表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

207/380

未来編「因果は巡る糸車11」

 余所者は面倒くさい。俺の転属理由や今後の業務内容なら本組だろうけど、どうせいきなり防所本組ではなくて先に鍛えろとか揉める。

 噂を雑に聞く下の方の火消し達の中で変な噂も発生する。

 そんな風に色々考えると遠巻きで気疲れしそうな出だし。そう結論付けて覚悟してきたのに気楽そうな気配。なぜこんな雰囲気になったんだ?

 他の地域よりも補佐官が不足気味だから南地区へ飛ばされたけど数が足りない分精鋭がいるとか?


「俺はイオだよろしくティエン。いやティエンさん? まあかなり年下だからティエンだな。中官なのに実務凖官って訳が分かんねえな」


 ハ組の俺の世話役はこのイオ。それからヤアドとナック。俺の兄貴分のト班と言われた。

 ウラジとサジュと俺でハ組3人でユ班。あれこれ連帯責任で俺の新生活準備の手伝いをするようにお互いの為に働いたりする3兄弟。

 俺達の間にはコ班がいてユ班で直接の上司はそっち。ト班の上はミ班でその上は組幹部。

 予想していたけど7番隊の組内と同じく正式な組織図を丸無視していて7番隊の組の組織図とも異なる。

 ト班に組の事や俺の衣食住の事などを説明されたり組内を案内されながら3兄弟扱いになったユ班のサジュとウラジと雑談。

 楽。楽過ぎて助かる。6防幹部補佐官だけでは無理そうなので超絶優秀そうな補佐官がこの組にいる。複数人かも。あれこれ学びたい。


「次は俺達の守備範囲の案内だ。外に行くぞ。まずはネビーに挨拶だ」


 なぜネビーに挨拶?

 ド派手系花形兵官相手だと火消し達も部下みたいになるけどハ組とネビーってそういう関係?

 俺は化物兄貴の監視下におかれたのか?

 それにしては歓迎されている。とても気さく。


「あの。ネビーさんに挨拶ってなんですか?」

「さあ。俺もよく知らねえ。親父がネビーの知人をイ組から奪ってきたって言うて世話は俺らって言ったから」

「ネビーが仕事前に来て小親父達にこいつの事を聞いて、噂と実際が違うのと一昨日一緒に少し働いてええ奴だったって言うたって聞いたけど」

「ハ組が欲しいって言うて奪ってきたんだろう」


 話をまとめると昨日の朝、出勤前らしきネビーが来た。ラオ——小親父と呼ばれたから組幹部でイオが親父と口にしたから彼の父親——と話していたら他の夜勤者も集まって早めに出勤した者達も集合。

 北地区から新入りが来る。ルーベル家もレオ家も世話になっている家族の息子でロイの昔からの知人だから新生活が心配。

 どこの組か知らないけど変わった転属経緯だから知らないか? 知っていたらたまに様子を見て困っていたら助けて欲しい。ネビーはそう頼んでくれたそうだ。


(監視下にされたなんて大変失礼な考えだった……)


 ネビーは俺の転属経緯や土曜日に少し一緒に働いた事を話して褒めてくれたらしい。

 ラオが「揉めて所属組はクジ引きだったはず」と補佐官を呼んで詳細確認。

 俺の最初の目標は2年間で三等正官になること。そこに定期的に上地区本部で教育、1月から6防に来ている中官試験特別教育指導者からの教育がくっついている。

 まずは南地区と6防に慣れる事が優先。祖父が来るまで普通に準官仕事。

 祖父は元々引退に備えて引き継ぎをしていたから来月くらいに引っ越してくる。

 それで俺は6防所本組所属だったけど「どんな理由でも余所者がいきなり本組は気に食わねえ」から始まって各組の幹部達が文句を言ったので6防所から遠くない組所属開始に変更。

 そういうやり取りの間に各組に面倒な余所者が来るとか家族捨て旅火消しで気に食わないとか噂が錯綜。

 正しい話をしてもイマイチで俺達の組は嫌だと幹部や補佐官に話が来たからクジ引きしてイ組。クジ引きで公平に決めたなら仕方ないとイ組は渋々納得。

 この経緯を皆が聞いたから「ネビーも褒めた化物火消しはハ組が貰うぞ!」となったらしい。

 ネビーはいつの間にか居なかったそうだ。イオが「あいつ俺に挨拶もしないで出勤しやがった」と言った。


(クジ引きには呆れるし想像していなかったけど俺の予想は大体当たり。彼が呼んでもいないのに人が集まった。あいつが褒めたから話を聞いた。これではまるでネビーさんがハ組幹部補佐官……)


 それでラオをはじめとしたハ組幹部は6防へ行って番隊幹部に俺をくれと言って貰ったそうだ。

 イ組は貧乏くじだと思っていたけどハ組が欲しいなんておかしいと騒いで下の火消し達が補佐官達から俺の話をしっかり聞いた。

 俺は海を求めた家族捨て火消しとか家族に追い出されたけど珍しい中官認定試験合格見習い卒業だから補佐官不足の南地区が渋々引き取った、みたいな噂だったらしい。

 それが本来の話が伝わって「俺らが育てる!」と変化。ハ組とイ組は俺を奪い合いの喧嘩。障害物競走と腕相撲大会でハ組に決定。


(南3区火消しも俺の知っている火消しと似てるってこと。分かりやすくて助かるけど遠い地なのになぜなんだ。血筋か? 血がそうさせるのか? 旧都では一緒の家族だった訳だし)


「学校に行ったのに見習いをして実務火消しって化物かよお前。見た目は地味だし知らないと分かんねえな」

「いえ。実務は落ちこぼれ気味です。だから準官です。勉強はわりと得意でした」

「上に頼まれたって外入の世話なんてあまり。信頼関係がないしせっかく世話しても来年転属。しかも訳あり。イ組は面倒な奴を押し付けられたと思ったら訳ありってええ意味だとは」

「転属は再来年の予定です。正官にならないといけないです」

「ぶん取って正解だよな。ネビー関係の火消しならハ組だハ組」

「あの、なぜネビーさん関係ならハ組……ああ。幼馴染がいるってハ組ですか」

「他の組にもいるし俺らもだけど1番親しいのはこのイオ。あとネビーはハ組の半家族だからだ。勝ててよかったよな。バーリさんは休みで不在だったらしい」


 半家族ってまさか半見習いをしていた?

 イ組幹部バーリがいたら腕相撲で負けていたらしい。


「イオ。ネビーは日勤なのか? っていうか突然行ってもいないだろう」

「バカかお前は。不在でも構わないんだよ。屯所案内を兼ねてだ」


 ネビーが半家族とは何かと聞いたら昔ハ組で半見習いをしていたそうだ。イオに「8歳から何年だっけ。忘れた」と言われた。

 先程半見習い経験者と推測したのは正解だったけど、あの化物兄貴がどうやって地区兵官になったのかますます推測不可能になった。

 火消しにも尊敬されて畏れられる花形兵官疑惑が火消し一家の半家族。ネビーはルル以上のびっくり箱だ。


「それならイオ先輩達もロイさんと幼馴染ですか?」

「それなら? それならってなんだ」

「えっ? ロイさんとネビーさんは幼馴染だと聞きました」

「ヤアド、幼馴染の定義ってなんだ? あの2人は顔見知りだったけど親しくなったのはリルちゃんの結婚後だよな」

「あいつが剣術道場に入った1年後に入ってきたらしいから幼馴染といえば幼馴染? なんか違うよな」


 ……そうなの?

 あっ!

 10歳から知人と聞いた俺が幼馴染ですね、と指摘したらロイは「言われてみれば」という返事。知人と幼馴染だと意味が違う。俺の思い込み!


「稽古で話すくらいが今じゃ俺ら以上に親しいっていうか似てるよなあの2人。この間また兄はどっちって揉めてた」

「どっちも兄っぽいからもう双子でええ気がする」

 

 話が逸れて仕事の話が始まったのでそれ以上聞けず。結構混乱。稽古で話すくらいだとロイとリルは幼馴染結婚ではない。

 ト班とユ班でハ組小防所から屯所へ移動しながら地図を見つつ街並みを覚える。説明を地図に書き込みつつ頭に入れる。ネビーは気になるけど仕事優先なのでそんなに聞けない。

 屯所に着いて中を案内されて北5区7番隊屯所や勉強内容と似ているので楽だと思った。

 地区兵官と火消しはこういうところが違う。火消し組織ってやっぱりめちゃくちゃ。地域ごとに必要な物が違うから組ごとに違うという火消しの主張も分かる。

 俺みたいな中間者は各組に数人いても良い気がする。本部幹部は補佐官禁止だけど番隊にもそういう者がいた方が多くいると良さそう。

 だから新規組織の試験運用開始なので納得。肌で感じるって大切。

 知恵を回しても分からない事ばかり、見抜けない事ばかりだから確認していく訳だし。

 最後に道場へ行ったら鍛錬中で思わず目を見開いた。


「おお。いた。楽しそうなところに来たな。三対何人だ?」

「あいつ、仕事になると別人だな。怖え」


 その通りで怖い。一昨日と別人みたいだ。

 三対何十人で何かの鍛錬。ネビーはその三人のうちの一人。

 他の者達と羽織の色が違うので目立つし他の指導者2人と同じく動きが速いし明らかに強い。


「短木刀だから短刀で暴れたって想定?」

「イオ先輩。本部の羽織なのはなんでですか? 出向なら鉢金違いだけですよね?」

「鉢金違い? なんだそれ。去年あいつが最近ずっと居なくて不安って区民が騒いだから目立っておけってさ。格好つけだ格好つけ」


 鉢金の説明をしたら「へえ」で終わった。

 火消しは緩いけど地区兵官はそのような理由で勝手にあのような目立つ事は無理だと思うと話したら「ほうほう」である。


「本部に栄転したのに左遷。なのに区民は返せって。凄いんだか凄くないのか分からねえよな。賢いけどバカだし」

「4ヶ月で帰れって言われたって何したんだか。よく働く真面目な奴なんだけどな。本部は化物だらけなんだろう」

「なんかいつものド忘れとかだろう。俺らは地元に欲しいから助かったけどな」


 ……連れ戻し通過儀礼が左遷話になってる⁈

 この調子だとネビーはイオ達に「左遷なんて残念だな」と言われてそうなのに訂正していない疑惑。

 俺がハ組になった経緯のきっかけといい、化物兄貴の人物像は俺の予想をことごとく壊していく。


(……あの動きの後に鉢金で竹刀を殴りつけるのかよ!)


 怖い。

 格好良いけど怖い。しかし格好良い。目が離せない。

 ルルと拗れるとこのネビーが俺の敵に回る。そうするとロイとハ組にもそっぽを向かれる可能性大。

 聞いた話だと俺を探りに来た、ではなくて心配してくれたようだけどルルの事があるから何か思惑がある? 

 しかしネビーは俺をハ組にしてくれと頼んでいない。世話して欲しいでもない。大丈夫な気がするけどたまに気にかけてやってくれである。

 周りにいる監督者数名が受け身を取れとかこうしろと指導している。

 

「ガッツリ仕事中だから挨拶やお礼は無理だな」

「昼飯食おうぜ。小歓迎会も兼ねて。北地区って海がないんだよな」

「それなら海鮮丼にしようぜ。俺が食べたい。むしろここで食いてえ。許されないかな。ユ班に買いに行かせてここで見学会。怒られるまで居てみるか?」


 小歓迎会と言いながら俺らユ班が使いっ走りってこと。怒られるまでって火消しは緩いなどと言われてしまう。


「いやダメだろう。うおっ、びっくりした!」


 初日に先輩に意見するのはな、と先輩達を見上げていたら目の前に人影。見上げたらネビーだった。イオ達を見ている。


「お前らなにしてんだ」

「新人に屯所案内ついでにお前に挨拶。こいつしばらくハ組になった」

「昨日の夜ラオさんに聞いた。イ組と奪い合いだったんだってな」

「お前のおかげでハ組が得した。ええ情報をありがとな。ネビー、俺らここで昼飯食って見学会してえ。見てて楽しい」

「ネビーさん! お気遣いありがとうございます!」


 目が合って笑いかけられてその笑顔が今朝見たルルの笑い方に似ていて喉の奥がヒュッとなった。息が止まる。


「知らない土地で不安だろうって心配するロイさんに頼まれたんでチラッと話を聞きに行っただけです。話が上手く伝わってなかったみたいで伝達がしっかりされたら取り合いだったとか。お前らロイさんのおかげで得したな!」

「お前じゃなくてロイさんか。挙式で礼を言わないと」

「そうだな」


 ネビーはト班の3人の肩を軽く叩くと「じゃあ」と俺達に背中を向けて走り出した。襲いかかってきていた兵官達を返り討ちにして。


「てめぇら腑抜けてると今みたいに人質取られるぞ! さっさと立て! 同僚に手を貸せ! 大体敵わないと思ったら説得から入れ! 鍛錬じゃなくて訓練をしてるんだぞ!」


 怖い。他の指導者達も怖え。似たような事を怒鳴っている。ネビーはさっきとはもう別人。


「へえ。俺達は人質想定だったのか」


 つまり機転を利かせて俺達に話しかけにきたってこと。


「ネビー以外も怖え。まあ人命がかかってるしな。俺らも厳しい時は厳しいし人命がかかっているのは同じだけど違う。怖え。ネビーみたいのが何人いるんだ」

「あいつが兵官に取られたのも納得だよな」


 取られたがなんなのか聞いたら半元服後から火消しと兵官の同時教育をしていて向いている方にする予定だったけど両方向いていて取られたらしい。聞いたけど結局分からない。


「副班長! 火消しが昼飯時間に見学したいらしいです! 勉強になると!」


 人質を取ったネビーが叫んだ。監督者が1名近寄ってきた。40歳くらいに見えるけど年齢当ては無理と今日思ったし不正解だろう。

 警備、警護訓練をするので道場の端にいてもらえたら助かりますと笑いかけられた。部下達には怖いけど怖くない。ネビーと同じ。

 それでユ班はト班からお金を預かって買い出し。近くのおすすめの安いどんぶり飯屋を教わった。

 俺と3人の班は希望者でクジ引きだったと言われた。またクジ引き。本当に雑。


「俺は見習い上がり後準官のイマイチ組だからお前に勉強を教わったらええかなって。前から中官系をたまにコソコソ教わってる」


 ウラジの中官系業務をコソコソはハ組は幹部が中官なんて訳が分からねえとか、本部に引っこ抜きぐらいのやつが二足の草鞋だからまずは一人前の火消しになってからだ! らしい。

 それだとウラジみたいなのが伸びる芽が消える。これは7番隊と少し違う。

 こういことは意識改革をしないとずっと続くからそこに刃を入れようと煌護省などが動いたのも分かる。


「俺はネビーさんの知り合いならネビーさんに近寄れると思って。今日既に得した。やっぱかっけえ。いつもイオさん達に囲まれてて喋れないけどお前がいたら喋れそう」


 ネビー贔屓(ひいき)のサジュによると化物兄貴はやはり気さくらしい。

 サジュが見習いになってハ組の祭りに参加していたり仕事にもいるから覚えて気がついたら憧れていた。剣術大会を見学しに行ったりしているそうだ。

 いつも人に囲まれているから話かけられない。一昨年の秋に浮絵を見つけたから記名してもらいたいという。


「勉強教え係って言われてるから勉強はいつでも。凄い人って知らなくてネビーさんに鍛錬法を教わりたいって頼んだら気さくによかだって。一緒にって頼んだらもしかしたら」

「それは俺も参加したい。俺もネビーさんともっと話してみたい。凄い人なのに気さくで楽しいし優しい。話す機会が少ないからイオ先輩達の下になれて得した」


 サジュとウラジがネビー話を開始したので耳を傾ける。探らなくても話してくれると助かる。兄を根掘り葉掘り調査したって言われるのはあまり。

 突き技と抜刀術が特技らしくて銀行強盗の人質救出で活躍して瓦版に他の活躍者と共に名前が載った。サジュはそれを題材にした浮絵を持っている。

 浮絵もあるようだしやはり派手なんだな。殴り込み後の帰還時に遭遇出来ると嬉しいという話はまさに花形兵官といういう感じだ。

 でも仕事を離れた彼はそういう雰囲気が全然ない。脳ある鷹は爪を隠すみたいに、と思った時にふと昨日ガイに抱いた感想みたいだと感じだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ