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未来編「因果は巡る糸車4」

 帰宅の挨拶と出掛けさせてくれたお礼を告げるとレイスとユリアはルルと離れで寝たと言われた。

 それで気がつく。ルルが実家に帰ると2人もぐずる。我が家を出ていったらユリアとレイスこそ大騒ぎかもしれない。

 私がルーベル家に嫁いで私の知らないところでルル達が大騒ぎだったように。

 しかし人はそうやって別れを経験していく。別れのない命はない。


「気になって眠れなくてな。彼の謎は解けたか?」


 帰りが遅くて心配もあるだろう。遅くなると分かっている日でも先に寝ていた事がない。いつもどちらかは起きている。義父が口を開くと義母も小さく頷いた。


「ええ。色々分かりました」

「ルルさんはずっと上の空で大人しくて別人みたいです。普通はロイさんと姉ちゃんを使う。6防火消しなら兄ちゃんも使えるのに変な事をした。失敗したとメソメソ泣き出しました。お酒なしで」

「ルルが泣いたんですか⁈ お酒なしで」


 昔はちょこちょこ不機嫌とかでも泣いたけどそれはもう何年も見てない。足の指を角にぶつけて涙とかはあるけど。


「ええ。あと急に笑ったり。忙しいです」

「彼について知ったことを話します」


 ロイがあれこれ説明。ロイがティエンから聞いた引っ越し経緯や聞き出した経歴を義父母に語った。ティエンは二年後にお引越し。

 南地区と北地区とは違ってうんと遠い訳ではないから家族は暮らし慣れ始めた6番地から動かないかもしれないので一人暮らしの可能性もある。

 その話題の流れでティエンは一人暮らしが嫌なら結婚も考えろと言われた話もした。

 その時に彼の口から飛び出した「お嫁さんはお嬢さ……なんでもないです」という台詞に私達は目を丸くした。

 ティエンの向かい側に座っているネビーの長年の口癖と同じだったので。

 彼は慌てた様子で少し赤い顔で「これから働くのでまだまだ。まずは一人前にならないといけません。それからです」と口にした。

 どう見てもルルを思い出したような顔をしていた。ルルに照れたりデレデレしない男性は少ないのでそれはそんなに驚かない。

 そういえばジミーはロイに「いっそルルさん」と口にして背中を殴られて、ルルには「子どもの時に一瞬惚れましたけどすぐに興味を無くしてあれこれ無理です」と辛辣な言葉を投げられて嬉しそうに笑っていたな。関係ない話を思い出してしまった。


「ネビー君の次はルルさんが特殊な方を見つけたな。ロイ、最等校に進む気はなかったのか尋ねたか?」

「ええ。成績は中の上。主席争いではなかったと。意外でした。それなら国立高等校の学費全額免除にはなりませんよね?」


 そうなんだ。義父がなぜそれを聞いてくるように言ったのか分かっていなかった。


「そうか。中途半端な成績に学費支援だしやはり推薦災実かもな。特別勤務で転属強要だからそうだろう。職場で調べるけど可能性大だ」

「推薦災害実動官って事ですか。ああ。父上、もしかしてネビーさん方式を検討するって事ですか? ルルさんの為に得で囲う」


 ティエンも特別養子縁組対象になるって事⁈


「いや。学費支援者だと実子扱い認定が難しい。出来ても時間もかかるだろう。時間をかけて認定を得られても最長16年。俺は死んでる。そうしたら格上げされずに終わりだ」


 長生きして欲しいけど80歳以上は確かにもう亡くなっているだろう。


「そこはまあ自分やネビーさんがいます。ただ家系火消しで頭脳を認められた、だとネビーさんの評価枠と違いますよね。学校での態度や役割の記録によっては実子認定が難しいどころかもう無理かもしれません」

「おお。お前も勉強したんだな。ネビー君は信頼枠。推薦兵官。ティエンさんは学力枠。そもそもだ。ネビー君はリルさんの兄だ。娘の兄でデオン先生という信頼があってお前と長年兄弟門下生。だから安心だし彼に得をと望んだ」

「ええ、それでご両親も家族も全員調べてです。ジンさんを両親とほぼ縁切りさせて養子にしたとかそういう事も含めて」


 義父は大きく頷いた。義父はネビーを特別養子すると同時にジン関係の手続きも父としたと後から聞いた。

 卿家の足を引っ張りそうなジンの家族を遠ざけるために。

 ジンの家族は我が家はわりと貧乏と思っているのに、そちらも厳しいだろうけどと綴りながらお金をたかるような手紙を送ってくる。たまにルカが怒ってジンの為に泣く。私も腹を立てる話。

 ジンは好きの反対は無関心だ、と言っている。嫌いとか不快はとっくに通り過ぎているらしい。


「学費支援の推薦災実だと王都内、王都外のどこに飛ばされるか分からない。正直ルルさんと縁結びしたくない。彼の事は応援支援したい」

「えっ? 王都外もですか? その考えは無かったです」

「属国を増やした時に火消し組織を作るとなったら立ち上げ組になれとかあるかもしれない」


 義父はネビーもそういう可能性があったと口にした。推薦兵官もティエンのように新規組織や不足地へと転属させられる事が多い。

 ネビーは信頼枠だから番隊幹部が目標。なので最初の目標は地区本部所属になること。

 予定や想定よりも早く地元区民が地区本部からネビーを取り返すという騒動があったので6番地に縛り付け。

 本来は6番隊内で不満が出たり幹部がそう誘導して6番隊から不満爆発だったら関係地元区民を通して意見書で連れ戻しなのにネビーはその前に地元区民に騒がれて帰ってきた。

 その件でネビーは勝手に引っ越しするのは禁止で要相談とか出張は何日以内とか規定が増えたと前にチラッと耳にした。

 

「番隊長になる通過儀礼の連れ戻しが起こらないような人材なら属国に送ってみようとか欲しがっている海辺街や南西農村区に移動話もあった」

「そうなんですか。ネビーさんはその話を知っていますか?」

「ああ。普通は知らないけど俺が教えたからな。6番隊幹部や同僚の評価がイマイチという結果で連れ戻されなかったら通える海辺街か近くの警兵とゴネると。ティエンさんの事も気がついたと思うけど何も言わなかったのか?」

「ええ。ルルさんの防犯面の心配をしていました」


 ロイは義父母にネビーの話をして犬の話題も出した。


「意外だな。途中で使えない駒になったら別だがネビー君を見ていれば分かるだろう。目をかけられて大事めに育てられる。高評価だと登っていく。つまりまた転属だ」

「過剰教育とも呼びます。聞いているとネビーさんの業務負担は大きいです。本人はそれが当たり前だからしれっとしていますけど」


 私はネビーの肩書きが多くて筆記帳を見ないと分からない。4つの班を掛け持ちして海辺街と南西農村区にも凖所属している。

 ネビーは新しい知り合いに仕事内容について聞かれると「番隊内の便利屋です。足りないところ係」と言う。今夜ティエンにも言っていた。

 他の候補者と一緒で番隊長、番隊副隊長になる為に掛け持ち業務だけどそれは言わない。


「いや、お前もそこそこそういう過剰教育をされているだろう。最速出世からずっと尻を叩かれて先頭だ」

「ええ。疲れます。つまり彼はコケないと6番隊や上南地区内に留まらないと。あと父上やネビーさんのツテコネで留めるのは無理そう。そういう事ですか」


 それは悲報。私はルルをジュリーにしたくないけど他の地区や王都外もありかも、なんて聞いたら躊躇(ためら)う。

 一目惚れから大きならぶゆになる前に他の男性に気持ちを移して近くで暮らして欲しいと思ってしまう。


「推薦災実を留める影響力は兵官担当でおまけに退職してそうな俺にはない。実子扱い予定で兵官ならまた別だけど」

「そうですか。難しいんですね」

「ネビー君が海辺街や南西農村区でも働くようにしていたのは他の地区や王都外に転属になったら困るのもあった。歩けば好かれる男だから番隊長候補に入ると思っていたけど他の理由もあるし念のため」


 56歳になる年から定年退職可能。元気いっぱいでバリバリ現役だ! と60歳までこれまで通り働いてその後は週4勤務に変更。

 来年から週3日にすると言っている。義父の趣味の1つは仕事なのとネビーと漁師関係で引き止められているらしい。

 ガイが望んだ視察仕事で家族旅行に帯同。それはネビーに警兵業務を学ばせたら警兵側も便利な駒として使えるから頼めた事。赤鹿乗りはその延長。

 他の地域や警兵業務をすればネビーならネビーあるあるを発揮してそこの地域で好まれる。

 そうしたら我が家とレオ家に漁家や農家からお礼が来たりかめ屋と縁結びが出来るかもと思ったら実際そうなった。

 税金で支援して地区兵官にして、卿家跡取り認定でまた国がお金を与えるネビーを広範囲で沢山働かせるのは国にとってお得。

 前に義父に教えてもらった両得になるように考えたり頼めるって義父は賢いし凄いんだなと思った話。

 家だとゴロゴロ系義母のお尻にぺちゃんこだけど職場では違うのは同僚やルルから聞いている。


「父上、ネビーさん関係でも無理ですか?」

「パッと考えた段階ではイマイチ案がない。ネビー君に俺があれこれ乗っけられたものは全て煌護省や番隊に好影響なことだけ。組織に都合が良くないと税金を多く投入する者をどうこうは難しい」

「いっそ番隊長、総官を目指してもらうのはどうですか? あと彼と似た経歴者を彼に増やしてもらって代わりに転属してもらう」

「それは俺も思った。幸い6防にはネビー君と親しい班があるし幹部同士と話も出来る。実務が落ちこぼれ気味と本人が言っていたとしても見習い時間不足だからだしな。伸びるかも。幹部候補に変更だと転属の可能性が減る」

「文通段階でそこまでは言えませんね」

「勝手に根回して、2人の気持ちが強固になる前に結納に持っていってこの話とか」


 文通するかしないかだけでここまで大きな話になるのか。

 でもルルとティエンがロメルとジュリーになってから家族が「ルルは南地区内!」と騒いでももう遅い。

 ボヤッとなにもしないでティエンの成長を待っていると南地区内に残る可能性が小さくなってしまう。これはそういう話。

 絆や気持ちが小さいうちに結ばれなかった場合は他の相手と深い仲になれる。私の狭い世界で20年少しの人生でもそれは知っている。


「ちなみにウィオラさんから農林水省に依頼してもらうのはどうですか?」

「今回の事に関する我が家とレオ家の最大のツテコネはそれだ。ネビー君が転属に触れなかったのはそれだろう。俺に尋ねにくるかもしれない」

「転属するような男なのか未知。利用出来そうなのは自分の権力ではない。他に方法があるかもしれない。彼女の前でいきなりは言わないですね」

「ティエンさんを俺とネビー君と6防と共に番隊長や総官になるように支援するからその時はお願いします、とウィオラさんから農林水省に掛け合ってもらう。ティエンさんのご家族にも提示して協力してもらう。彼等も王都外に転属もあり得るなんて知らないだろう」


 ウィオラは海の大副神様に好まれている。漁師に頼まれて何度か海の大副神様の遣いが現れて豊漁になったからだ。

 琴門総宗家に生まれて一族の中でも演奏の才能があったところに歌声も素敵。龍神王様や副神様達は音楽が好きなので音楽行事があるしお祭りには音楽必須。

 そういう人はたまにいて神社で働くように農林水省から指定される。なのでウィオラは前職の女学校の仕事をクビにされた。

 ロカが悪い事なんてしてないしむしろ居て欲しい先生なのにクビにされたと怒っていた。

 国益や区民の利益は個人よりも優先だから、代わりのきく女学校の先生よりも海の大副神を祀る神社の奉巫女(ほうみこ)が優先。

 彼女は週3回程不定期に海辺街に通っている。天気やネビーの勤務に合わせられるから不定期だ。

 もちろん毎回豊漁ではない。たまにしかそうならない。大豊漁でもない。でも奉巫女(ほうみこ)以外だと全然ない事。

 もっと頻度が高いような特別中の特別な人がいたら皇居勤めだとルシーに教わった。

 ウィオラは「まあたまにいるよな」くらいだとか。まあ、たまにいるって世界って広い。


 努力しても得られない名誉ある仕事だけど家族親戚や他の仕事を人質にされて逃げられない。

 代わりに少し我儘(わがまま)が言える。ウィオラは少し働いたロカが通う女学校の趣味会の講師の座を取り戻した。ロカが喜んでいる。

 次は来月の祝言や新婚旅行におけるネビーの長期休暇。長い休みを試しに頼んだら有給で許可された。ネビーは働きながら行くと言っていたけど働かなくて済んだ。

 頼み過ぎはやり返されるだけなので小さな頼み事をたまに、がコツだと農林水省に言われているとか。ネビーは来月そんなとんでもないお嫁さんを迎える。

 ネビーがウィオラを海に連れて行って、たまたま漁師バレル達と縁結び。

 お嬢様とデートはムカつくから魚を売らないと言われてウィオラが演奏と歌が気に入ったら売ってくれと戦いを挑んだらしい。彼女はたまに勝ち気。

 その結果ウィオラは豊漁を起こしてバレル達に呼ばれるようになり、たまに似た事があるから奉巫女(ほうみこ)という仕事と権力が出来た。

 そのウィオラに私は「春霞の局で働く女官吏様とご友人の方がとんでもないです」と言われた。

 皇女ソアレ様は現在第一皇女様。出会った頃のルシーが前に「目立たない局だけど優しい皇女様」と手紙に書いてあったけど風向きが変わったらしい。

 ルシーが現在そんなに雲の上の人だなんて知らなくて目が点になった話。


 旅行で節約の為に話しかけたら袖振り魔人ルルが恋穴落ちする火消しが南地区に来たり、雲の上の場所で働く友人が出来て我が家で出産したり、ネビーがウキウキ海にデートに行ったら海辺街の奉巫女(ほうみこ)が生まれてルルが遠くに行かないように役立つかもしれないとか人生って本当に何が起こるか分からない。


 少しぼんやり考え事をしていたらティエンの家族も仲間に出来るみたいな話をしていた。

 

「何も知らずにこっちと言われるよりも無知なところに自由はないぞ、の方が都合が良いから組織は教えない」

「ネビーさんは父上が先回りしてゴネられるようにしていたと」

「ああ。ティエンさんも強めにゴネねて他の案を提示したら北地区にいられたぞ。それこそ祖父のようになってその後総官を目指すとか」


 知識は宝。この国では知らない程損をする。国に役立つように利用される。

 卿家が強いのは人付き合いで地盤を固めるとあちこちの役所勤めの人から知識を得られるところ。


「1人息子ですからティエン君のご家族は喜ぶでしょうね。それなら正直縁結びしたくない、はなぜですか?」

「6番隊残しは多分ウィオラさんの負けだ。上地区本部は可能性あり。遠いだろう。上地区本部は。他にも候補者がいるんだからそっちがええ」

「ロイ、リルさん。昼間ルルさんに話したばかりですがお父さんはルルさんの為に探したのは卿家で管理職採用だけど補佐官の下積みを拒否して実務を希望して現在揉まれまくっている地区兵官準官です。目的はルル・ルーベル」

「あー、ルル・ルーベル。卿家と卿家なら安心で簡単です。父上なら他の事も細かく調べてそうです。跡取り予備も増えます。仕事の状況から推測する性格はルルさんが好みそうです。趣味なども父上なら抜かりなさそう」

「同居から始めて近所に独立。離縁になっても実子扱いの卿家ルル・ルーベルです。得があります」


 ルル・ルーベル。ルが沢山。

 義父はルルを娘にしようと考えていたんだ。これは父も賛成しそう。

 

「会って気が合えば得が沢山。一方、家族親戚が根回しなどで苦労して努力が無駄骨かもしれない。女性関係や金の遣い方とか何も分からないだろう」

「ええ、調査や様子見から開始です」

「生粋火消し、それも幹部の息子だぞ。価値観や常識が独特なのは明らか。俺よりもレオさんの方が渋りそう。ネビー君は意外。俺が遠いと心配ならレオさんはもっとのはずだ。娘は全員近くがええ。かめ屋で少し遠いだぞ」


 遊び喧嘩に宴会や女遊びが火消しの共通の趣味、だからな。父の友人ラオやネビーの友人イオの属するハ組を通してあれこれ知っている。

 結婚するまではあまり火消しに近づくことが無かった。多分遠ざけられていた。

 

「自分もルルさんは選べて選ばれるから近い方がええです」

「ネビー君は生粋火消しでも反対しないんだな。まあ文通くらいええと思うから妹を頼みます、だったからその時に既にそう思った。普段の妹バカはどこに消えた」

「ネビーさんってあけすけなペラペラお喋りで分かりやすいのにたまに難しいです」


 義母がパンッと小さく手を叩いた。全員義母に注目。


「ネビーさんはご自分が似たような事を言われる側です。違う者もいて人によると考えて文通くらい構わないと思ったのでは? 2年間は自分で直接調査出来ます」

「ああ、そうか。そうだな母さん」

「文通の段階でここまで神経質にならなくても」


 そうなの?

 義母こそあれこれ推測出来るから一緒に反対するかと思った。

 私はルルが泣いた話だけが気になっているけどそのまま失恋気分になったら前の淡い恋みたいに忘れるのでは? とも思っている。


「神経質ってなんだ。このくらいは調べないと」

「私は話を先に潰して終わりになるとは思えません」


 ロイと私がティエンを気にかけて世話をするとルルとティエンの縁は切ろうにも切れない。どこかで会ったりする。

 私達夫婦が動かなくても世話焼きネビーが昼間のティエンを見て動かない訳がない。

 ルルの件は無視してイオなど友人達を通して困っていないか確認くらいする。

 礼儀正しそうなティエンは当然ネビーと接する。ネビーにくっついている火消しにティエンがくっついたらルルとどこかで会う。

 近くに存在していると気になるもの。結婚して下さい、と無自覚に口から飛び出すくらいなら絶対に私だと騒いだロイや、絶対にウィオラだと突進したネビーと同じな気がする。義母はそう口にした。


「それで彼は生きてきた世界がネビーさんに似てませんか?」


 ネビーは出世しても下街の長屋暮らし。だからモテる。本人どうこうではない。見た目や中身を無視して地位名誉財産目当てでモテる。本来は高嶺の花なのに手が届きそうな花に思えるからだ。

 ティエンも下街育ちの生粋火消し。でも学校に通っていたなら目立っていただろう。

 普通の火消しも少し花だけどこいつはさらにだと目をつける女性は必ずいる。

 

「ロイが言いましたね。お嫁さんはお嬢さんってネビーさんみたいな事を口走ったって。おそらく地元の下街女性関係で何か嫌な目に遭うか多少嫌な印象を抱いていますよ」


 それなら遊び回ってはいないだろう。嫌な目に遭っていなくてもお嬢さんの方が好みと思ったら品行方正を目指す。

 生粋火消しは義父が言ったように女性関係で何か言われると知っているから尚更。賢いならそういう知恵が回るはず。

 経歴から考えてあまり自分の時間が無くて今夜の話やルルへの反応から考えると女性に手慣れてはいない。


「お嬢さんが好みでも気が合ったり惹かれるのはおそらく箱入りお嬢さんではないです。ネビーさん系統な気がするので破天荒お嬢さんは好みでしょうね」

「ああ。ネビー君にはウィオラさんのお嬢様以外の生活が培った部分が思いっきり突き刺さったみたいだからな。ルルさんとは系統が違うけど似てるところは似てる。どこかで会うたびにお互いどんどん気になるって事か」

「贈り物だけならともかくひくらしやかめ屋の行商関係でお世話になってきた家族を我が家やレオ家は無視しますか? レオさんやエルさんは絶対にしません。来年の引っ越し後の生活のお世話をするでしょう」

「するな。絶対にする」

「セイラ達もいてヘンリさんもいます。ティエンさんとルルさんが今後一切接触しないなんてことはありません」

「そうだな。やはりどこかで会うな」

「近寄ってくる男性ならともかく逆で袖振りされそうだとレオさんも貴方も腹を立てそうです。反対と言いながら」


 チラリとロイをみたらうんうん、と頷いていた。この頷きは自分の事も含めてな気がする。


「その通りだ。そうな気がする。潰した方がええ相手かもしれないと思ったけど釣書を持ってきてくれって言うてしまった」


 文通お申し込みをするのはこちらなのに義父はおかしい流れにした。ルルがティエンに「こういう家のルルです。文通お願いします」と工夫した手紙を渡すだけなのに簡単な釣書交換を要求だ。


「ネビーさんは意外でもなんでもないです。悪い相手ではなさそうで縁も切れなそう。それならルルさんの気持ちに寄り添いたい。それだけだと思います」

「そうか。縁は切れなそう。そこが抜け落ちていた」

「私は王都外もあり得る話に驚きです」

「お義父さん、お義母さん。三人寄れば文殊の知恵です。犬の話もそうでした」


 この会議はとても大切だった。私はほぼ聞いていただけだけど。知識は宝だから賢さが増した気がする。筆記帳にまた書いておこう。


「ええ。それでネビーさんは必要が出てきたらお父さんに頭を下げるかと。その前にご自分で言うたように尋ねにくるからその時かも」

「そうか。言われたらそうだな」

「妻にも頭を下げるでしょうね。ルルさんにはきっとその辺りは何も言わず。自分では分からないけどお父さんなら、と信頼しているから上地区本部内で済むかもしれない。それで心配は防犯面だったのでは?」

「父上は現におおよその方法を考えましたね」

「旦那様もです」

「ロイの時にした反対しても無駄そうという嫌な予感は正解でした」


 昔、私に反対して悪かったと謝罪してからの義母は私とロイの結婚に反対だった話を隠さなくなった。

 

「つまりまた母さんの勘が働いたのか」

「ええ。また息子が得体の知れない女となんて、と思ったけど前回の反省を活かして勘の方を取りました。結果はご存知ですね」

「あれは反対しても無駄だったろう。応援したから得したな」

「ええ、お父さんのおかげで由緒正しき格の高い家業の大豪家に恩を与えた上で縁結び。息子は日に日に幸せそうだし昨年の激務には絶対に必要な支えでした。たまに農林水省にお願い事という権力を手に入れてくれたから今回の件に使えます」

「まるでルルさんとティエンさんにお膳立てみたいだな。ロイとリルさんの結婚やリルさんが漁師と我が家を縁結びしていたからネビー君達に役立ったように」

「北地区の火消し家族は歓迎みたいな下地を作ったのもロイとリルさんです。ティエンさんをこの地に呼んだのもロイ。きっかけはご利益のあるエドゥ山でですし乗っかれば良いのでは?」

「何食わぬ顔で文通させて深い仲になりそうになったら裏で根回しして、様子をみて本人達や家族も巻き込むか」

「私はそれを希望します。文通ごときで破談なら何も苦労しなくて済みます。傷口に別の縁談です。どうせすぐ会って話したいになりますよ。すぐ簡易お見合いになるでしょうね」

「そうですね。自分も母上に賛成します」

「私はここまで聞いたらルルがらぶゆなうちはルルを応援します」


 ルルとティエンはウィオラに聞いた運命の赤い糸というもので結ばれているみたいだ、と思った。今のところ切ろうにも切れなそうだから。


「誰かの調査でロクデナシと発覚するまでは私もです。我が家も見張りますけど6防ならレオさんとネビーさんが番犬になるし調査もします。安心です。眠いので寝ます」


 そう告げて義母は立ち上がって居間から寝室へと去った。

 

「父上。母上はネビーさんの事を息子と言いましたね。必要な人付き合いでは言いますけど。初めて聞きました」

「いや、そうではない時にもたまに言うぞ。一昨年くらいからだな」

「はい。私もたまに聞きます。かわゆい息子のお嫁さんは誰でも嫌は発動しません。そこまでの息子ではないです。お母さんは実の息子のお嫁さん候補にちっともイライラしないの——……」

「リルさん。お黙りなさい」


 スッと襖が開いて義母の低い声がして喉の奥がひさびさにヒュッとなった。

 昔よりも喋るようになった私はこうして口を滑らせたり余計な事を言う。反省。

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