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特別日編「ルーベル家と異文化交流7」

 愉快で楽しい一夜を過ごして今日の午前中は体の調子の良い義母とセレヌと3人で家事をして茶屋でお団子を食べて買い物にも行って張り切ってお弁当を作って出稽古先へ。

 ロイとネビーがデオン先生に了承を得てあって義父も「気になる」と言うのでついてくることになった。義父も来るかもしれない事も伝え済みでそれも良いと言われたそうだ。 

 セレヌは廊下を拭くだけで「この家に住んでいるみたい」と楽しげ。

 しかもセレヌは「不器用だからゆっくり気をつけています」と言った通り細かく丁寧に動くから義母はニコニコ。

 義母は編み物の本の見方を教わってエレイン編み克服に踏み出したのもありうんと機嫌良し。

 そうして私達はリヒテン剣術道場へ向かった。土手を歩きながら「あそこが実家です」とセレヌに紹介。

 

「まあ。大きくて広いお家ね」

「違います。あそこに沢山住んでいます。区切られていてその部屋の1つが実家です」

「そうなんだ。アパートってことね。家が2つもあるなんて凄い。私達には家はないけど定期的に行ってしばらく泊まる地域は家だと思っているわ。お帰りなさいって言ってもらえるから」

「それなら旅の都合が良ければ我が家もそうして下さい。話を聞きたいし体も診てもらいたいので」


 義母はすっかりセレヌに夢中。私も同じく。


「ありがとうございます。今の感じだと1年かけてあちこちに行くので1年に1回かもしくはもう少しくらい会えたらなと思います」

「妹達が寺子屋に通っているので一緒に行くとええです。紹介するので帰りに寄りましょう」

「ありがとう。私の下にはまだ女の子を拾っていないから妹はいないの。兄が3人に姉様と……アルセは妹? 姉? 年齢順だから姉ね。姉様と姉が1人ずついます」

「お姉さんが2人いらっしゃるんですね。姉様と姉で何か違うのですか?」


 義母のこの疑問は私も同じく気になる。


「姉様は両親の娘です。……お姉様って呼びなさいみたいにふざけていたから姉様になりました。ヴィトニルの想い人。姉様は照れ屋でしかも照れると怖い顔か無表情になって殴ったり投げ飛ばして逃げるからヴィトニルは毎回失恋気分。最初は皆で助言していたけど面倒だからもう放っておいています」


 ここでヴィトニルの恋愛話が登場。そうなんだ。毎回失恋気分はなんだか可哀想。


「それはヴィトニルさんは悲しいですね」

「レージングが散々熱烈なのをやめなさいって言っていてヴィトニルは手を変え品を変えるけど結局似た感じなのとへらず口で2人はなんだか噛み合わないの。勝手にヴィトニルに姉様は貴方を好きみたいよ、とは流石に言えないし。あとお父さんがかなり邪魔してる」


 そこからはしばらくヴィトニルが殴られたり投げ飛ばされた話を教えてもらった。

 西の国育ちのヴィトニルは女性は褒めてエスコートして優しくするものだという価値観。それが少々過剰気味。

 なにせ「笑顔が素敵な女性は老婆に至るまで全員美しくて可愛い」そうではれ屋の店員への態度が彼の通常運転。

 大人しく口説けという助言を聞いて良い雰囲気のお店で枝文を贈ったヴィトニルが女性店員にあの調子なので嫉妬したセレヌの姉様ウェヌスは梅の枝を折って投げつけて逃亡。


「姉様も私と同じ馬鹿力。険悪な雰囲気であの辺りを歩いていて、へこたれないヴィトニルが姉様に焼き餅なら可愛らしいみたいに絡んだけど照れた姉様は逃亡。旅の目的地の方向と違うから戻れみたいに追いかけっこになって最終的姉様に突き飛ばされたヴィトニルはロイさんとリルさんの前にドサリ」

「ああ。何も突き飛ばさなくてもって言うていました」


 どうやら塀の上で追いかけっこになっていたらしい。それは気がつかなかった。


「梅の枝を折られたヴィトニルはかなり可哀想。どう考えても姉様が悪いからお母さんとうんと怒ったけど素直になりたいのにってメソメソ泣くから困っちゃう。ヴィトニルは落ち込んでいたからロイさんが沢山話を聞いてくれて嬉しかったの。私達はもう放置気味で聞き流しだったり、どっちも知ってるから上手く言えなくて」

「兄妹みたいに育ったのもあるのかしら? 私はそこまで拒否みたいな扱いをされているのに他の方に気持ちを移さない方を知りません。狭い世界で生きていますけど歳は取っています」

「私達にも分かりません。ヴィトニルはヴィトニルでへらず口を直して欲しいです」

「姉様は今どちらなのですか?」

「お母さんとアルセと一緒にこの国の領土内の小さな村よ。見かねて戦争孤児のお世話。レージングの迎えが来たら私も行きます。皆順番に息抜きです」


 戦争孤児……。義母と顔を見合わせてしまった。それで少し俯く。セレヌは鼻歌混じりで歩いている。


「皆さんに元気や楽しさをもらってそれを次に与えてそこからまた続くから世界はぐるぐる巡る。大きな国が平和だと小さな国も平和になっていくから良いことだって両親はそう言っていてあちこち行くけどその通りだと思います」


 そうなのかな。私は自分達だけ幸せで良いのかな、と思ったけどそういうものなのかな。


「流れて輝く星は叶えてくれる」


 セレヌは歌い始めた。とても楽しそうな笑顔だ。それでこの曲はなんだか懐かしい気がする。初めて聴いたのに。


「わたしの願いあなたの想い」

「どちらの国のなんという曲ですか?」

「昔々のうんと昔からあちこちに残っているらしい歌です。だから各地で名前が違うみたい。私は流星の祈り歌っていう名前がお気に入り」

「流れて輝く星は」

「そうそう。流れて輝く星は」

「叶えてくれる」

「わたしの願いあなたの想い。流れ星は美しい願いを叶えてるとまた星になれるそうです」


 西の方には流れ星に願いを祈ると叶うという伝承があるそうだ。流れ星は悪い願いは叶えない。それでは単に流れて死んでしまうから。

 流れ星はまた夜空に帰って輝ける願いだけを叶える。流れてしまった時にどうか美しい願いを込めて祈って欲しい。そういう歌みたい。

 空の星々に祈りや演奏や歌を捧げる星祭りは関係あるのだろうか。


「四季か。四季ってなんだか不思議。春ばっかりとか冬が長いとか色々あるから。ここは大陸中央だからちょうど良く分かれているのかしら」

「この国には春夏秋冬に昼間と夜のお祭りがあります」

「1月、4月、7月、10月なのでその時期にいらっしゃるとまた楽しいかもしれません」


 私と義母は他の月にも大体何かしらの行事がある話も加えた。

 義父はずっと私達の後ろを歩いていてニコニコ話を聞いている。

 今月は桃の節句だったけどもう過ぎてしまった。しかし桃の節句にちなんだ飾りなどは今月中は続く。

 そんな風に話していたらリヒテン剣術道場に到着。

 ロイとネビーとヴィトニルはもう到着していて前に出稽古に挨拶をした人達ではなくてデオン先生とリヒテン先生と一緒に座っていた。合流してご挨拶をして皆で食事。

 私は黙々と食事をする性格だから皆の会話を聞く係。話題はもちろんヴィトニルとセレヌの生活。昨日聞いた話の繰り返しだけど復習になる。

 そうして午後の稽古が始まり私達は壁際に横一列。他の門下生達の末席にロイ、ヴィトニル、ネビー、義父、義母、セレヌ、私の順と言われた。

 義母がセレヌに道着とか竹刀に防具などの説明をしていく。道場の上座半分と下座半分で順番に試合が行われていってロイの出番。

 ロイは普通試合で特別試合である型破り試合は最後の方でネビーはそっちらしい。


「ロイさんは多分才能無し。べそべそ泣きながら食らいついて稽古をしてようやく若手の中間。非常に努力家。そういうところを尊敬しています。得意なものは続けられるのは当たり前ですけど逆は難しいです。俺は苦手なものを継続とか克服したことがありません」

「天才も怠惰なら非凡な努力家に負けるからな。後で言おうと思っているけど平凡な体だから逆に努力で体が疲れてる感じがする。休みを入れた方が伸びそう」

「へえ。そんなことも分かるんだ。凄え」

「前は分からなかったけど筋肉の見方は医者達から。強くなりたいなら骨とか筋肉とか勉強した方が良いと思う。治安維持担当ならそこまで強さを求めなくても良い気はするけど」

「あの話した暴れ組っていう犯罪集団が抗争とかすると死人が出るんでなるべく1人で多く叩き潰したいし、いずれ下を育てる側と言われてるんで色々学ばないと」


 わりと静かな空間でヴィトニルとネビーはこそこそお喋り。今朝は敬語だったのに前から友人でしたみたいになっている。午前中のお出掛けの間に仲良くなったのだろう。

 暴れ組の抗争は怖い。そうだよな。考えていなかったけどネビーは怖い人達とも戦っている。


「頭でっかちって感じかな」

「ロイさんの反応が遅いのは考え事?」

「話していると色々考えながら話しているなと思うからこういう時も色々考えて体を動かして遅くなるのかなぁって」


 私はロイが強くても弱くても熱心に稽古をしていて今目の前で凛々とした姿で試合をしている事自体を尊敬するし素敵だと思う。

 好きなことに打ち込めるのは素晴らしいことだしそれがさらに才能無しから努力で少し花開いたというのはすこぶる格好良い。つまりらぶゆ。

 スパンッとロイの面が決まって勝ったので私は心の中で大拍手。負けても良いけど勝つのはやはり素敵。

 ロイが戻ってきて元の位置に着席して面を外してヴィトニルとネビーと話始めた。改善点を聞いていく凛々しい横顔もらぶゆ。


「リルさんの目がハート」


 セレヌに耳元で囁かれた。


「ハート? ハートとはトランプのハートですか?」

「うーんと、ハートは心臓の形みたいって言って心臓はドキドキするでしょう? 目がハートはドキドキときめいてそうって意味」

「……つまりらぶゆの目ですか?」


 セレヌとコソコソお喋り。


「らぶゆ? 古語のラブユーかしら。そうね目がらぶゆ。ハートより可愛いかも。今度誰かに教えよう」

「らぶゆはハレンチではない気がして使いやすいです。直接的に褒めたり気持ちを口にするのはコソコソでも恥ずかしいので」

「やっぱり照れ屋の国ね。友人達にそう教えるわ」


 ビシビシとかバシバシというぶつかり合いは怖いからロイの試合が終わったら怖くてあまり見たくない。

 剣術大会は格好良い! とよく耳にしていたけどネビーの応援がないなら行かなくて良いかなと昔から思っていて現在やはりそうだなと再確認。

 ネビーが大会に出る話を聞いたことが無かったから剣術大会を観に行ってみようという気にならなかった。

 初めて出稽古へきて挨拶をした後に軽く見学をして帰宅したのもこういう気持ちがあったからかな。

 それでネビーの出番。今日はデオン先生に確認して特別にヴィトニルと試合。ネビーが行うのは主に型破り試合なので他国の流派でも問題ないそうだ。

 型破り試合はロイに昨日聞いたけど殴る蹴る掴む足払い何でもありだけど防具が無いところはなるべく狙ってはいけない。危険行為も寸止め推奨。

 戦いではなくて試合だから相手に怪我をさせないように、でもなるべく最大限の力で試合。だから弱い人はしてはいけないそうだ。

 危ないから防具は着用のはずだけど……ヴィトニルは何も無しでネビーは防具姿。


「慣れていない防具だと上手くいかないと怖いって大丈夫かしら」


 義母が頬に手を当てて少し顔をしかめた。


「どうなんだロイ」

「やはり噂の特殊兵みたいな身体能力らしくてその人達より弱い才能のネビーさんだとこれで良いそうです。ヴィトニルさんはデオン先生と昨日軽く試合をしましたけど先生よりも強かったです」

「デオン先生はお年を取られてもお強いそうなのにそうなのか」

「デオン先生は前から言っているそうですけどヴィトニルさんから見てもネビーさんは伸びしろたっぷりらしいです。羨ましいです」

「お前はお前で彼等から才能なしからここまできた努力家なところを尊敬すると言われてたぞ」

「そうですか」


 照れ臭そうに笑ったロイと目が合った。……らぶゆ。


 型破り試合はこれまでと違って道場全体を使用するので道場内の人達は2人に大注目。私も集中力というか興味を取り戻した。

 2人がご挨拶。ネビーはロイ達と同じ会釈でヴィトニルは西の国風の会釈。

 昨夜のダンスを思い出してしまった。私は春のお祭りで音楽が聴こえそうな神社の影でロイにあのダンスをまたしてもらいたい。


「まずは西の国風で!」

「お願いします!」


 ネビーはロイみたいに竹刀を構えないみたい。腰の横に帯刀みたいにしている。ヴィトニルは腕を上げて竹刀を上から下方向に斜めにして構えている。


「へえ。少しだけ本気気味なんだ。確かに少し強そうだしな」

「セレヌさんは人の強さが分かるのですか?」

「護身のために剣術格闘を一通り学んでいるの。水汲みで見た通り馬鹿力だから私もそこそこ強いわ」


 セレヌを上から下まで見て確かにこの華奢そうなのに力持ちだったなと思い出した。

 何か始まったかと何が起こっているかよく分からない。ヴィトニルが先に攻撃してネビーがシュッと払ったと思ったらヴィトニルはそれに合わせて跳んだ。そこまでは分かった。

 今は目が追いつかないというかバシバシビシビシ竹刀がぶつかり合ってポカン。

 

「へえ。思ったよりも速い」

「私はなんだか訳が分かりま……あっ。今は分かります。離れました」

「リルさん。私もよ。先月稽古を見学した時も速くて驚いたけどその時と違うわ」

「母上。ネビーさんは普段の試合で先生に色々制限をつけられているそうです。指導箇所を探せとかこれは禁止など成長するように。若い時から目立つと戦場兵官に回されるからだそうで。道理で試合で勝てない訳です。今日は全力でどうぞみたいです」

「地区兵官で志願出征禁止が付くまで隠す方針だったからな。彼の場合地区兵官に欲しいという評価がついていたけど彼の経歴でそこそこ目立つと試しに戦地だからな」


 色々知らなかった話。疾風剣なんて言われます、とネビーが言うたびに大袈裟とか自慢屋だと思っていたけど先月の稽古時に違ったと判明したし兄妹なのに知らない世界。

 ネビーも私の嫁友達世界を知らないし、ルルやレイの違いをイマイチ分かっていなかったみたいだからお互い様。


「北国風で!」

「お願いします!」


 ヴィトニルの構えが片手で竹刀を前に出して揺らすというものに変化。あっ、と思ったら突きが幾度も繰り出されてそれをネビーが次々払って……跳んだ。

 着地したけどまた訳が分からない。竹刀がぶつかり合う音は分かる。床に手をついたり滑るように動くし壁に吹き飛ばされた!


「ひっ! ああ着地しました」


 ネビーは壁を蹴って見事に着地。最初にヴィトニルがしたような構えでヴィトニルと向かい合ってお互いゆっくり動いていく。


「2人共あのくらい出来るわよ。パッと見、似たような感じの人があと数人いそう。ヴィトニル少し楽しそう。私も参加しようかな。あー、この格好では無理ね」


 ……えっ?

 セレヌはこういうのに参加出来るの?

 義母も目を丸くしてセレヌを見つめている。


「セレヌさんはそんなにお強いのですか?」

「はい。それで捨てられたみたいです。お父さんがこういう人もいるって拾ってくれて姉様もそこそこ強いしこの道場にもいます。個性って言うそうです」

「武術系の大会を見るとそう思います」

「小さな国とか街だと数が少ないから怖がられるけど大きな国だと色々な方がいるからあの人に似てるんだと思われて気楽です」


 そうなんだ。リルちゃん変わってるとか変という言葉でそこそこ傷ついてきて個性の人という言葉で気持ちがうんと軽くなったけどセレヌもそうだったのかな。


「東は武器が違うから省略で中央を含めて我流!」

「はい!」


 ロイの試合を速くしたみたいな状態になった。

 それで急にかなり体を沈めたヴィトニルの竹刀がネビーの足をヒュッと払った。

 ヴィトニルは足払いを避けたネビーを下から突き上げてそれをさらに竹刀で回避したネビーに腕を伸ばして胴着掴み。

 ネビーはヴィトニルの竹刀を蹴りつけたけどそれをパッと離したヴィトニルがまた跳ねた。

 あっと思ったらネビーはぐるりんと回転してヴィトニルに袋をかつぐみたいにぶらぶら。凄い。

 道場中から大拍手。私も拍手。怖いよりも茫然としたり見惚れてしまった。2人が挨拶をして戻ってきた。


「手加減でこれって自信を失くす」

「いや、思ったより速かった。これは楽しかった。レージングと戦わせたい。あいつも手加減するだろうけど途中はレージングでもヒヤッとしそうだと思った」

「伝えといてくれ。疲れてなかったら誰かと試合して欲しいな。外から動きを見たい」

「まだ強そうな人がいるから相手に望まれた……」


 その相手はいるようで勢い良く手を挙げた門下生が「彼の疲労が回復したら手合わせ願いたいです!」と叫んだ。

 

「バロウズさんだ。俺はいつもけちょんけちょん。本気で良いと言われて試合基準で全力を出しても」

「へえ。それは楽しそう。そんなに疲れていないのでお相手したいです!」


 そこからヴィトニルは休まずに7人と試合。全て見事勝利。剣術大会は怖そうだから見たくないは間違えだったと痛感。

 女学生は見学禁止にされていたりするとアイラに聞いてなんで? と思っていたけど理由判明。これはらぶゆになってしまいそうな人達だ。


 ネビーは準夜勤の途中から夜勤とぶっ続けらしくて途中でデオンとリヒテンと私達に挨拶をして先に帰宅。

 普段はデオン剣術道場へ皆で帰って挨拶その他があるけどロイは特別に私達とヴィトニルと帰宅。

 義父母は真っ直ぐ帰宅で私達は実家へ寄った。父は夜型なので当然居なくてルカとジンもまだ不在で母とルル、レイ、ロカが居て夕食準備中。

 簡単にヴィトニルとセレヌを紹介して逆に家族も紹介。


「今日はもう時間がないけど小さなお姫様達とすぐに別れるのは胸が裂けてしまうので少しお相手してくれますか?」


 ヴィトニルはルルとレイにも西の国の会釈をした。やはりこの姿は格好良い。ロイにまたしてもらわないと。


「お姫様? ルルはお姫様ですか?」

「レイもお姫様ですか⁈」

「もちろん。こんなに素敵な笑顔の女性はお姫様ですよ」


 ヴィトニルは西の国風の挨拶後にルルの手を取ったままルルをくるりと回した。

 次はレイで母に抱きつくロカにはいつ詰んだか分からないたんぽぽをそっと差し出した。

 母にはまさかの頬に頬寄せ。これも挨拶です、と先に説明してからだ。それで私達は帰宅。


「いやあ、ああいう狭い住居は陰惨な印象しかなかったけど大国の平和な首都だと全然違う。これは良いものを見た。ありがとうございます」

「やはりこの国の王都は平和なんですね。仕事であれこれ耳にするので」

「ロイさん。豊かな国でも貧富の差が酷くて路地には家なしの子どもの集団とか逆に全体的に貧しくても底辺はそこまででもないみたいに様々で——……」


 不意にヴィトニルは足を止めた。かなり遠くを見つめている。


「ヴィトニルさん?」


 ロイの問いかけにヴィトニルは肩を揺らして困り笑いを浮かべた。


「気がつく男なので夕食前に出発します。あの空のあの雲の感じは北東部で嫌な感じ。土砂崩れと水害が気になるので行きます。セレヌ、予定日には集合場所に行くからお前はゆっくりしろよ」

「それなら私も行こうかな。天災だったら怪我とか病気が増えるもの。違ったら良かっただけどヴィトニルの天気予報はそこそこ当たるから」


 えっ⁈

 突然のお別れ。

 ロイが思わずというように2人に問いかけた。私も感じたこと。なぜそういう生き方が出来るのか? という疑問。


「俺はこの国風だと真の見返りは命に還るかな」

「真の見返りは命に還る。説法の解釈が難しい部分です」

「ロイさんが裁判官を目指す理由とそんなに離れてないと思いますよ。生まれた場所と能力の差」

「私は家族やレージングと一緒に居たいってだけです。あちこちで感謝されるのも嬉しいです」


 2人はお母さん達と合流して移動してヴィトニルはタカ使いだからそれでお父さんとレージングに連絡を入れるそうだ。


「どこかへ手紙みたいに躾けられたら良いのに家族のところにしか飛ばなくて」

「リルさんへのお手紙は旅人経由とかで一方的に送れるけど逆は前に教えた宿に送ってね。まぁ読んだ後にすぐお邪魔しそうだけど」


 2人もレージングも連絡無しで突然ルーベル家に来て良い。全員不在はないはずなのでそうして欲しいことをロイが伝えた。

 セレヌの浴衣は本人の希望で持っていくそうで代わりに私に寝巻きを置いていくと言ってくれた。

 我が家へ到着して義父母に話をしたら非常に残念がって義父がロイと同じ話をして心配だけど全員でお見送り。

 先に帰宅していた義母が蒸したあんかけ大饅頭をサッサの葉にくるんで、私と義母は急いで台所にあるものを詰めたお弁当を作って2人に渡した。

 それからセレヌには義母が刺繍の本を1冊と私から月夜のかご姫の本。喜んで受け取ってもらえて安堵。

 2人の荷物良し。食料良し。変わった形だけど水筒良し!


「この国ではここが家だと思ってまた来て下さい」


 義父はそう言ってセレヌに宿泊代を返却しようとしたけどセレヌは受け取らなかった。


「ありがたくそうするのでこちらはまた来ますという約束代わりに預かっておいて下さい。次はお金を払いません!」

「良かったなセレヌ。行って良いのかなってずっとウダウダしてたからな」

「ウダウダはヴィトニルよ。ロイさんに侮辱された。きっと違う。忙しいけど気になる。ロイさんに侮辱された。違うって言った通り違ったわね。賢いヴィトニルもまだまだうんと知らないことがあるってことよ」

「まあその通りだな」

「へえ。珍しい」


 こうして私達は2人をお見送り。


「お世話になりました。ご親切にいろいろありがとうございます。楽しかったです」

「妹共々お世話になりました。とても楽しかったです。お酒も美味くて。あれは久々に口に合ったしかなり美味しかったです。ネビーに突然来るだろうから常に用意しておけって伝えておいて下さい」


 ヴィトニルはネビーは呼び捨てなんだ。ロイはさん付け。


「自分も呼び捨てでよかですからね」

「ロイさんはロイさんでないと。俺の恩人なので。それでは」


 2人は会釈後に歩き出してしばらくしてこちらを向きながら歩き続けて大きく手を振ってくれた。

 

「いってらっしゃい! どうか気をつけてまた来て下さい!」


 ロイが軽く叫んでハッと気がつく。


「いってらっしゃいませ! 次の時はただいまと言うて下さい!」


 この後ヴィトニルとセレヌは大きく大きく手を振ってくれた。

 どうか2人がまた我が家に来られますように。強い強い風が吹いたので「風の神様?」と思ってお祈りした。

書き溜めしていないのでいつになるか不明ですが花見か未来編小話を書きたいです。それか〇〇と言われて上手く書けたらその話です。

いつも誤字脱字修正、感想、コメントありがとうございます!

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[良い点] 初めまして。5年ほどなろう小説をただ読みしていました。 ただ、お見合い結婚しましたと出会い、毎日何度も更新を確認して、他の方の感想やあやぺん様の活動記録までチェックするほどに気に入ってしま…
[良い点] 更新ありがとうございます♪ [一言] 私もルシーお嬢様の出産騒動が気になります❗ あと、バレルさんとお嫁さんのミーティアへのおでかけも(^^)
[良い点] 更新ありがとうございます! [一言] 花見も未来小話も楽しみです ロイの友人視点の結婚に至るまでの経緯とかルーベル家のご近所さん(リルの嫁友達とか)から見たルーベル家の若夫婦の結婚に至る…
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