日常編「とあるリルの1日」
朝食良し、お弁当良し、洗濯する準備良し、お布団干し良し!
今日も特に問題なく義父とロイをお見送り出来たのでお洗濯。6月も終わりなので暑くなってきたし雨の日も減ってきて今日もお洗濯日和。日焼けで痛くなるので笠必須。でも踏み洗いが水遊びみたいで楽しい時期。
洗い終わった洗濯物を干していたら義母が干し台の上に大根の細切りを並べてくれていた。
「ありがとうございます」
「ええ。沢山切ったわね」
「はい。後でアサリも干します。その分もあけておいて欲しいです」
「アサリの剥き身は佃煮にするのかと思いました。干すの。随分買ってきたんだなと」
「佃煮にもします。半々です」
「それで2つに分けてあったの」
昨日夕食後にアサリを酒蒸しにして剥き身にしておいた。
「はい」
「それならこの後干しておくわ」
「ありがとうございます」
どんどん洗濯物を干して終わったら義母が玄関前の掃除をしてくれていたので任せて私はお買い物。
豆腐を買いたいから豆腐入れを忘れずに。魚屋の仕入れ時間前の値引きに間に合いたいけど遅れ気味な気がするので早歩き。先に魚屋へ行ったけど間に合わなかった。今日の夕食はなににしよう。
「大漁だったらしいからしらすが安いですよ!」
しらす。食べたい。夕食は生しらす。お弁当に茹でたしらすのなにか。干ししらすや佃煮も作りたい。
お腹が膨れる魚ではないから実家では買わなかったけど旅行でしららを食べて出回ったらしらすも買うと決めて春先に買ったら味はしららと違ったけど気に入った。私はしらすを買う!
他は値引きしてくれなそうだし高いから諦め。次は八百屋。安いのは……とうもろこしがなぜか安い!
とうもろこしご飯は綺麗で美味しい。これは買う。キャベツは高くも安くもないから成長期ロイのお腹満たしの為に買う。あと安いのは……ないな。
今日はわりと高めの日みたいで先に買ったお客への値切りもイマイチそうだし家にまだ野菜があるからまた明日。
次は豆腐屋。おからが安い! お豆腐と一緒にお買い上げ。こんにゃくも買ったら明日は買い物しなくて良い気がしてきたのでこんにゃくも買いに行った。こんにゃくは豆腐入れの中で豆腐と仲良く同居。
帰りに家の近所の公園に寄ってニラと紫蘇を確保。キノコも軽く探して食べられるキノコ発見。なぜか誰も採っている気配がない。なのでここは私の畑気分。
氷蔵のルーベル家領域にしらすを保管。しらす干し作りは夕方もカラッと晴れているから夕食作りの時で良い。
今日使わなそうなものは全部置いておく。早歩きと気温で暑かったので少しだけ休憩。
冬に氷作りをどんどんしてせっせと氷蔵に運んでくれた町内会の男性達に感謝。地下室を作った人とかどこから材料を手に入れたか分からないという謎の壁にも感謝。
私もロイと共にルーベル家領域に自分達で作った氷を運びまくったから遠慮なく涼む。
風邪を全然ひいたことがないけど汗かき後に氷蔵に長くいると風邪をひくらしいからすぐに撤収。
帰宅して義母にしらすの安売りに遭遇出来てほくほく気分だと伝えた。義母は台所でプクイカを眺めつつ梅を漬ける準備をしていた。へたとりをしている。
「庭のみょうがが食べられそうだから紫蘇もあって良いわね」
「はい」
買い物前に残していった洗い物を開始。
「リルさん。梅酒用のその樽を熱湯で軽く洗ってお酒でも洗ってくれる? 手が心配で」
「はい」
勉強をするまで知らなかった話。お腹を壊したり吐いたり風邪の原因になるカビは熱やお酒でやっつけられる。だからやっつけ酒がある。
何をやっつけるのかと思っていたらカビだった。カビは目に見えなくてもいるそうだ。
母から料理前は川でしっかり手を洗ってやっつけ酒を使うとか、料理に使ったまな板や包丁はしっかり干してやっつけ酒や熱湯をかけてまた干しなさいと教えられていた理由。
母は「知らないけどそう教わったから。サボると体を壊すよ」とご近所さんとか小さい頃の失敗談を教えてくれてきた。理由を知らなくても先人の知恵は大切。
理由を知った時に母に教えたら「賢くなって私にも教えてくれるなんて」と感心してくれた。ガミガミ怒られてきて褒められることはなかったのに最近は褒められる話。
「お義母さん。そろそろしましま蛇酒が出来る時期です。しましま蛇酒は要りますか? この家で見たことがありません」
「しましま蛇酒? なんですかそれは」
「長屋で男達が作ってくれます。怪我が治りやすかったり汗くさ足くさにも効きます。やっつけ酒にも少し混ぜています」
退治したしましま蛇の一部はやっつけ酒でしましま蛇酒にする。あと退治後は食べる。
世界は弱肉強食で毒蛇は怖いからやっつけるけどなるべく食べるし使うもの。
「リルさんは蛇を食べていたの」
「はい。食べないと可哀想です」
「食べないと可哀想……そうですか」
「皆で山分けなのとやっつけてくれた男達のおつまみになるから私はあまり食べられません」
「おつまみ……美味しいの?」
「はい」
男達が処理したらしましま蛇タレにつけて干すと味と食感が少し異なる干し貝柱みたいになる。スルメみたいに味が長く出るから好き。
「たんぽぽ茶につくしの佃煮といい遠くないのにたまに異文化よね」
「私もたんぽぽを食べないなんて驚きました」
たんぽぽは飾り、食べ物、お茶、遊び道具になるのに飾りと遊び道具にしかなっていない衝撃的な話。
ザコたんぽぽとたんぽぽ茶たんぽぽと食べるたんぽぽの種類も知られてなくてびっくりした話でもある。
「蛙を食べる文化に驚いていたのに蛇はそのように当たり前の顔をして」
「雨蛙はお水を綺麗にしてくれるらしいので退治しないし食べません。春イボ蛙は食べるとかなり吐くし夏黒蛙はかぶれるし骨だらけで骨がマズイそうです」
「セレヌさんから蛙を食べる国があると聞いて驚いたのは食べられる蛙がいたからですか」
「はい」
お昼ご飯は朝炊いたご飯を合わせ塩と出汁混ぜご飯にしてお味噌をつけて焼きおむすびと朝多く作った人参の煮物にカタバミと大根おろしのカタバミ添え。
「カタバミって食べるのね。ピリッとしてこの時期に良いですね」
「はい」
「リルさんはきっと夏までびっくり箱ですね。もうすぐあなたが来て1年なんて早いわ。以前の暮らしを少し忘れ気味です」
「私も実家暮らしを忘れ気味です。帰ると家の様子が違うので」
「どう違うの?」
「母が家事をし易くするのにまた配置を変えていますし父が家で使う仕事道具も変化していてルルとレイとロカの勉強道具があります」
「ルルさんは勉強の飲み込みが早いそうですね」
「はい。寺子屋の先生に質問魔人だそうです。レイは興味のない分野の勉強は嫌みたいです」
「それならルルさんは女学校で難しい分こちらで教えても良さそうですね」
「ありがとうございます。兄ちゃんは長屋に安い空き部屋が出たら1人暮らしだそうです」
義父がくれる仕事の特別給与と義父が教えてくれないと知らなかった福利厚生費を家賃に移動とかなにやららしい。
ルルとロカが勉強を教えろ、レイは遊べとうるさくてしょうがないらしい。ルルとロカももちろん遊べとうるさい。
父が仕事に気合いを入れていて母はガミガミ家事や育児でルカは妊婦。そうなるとネビーとジンに集中するようでルルとレイはネビー、ジンはロカにまとわりつかれているそうだ。私へのまとわりつき分が移動。
ネビーは中官になる試験にいくつも合格しないといけないから勉強に集中したい。
職場の隅で勉強や特別寺子屋の好意に甘えて隅で勉強は「正官になったんだからそろそろ一人暮らし出来るだろう」みたいに追い出されかけているらしい。
夜勤後の仮眠も同じく準官が終わったから貧乏じゃないだろうみたいに怒られ始めたとか。
晴れていれば人気のないトト川の河原で勉強だったらしいけど最近人が来て邪魔されるとか。場所を変えても誰か来るらしい。
ネビーの一人暮らし部屋はルル達の勉強部屋や父の道具置きや家族の物置にもなるから一人暮らしというよりも部屋を増やすみたい。
義父母のおかげで父やひくらしへの特注品依頼が増えていて父の給与がまた上がったのもある。
「彼はそのように勉強していたのですね」
「思い込みや後回しやまあいいかと聞かなかったので知らなかったです」
「今もそういうところがあるから色々聞きなさい」
「はい」
「人が来てとか誰か来るとはなんですか?」
「さあ? そうなのかと思って終わりでした」
「そういうところです」
「ああ。そうですね。はい。旦那様に聞いてもらいます」
昼食後は昨日洗った半襟を元に縫いつけたりお掃除。今日の掃除は2階と離れの2階。
はたいて箒で掃いて水拭き。襖や障子の縁はやっつけ酒を使う。台所と厠と廊下はなるべく毎日。コツコツ掃除しておくと大掃除しなくて済む。
カラコロカラ、カラコロカラと玄関の鐘の音。予定のお客はいない。割烹着を脱いでお出迎え。
「こんにちは! ジンです!」
ジンは披露宴に参加してくれたけどこうして我に来るのは初めてだ。かつぎ桶を持っている。
「休みで筍掘りに行ったんだ。多分もう最後だ。大旦那様がルーベルさん家にお世話になっているから沢山掘って良いって。あとついでに川釣りをしてロカちゃんが沢山小魚をすくったからそれも。やたらいた」
仕事のネビーと妊婦のルカを残して家族で筍堀りと川遊びをしたらしい。家の中に招いたら断られた。
「帰って料理の勉強。ルカさんが仕事はわりと平気だけど煮炊きは気持ち悪いって。リルちゃん達に甘えて炊事は全然だったから覚えようかと」
「また気持ち悪くなったりするんだね」
「そういうこともあるらしい。あとお父さんがしましま蛇酒はいるかって。いるなら材料費があるから売るって。一応持ってきた」
「今日話してたから欲しい。お財布を持ってくる。お茶くらい飲んでいって」
「玄関でお水をもらおうかな。暑くなってきたね」
義母にジンが来たこととお裾分けされた筍と小魚を見せた。それからすぐ帰ることも伝える。
「梅でさっぱりしないかしら。私は桜の塩漬け茶も効いたわ」
義母はルカに梅と春に作った桜の塩漬けを用意してくれた。優しいしありがたい。さらにようかんの残りをルル達にと切ってくれた。
ジンからしましま蛇酒を買って義母が用意してくれた物を渡してお別れ。ロイとネビー経由で渡している家族宛の手紙も渡した。
張り切って掃除の続き。洗濯物と二階と一階の布団を取り込んで片付けて少し休憩。
カラコロカラ、カラコロカラとまた玄関の鐘の音。回覧板で今日は新聞つきだった。私は文字を読むのがまだまだ遅いというか新聞は難しい漢字が沢山なので遅い。
居間で義母に先に新聞を読んでもらってお風呂の薪などの準備をした後に大事な話を教えてもらった。
「龍神王星祭に西の国の大王様が来るそうよ。フィズ様も。それで今度は北地区方向から行列なので他地区の者達は席取りをしても無駄ですって」
「出店もですか?」
「多分そうね。各地区に順番なのかもしれませんね」
「それは残念なお知らせです」
「行商が仕入れて秋のお祭りで売られるかもしれないわ」
「お小遣いを貯めてもええですか?」
「ロイに言いなさい。貴女のお金はロイに管理させているから」
「はい。そうでした。お祭りと言えば七夕飾り……」
カラコロカラ、カラコロカラとまたお客。誰かと思ったらネビーだった。立派な竹と稽古道具を持っている。竹は模様入り。長屋に飾る竹もこうなるから父や同僚達の気遣いだろう。
「ロイさんに出来れば欲しいって頼まれてた町内会用の竹」
「ありがとう。重かったよね。上がっていって」
「このまま稽古に行くから。自主鍛錬もさせてもらうから早く行くんだ」
「そうなの。筍と小魚もありがとう。ジン兄ちゃんとは別々だったのはなんで?」
「筍と小魚? そーいやなんかロカが子ども達と桶の中の魚を草で釣る遊びをしてたな。草じゃ釣れねえのに何が楽しいんだか。ジンも来たのか? 俺は夜勤と残業をしてかなり寝てた。稽古に行く時にひくらしの従業員が運んでたから鍛錬がてらもらった」
手伝うか聞いたらルーベル家にだったからもらったそうだ。
草じゃ釣れないのにってロカにそれを教えたのはネビーだし本人も昔してた。忘れっぽいから忘れているのだろう。
竹をどこに運べば良いか聞かれて分からなくて義母に聞きにいった。
「そろそろ届くかもとうかがっていたけどまさかネビーさんがそのように持ってきてくれるとは。ジンさんと別々にいらしたのね」
話をしながら義母と玄関へ移動してネビーと合流。集会所に立てるそうなので皆で移動。
「よく持てますね」
「馬鹿力なので。そこまで大きくない竹ですしこのくらいなら幼馴染や同僚やデオン先生とかちょろちょろ1人で持てる人がいます」
「リルさんもわりと力持ちですよね」
「はい。母もです」
「気がついていなかったけどレイもそうっぽいです」
「ああ。そうかも」
集会所の庭の隅に竹を置いてもらってネビーとお別れ。自主鍛錬もしたいからじゃあ、と走って去ってしまった。なにもお礼を渡していない。
「お代……」
町内会費からひくらしへ支払うお金を町内会長さんのところに取りに行くはずだったのにネビーはいつもの話を聞かないやつ。
「旦那様から兄ちゃんに話を聞けって言うてもらいます」
「次のお稽古日にロイから彼に渡してもらいます」
「お義母さん。あの草は雑草扱いですか?」
「ええ。月末の庭掃除時に抜いて枯らし肥料穴行きです」
集会所の庭の隅に治し葉が沢山生えている。
「あれは干してすり鉢で粉にしたらお茶です。喉が痛くなった時やお腹が怪しい時に飲んでます」
「そうなの?」
「治し葉です。取り合いです。採っていきたいです」
「風邪をひかないってそういうのもあるのかしら。長屋の知恵をお医者さんや薬師さんに話すべきですよ」
私よりも母が詳しそうなので筆記帳を渡してまとめてもらって衛生省経由でお医者様と薬師に質問みたいに義父に任せてみるそうだ。
もう知られていたり研究されている事かもしれないし特定地域だけの知恵かもしれない。
「皆知っていると思っていました。私の以前の皆は長屋周りです」
「そうでしょうね。狭い世界で生きていましたから」
治し葉を持って帰れるくらい分引っこ抜いて帰宅。今日はなにもしないから庭の隅に放置。お風呂にお水を足して夕食の下準備。
義母がたまご売りからたまごを増やしておいてくれたようだけど多い。
「生しらら丼と言うていたので溶き卵もかけたら良いなと思って。食費に余裕がありましたし」
「贅沢です!」
「香物とお味噌汁で終わりだから今夜は楽ね。いっそお味噌汁は即席にしてしまいなさい」
「即席ですか?」
「あらやだ。教えていなかったかしら」
混ぜご飯や煮物の味付けに使っている合わせ出汁の粉をお味噌と混ぜてお湯を注いだら即席お味噌汁。干しているアサリと海苔を入れたらと言われた。
「画期的です!」
「昔教わったのよ。野点をするならお湯を沸かすから外でも飲めるわ」
「素晴らしい話です」
「お父さんが味や舌触りとか言うだろうから旅行料理のお味噌汁と言うておきなさい。騙されるから」
義父はいつもと違うことを好まない。でも義母の言う通り旅行料理という単語が添えられるとご機嫌。
「旦那様の夜食にお義母さんがお味噌汁も用意したわって謎でしたけどこれですか?」
「謎でしたって聞きなさい。私も知っていると思っていたからお互い思い込みですね」
「はい」
謎。そう思ったら質問。これが難しい。他の事を考えて次の事をしてしまったりするからだ。
干し椎茸、昆布、鰹節、にぼしを細かくしてさらにすり鉢で細かくして混ぜて常備しているのが合わせ出汁の粉。これは混ぜご飯とか簡単煮物とか役に立つから画期的。ただ作るのは面倒。
そう思っていたけどさらに画期的だった。この合わせ出汁をもう教えてある母にも教えよう。
つまり今夜は手抜き夕食。ご飯を炊いて酢飯にして生しらら丼と即席お味噌汁に香物。なのに見栄えは良い。
今日はわりと暑いから義父はきっと先にお風呂。違くてもどうぞと言う。
こうなったら明日は少しだらけつつお勉強にしようと思って掃除する場所を拡大。
明日は家族でお弁当を持って夕方から夜にかけてトト川へお散歩しにする予定。実家の家族ともしていた蛍鑑賞。楽しみ。
「リルさん。今日は随分掃除をするんですね。休まないの?」
「手抜きで安いのに贅沢に見える夕食で楽をするのでバシバシ掃除をして今日のお勉強を明日にします」
「私は筍を煮ときますよ。早い方が美味しいです。」
「明日より今日の方がええですか?」
「そうですよ」
「それなら煮ます」
「掃除を任せます。お鍋にお水汲みだけお願い出来る?」
「はい」
筍と小魚を義母に任せて掃除をしてそろそろお風呂に火。大丈夫そうになったら蓋をして放置。
チラッて見たら義母はご飯を炊く準備もしてくれるみたいなので掃除。
義父が帰宅したので三つ指ついてご挨拶。お風呂を勧めなくてもお風呂は無理か? と尋ねられたので今日は正解!
嫁いだ頃は焦ったけど予想が外れても優しい義父は特に気にしないし元気があると火の係になってくれる。珍しくロイの残業もなかった。最近ようやく残業が減ってきている。
雨戸を閉めたりいつもと似たような流れでお風呂からの夕食。皆でいただきます。食べ終わった時にふと気がついた。
「お義父さん、旦那様。職場でお弁当を食べるところにはお湯はありますか?」
「外の食堂ならある。雑務女性がお茶を作ってくれたりしていてそこならお茶を飲める」
火事が怖いから火を使う場所は役所の庭の方にあるそうだ。ロイのところも同じらしい。
義父は少し面倒だけど季節のお茶を飲みたいから行くそうだ。席取り大戦争になるから下っ端——ロイもそっち——は使えない雰囲気だという。
「お湯をもらえればこの旅行時用のお味噌汁が作れます。たまにお茶碗を持っていくのでお茶碗の代わりに味噌汁腕を持っていくとええです」
「味噌汁? ああ。母さんが野点がある時に作ってくれるお味噌汁か。母さんにも言われたことがあるけど面倒……旅行時のお味噌汁?」
「はい」
「お父さん。忘れたのですか? 昔私が旅行時に教わったと話したのに」
母親に教わったと言っていたから義母の嘘。義父は今夜のお味噌汁はうむ……と若干不満げだったのに嬉しそうに飲み始めた。
「おお。そうなのか。よく考えたら職場で味噌汁を飲む奴は居ない。そうかそうか。そうか!」
義父はお弁当について聞かれて娘——というか料理——自慢をするのが好きっぽい。義母の時は嫁自慢。
夕食後は洗い物。台所の隅に移動した鍋に入ったままの筍は朝まで放置して朝処理をする。
小魚は義母が処理してくれて台所の吊るし場所に干されている。切り干し大根とあさりは明日も干す。しらす干しとあさりの一部は明日佃煮にする。
明日の朝食はご飯、お豆腐とわかめのお味噌汁、香物、キャベツの塩昆布和え、お弁当に入れるしらす入りの卵焼きの残り。
暑くなってきて作り置きや事前準備は危なくなってくる。今夜しておきたい事はないから離れの掃除!
「リルさんはいつも働き者ですがまだ働くんですか?」
「ロイさん。もう終わります。私は明日だらだらしつつお勉強をします。あと遊びます」
しらすを氷蔵に取りに行く時にクララに会いに行って明日の予定を聞いたら梅干し漬けと言っていたので梅を買い足して私も一緒にする。エイラも誘ってみると言っていた。
義母に確認したら梅酒と梅甘水用と梅干し用と色々つけたいから高くならないうちに梅を買えるだけ買って漬けるそうなので私も参戦。その話もロイにする。
「それは遊びなのですか?」
「お喋りしながらヘタ取りは遊びみたいなものです。クララさんとエイラさんの知っている味付けも聞いてお義母さんと相談会をします」
多分途中手を止めてお喋りしたり働いている風になる。保存食作りとかでもそうなる。
「おお。それは楽しみです」
「もう少ししたら部屋でまったりします」
「勉強をしてます」
「はい」
出番が増えた離れの掃除もしたかったところは終了。後は寝るだけ。明日の家事から掃除が消えた。
ここのところ晴れていて洗濯物が溜まっていないから明日の洗濯物は気楽というか布団掛けを多めに洗える。
カビ退治とか洗濯物をお風呂場でちまちま洗うとか大変な梅雨と違って予定を前倒し。ホクホク気分。
暑くなってきたのでロイとは別々に寝る。暑がりロイが大の字になって腕に潰されて重いから布団も離し気味。結婚当初に知っていたら熟睡度が増していた話。
寝る前にロイといつものお休みなさいのご挨拶とキス。終わらなくて押し倒されたので今夜はそういう日みたい。
「リルさん。夏休みというものがあるので少し遅らせて秋に紙婚式旅行はどうですか?」
3日夏休みもあるけどまた有給を使いなさい話が来たらしい。義父はたまに休むけどロイの部署は上司達が休まないから下も休めなくてたまにこうして命令がくるそうだ。
前に不定休の週休2日の職員には有給はないと聞いた。毎日なにかの手続きを出来るのはその人達のおかげ。
上級公務員職は土曜半日勤務と日曜休みだし特権で有給や夏休みがある。
ロイは街中の役所の手続き窓口みたいなところには出てこないし裁判官になっても屯所勤務の簡裁官——スリや食い逃げとかをすぐ裁いてくれる地区兵官達と働く人——にはならない。
毎日毎日私は広くなった世界の事を知っていくからわりと毎日面白くて楽しい。
「紙婚式とはなんですか?」
「1周年ということです。一緒にいられたお祝いをしつつまだまだ質素にいましょうと筆記帳などを贈り合います。贈り合わないで旅行にしましょう」
「旅行をしたら贅沢で質素ではないです」
「1人息子で貯金が多いから子どもが生まれる前に旅行をどうぞと。この1年のリルさんに感謝もあるそうです。新しい旅行料理も期待されています」
「衝撃的な話です。お義父さんとお義母さんにお礼を言います」
「アデルさんに会いに東地区はどうですか? 東地区には大河があります。見てみたいです」
「旅行はどこへでも行きたいです」
明日は蛍鑑賞で秋になったら旅行。楽しみが増えた。あと少しでロイと結婚1周年。時間が過ぎるのは早いな。




