未来編「因果は巡る糸車5」
朝起きて湿った匂いがするなと思って窓を開けたら雨だった。海に行けない。海はまた今度。いつになるか分からない休みの日ということになる。
天気が悪かったらどうするという話をしていなかったけど、ロイとリル及びレイスとユリアは来るのか?
俺が動いてすれ違いは困るけど雨の中来てもらうのもなと悩む。
朝食なしの部屋なのに軽く贔屓です、と昨日言われて選択した時間少し過ぎに朝食が運ばれてきた。
仲居ではなくて料理人姿の若い美人が登場したので少しドキッとした。
(ルルさんに似てる……?)
ルルより黒目がちで鼻が目立っていてもう少し俗っぽい。
(いや似てない。いや似てるよな……。俺はルルさんで頭がいっぱいなのか? そんな事ないけどな。それでこれは軽く、の量じゃない)
朝食はお膳に乗っていて白米、お味噌汁、煮魚、切られた丸い大きな何か、花模様のきゅうりの香物とたくあんと小皿に乗った黒いもの。
新人料理人レイと名乗られて、煮魚はメバル、丸いものはおうナス——黄色いから多分黄ナス——でデンラク、黒いのは岩のりと言われた。
「ルーベル様のご紹介ですので本日の朝食は贔屓です。火消しさんだとうかがっています。当旅館の料理がお気に召しましたらご家族や職場の方々のお祝い事などで是非ご利用下さいませ」
また来て下さいね、と言わんばかりのにっこり笑顔。彼女は失礼します、と品の良いお辞儀をした後に去っていった。
(彼女も何か作ったのか。なんだかまた来たくなるな)
お膳を眺める。やはり贅沢だな。
(1泊くらいしないといけない感じになってる。まあ親父達が泊まるしな。6防が遠くなかったら歓迎会とか? いや、費用が分からない)
華やぎ屋に泊まった時のことを思い出した。あの後から母は華やぎ屋信者で知り合いに沢山勧めている。皆満足らしい。むしろ大満足。
転属話が出なかったら俺の元服とアンの半元服祝いを合わせた旅行で華やぎ屋の別館という話をしていた。そのお金がこのかめ屋に落ちる。
元々は別々の商家が経営していたけど今は親戚関係らしいから良いだろう。
(この味噌の味に慣れない。でも美味い。好き嫌いがなくて良かった。美味い。この謎のキノコの味噌汁は美味い。魚も美味い。ナスってこんなに大きいのか? 美味い。語彙力がないな俺は)
岩のりで握り飯を3つくらい食べたい。のりは北地区だと高級品だけど南地区ではそうではない。安かったら買おう。俺の衣食住がどうなるかまだ謎だけど。
組が面倒を見ると言われているけど、生粋火消し達が大人しく頼まれる訳がない。俺は余所者だから最初は冷たそうだと覚悟済み。
すれ違いは困る、を選択して約束の時間に荷物を持って受付部屋の椅子に座っていたらロイが迎えに来てくれた。
「おはようございます!」
「おはようございます。元気でよかです」
礼をされて俺の礼と違うから真似をしてみた。礼儀作法は頑張ってきたつもりだけど難しい。
昨日レイスとユリアが教育されていた姿を思い出すと追いつかなくて当然か。
「はい。昨晩はご馳走様でした。ありがとうございます。美味しかったです。刺身が夢に出てきました」
噂の刺身は気に入ったし知らない料理や食材もあって面白いし4人に褒められて楽しかった。慣れるまで毎食旅行気分かもしれない。
俺の話を主にロイとして、そこにリルが少し参加して母や妹の事を聞いてくれて、ネビーとウィオラは相槌と少し感想くらい。途中途中2人は2人だけで小声で談笑していた。
ルルの事があるから探りに来たと思っていたので拍子抜け。あとあの2人は喋っているだけなのに笑みや空気が甘くて照れた。
リルとネビーは顔立ちが似ていて大人しめなのも共通点。ルルはもう少し溌剌として見えた。顔なんてネビーやリルと兄妹には全く見えない。他人の料理人レイの方が余程姉妹らしい。
それにしてもネビーは謎人物。補佐官だと思ったけど解散時に洒落た木刀を帯刀していて「ん?」となった。
昼間の手際の良さや上半身の筋肉の事もある。彼は補佐官ではなくて実務職採用の地区兵官疑惑。商家の息子が実務職採用だと色々な道のりがあるので経歴予測は出来ない。
実務兵官でも火消しと仕事で連携するから10年以上働いていれば火消し6番隊に知り合いがいそう。
……言ってたな。憧れの人の家に招かれてあまり聞いていなかったけど6番隊に幼馴染がいるって言っていた気がする。
だからルルと文通をするとなったら俺の素行を探れるのか。まあ、逆の立場なら俺も調査する。
「それは良かったです。噂の刺身はとても好みですと嬉しそうでしたからね。ただ昨夜のお会計は最終的に全額ネビーさんでした」
「えっ。そうなのですか?」
2人で離席した時間があったからその時に会計を済ましてくれたのだと思ったけどそうだったのか。俺は彼に全くお礼を言っていない。
ロイに傘を渡されたので笠を使わなくて済んだ。誰にでもはしないし嫌な事や面倒な事はしないから遠慮は時間の無駄と昨夜言われたので素直に傘を借りる。
こういう言い方は好みだな。好きだとなんでも好意的に感じるだけな気もするけど。
「黙って自分がご馳走した事にって言われたけど嫌なので言いました。本人も分からないうちに支払い無しだったので彼に何も言わないで下さい」
「分からないうちになんて事があるんですか?」
「多分披露宴です。かめ屋で祝言の披露宴をするので。日頃のお礼に多めに包んだのでしょう。自分達は得しました」
「お礼を言わないのは失礼です」
「いえ。これは内緒話ですのでその分また誰かに親切にするとよかです。自分もそうします。ティエン君は昨日既にもうしたか。旅行でも親切にしていましたね」
昨日も言われたけど、かなり努力したと思う立派な肩書きや組織に期待されて転属なのに謙虚そうなところなど、あの時の良い雰囲気のまま育ったと思うと褒められた。またしても嬉しい。
リルが張り切っていたから夕食は多分刺身とか、勉強を教えるのが上手いと評価されているならレイスとユリアをおだてて勉強させてみて欲しいみたいな話をされていたらルーベル家まであっと言う間。
いつの間にか雨は止んだ。でもまだ雲は分厚くて雷がゴロゴロ鳴っている。
この天気だと晴れたから海に行こう、は無理そう。
「あれ、ルルさん」
ロイが足を止めたので俺も止まる。ルーベル家の前に傘とカゴを持ったルルとリルが向かい合って立っていた。
ルルは昨日とは違って綺麗な小紋姿で帯結びも花みたいになっている。お洒落をしたら美人がますます美人!
「行ってきます」
「気をつけてね。お母さん達によろしく」
「雨がまた降る前に早く帰る。すっいじーん様の加護を受け!」
歌い出したルルが跳ね気味に歩いて遠ざかっていく。それでルーベル家脇の路地を曲がった。
(7番隊の火消し音頭! 楽しそうな横顔だったな。……楽しそうでかわよかな横顔。やっぱりネビーさんやリルさんとは違ってあまり大人しくなさそう。でも上品め)
品の良い火消し音頭は7年前のロイ達と知り合った旅行で見たハウルの姉の火消し音頭以来。
彼女の踊りはまるで火消し音頭ではないようなとても美しい舞だった。楽しかったのもあってとても印象に残っている。
1月に新年の挨拶と共に高等校に入学したと手紙が来てそろそろ火消し補佐官になりたいと親と喧嘩してみると書いてあったけどどうなっただろう。リルが俺達に気がついた。
「リルさん、おはようございます!」
「おはようございます、ティエン君」
「リルさん。ルルさんはお出掛けですか? 歌ってご機嫌そうでしたけど。ルルさんは自分達に気がつかなかったです」
「さっきまで一緒に海だったのに残念ってへしょげていました」
へしょげてってなんだ?
一緒に海ってルルも行く予定だったのか。……それは残念。残念だな。
「恥ずかしくなってきたから家に帰ると。元々実家に帰る日で海の後に帰る予定でしたし。休みなのに廊下掃除をしてくれました」
恥ずかしくなって、の時にニコッとリルに笑いかけられてドキッとした。残念な気持ちを見透かされた気がする。
「ルルさんはいつも働き者ですね」
「でも半分以上もうないからと言って旦那様の山桜桃を持っていきました」
ゆすら? ゆすらってなんだ?
「なっ! あれはネビーさんが自分に贈ってくれたものです」
「旦那様が酔って少なくなった時はどうぞ、なんて言うたからですよ」
「そんな事言いました?」
ゆすらは減るものらしい。
「ええ。取り消さないとまた持っていかれますよ。ティエン君。中へどうぞ」
ゆすらが何なのか謎のまま、俺はルーベル家にお邪魔した。
テルルとレイスとユリアにお出迎えされて卿家の子どもは小等校入学前から礼儀正しいなとまた感心。
ロイに告げられた通り居間へ招かれてガイとテルルとロイと4人になり挨拶後に釣書交換になった。和やかな雰囲気で安堵。
海に誘われたのは文通お申し込みと釣書交換の話の前だったからルルは「恥ずかしくて」ではなくて俺から遠ざけられたのかもしれない。
俺の素性は知られていて経歴は悪くないと思うけど他にも調査したい事は色々あるだろう。職場での評判とか言動など。
「ロイから聞きましたしロイからティエンさんに話した通り自分もルルさんの兄も調べられるので釣書は趣味などの話題作り……。釣りと将棋をしたいですか」
ロイに経歴を話したし、釣書の種類や書き方を覚えていないし、そもそも俺は文通お申し込みをされる方なので簡潔に家と仕事と趣味などを書いてみた。
無礼ではないはずだけど常識がないのかと呆れられませんように。今のところルルを逃すのは勿体ないという感想しかない。
ルルの釣書と彼女からの手紙が気になるけど今は開けない。
「はい。学業と見習いで時間がなくて勉強も火消し見習いも好きなのでそれが趣味みたいになっていました。でもたまに本を読みながら川釣りや空き時間に詰将棋をしていました」
気になったことを調べることも趣味だけどどう書いて良いのか分からないのでそれは書かなかった。
「川釣りの話は父上に前にした気がします。北5区の魚ですとか釣り竿など」
「そうか。このティエン君か!」
「ティエン君、父上の趣味は釣りと将棋です」
ティエンさんからティエン君に呼び方が変わった。父親とリルが釣りに行って面白かった魚などの話はロイから聞いている。
文通に友人が描いたという上手な絵まで添えてくれていた。友人にわざわざ頼んでくれるなんてロイは親切だといつも思っていた。
たまにリルが描いた絵もあってそれはそれで愉快。上手くないけど特徴は分かるという独特さだから。
「詰将棋ということは対局はしないんですか?」
「したかったですが時間があまり無かったのであまりです」
「海釣りは自分が連れて行きます。その前に釣竿か。釣竿は任せて下さい。将棋はこの後しましょう。あれだ。ロイと2面打ちだ」
「父上、一先ずルルさんの釣書を読んでもらいましょう。ティエン君、そちらは父が作りました」
「おお、つい。文通お申し込み用に少し肩の力を抜いたものです。釣書を読んでいただいて娘と文通のご検討をお願い致します。ご質問があればどうぞ」
「は、はい」
頭を下げられて恐縮。おかしい。こんなの俺の知っている文通お申し込みと違う。
少し素性の分かる短めの文章の手紙を郵便受けに入れるか直接——なるべく同行している家族らしき者——に渡す。
相手は気になるなら親に返事をして良いか確認して返事。嫌なら無返事か一言「すみません」という返事。
親に確認しない者もいるけど後から家同士の条件——家柄や仕事など——が合わないとか揉めたりするから常識はそれ。
(検討もなにもたかが文通だし美女だから了承する。奇跡的に上手くいったらロイさんと親戚という嬉しい事になる。袖振りの落ち込みに怯えて拒否なんて……)
釣書に目を通して最初の時点で戸惑った。商家ロブソン家が経営する彩屋の看板職人レオの3女ルル。母エルは家守り。
(この書き方で苗字無しだから平家。平家? ……平家!)
いつから記憶が書き変わったのだろう。旅行時にそのような話を母がリルとしていた。
リルは竹細工職人の娘で卿家のお嫁さんであの日の雰囲気だから商家のお嬢さんと思うようになっていた!
(今年19歳。リルさんと10歳近く年が離れているんだな)
6人兄姉妹。多いな。兄ネビーは昨日もう会った。姉リルも知っている。
(……。兄卿家ネビー・ルーベル。本年28歳。昨年から地区本部所属で南3区6番隊に出向中のニ等小将官ノ下官)
前情報がないと卿家ネビー・ルーベルに戸惑うけどそこは昨日サラッと言われた。
昨年から、とわざわざ書いてあるのは最初から地区本部所属で左遷のような出向ではないという意味。
多分彼は祖父が通った道を歩んでいる。兵官もそうらしいと聞いたことがある。番隊長や副隊長になるための通過儀礼、地元へ連れ戻しをされた疑惑。
番隊内で評価の高い者と地区本部所属のイマイチな者を入れ替えて不満続出からの連れ戻しを仕組む。番隊幹部がそういう空気を作る。
そこで連れ戻されない者は求心力なし、ということで番隊長や番隊副隊長にはなれない。
28歳でニ等小将官で連れ戻されたから番隊長に向かって邁進中。小将官だから番隊幹部。
(番隊幹部だったのか。下官か。火消しと連動しそうだから南地区兵官も中官試験嫌いが酷いとかあるかもな。ジジイの同類疑惑だ)
平家から地区兵官は商家の息子が地区兵官以上に就職経緯は推測不可能。ただ、この年齢でこの肩書きは化物達の仲間。
着物の下の体つきが予想外に逞しかったのでつい鍛え方を尋ねたら「今度教えますよ。都合がつく日が分かったら教えて下さい。ロイさんに伝えてもらえれば」と気さくな感じで夜は大人しい印象しかなかった。
テキパキしているけどルックへの言動も柔らかだった。
しかしこの肩書きだとどう考えても絶対に大人しくない。ある程度派手な活躍をしてないと番隊長候補や副隊長候補にはならない。
怖い。ヤバそうな兄だ。俺の予想がこんなに外れた事はない。いや、むしろこの予想こそ外れか?
それなら安心。大人しいとか穏やかそうな印象が合っているという事だ。
でもそれだとこの若さで連れ戻されたニ等小将官ノ下官の仕事はなんだ?
「あの。兄のネビーさんの業務をうかがってもよかですか? こちらの肩書きですと一緒に働く事があるかもしれないと思いました」
一緒に働く、よりも指示されるとか会議に来たのを見たとか、殴り込みで壊れた建物の撤去をする時に帰るところを見るとかだろう。
「番隊内の便利屋です。なので火消しと仕事をする事もあります」
便利屋?
「番隊幹部で番隊長候補者の1人かと思いました」
「この文で幹部以外の事も分かるんですか?」
俺の考察は正解かよ!
「あー、あの。連れ戻し通過儀礼終了者かなと」
「よくご存知ですね。祖父君が祖父君なのでもしかしたら伝わるかなと思いました。やはり聡明ですね」
「いえ。祖父が祖父なのでたまたまです」
俺は試されたのか?
「全部書くと疲れるので書きませんでした。兄は幹部。火消しと一緒に働く事もある。文通程度なのでそれが伝われば十分かと」
「はい。その通りです」
「簡易釣書に書くのは長くて面倒ですのでやめましたが気になるようなのでお伝えします。捜査班遊撃官、見回り班遊撃官。福祉班遊撃官。教育総班副班長副官、副隊長補佐官副官です」
遊撃官は確かに便利屋だ。普通それと本業1つくらい。多い。でも番隊長候補者の1人ならこんなもんだろう。幹部席に2つも座っているのは気になる。
副隊長副官の1人なら分かるけど副隊長補佐官副官って中官になって本部に戻って総官候補者になる事も視野ってこと。そうでなければ補佐官業務はわざわざ副隊長補佐官につく必要ない。
この年齢で下官だし連れ戻しされたばかりなので総官候補者になるには遅れ気味。
尋ねた結果、ネビーは俺の予想よりもヤバい男だと判明。
現段階では地区本部総隊長も夢ではないって人を便利屋って過小表現過ぎる。
「……総官も視野ということですか? 中官を目指してそうです」
「参考にしたいのですがどこからそう読み取りました?」
「副隊長の副官ではなくて補佐官副官とおっしゃったので中官認定後の監査を先に済ませているのだと思いました。他の補佐官につくのではなくてわざわざ副隊長補佐官副官なので本部幹部を見据えているからかなと」
実務職でバリバリ働かされて管理職業務もさせられているはず。
同期のダイが順調に育つとこんな感じにる。あいつはコケないともう少し若いうちにこういう風になる。ダイは化物だからネビーの化物さが分かる。
「おお。パッとそこまで頭が回るとは驚きです。今年追試に受かると中官です」
学業が苦手なのに長年挑戦しているとは努力家。まあそうでないと出世街道に乗れない。
昨年、地区兵官達の多くは死んだ目をしていた。離職死罪令解除後に離職しないで激務の中で幹部仕事をして中官認定試験を拒否しないで挑戦して成績上位者だったから今年限定の救済措置——組織が困っているだけ——を受ける。
野心家だしやはり化物!!!
「ああ。あと凖警兵です。海辺街や南西農村区などに呼ばれます」
それは意味が分からないので推測不可能。
「準警兵は聞いたことがありません」
「招集指定者や定期出張者の事です。火消しにはないですね。警兵にも凖地区兵官がいます」
「勉強になりました。ありがとうございます」
(大人しめの気さくな人だと思ったら怖え化物野心家兄貴。ジジイよりとんでもなさそう)
結婚が遅いな、と思ったけどこの経歴や肩書きなら選び放題で上に登るほど格上の家の女を獲得出来る。そりゃあ遅くする。
普通以下の俺が言うのもなんだが彼は色男ではなくて地味めで覚えづらそうな凡庸な容姿。
あのくらいなら仕事で目立てば格好良いとモテるだろう。絶妙な平凡さ。高くないけど低すぎない背もそうだな。
花街や下街で遊んでそろそろ格上も手に入るし落ち着こう。そんなところ。
(ウィオラさんはルルさんくらいに見えたから遊び終わって若い女か。それも明らかにお嬢さんの中のお嬢さん。彼女は俺の学友の姉妹さんよりもお嬢さんだった。いくら花形兵官でも平家……卿家の親戚と自分も卿家の肩書きだからか)
化物ジジイは友人や火消し家族が大好きで宴会で金が消える。そこはわりと火消しあるある。亡き祖母も母も止めたり節約で苦労している。
父がマシに育った続きで俺も祖母にケチになるように育てられた。
お嬢さんは見るもので似た女は花街で遊ぶもので最高峰の女は下街女だ! っていうところが世間一般の花形火消しと違う。
浮絵も男の子が少し買うくらい。なにせジジイは顔が怖いからモテ男にはならなかった。女への扱いも雑。雑というか下街女ととても気が合う。多分。飲み会の話や実際に見てきてそんなところ。
……ネビーは特権はないとしてもガイに息子として迎えられたから肩書きは卿家なんだよな。
役人の手本になる道を選んだって事は花形兵官の派手めに遊ぶ感じとかを捨てたのか。
花形兵官は元々花形火消しよりも地味だけどそれよりも控えめ?
卿家の親戚で妹の父親が煌護省ならそうなるか。でも遊び倒して若い格上そうな女を妻に、だから許される程度にはなにやらってこと。ルルも気になるけど俺はこのネビーこそ気になる。
龍神王様によれば人は4つの欲によって生かされる。飲欲、色欲、財欲、名誉欲。
才能があるから平家で終わるかと野心を抱いて努力して現段階では地位、名誉、金、女と全部手に入れている。
それであの雰囲気ってなんだ?
もう少し彼よりも化物ではないジジイや化物ダイに7番隊の花形火消しや噂の本部の花形火消しなど比較対象がいるから不思議。
この化物ネビーを見て育ったルルはどういう女性に育つんだ?
「あまり話していないのでネビーさんと話してみたくなりました」
「おお。まだネビー君の事を考えていたんですか」
「はい。きっと手本になるところが沢山あります。鍛錬法を教えてくれると言ってくれました」
こう言えばガイかロイは俺に何か言ってくれそう。ルルを諸刃の剣と表現したけどそんなかわよかなものではなくてネビーこそ諸刃の剣だ。
立派な兄で役立つとホイホイ釣られたら痛い目にあう可能性がある。
「ティエン君。休みが分かったら3人で飲みに行きましょう」
ロイに微笑みかけられた。
「ありがとうございます。お願いしたいです」
保留。
美人で品良く元気めに火消し音頭なんてかわよかだったから文通くらいと思ったけど、この化物兄貴ネビーの性格やルルとの関係性などが分かるまでは保留だ。怖え。




