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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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未来編「私の妹は見合い破壊魔人のぶーたれ娘」

 去年の春から煌国王都はとても大変な年になった。皇帝陛下を殺そうとした人達が皇居にいたらしくて、その関係者が王都中にいたそうで、龍神王様が怒りの鉄槌(てっつい)を下した。

 王都内にある三つの海から龍神王様の化身が現れたらしい。私は見ていないから又聞きだ。

 皇帝陛下暗殺に関与した疑惑の者達が王都中の屯所の牢獄から消えて、皇居でも悪い人達が亡くなった。

 私は新聞記事でこの事件のことを読んだし義父やロイからも聞いた。

 それで新聞記事にこのような龍神王様からの言葉が載っていた。


【我等龍神王や副神が加護を与える者を狙った者達を我等は許さない。牙には牙。罪を(あが)ってもらう。天災厄災で滅びたくなければ罪人達や支援者達を人自ら裁け】


 この事件が起こった昨年の春は嵐が何度も起こった。雷雨の日が何度もあってとても怖かった。

 人自ら裁け、なのであらゆる兵官が一斉捜査を開始。それに伴い義父やネビーは激務化。調査や逮捕の次は裁判になるのでロイも激務。


【教え通り生来持つ悪欲を善欲へ変えてきた者達は我や我の副神が味方するので不幸から守られる。この世は因縁因果。真の見返りは命に還る】


 雷雨の日に不思議体験で助かったとか火事の際に普段うんと働いているお医者様の家は燃えなかったなど色々な話を耳にした。 

 この町内会だとバトラー家の玄関に雷が落ちて火事になったのに私達が消火活動をしている間にみるみる鎮火して壊れた玄関の中から小型金貨が出てきた。

 火事を何度も見たことがあるけど燃え盛った炎が焼け石の水くらいの量で鎮まるなんて初めてで私は茫然。他の人達も同じように唖然。

 バトラーさん家には龍神王様か副神様の加護があるということだと思う人達がバトラー家の前を通ると拝むようになった。私も拝む。

 そのように煌国国内は大騒ぎになったけど私のような平凡な家守り妻は春の雷雨の時期を過ぎたらほぼ以前と似たような日常生活になった。

 

 本日は3月3日の桃の節句の祝日。この日は毎年恒例、ルーベル家とレオ家の親戚会。場所はいつもと同じかめ屋だ。

 参加者はルーベル家から義父、義母、ロイ、私、レイス、ユリア。

 レオ家からは祖母、父、母、ジン、ルカ、ジオ、ルル、レイ、ロカ。

 それから両家共通の息子となった中間者のネビー。ここまでは昨年と同じ。しかし今回の親戚新年会には新たな人物がもう2人。

 毎年上座に主役が座ることになっている。初回は義兄弟になったロイとネビーとロイと結婚した私だった。

 昨年の主役は元服年のレイで7回目になる今年の主役は来月祝言のネビーと婚約者のウィオラと彼女と暮らす祖父ラルス。なので本日は総勢17名の大宴会!


 食事会はかなり終わりかけでかわゆい我が子のユリアとレイスはルカの子のジオと一緒に義父母と祖母と両親に囲まれて孫溺愛されている。

 ぼんやりだったせいか私は気がついたら酒癖の悪いルルに絡まれている。多分ルカに押し付けられた。そういう流れだった気がする。


「兄ちゃんはついに来月祝言か。ずっとロカが元服したらって言うていたから私が先に結婚の予定だったのにおかしいよね?」

「それはルルが選り好みしてるから」


 手酌でどんどん飲むどころか徳利から直接飲み始めたルルを止めたいけど手を出すと「嫌っ」みたいに避けられる。絡み酒のルルから逃げたい。

 助けてロイ!

 ロイはネビーとジンとわいわい飲んでいる。全く気がつかなそう。

 ルカは私を見て「よろしく」みたいな顔しかしない。それで私もお喋りをしたいウィオラの隣を陣取っている。ロカとレイもルカとウィオラの近くにいてズルい。


「選り好みするでしょう! リル姉ちゃんの結婚がどーれだけ我が家の生活を変えたと思ってるの? それに好みもあるし、私は美人で選べるし、目も肥えてるんだからさぁ」


 うるさい。昔からうるさかったけどうるさい。もう少し声の大きさを小さくして欲しい。

 ぶーたれ娘はいつになったらぶーたれ娘を卒業するのだろうか。


「もう少し小声にして。あとお義母さんにこれ以上迷惑を掛けないで」

「テルルさんって私に甘々だよね。ガイさんもだけど。2人とも私を娘って言ってる。親戚のを抜かすの。知ってる? 私の娘はね、俺の娘はって言うんだよ」

「はいはい。知ってる」

「はいは1回でしょう? レイスとユリアの手本にならないよ」


 その通りだけどムカッ。


「はい」


 こうなったら私も飲むしかない!

 梅酒の水割りを作ろうとしたらルルに「姉ちゃんはあまり飲めないでしょう?」と酒瓶を取られた。

 

「ルル、元服してから我が家に居候してもう3年目になるよ」

「兄ちゃんが結婚するなんて、ようやく結婚するなんて嬉しいねぇ。ロイさんと同じく出会って1週間で結納。破天荒兄弟だね。袖にされないか心配だったけどついに来月祝言だよぉ。リル姉ちゃん、兄ちゃんは良かったねぇ。ルルは嬉しいよおおおおお」


 酔いすぎると始まるルルのメソメソ泣きがついに始まってしまった。ルルの見合い破壊話を注意して義母を楽にさせたいのに話が逸れた。

 私もルカ達のようにウィオラと話をしたい。なのにルルに捕まってしまったのは直らない頑固なぼんやりのせいだ。

 母親になって母や義母に前よりもしっかりしてきたと言われるようになっている。ぼ者くらいになっているはずなのに!

 ルルに返事をするとペラペラ何か始まりそうなのでとりあえずお酌をしながらルルから逃げる方法を考える。

 

「姉ちゃん聞いてるの? 聞いてたでしょう? 顔に面倒って書いてあるよ! 大体リル姉ちゃんはテルルさんの補佐というかルーベル家の未来の大黒柱妻なんだから私を利用してルーベル家を栄えさせようって気はないの? 私は実の妹だよ。姉ちゃんが世話をしなくて誰がするの」

「世話はしてるよ。家は自分達で現状維持をするからルルが幸せでいてくれたらええ。高望みをやめな。何なら諦めるの?」


 ルルの理想は高過ぎる。嫁入りでも婿取りでも良いけど自分の家族親戚の近くに住む。これはルルの絶対的な条件。

 ここまではまあ良い。我が家を盛り立ててくれた義父母のお世話をしていきたいのと私のぼんやり具合が心配だからと言ってくれているのでありがとうと言うべき条件だ。問題はこれ以外。


「私がうんと美人だから顔は気にしないというか気にならない。妥協じゃなくて本音。背も低くてええ。背が高い方がええけどそれは諦める。諦めるっていうか別に気にならない。そもそもうんとおちびって滅多にいないじゃん?」

「そうだね。ルルは人を見た目では判断しないよね。それはええことだよ」

「見た目は気にしない……いやお父さんや兄ちゃんに激似は嫌だ。それは嫌。絶対に嫌」

「滅多にいないというか激似に出会ったことはないから問題ないね」

「うんうん。世話焼きで優しくて逞しくて強くて凛々としつつ雅さがあって穏やかなところもあって私に甘々で家族ごと大事にしてくれる真面目で仕事が出来る人でないと。あとお父さんや兄ちゃんの半分くらいは周りに好かれる人がええ」


 出た。ルルの全部乗せ。

 何なら諦めるの? と聞いたのに何も諦めてない!


「この間のエルデさんは? 姉ちゃんは彼に頼んだよ。卿家2代目だけど弟が2人いて3男が跡取り認定を取ったから家を出てもええって聞き出して。卿家は卿家と縁結びしたいし彼の家はまだ初代だから特にそう」


 正確にはそれとなく探られたから探り返しただ。初代が育てた長男なので卿家っぽさが少しなくてルルも中間娘だから良いかと思った。人柄は自分以上にロイが昔から知っている。


「エルデさんはうんとかなり良さそうな人だよ。でも彼は台所に立つって言うて味付けの好みとかそこそこ煩いし気弱めだから勝ち気な私のお尻の下でぺちゃんこになるよ。内心亭主関白が良いのに堂々としていないから私とは合わないよ。私は甘やかされたいからぺちゃんこに潰しそうな相手は嫌。あと逞しさがかなり足りない」


 (ほそ)くてもエルデと付き合いが長い私よりもあまり会っていないルルの方が詳しそうな気配。

 エルデが料理をすることを好んでいるのは知っているけど味付けの好みがそこそこ煩いなんて知らない。エルデは内心亭主関白が良い人なの?

 逞しさが足りないはルルのここ1年の口癖。

 最初は卿家の男性なら誰でも惚れそうだからすぐ決まる気がしますなんて言っていた。

 実際ルルの恋遍歴はオーウェン、ベイリー、ヨハネみたいに町内会やロイの友人達らしい。

 すぐ結婚しそうですから始まったのにこの状況。ルルは週2回義父の職場で雑務をさせてもらっているのでルルの見た目やルーベル家——長男も次男も出世頭——と繋がりたい煌護省関係者の家から縁談が来るけどそちらもすぐお断り。

 釣書だけ見て「この家族構成や情報からして気が合わない」とか「雅さが無いので嫌」と言いながら一応会うと言って結局袖振り。

 そこに美人のルルをお嫁さんにしたい男性達から文通お申し込み、簡易お見合い、結婚お申し込みが別口で来るけどこちらも袖降りの嵐。


「ルルさんは別嬪(べっぴん)さんで人気者ね」が表の噂で裏では「彼女はお見合い破壊魔人らしいですよ」である。そう町内会で大噂されている。

 卿家の男性なら誰でも、だったのに昨年から「高望みして私の顔に食いついてくれそうな華族の三男四男ですかね?」と言い出してその次は「兄ちゃんみたいに逞しい男性がええから兵官や大工や火消しな気がします。兵官、大工、火消し達でもそこそこの教養と雅さがあって欲しいです」と路線変更。


 ルルは短所もあるけど長所が沢山あるしその上美人。私みたいに凡々だと「両親も兄ちゃんも良いと言う人に選ばれてうんと嬉しい」くらいで恋も知らずに結婚だけどルルは大勢から選ばれるから自分も選べる。

 そういうのは逆に大変なんだなと私は自分の平凡さを最近ありがたいと感じたりする。

 ルルは人攫いにあったことがあるし付きまといされたり抱きつき魔に襲われかけたり苦労している。


「旦那様がツテを辿って見つけて頼んでくれた中等校卒の大工さんは? 教養がある大工がええなぁって言うから探してくれたけど。姉ちゃんも彼のことをそこそこ調べたよ」


「だってぇ。お見合い時は猫被りだろうしツテを辿ってくれたってことは情報不足そうじゃん。姉ちゃんも忙しいからそんなに聞き込み出来ないでしょう? だから自分で下見したら信じられないことに子猫を蹴ったんだよ! 確認しても誰も知らなかったけど私は見たの。そんな人絶対嫌!」


「……そうなんだ。それは知らなかった。ごめん」


「姉ちゃんは悪くないよ。あれは縁結びするなってお知らせだね。悪いからロイさんには秘密にして。私のせいってことで。それであの大工の勤務先には他にも教養ありの豪家や卿家生まれだけど大工になりたかったから励んだ! 俺はロマン男! みたいな人がいるかと思って探しに行ったの。なんだかその職場の人達数名からお申し込みされちゃった。困るね」


 ……。

 いきなり大工からルルにお見合い話が数件来て全員調べるのは大変だけど「ルルさんが長屋育ちの溌剌オババなので卿家より大工系ですかねと言い出したから調べないといけないかしら」と義母は悩んでいた。

 だから私が引き受けてなんとか調べ中。

 ルルが釣ったせい!


「ルル。そんなことをしてお義母さんを困らせないで」


「悪いから自分で調査報告書を作ろうとしたけど少し調べただけでしょうもない人しか居なかったから中断。テルルさんと姉ちゃんにそろそろ報告しようかと。今したからええね。大工は正義感が足りないからダメ。勉強になった」


「それなら自分で調べてるって先に言って」


「照らし合わせたら私の目では見えない良いところや情報があるかな? 的な。やっぱり兄ちゃんと同じ兵官かなぁ。推薦兵官とか卿家中官は取り合いで私みたいな中途半端娘だと手が届かないしそういう人に限って私の長屋オババさをイマイチって言うよね。やっぱり溌剌オババなのが足を引っ張ってるよ!」


 うーん、と悩むような顔をするとルルは別の徳利を手にしてそのまま呷った。これを直せば良いのに直さない。

 多分明日になったらルルは「覚えてない」って言う。お酒をやめなと言いたいけど飲む頻度は少ない。飲み出すとかなり飲むのと義父と父とロイが酒飲み仲間だと喜んでいるからお酒禁止令もイマイチ出せない。

 近所に住んでくれる兵官だと6番隊所属の可能性大でそこはネビー経由でルルを知る男性達がお申し込みしてくれている。

 今のところ義父が職場やネビー経由で調べて全員ポイってしている。


「やっぱり火消しかな。火消しだよ。雅な火消しはいないのかなぁ。この答えに辿り着くのに時間が掛かっちゃった。よく考えたら昔から火消しに憧れがあるよ。浮気されたくないから地味火消しがええな」

「これが答えなら何年も続かなくて助かる」

「見合い破壊魔人ルルとは私のことです! ねえねえ、リル姉ちゃん。私みたいに少し勉強してる火消しは居ないのかな? 探しに行って龍歌の話題を振ってみたりしたけど誰もピンって来ない。申し込みしてくれる人は生粋の火消しだし」


 ……破天荒!

 大工を自分で釣りに行って次は火消し釣り⁈

 火消しは「私好みの火消しは高嶺の花男性過ぎるから諦めてるの」と前から消極的だったのにいきなりコレ。


「火消しならそれこそお義父さんのツテでしょう? なんで自分で探しに行くの。余計なお申し込みが増えてお義母さんが困るでしょう?」


 私も困るけどルルは私の妹なのでそれは仕方ないしお世話したい。義母に負担はダメ!!


「何年も恋穴落ちしてないから落ちないかなって。だってさ。これはもう理性では決められないよ。お見合い破壊魔人街道真っしぐらじゃん。私に必要なのは本能だよ本能だよ。ロイさんや兄ちゃんがそれを証明してる」


 喋り方とか表情は酔っ払いだけど今日のルルはわりとまともな気がする。


「ロイさんは格下の格下のリル姉ちゃんに結婚お申し込みで殴り込み。これこそ本能」

「うん。まあ」

「ルカ姉ちゃんも捨て奉公人で得にならない家柄どころか何にも役に立つ縁がなくてもジン兄ちゃん。家と家なんて無視して人柄重視。まあ見た目もかもしれないけど。これも本能。ええよね。初恋の人と一緒になれてそこからも幸せって」

「そうだね」

「兄ちゃんなんてお隣に引っ越してきた女性と結婚間近。まぁその前の日に出会ってたけど。凄いよね。仕事関係で出会って少し喋ってお互い少し気になったけど終わり。そう思ったらお隣さん!」

「兄ちゃん文通お申し込みしようとしていたんだっけ。そうしたらたまたまお隣に引っ越してきたってすごい偶然だよね」

「見てるこっちが恥ずかしいくらい浮かれて口説き始めたのに最初は無自覚って兄ちゃんは頭がおかしい。おバカ。バカ過ぎる。ウィオラさんはなんであれでええのかなぁ」


 そのおバカな兄を基準に縁談相手を袖振りしているのはルルだけど……。


「ええから来月祝言してくれるんだよ」

「1人だけ扱いが違うからね。なんなのあれは。腹が立つ。またお揃いの飾りを作ってもらってさぁ。リル姉ちゃんも甘やかされまくり。私もロイさんのお嫁さんになりたかったのに……」

「……えっ⁈」

「ベイリーさん、オーウェンさん、ヨハネさんってどんどん続いて次々失恋したから恋なんて嫌だってなって逆にお見合い破壊魔人になっちゃった! うわあああん!」


 そうなの?

 ルルはロイのお嫁さんになりたかった時があるの?


「ルルは旦那様のお嫁さんになりたかった事があるんだ」

「初恋だよ! お祭りの夜に初恋だよ! 横取り女、しかも姉ちゃん相手にそれをしたら畜生だから山に捨てるってお母さんに言われた。お嫁さんは何人でも良いと思っていたのもあって分からなくて騒いで3日くらいで忘れたよぉぉ」


 お祭りの夜……ロイと私がルルと初めてお出掛けをした日だろう。3日くらいで忘れたのか。ベイリーの時の方が落ち込んでいた気がする。

 ルルにペシペシと背中を叩かれた。痛くないけどうるさい。でもこの話は聞いてあげるというか叩かれてあげたい。食後だからまったりしたいけど仕方ない。


「私は兄ちゃんのお嫁さんになりたかった! 妹おバカだからもしかしてって思って兄ちゃんは煌国1だから悪い気はしなかったけど兄ちゃんとキスとか無理! 気持ち悪い! それは嫌! だから絶対兄ちゃんと結婚は出来ない! 男色家でも近親相姦願望でもなくて良かったよぉ……」

「えー……。ルルはそんなことも考えていたの……」

「ウィオラさんの皇女様扱いはズルい! 私達の兄ちゃんだったのに! なんなのあれは! 私達の事は雑に扱うのに180度態度を変えてさ! 私もああいう扱いをしてくれる人がええ!」


 メソメソ泣きをやめたルルはぷんぷん怒りながらお酒をさらに飲んだ。取り上げようとしたけど失敗。


「ルル。もう飲まない」

「兄ちゃんの顔と声を変えて変なド忘れが無い人がええ。姉ちゃん探して。兄ちゃんくらい優しくて人助けして逞しくて強くてなんだかんだ雅さも学んでて勉強も頑張ってる人。どこにもいないよ!」


 義母がルルはネビー基準みたいな気がしてきたと母と私に話したけどその通りみたい。

 これがルルの本音な気がする。妹おバカ気味のネビーが教育、遊び、送迎、護身を教えるなどなど構ってきたからルルも兄おバカ。レイとロカも似たようなもの。


「ルルの顔よりも性格を気にしてくれる人なんて全然いないよ。お嬢さんでなくてガッカリみたいな顔はうんざり。ウィオラさんが破天荒花道は不正解じゃないって言うてくれて感性が合うか分かるって……。そんなこと言ってくれたのウィオラさんだけだよ……。私がウィオラさんと結婚したい! 兄ちゃんズルい!」


 ええっ⁈

 ついさっき兄ちゃんのお嫁さんになりたかったけど嫌みたいな話をして今度は女性と結婚したい?

 まあ酔っ払いだしな。


「ルルは気遣い屋さんで優しいし働き者で勉強もお稽古も熱心だから顔しか見てない人なんていないよ」

「お綺麗ですねとかお見かけしてとかそんなのばっかり。あーいうのは顔が好みなら誰でもええんだよ」

「いやほら旦那様も兄ちゃんもそういうところはあるよ?」

「そうなのは分かる。運命的なのがええ。お隣さんになって馬でお出掛けして桜吹雪の中で龍歌と桜の枝を贈られるとか私もされたい。姉ちゃんみたいに金平糖を贈られるとかクリスタさんみたいにお茶会に色々隠れ想い。私も雅なことをされたい」

「そういうのは何回か会ってお互い気持ちが近づいた時にしたりされたりだからいきなりお断りしてたら……ね?」

「幼馴染でずっととかズルい! なんなの皆! リアさんだって神社でハチが引き合わせてくれただしそんなのばっか! だってさぁ」


 話がルルの理想話に戻ってしまった。だから父親と3人の兄の長所を合わせ持って欠点をなくしたような男性はいない!

 また似たような会話になりそうだしルルはどう見ても酔っ払いで話しても忘れるから大事な話を今しても無駄。

 ルルの本心っぽいことや知らなかった話を知る事が出来たのは良かったけど同じ話を聞かされるのは疲れる。もう疲れた。

 私もルカ達のところへ行きたい。

 さすがに助けてルカ!

 鼻で笑うような表情を返されてしまった。

 この間「口が悪いとジン兄ちゃんに捨てられるよ」といつもの調子で言ったのを根に持ってそう。たまたまジンと少し喧嘩した後だったらしいとロカからの手紙で知った。ルカは私と同じネチネチ根に持ち系。

 しれっと謝ったけどルカはしばらく怒ってそうなので悪口を反省中。


「……。ルルはルカやウィオラさんにも相談してきたら? 意見は沢山あるとええよ」

「そうだね。その通り!」


 よし。これでルルと離れられる。


「ルカ姉ちゃんには呆れられて見捨てられるまでリル姉ちゃんに甘えてお見合いしなって言われているし、ウィオラさんは明日一緒に陽舞伎(よぶき)とはちみつあんみつだった。だから今日はリル姉ちゃん」


 悲報。ルルは立ち上がったのにまたすぐに着席。私もはちみつあんみつを食べたい。誘われてない!


「私もはちみつあんみつ……明日はエレナさん達と花見の打ち合わせだ」

「だからリル姉ちゃんを誘ってないんだよ」


 結局親戚会が終わるまでルルに絡まれ続けて似たような話を延々とされた。

 この後義父母と両親と祖母とラルスはネビーとウィオラと共に神社へ行って挙式の打ち合わせ。

 ジンとロイはそのまま飲みに行き、私達は長屋遊び会をしようとユリア達を連れて実家へ行ったけどルカの上手な誘導で私はルルとまた2人きり。しかも買い置きしてあるお酒を飲んでメソメソ泣きのルル。

 抱きつかれて酒瓶を奪えないし逃げられない。

 

「私達のせいで世話焼きや仕事ばっかりで苦労してた兄ちゃんがついに祝言だよぉぉぉ」

「はいはい。ルル。もう寝なさい。お布団敷いてあげるから離れて」

「姉ちゃんが欲しかったのに妹だよ。うわぁぁん! ルカ姉ちゃんみたいなのが増えて欲しかった! リル姉ちゃんも妹みたいだし妹ばっかり!」


 もうこの台詞は何回も聞いている。


「はいはい。妹みたいでごめんね。ほら寝るよ」

「はい、は1回でしょう?」


 イラッ!

 厄日!


「私も運命……」


 とんとん背中を叩いていたら寝てくれた。久々の飲み過ぎルルなのは来月ついに兄を取られるからなのかな。

 ルルを引き剥がして布団を敷いて寝かしてルカ達を探したら子ども達と遊んでくれていたルカにレイとロカが呼んでいると言われた。

 ロカの部屋に行ったら今度は2人に絡まれた。


「明日ルルだけ2人と一緒に陽舞伎(よぶき)とはちみつあんみつっておかしいよね⁈ 大体デートの邪魔して悪いと思わないのかな」


 そのレイも同じことをこの間したらしいとルルに聞いた。似たような言い草だった。


「レイだってこの間海に一緒に行ったでしょう!」

「ロカは今度兄ちゃんと2人でかめ屋に泊まるでしょう!」


 ウィオラはデートを邪魔されて可哀想。兵官達は昨年から激務でまだその爪痕が残っているネビーの休みはそんなに多くないのに。


「2人とも兄離れしなさい」

「離れてるよ。兄ちゃんが誘ってくれるだけ」


 それは誘えとうるさいからだ。


「そうだよ。構ってないよ。構われてるの。リル姉ちゃんはなにを言うてるの」


 嘘つき娘達!

 約1年間私とルカは3人娘達の兄おバカに疲れ気味。これはルカに押し付けられたな。

 かつて3人のお世話をしながら家事をしていた事を思い出しながら遠い目。それから少し微笑み。

 2人はネビーやルカや居候中のルルに私の事をぎゃあぎゃあ言うらしい。ネビーだけズルい。ルカだけズルい。ルルだけズルいらしい。

 ルル以外はレイやロカと過ごす時間と変わらないのに変な話。

 兄おバカは姉おバカでもあるから私もかわゆいと思ってしまう。

 昔はリル姉ちゃん! をあまり知らなかったから「疲れる」が先行していたけど今は違う。

 3人がお嫁さんになったり仕事ばかりになってまとわりつきが減ったら寂しいだろう。


「はいはい。誘われてるし構われてるんだね」

「はい、は1回だよ」

「そうだよ姉ちゃん。ユリアやレイスの手本になんだからはいは1回」


 かわゆいは撤回!

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