未来編「兄ちゃんの祝言2」
事前に聞いた話だと本日の神社の敷地内は小祭り状態。なので人が沢山。
参進の儀に近寄れないように細い縄が張られていて兵官が6名立っている。拍手やおめでとうの嵐の中を私達は進んでいった。
「おいネビー! 手足が一緒に出てるぞ!」
「しっかりしろ!」
「うわあ。お嫁様と小声で喋って無視しやがる」
「顔が青いなあいつ」
「なんかお嫁様に支えられるみたいになってるけど大丈夫かあいつ。普通逆だろう」
ちょいちょいネビーに対する冷やかしが入る。ネビーはまた手足が一緒に出たのか。大勢の前で転ばないか心配。
そんな中、私が花嫁だった時に聞いたような「お嫁さん綺麗ですね」みたいな台詞も混じっている。覚えていないようでこうして似たような状況になると少し思い出す。
神殿内で儀式が行われて2人は龍神王様に夫婦の誓いを立てるお酒を飲み交わした。席から眺めながら自分とロイの挙式を思い出してみたけど今見たお酒を飲み交わした事くらいしか記憶にない。気がついたら私はルーベル家にいて座っていた。
ロイに昨夜尋ねたらロイもそうらしい。あと「挙式の白無垢似合い過ぎ」と思ってくれていたそうだ。ネビーとウィオラもそうなるのかな。
私達家族の予行練習時に「儀式を行いますのでご着席下さい。その後は少しお待ちいただき移動です」と簡単に指示された儀式はこれで終わりなのかと思ったら続いた。
記憶は無いけど私とロイは絶対にしていないことを開始。お互いの首飾りを外して結納指輪をそこに移動。それから結婚指輪交換。
結婚指輪交換はこの何年か取り入れられている西、東、北の国々にもあるらしい文化。
これはセレヌから私ではなくてヨハネとクリスタから最初に聞いたのでどこからかもう国のあちこちで数年前から流行り始めていること。
婚約指輪はセレヌから私とロイ、それでヨハネに話がいってヨハネはクリスタに婚約指輪を贈った。なのでこれは私達の知り合いの間でしか流行っていないはず。多分。流行りはいつの間にか作られて広がるから分からない。
ヨハネからネビーに婚約指輪の話がいっていたらしくてネビーは自分が結納した時も相手に婚約指輪を贈ると思っていたそうだ。
ネビーとウィオラは虫除けなら女性だけではなくて2人共すれば良いのでは? と考えて父に依頼。
結婚指輪は私とロイと同じく金属で作ってもらうけど筍が竹になるように結納から祝言に至りますようにという願いを込めて竹細工で作って欲しいと父に頼んだそうだ。あと単にネビーが父に頼みたかったのだろう。
2人の為に父が作った色付きのお揃いの竹細工製婚約指輪は現在商品化している。結婚指輪は金属製で高いからお金持ちのものという理由で普及していない平家向けに絶賛販売中。
裕福な家にはネビー達の理由を掲げてそれなりの値段で婚約指輪、安い結婚指輪が欲しい家には安めの値段で結婚指輪だと宣伝している。
私はロイは結婚10周年の日に結婚指輪交換をしようという話をしている。
今使っている結婚指輪になにか思い出の柄を彫刻してもらって指輪交換だ。
ネビーとウィオラを通して東地区の花嫁衣装は南地区と異なると知ったロイが私に別の花嫁衣装を着て欲しいかも、と言ったらウィオラが結婚10周年の宴席時にどうかと提案してくれた。
東地区も南地区も白無垢なのは同じだけど髪飾りが異なる。それで私はムーシクス家にある角隠しという髪飾りを借りる予定。既婚なので白無垢ではなくて他の衣装かなと考え中。
どうぞと言われたけど今日ウィオラが使用している飾り布は豪華で宝石もついているので畏れ多くて使えない。あと2年あるので衣装や他になにをしようか決めようとロイと情報収集中。
指輪交換を私とロイもする……みたいな事を考えていたらネビーの手にウィオラが手を重ねて2人は手を握り合った。
私とロイはこんなことしたっけ。頭が真っ白になったから忘れてしまっているけどしたんだろうな。
「病めるときも」
ネビーがの台詞にん? となる。これはしていないな。なにせ挙式から披露宴までロイも私も喋っていない。
「辛いときも」
次はウィオラのようで彼女は凛とした声を出した。
「悲しみのときも」
……セレヌが手紙で教えてくれた西の国の皇子様とお姫様が使ったという祝言時の誓い!
「貧しいときも」
「苦しいときも」
「恐怖に襲われていても」
「心臓を突き刺されようと」
「心臓を突き刺されようと」
「貴女を許します」
「貴方を許します」
今の許しますの台詞は教えてもらった台詞には無かった。2人で考えたのかな。
幸せな時は当たり前のように一緒にいられるものだから幸せな時の事は誓わないみたいだけど「心臓を突き刺さされようと」のところが私には分からない。
何年も前にセレヌから聞いたこの誓いの言葉について彼女と考えている。
ネビーとウィオラはなぜ「心臓を突き刺されようと許します」なのだろう。尋ねたら教えてくれるか。
「貴女を大事にして敬い慰め助けて命ある限り真心を与えることを誓います」
「貴方を大事にして敬い慰め助けて命ある限り真心を与えることを誓います」
宮司が鈴祓いをしたので少し思い出した。これは私達もされた。
今朝入籍書類も出したそうなのでこれで2人は夫婦だ。そうか。ついにネビーは結婚したんだな。
私が結婚する際にデオンにロイの事や卿家の事を尋ねてくれてロイとも話をしてくれて花嫁修行先にもルカと共に顔を出してくれた。
披露宴の食事の作法を家族で練習しないととデオンと奥様に頭を下げてくれたのもネビーだったと後から知った。
どれも両親に頼まれたからと言うけどネビーは昔からそうやって姉妹全員の面倒を見てくれていた。
ロイとジンと3人で親戚付き合いの中心。義父から仕事関係の頼み事。
ひくらしが中流層向けに事業拡大をするなら元々経営を学び中のジンは思い切って1年間高等校。そう言って特別寺子屋と高等校代を父と2人で工面して男手が減る分家のことでかなり働いた。
父は今追い風だから仕事に打ち込んで欲しい、悔しいけど自分には父の支援は無理だからジンに頼みたいと頭を下げて。
自分も上から期待されていて忙しいのにそうやって全部背負ってくれた。
両親は時折ルカやジンや私に「妹達を犠牲気味にお金と期待をかけて育てたから気にするようになってしまった」と愚痴ってきた。
元服後から我が家に居候しているルルやかめ屋で料理人見習いを始めたレイに女学生のロカの送り迎えや教育などのお世話もずっとしている。
ルルはかなり美人なので危ない男性も近寄ってくるからかなり気にかけているし、両親とは別に定期的にかめ屋に顔を出してレイの様子も確認している。
ネビーはロカのことを娘ぐらいに思っているようでずっとロカが元服する頃に結婚を考えると言っていた。
だからルル、レイ、ロカは時折「私達のせいだよね」としょんぼり。
両親は私達兄妹をどうにか全員幸せにしたいと考えてもがいたけど6兄妹は足を引っ張り合ってお互いがお互いに申し訳ないという気持ちを生んだ。
ロイの友人達や嫁友達と話すと子育てはそのように難しくて兄弟とはそのようになるものらしい。
レイスとユリアも違いがどんどん出てきて男女なのもあるから私もロイも心配。
泣かなそうだなと思っていたけどようやくこれでネビーは自分の事を優先するんだなと思ったらホッとして涙が出てきた。
結納お申し込みをすると義父母に相談した日の夜の方が泣いたな。でも視界がぼやけてきた。
しかし涙はすぐに引っ込んだ。
まだ儀式があったというかそれもするの⁈
異国のあちこちで挙式時に誓いのキスをするけど煌国はしないのねとセレヌに聞いたけどした!
飾り布の両端を持って隠しているから見えないけど1回、2回……3回!!!
縁起数字だけど人前どころか龍神王様の前でキス……夫婦になりましたという証明のキスだから龍神王様の前か。
えええええええええ!
この後、ネビーとウィオラと彼女の家族は舞台へ移動で私達は舞台近くに用意された親族席で見学なので少し待機。
「兄ちゃんがついに結婚して嬉しいけどなんか色々ハイカラっていうか最後のなに⁈ きっとヨハネさんに聞いたんだ!」
「転びかけたし手足も一緒に出たのになんだかんだ格好つけてた! この1年間ウィオラさんをずーっと皇女様扱いしていたけど今日は極め付けだ! 龍神王様にまで夫婦ですって見せつけるってなんなの。ウィオラさんはびっくりした感じだったからあれは兄ちゃんが勝手にした!」
「なんなのあれは。扱いの差がますます酷くなりそう! 私達の兄ちゃんだったのに!」
ルルとレイとロカが憤慨し始めた。赤い目だしまだ泣いていて怒り拗ね顔。
この1年間似たような台詞を何回聞いたことやら。ウィオラは好きだけど嫌い。私達の兄ちゃんだったのに。同じように皇女様扱いしてとか。
ネビーに皇女様扱いされて嬉しいのかなと思っていたけど私もネビーとウィオラと居る時に扱いの落差が激しかったので多少モヤモヤしたことがある。
ルルとロカは兄おバカでレイは単に自分が皇女様風の扱いではないことが気に食わないみたい。
「ロカはいいじゃん! 結婚してもしばらく生活は変わらないのにおねだりして兄ちゃんとかめ屋に2人で宿泊してさ! なんなのロカは。兄ちゃんってロカと出掛ける時だけデートって言うよね」
「そうだよ! ロカだけ末っ子特権! 私もかめ屋のお客さん側になりたいって言ったら元服したんだから自分で泊まれって! 今日泊まるけどルル達と一緒の部屋じゃん! 今夜くらい私と兄ちゃんでも良くない⁈」
「それは流石に悪いでしょう。初夜の邪魔なんて。ルルとレイは兄ちゃんの結納お申し込みに付き合って一緒に旅行したでしょう! 東地区観光までしちゃってさ!」
「初夜ってなに?」
「えっ?」
「レイは勉強をサボるからそうなるんだよ! 習わないけど教養の範囲の文学を読めば知るはずだよ!」
黙って静かにしていればお嬢さんなのに下街溌剌暴れ娘。ネビーは下の妹達に構い過ぎたと思う。私とルカも未婚だったら世話焼きされてこうなっていたかも。
私とルカの結婚当時のネビーは自分に余裕がないからルル達並みには私やルカに構っていなかった。
母とウィオラは今のところ嫁姑問題みたいなことは無さそうだけどこの小姑3人とウィオラは大丈夫なのか心配なのとこの愚痴を聞かされて疲れるのがルカと私の新たな悩み。
母は「ウィオラさんがネビーを家族から引き離してくれた」と言ってルル達の方を叱るけど叱られて腹を立てたルル達が「全然構われてないし構ってないもん」とルカと私の方に流れてくる。
ルルは早くティエンにのめり込んでレイとロカも誰かとそうならないかな。
「リルさん。ルルさん達はご立腹なのか泣いているのか笑っているのか分かりませんね」
「本当に。旦那様、お父さん達が凄いことになっています」
父と母が大号泣してそれぞれ義父母によしよしされている。その義父母も涙目なのはもらい泣きかな。
義父は「俺の息子」とかなりネビーを可愛がり続けてくれているからもらい泣きではないかもしれない。
「親子みたいですね。まあ親子でもあり得る年齢ですが。ルカさんは……それなり。リルさんは涼しいお顔ですね」
「感慨深くて泣きそうになりましたが最後の誓いが衝撃的で涙が引っ込みました」
「異国では神前や人前であのような事と思っていたけどだからあの髪飾り布なのですね。あれなら誰にも見えません」
「そのようですね」
「絵で描いてもらったあの角隠しでは出来ませんね」
……ロイは10周年の宴席で誓いのキスをする気? 再挙式ではなくて宴席なのに?
「ああ。横並びではなくて縦並びなら見えません」
「む、む、む、む、無理です!」
「ちかいます」
「ちかいます」
ん?
ユリアとジオの声がして見たら2人はネビーとウィオラの真似なのか向かい合って両手を握りしめていた。
レイスが何も持っていない手を握って「リンリンリン」と言いながら鈴祓いの真似をしている。
「っと。ちょっと待った! それはするな!」
ひゃあ!
子どもはあれこれ真似をしたがるけどロイが素早くユリアを抱き上げなかったらユリアはこの年齢でジオと初めてのキスだった。
初恋の相手とニコニコしながら素敵な衣装で神聖な場所でキスは良い思い出だったのでは?
「ジンさん! ルカさん! ジオ君がユリアに会うことを禁止します!」
……ロメルとジュリー!!
「旦那様! それは私が許しません! 紅葉草子やロメルとジュリーのようになってしまいます! させません!」
ロイからユリアを奪還!
「婚期まで男女は離すものです!」
「それは悲恋防止や子ども関係なのでベイリーさんとエリーさんのようになるように見守りながらしっかり教育すればええです!」
「かわゆいユリアは誰の嫁にもしません!」
「レイスやユリアを悲恋にすることは旦那様でも許しません! 甥っ子のジオもです!」
ルカがジオに「お父さんやネビーのように誠実で優しい真面目な働き者になったらユリアと結婚出来るからそれまで手を繋ぐ以外はダメよ。他は結納するまで禁止。それが誠実」と語り始めてジンも説明を始めた。
「ユリアはいつかかわゆいお嫁さんになれるからお嫁さんになる練習をしながら規則を守りましょうね。大人の真似は大人になってからですよ」
「うん。れんしゅうします」
「せんでええです!」
義父が近寄ってきてロイに説教を開始。父が母に「ルカとリルは仕方がないと諦めたけどルル達はずっと手元にいて欲しい」と口にして目元に腕を当てた。そのルル達は口喧嘩をしている。
私はユリアを抱っこしたままレイスの手を握りしめた。
「あのね。レイスはおかあさんをおよめさんにします」
それは無理ですよ、と言いかけて満面の笑顔を見て何も言えなくなってしまった。かわゆい!
私は首を横にぶんぶん振った。これだと私も義母みたいになる!
でもレイスに「嬉しいです」と返事をしてしまった。こうして息子の嫁は誰でも気に食わない……母は違そうだな。いやそのうち何か勃発だろう。私はどのような姑になるのかな。
祖母はさすがに無理そうだけどその時まで家族親戚がどうか元気でありますように。




