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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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198/380

未来編「因果は巡る糸車2」

 歴史にもしもはない、というから人生にももしもはないのだろうか。

 でも俺の人生の分岐点は明らかに半元服祝い旅行だと思う。あの日のあの出会いがなかったら俺は全くの別人で別の人生だっただろうから。


 ここはかめ屋。いつか家族で泊まろうと言っていて来年家族も泊まる予定の宿。

 支給された旅費を節約して野宿して下見も兼ねてかめ屋の安い部屋に宿泊の予定が「行商関係や華やぎ屋でお世話になっています」と予算よりも上の部屋に案内された。ロイとリルと一緒に来たから、という感じもあった。

 机に向かってぬるくなった桜茶を飲みながら半生を振り返る。


 7年前。豪快、快活みたいな大人は周りにいたけど凛々としていて聡明で穏やか。そういうロイのような大人と接した事はなかった。

 彼と過ごした時間は短かかったけど俺に衝撃を与えるには十分な時間だった。

 次は手紙が届いて美しい文字を見た時や文章や使用している漢字などにまた衝撃。ロイは関係ないけど同封されていた海の浮絵にも衝撃を受けた。

 俺の憧れの人物に祖父と父などの火消しからロイも加わった。

 そうして俺は「火消しになる」という考えと幼馴染と遊ぶことと食べて寝るというかなり単純な世界から複雑な世界へ足を踏み入れた。

 ロイというか卿家の男性に近づくには学校と言われて中等校を目指して特別寺子屋で入学試験用の勉強を開始。

 中等校に通ったら家柄の違いで価値観や考え方がこんなにも違うのかと衝撃を受けたし好奇心旺盛で人見知りをそこまでしないから学生生活は楽しかった。


 補佐官を目指す方法の1つは高等校まで通って管理職採用試験突破と予備試験後に中級公務員試験突破。滑り止めで下級公務員試験。

 親が火消しでない場合で半見習いになれない場合はこの経路でしか火消しになれない。中等校卒だと下級公務員試験までしか受けられない。

 俺の成績なら火消しになってから中官認定試験よりも高等経由の方が良いと勧められたし自分でもそう思った。

 中等校が学費半額になったから高等校に通っても良いと家族に言われたけど、平家枠は少ないし学費半額なら許すみたいな様子だったので必死。

 落ちたら火消し見習いになって中官認定試験を早く受けられるように采配してもらう予定だったけど俺は学費免除を成した。俺はこれだけは俺を褒める。

 なのに「中等校は半額免除だったのはなんだ。最初から本気を出せ」と祖父にも両親にも怒られた。中等校の3年間学費半額は毎年褒められたのに解せない。


 せっかく火消しの子で火消し見習いを出来るから良家の息子の手習感覚で見習いを継続。

 憧れは祖父や父だけど学や教養を身につけるという道を選んだ時点で生粋の火消しとして遅れるのは明らか。そこは後からだと諦めた。


(えーっと、実務職採用……。ここまで書くのか? なんで引っ越してきて職場に挨拶をする前に俺は釣書を作っているんだ?)

 

 そもそも釣書の作成法はうろ覚え。火消しに全振りしていた知的好奇心が勉強その他に向くと俺の埋もれていた知能という才能が発見された。

 そういえば、みたいな事はわりとあった。寺子屋で学ぶ範囲は楽々だったし見習いを開始すれば「そんな規定を覚えてるのか?」みたいに言われていた。

 釣書は興味がないというか、学校で習ったけど「俺は火消しだから普通のお見合いはしないだろう」みたいに授業を雑に流した。

 俺には興味がないと物事が目や耳に入りにくいという欠点がある。

 

(地味火消しでもどこかで誰かに見染められて会いに来てくれるとか周りがお膳立てして会わせてくれるか、火消しは印象が悪くないからこっちが誘うと思っていたけど……)


 まさか釣書。筆を置いて頭を抱える。


(配属話もそうだけどその後のジジイや親父や母さんの反応もだし、商家のお嬢さん、しかも美女が結婚して下さいってなんだ。自分で選んだ事もあるけど俺の人生は奇妙だ。文通して下さいと間違えましたって……)


 ルーベル家を訪ねる際に話しかけた時、泥だらけの古ぼけた着物姿の子どもと手を繋ぐ同じくわりとボロい小紋姿の女性だったのであの辺りの大きめのお屋敷で働く使用人だと思った。

 声を掛けたら同じ年頃の美人。俺の人生で出会った1、2を争うくらい美しい女性だと思った。友人と冷やかしや観光で見たことのある高級遊女は別だけど。

 でも同等な気がする。ルルが絢爛な衣装や髪飾りで飾って花魁行列に紛れていたらなんの違和感も湧かないと思う。

 正直怖かった。火消し見習いは老若男女に接するし学友の姉や妹、幼馴染達の姉や妹とも接するから女性だから気後れする事はあまりない。

 でも若い美女で少し勝ち気そうな顔立ちで明らかにこちらを警戒している空気や表情だったので、下手な言動をしたら難癖など面倒な事になる可能性があるから怯えた。

 警戒心が解けたように見えた後に彼女がレイスとユリアと一緒に楽しそうに歌い出して安堵。それと同時に無邪気な笑顔に少し見惚れた。あの掌返しは反則だと思う。


(っていうか文通お申し込みに釣書は要らなくないか? 俺に一言どこの家の誰ですって事と何か少し文を添えて渡してくれればよかなんだから。結婚して下さいって言ったし釣書要求だし簡易お見合いとか結婚お申し込みなのか?)


 良家のお嬢さんは気楽に2人で出掛けられない。下街女とは違う。なので「結婚して下さい」はそのままの意味ではなくてお見合いしたいですとか付き添い付きで出掛けたいですという意味。

 びっくりしていたら風呂を勧められて戸惑っていたけどロイに流されて入浴。出てきたら居間にはロイしか居なくて今日の予定を聞かれた。

 かめ屋に宿泊して明日は憧れの海。その為に早く着くように頑張った。遅れても理由をでっち上げれば良いだけだけど。俺は真面目。ど真面目男。

 自分で調べたりロイから手紙で聞いたり彼が送ってくれていた浮絵などでずっと見たかった海を楽しんで夜に6番隊の防所。

 そうしたらきっと仮眠室に放り投げられて翌日から生活準備になるだろう。そう思っていたけど明日はロイ達と海観光になってルーベル家に泊まる。

 遠慮したけどこれまでの贈り物のお礼や元服祝いと火消しになった祝い、文通お申し込みの事もあるからと言われたので断れない。断る気があまりなかったとも言う。

 なにせ「いつか1人でも家族でも新婚時でも南地区に来るなら離れがあるから」と手紙に何度か認めてくれていたので1泊くらい泊めてくれるかもしれないと思っていた。正直ロイともっと話したい。


 憧れの人は頭の中で美化されているだけかもしれないと思っていたけどそうでもなさそう。憧れの人は憧れの人のまま疑惑。

 出会った時よりも威厳みたいなものを感じたけど俺と彼はそもそもいくつ違うのだろう。

 学校で卿家の友人が出来たけどロイとは違う。友人の兄ともどこか異なる。

 背が高めで体格が良いのと凛としていてとても落ち着いた雰囲気だからだろうか。

 文字は綺麗にと励んだけどあの雰囲気は真似しようにも見本の本人がいなかったので無理。

 ガイは気さくな品の良いおじさんという感じで息子とあまり似てないなと思った。


(火消しに憧れていたからついって、ついとか言い間違えってなんだろう。慌てた様子で赤くなってあれは……かわよかだった……)


 机に突っ伏そうとしたら勢いがついてゴンッと額をぶつけた。

 昨年春は不安定な天気により災害がいくつも発生。春以降もそこそこ大変だった。

 皇帝陛下暗殺未遂関係の連帯責任と捜査関連で兵官達が激務化して離職者や中官試験受験辞退者続出。

 災害実動官の管理職採用希望者は兵官ではダメかと説得開始。俺は火消し家系なので無視されると思ったら兵官の補佐官職を目指さないか? という話の代わりに出てきたのは俺は人に勉強を教えるのが上手いから今とは異なる中官試験教育指導者にしたいという話。

 教えるのが得意という自覚はなかったし煌護省副庁に呼び出されたからビビった。

 他の家柄だと「元が違う」と反発されるけど俺は同じ火消しだから俺にも出来るか? みたいに相手の反応が変わるらしい。知らなかった。


 見習いをしていた北5区7番隊は俺のおかげで——俺としては幹部が俺を使って突き上げたの方だと思う——生粋火消しの見習いや若手から中官や補佐官がしっかり生まれそう。

 だから俺は他の番隊や地域、望むなら他地区に配属だと言われた。

 特に南地区。火消し補佐官は兵官補佐官よりキツい、面倒、辛いと役所に逃げられがちなので火消しから管理職をもっと出したい。特に南上地区。

 南地区の火消しの試験や管理職嫌いは他の王都内よりも酷くて年々悪化していくから昨年から改革計画を始めたそうだ。

 祖父は番隊副隊長副官、父は組副隊長、本人実務職採用で中級公務員試験合格だから一目置かれるので改革組織に入ってくれると助かる。そういう打診。

 

 へえ、と思いながら年末の試験を乗り越えたら2年後に南上地区に転属予定という話をされた。

 家系火消しの7割は準官飛ばしになるけど俺は見習い時間が少ないし元々火消しとしては落ちこぼれ気味。

 準官採用だったので2年後——火消しの孫で息子だからここは1年飛ばされて安堵——に三等正官になったら転属。

 生粋火消しからの補佐官を増やす試験運用が上地区で成功したら他の地域でも進めていく事だから火消し全体、王都全体の話だとわりと脅迫気味の転属予定。

 この国は個人の利益よりも国益が優先される。国や組織に余裕がある限り贔屓(ひいき)をしてくれるけど自由を失う。逆らうと悪い事になる。遠回しに脅された。


 そろそろ引退と言っていた祖父が孫の支援をと懐柔されているし、面倒くさがりの父が「他地区に引っ越したら役職から外れて楽になるか? 海釣りをしたい」と言い出すし、母も「じいさんとお父さんの人付き合いが減るかしら。海のある生活も気になる」である。

 祖父は「俺は家族の七光りなしで大出世する。大滝修行や温泉のある生活をする! 東地区といえば大河というけど大河はもう飽きた!」と20歳の時に単身北地区に乗り込んだ豪気な男。

 実務職採用されて中官認定は幹部候補だからさすが俺の孫。それなら俺と同じように武者修行をしろ! 南上地区にすぐ行ってこい! である。


 海のある生活はしてみたいし、少し見習いと言っているのにやたら祖父や父に見習いをさせられて管理職採用って言っているのに実務職採用にさせられたから時間不足で友人付き合いは広く浅い。

 環境が変わっても友人が出来なかった試しがないし火消しは身内の結束が固めでも懐に入ると逆に親密になる。

 家族も来てくれると言うし、脅され気味だからどうせ南上地区行くし早くても良いか? と悩むことになった。


(ロイさんとリルさんに声を掛けられたら家族で引っ越し疑惑……。ジジイは少ししたら来るし親父達もアンが半元服したら来るって言うし……)


 彼等との出会いだけではこうならない。色々な事が複雑に絡んでいる。


(早く行け。小さめで落ちこぼれ気味だからお前に必要なのは武者修行だって突然変異の化物ジジイに言われたくねぇ。うるさいから家出みたいに早期転属を受け入れたけど……)


 親切そうなロイやリルに根回ししてからくれば良かった。

 まあ期待して「上地区に馴染んでからの方がよかだと思うので南地区で正官になる努力をします」と煌護省に伝えて南3区6番隊所属をもぎ取った。

 南2区の3番地と幸せ番地の間にある上地区本部の特別教育班にも顔を出して正官後の仕事に備える。

 あと凖官中は隊長補佐官特別副官——実績がないからお手伝いとか言い方に注意——として6番隊の見習いの勉学意識改革を任された。

 試験運用中の指導者の補佐及び彼から中官試験特別教育指導者の事を学ぶ。俺はその上司についていくだけ。多分。分からない世界だ。なにせ立ち上げは昨年で今年から試験運用。


(絶対に疲れる。特に精神的に疲れそう。だから……)


 顔を横に向けて書きかけの釣書を眺める。


(諸刃の剣だよなこれ。あんな美人が手紙を書いてくれたとニヤニヤ元気になりそうだけど、あの美人が俺を相手に……したのか。俺に火消し逸話が訪れるとは。仕事振りで美女から好意。下街女なら問題ないけど商家のお嬢さんは火消しのバカさを知ったら終わりな気がする……)


 南地区は知らないけど北下地区の火消しは喧嘩と祭りと酒と女みたいな者が多い。遊び喧嘩も宴会も祭りも好きだから俺も生粋火消しの血を引いているなと思う。

 癒されて元気から一転暗黒。そうなると辛い。初の恋人は生活のすれ違いで終わり。あまり会えてない間に乗り換えられていた。中等校1年の時だ。俺の新世界、中等校生の常識を守っていたら「物足りない」である。

 高等校に入学したら知恵や知識がついたのか今度は「将来性あり」みたいな下街女にまとわりつかれた。それでもうすぐ恋人になりそうだった女に二股だと振られた。解せない。

 1年後に学友の妹といい感じになったけど生粋火消しみたいな姿に引かれて相手の親に残念がられた。俺の肩書きだと豪家のお嬢さんはあり。それを知れたのは良い。

 俺も教養系の話が合うとかお嬢さんの感じが好みだから今はあまり下街女性に興味を抱かなくなったけど中途半端人間に育った俺とお嬢さんだと噛み合わない疑惑。噛み合わないというかまた引かれそう。


(リルさんは竹細工職人の娘。お兄さんは地区兵官。管理職採用だろうけど彼の地区兵官仲間と接して慣れていたりするか? いや実務職兵官とは友人としてはつるまないか。商家なら中流層華族や卿家や豪家より箱入りお嬢さんじゃないから行事の手伝いとか何かで下街男について知ってそうだけど)


 俺としては気が合いそうなお嬢さんで下街男にドン引きしないお嬢さんは商家。商家が狙い目と思っていた。

 南地区へ転属という話が出た後に、学友達のツテコネが消えるけどロイやリルがいる。

 文通以上親しくなったらそのうち知り合いを紹介してくれるかもしれない、みたいな考えがぼんやりあった。

 地区兵官は火消しの遊び喧嘩やバカ騒ぎを止める方だからルルは兄に火消しはやめておけって言われるかも。もう言われたかもな。


(そのうち誰か頼めるかもって思っていたらリルさんの妹からお申し込みって……。気まずくなったら親しくなりたいロイさんと距離が出来る……)


 断るのは勿体ない。勿体ないけどやはり諸刃の剣な気がする。


(腹減った。やっぱり文通お申し込みに釣書は要らない……話題になるからか? 趣味とかそうだよな。何も知らないと文通しようにも書くことがない? いやあるけどな。むしろお互いの事を質問すればよかだからある)


 今日の午後、ロイとリルは夫婦で出掛けて外食の予定だったからかめ屋で一緒に夕食をとろうと誘われた。


(子どもを両親に預けて夫婦でお出掛けって仲良しなんだな。親父と母さんが2人で出掛けた事ってあったか? 息抜き家出だっていなくなったりはするけど。あれはジジイと親父が悪い。人を家に呼び過ぎだ)


 祖父も父も幹部だからというよりも元々の気質なのか人によく相談されている。

 俺は2人のその姿を見ているけど毎日家に誰か来るような感じで母が疲れたり呆れたり怒ったりしているから俺は人からの相談事を避け気味。深い仲以外にはサラッとしか関与しない。

 特に下街女は要注意。相談されて同情したら嘘つきだったとか怖い。挙句に陰で悪口とか。

 恋人でもない男に無防備にメソメソ相談する女は男狙いかチヤホヤされたいだけ。多分。俺としてはそう判断した。そのように女はかわよかなのに時々怖い。まあ男もだけど。


 うだうだ釣書を作っていたら約束の20時の鐘の音が鳴った。ここまで一緒に来てくれたロイが予約した旅館内の料亭へ向かう。

 そうしてロイとリルと合流と思ったらネビーとウィオラも一緒だった。

 招待券で陽舞伎(よぶき)観劇で俺をここに送るから劇場集合。ネビーが俺と話したいから来たそうだ。妹が文通お申し込みをした男の事を探るのは当たり前か。

 4人と料亭に入って着席したけどかなり緊張。学生生活で下街より少し格式の高いところには場慣れしたけど食事相手が食事相手。憧れ続けた人と俺を探りたい男。お嬢さん系の女性が2人も同席してくれるのは目の保養。

 注文は飲み物だけ尋ねられて終了。飲み物のお品書きしか渡されなかった。

 ロイとリルに一食くらいご馳走する気でいたけど料亭だし人数が増えたし何を頼んであるか分からなくて怖くて払いますと言えない。俺の分の支払いすら心配。


「ティエン君。今夜の支払いは自分がするので気にしないで下さい」

「いえ! 自分で払います。あと今の経歴になれたお礼にロイさんとリルさんとお子さんに何かご馳走と思っています」

「お礼は毎年いただいていました。中等校や高等校は君自身の努力の結果です」


 昼間も思ったけど凛とした微笑みはやはり懐かしい。


「いえ。興味がないとわり学ばない性格できっかけを下さいました。中等校や高等校の雰囲気や家柄ごとの価値観の傾向や大雑把な付き合い方などとても助けていただきました」

「ティエン君は自分や父上の職場をご存知ですか? あの日、お父上に身分証明書を見せたので覚えていて君にも教えたかもしれないなと」

「ロイさんは覚えてなくてもお父上は自分達の親玉です。転属話が出た時に父に困ったら相談出来るような働き方をしなさいと言われて知りました」


 生活はなんでも持ちつ持たれつ。それは家柄職種や立場を越えても変わらない。

 俺が6番地を守る一員になるということはロイやリルやその家族も守ることに繋がる。南地区に転属話の時に恩返しにもなるなと思った。

 だからかなり困ったら助けてと言うつもり。その為には信頼されないとならない。


「自分の方は知らないんですね。まあ手紙でも話してないですね」

「はい」

「自分は裁判所勤務なので困ったら遠慮なく相談して下さい。法律の知恵を貸すとか代わりに裁判手続きなどが出来ますから。覆すのは無理ですけど」

「ありがとうございます。助けてもよかだと思われるように働きます」

「それで色々気になっているんですがあれこれ聞いてもよかですか? 父上もいるしネビーさんもいるので勝手に調べられますけどやはり本人から聞きたいです。ルルさんの事を抜いても君が南地区に来た理由を知りたいです」


 よか。南地区に入ってから「ええ」って方言だった気がする。それから気になる「ネビーさんもいるので」という台詞。

 ロイもリルも年齢不詳だけど卿家の平均結婚年齢は25歳前後。それで俺は勝手にあの日のロイは25歳にしてリルは20歳にした。

 ネビーはわりと若く見えるのでリルと1つ2つ違いだろう。あれから7年なのでネビーは見た目よりも年上で30前半くらい。……結婚遅いな。

 商家から地区兵官で管理職採用だと勤続10年以上だから班補佐官など補佐官になってそう。

 そうなると火消しの補佐官と意見交換会をしているはずだから火消しの補佐官系の誰か経由で俺は丸裸にされる。その事に今気がついた。

 祖父と父からの手紙はロイ、母からの手紙はリルに渡したけど読んでないのか? そもそも三人は何を書いたんだ?


 勝手に調べられるか。気楽といえば気楽。誤解されなくて済む。

 俺はロイ達に自分がどうして南地区に来ることになったのかを語った。

 その勢いでつい「ロイさんのようになりたいとずっと思い続けていたのもあって南上地区に行けるなら親しくなりたいと思いました」と口にしてしまった。これは恥ずかしい。

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