前に考察したけど遊べと言われていた。私が気になる事は多少勉強していた。卿家の名前を一応知っていたように。
遊ぶのと祖母の手伝い。ルル達は遊んでいるのにと不貞腐れ気味だったけど私は裁縫を義母や義母と親しいご近所さんやエイラ達に褒められる。
義母に嫁入り先が早く見つからなければ針子も視野だったのだろうと言われた。
「ご両親に尋ねる話がまた増えましたね」
「はい。夏は紫陽花柄にします。家族が増えたから花が増えて大きい紫陽花に変化です」
「おお。家族一人一人が小さい花って事です」
「はい」
「花火大会に行くのと玩具花火もしましょうね」
「花咲花火勝負をいつもしていたので旦那様も加わって下さい。お義父さんとお義母さんもです」
ロイも花咲花火で祖父母両親やベイリー達と勝負をしたことがあるそうだ。皆するんだな。
こうして夏は紫陽花柄に決定。その時にはもう目の前に夏に着たい素材の紫陽花柄の反物が並んでいた。さすが商売人達だ。
「リルさん、この撫子もあるものにしましょう。花言葉がええです。後で教えます」
それはつまり撫子を贈ってくれる予定があったってこと。
「それは嬉しいです。生地の色も簪に合います」
水浅葱色から灰色に変化する生地に撫子が沢山に色々な色の花が集まった紫陽花。落ち着いているから高齢になっても着られそう。
「撫子がかなり多いので撫子鑑賞もしましょう。紫陽花の龍歌はウィルさんと共作なので撫子はリルさんだけに作ります」
「はい。嬉しいです」
最後は冬。冬といえばエドゥアール温泉街への新婚旅行と千夜に八千代に。梅を観に行ったり北極星雪うさぎ祭りもしていたのでそれも捨てがたい。
「エドゥアールはご利益があるから滝模様がええです」
「自分もそう思いました」
滝模様は連連連滝みたいで末広に梅柄は春を少し先取りで冬の茶会に良いし宝物の小物のことも連想させる。
末広と千夜に八千代にの龍歌は合う。春夏秋冬の訪問着はこうして決定。
秋だけ龍歌が無関係になったとロイに告げたけど「秋はリスです」で終わった。リスの龍歌なんてあるのかな。作ってくれるのかな。
色無地と色紋付用の反物探し。予算内で二人に似合う色探しをしていたら勿忘草色と店員に言われたのでロイと顔を見合わせた。
「つまり青星花色です」
「お互いに似合うならこの色ですね」
春の反物はカツカツだったので柄の意味を考えつつ安め安めと選んでいたので無事に予算以下。
ロイがあれこれ交渉をして支払いは書類を渡してロイも銀行に書類を出すので直接支払いではない。大金は危ないからそういう払い方。
新婚当時の小物屋の時は分からなかったけど今は教科書で前に勉強したのでふむふむと確認。
二枚の契約書に繋がるような文字とか判子に身分証明書の番号など色々必要。
抹茶と練り切りを食べたのにこの間に桜茶とおせんべいをいただいてしまった。
どう柄を出すのかも話したので裁断と紋をつけるまではお店でしてもらって後日受け取って祖母へ依頼。
このお店から我が家へお金ではなくてルーベル家から直接支払いの方だった。
恐々始まった買い物はウキウキ気分とわりと安く済んでホクホク気分に変化。
「リルさん、予算よりも浮いた分で買い物をします」
「えっ⁈」
「今後ネビーさん、ルルさん達に祝言祝いを贈ることになるけどルカさんとジンさんはもう終わっていて不公平なので」
私はきっと安め安めで買うから浮いたらそうしなさいと義父母に言われたそうだ。私がカツカツで買ったらこの話はなし。
なしには確実にならないと義父母もロイもそう予想していたと言われた。
「平均的な祝金分で欲しいものを尋ねます」
「ありがとうございます」
「二人から以前渡されたんです。二人からネビーさん。ネビーさんからデオン先生に確認して金額を卿家の平均に合わせて贈ってくれました。分割で」
「えっ。知りませんでした」
「そういう事も母の態度が軟化した理由です。それをそっくり返しつつ少し上乗せです」
「ありがとうございます。でもありがとうルカやジン兄ちゃんです」
「親戚会で話す予定が別のお金の話が始まってそれどころではなかったので」
「知らない話が色々出てきます」
「分割が揃うまで両親から自分のところへ来なかったので自分もです。なのでこの後はひくらしに顔を出しましょう。ロブソン家のどなたかに予約のお礼をします」
「はい」
「接客の様子や繁盛具合なども伝えます」
「はい」
「小物も置いてありましたね」
「はい」
そうだった。ひくらしが小物屋へ営業をかけるからひくらし経由で予約だ。
庶民の特に平家向けの日用品をあれこれ売っているひくらしの事業拡大を手伝ってそこに父とルカとジンを関わらせる。
義父母と父とジンで手紙を中心にちょこちょこ作戦会議みたいな事をしているらしい。
「お腹が減りましたから先にルルさん達とうどん屋はどうですか? 五人で分けると具沢山です。今日の買い物で予算が浮いた分です」
「値切ったり柄や素材を選びつつ安め安めにして得しました」
「知らなかったけどネビーさんを贔屓するうどん屋があるそうですね。たかりたくないから行かないけど友人とそこらで食おうと言われると金が惜しいから行くって言っていました。家族も覚えてくれているからおまけしてくれるって。なのでそこがええです」
「ああ。もしかしたら稀に家族で行くところです」
「そう聞きました。蕎麦屋の方はレオさんらしいです」
こうして私達は私の実家へ向かって途中で迷子を発見したので親探し。
ロイに前はこんなことあまりなかったのに私といると困った人や小さい事件に遭うと言われて、私は長屋周りから世界が広がったらそんな気がすると答えた。
わりとペラペラお喋りだけど人見知りをほぼしなくて元気発剌な母よりは少し大人しい父の顔の広さは多分これ。
父——ネビー——私と顔が似ている組は知らない人に声を掛けられたり目の前で何か起こりやすい気する。ロイはそう口にした。
「レオさん話はジンさんに聞きました。あまり知らないネビーあるあるを知りたくて二人で飲んでいた時に聞いたんです。それでリルさんも似てるなと」
「父がレオの奴は迷子を良く拾うとかそんな事を言われているなんて知らなかったです」
「ロカさんもそうなんですかね。こう、生活圏が広がると」
「凡々地味顔だと話しかけ……ぼんやり顔だから詐欺に気をつけろって育っています!」
「いえ、話しかけられるのではなくて迷子とか転んだとか落ちてきたとかなので詐欺狙いとはまた違います。なんだか不思議ですね」
何年も一緒にいたら私のことも父の話が本当なのかもロカがどうなるかも分かる。
年月を積み重ねて今日買った反物で作る着物を沢山着てお出掛けしようと私とロイは笑い合って約束した。




