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特別日編「ルーベル家と異文化交流6」

 義父とヴィトニルは将棋、ロイとヴィトニルは坊主めくり、ネビーとヴィトニルは山崩しという謎の異種格闘戦を開催してすこぶる楽しそうにお酒を飲み続けていく。

 ネビーが持ってきたのは「よく分からないけどお礼に貰った美味いらしい酒と一昨年から毎年貰う卸先が少ないらしい美味い酒です」というお酒らしくてヴィトニルとロイはご満悦。

 そこにヴィトニルが「そうだった」と赤ワインと白ワインを背負い鞄から出したのでロイは大興奮。義父とネビーは初ワイン。私と義母も少しもらって飲んだ。

 ワインのつまみに持ってきましたと渡されたチョコレートに私と義母は大興奮。あと木の実。見たことのない乾燥木の実カシュに私は夢中。

 バチ当たりになるから数えて人数分で割ったけどヴィトニルとセレヌが自分達は馴染みのあるものだからと譲ってくれた。

 さらにはロイ、ネビーまで半分どうぞとくれたので私はカシュ木の実富豪。

 女性陣は編み物の基礎、本の見方を教わった後にセレヌと西風料理本の読書。


「チーズにたまごは使われてないわ。牛乳をどうにかすると出来るのよ。私も食べたことしかない」

「あれは牛乳から出来ているのですか」

「ふわふわパンケーキは謎って書いてあるけど粉と牛乳とベキング粉にたまごと砂糖で作れるわ。お店みたいなのは工夫が分からないけど甘くしないで朝ごはんに食べたりするわよ」

「どら焼きで使うふくらし粉かしら。怪しいとは思っていたのよ」

「セレヌさん。台所に材料があれば西風の朝食を作って欲しいです! あと家で簡単に作れる西風の甘味も知りたいです」


 今夜から我が家はハイカラ家だな。明日の朝食はセレヌを中心に作ると決定。


「もちろん。私はあの香物を知りたいわ。サッパリしていて前から気に入っているけどあれは持ち運びとか作れるもの?」

「使えなくなるかもしれないけど糠床をお渡ししましょうか」

「乾燥昆布とカツオ節もです。すまし汁なら野宿や食事を自分達で作るような宿で作れそうって。ナイフで削れそうって言うていました」

「明日突然迎えが来るかもしれないし遅いかもしれないけど日持ちするなら明日買い物に行きたいです。迎えが遅かったらこの家で使ってもらって買い直します」


 明日は家事体験をして3人だと早く終わるだろうから甘味処へ行って少しまったりして買い物をして帰宅後に私達の昼食を含む出稽古用のお弁当作りと決定。


「簡単なお菓子……なにかしら。ヴィトニル、どう思う?」

「牛乳やバターが手に入るならキャラメルはどうだ? っていうかよく作って配ってるだろう。煌国の中流層の家庭料理にまで西風料理が浸透してるのは驚きました」


 キャラメル!!


「リルさんのメモに煌西風ってあるのよ。マヨネーズに味噌を混ぜたソースですって。それにシチューにもこの国の出汁と味噌。これはお父さんがきっと喜ぶと思う」

「知らない作れそうな簡単な煌菓子も教わっておいてくれ。たまに食べたそうだから。買うんじゃなくて作って欲しそう」

「ええ。それこそどら焼き。どら焼きってなんですか?」


 一方的に教わるだけではなくてこちらの当たり前がセレヌ達には当たり前ではないから教え合えるみたい。義母が煌菓子の本を出してきて前から順番に軽く説明。


「そういえばお餅。あのびよんって伸びるお餅は普段から家にあるものですか? あれはとてもお気に入りです。お米を叩くって聞いたからしてみたけど出来ませんでした」

「お米はお米でももち米です」

「えっ、セレヌ。もち米って話をしたよな?」

「そうだっけ? 私は賢さが足りないから覚えてないか忘れているわ」

「家にありますよ。お餅も持ち運びに便利です。お餅を食べますか?」

「そうだロモモの実。剥いて食べましょう。ううん、食べてみて。私はお餅を遠慮なくいただきます!」


 なに餅が良いか聞いたら驚かれた。お醤油餅とおしるこしか知らないそうだ。


「リルさん。試しにきな粉にしたら。あとは出汁が好みだったら餅しゃぶ。ヴィトニルさんとセレヌさんはカニをご存知ですか?」

「カニは大好きです!」

「餅しゃぶ? へえ、お餅をしゃぶしゃぶか。カニは俺も好きですしお餅も久々に食べたいです」


 義母がなにを言いたいか分かった。大事なことなのに忘れていた!


「出汁でお餅をしゃぶしゃぶだけならすぐなので作ってきます」


 自分達も行くと言われたので義母とセレヌと3人で台所へ行き全て用意してまた居間へ。

 小さい七輪の上に乾燥毛むじゃらカニ殻でとった出汁に少し味を工夫したお出汁入れたお鍋を乗せる。

 皆食べそうな気がしたのでお餅はバシバシ切った。


「美味しいです。似たようなものをチーズでも出来そう」

「ヴィトニル、私も思ったわ。チーズしゃぶしゃぶ。お餅の方があっさりしているしこの出汁も好み。でもこんなに美味しいカニの出汁って初めてだわ」

「俺も思った。料理はピンからキリまで食べているつもりだったけど世界は広いな」


 すると義父が毛むじゃらカニの話を披露。具体的にどう手に入れたかは言わずに縁起が良い日に船着場へ居合わせると譲られることがある決して売っていないカニだと説明。

 乾燥したカラで出汁が取れるからまだ楽しめるという話をした。


「密猟で怪死や火事が数多くあったりする不思議なカニだそうです」

「これが噂の毛むじゃらカニですか」

「博識だからご存知でしたか」

「少し耳にした事があるだけです。存在しないくらいに思っていたらまさかこの家で口にするとは。本当に美味いです。……このカニは皇居、特に皇族は食べるの禁止でしたよね」

「まあ! それは大変よ!」

「……まあいいか。……皇居に1度招かれたことがあるくらいじゃ問題ないだろう」

「旅医者の方はやはり皇居に招かれたことがあるのですね。自分は無事に勤めあげて退職出来たら皇居へ一度行きますし漁家の取りまとめ役達も皇居へ行きますから心配しなくて大丈夫だと思います」


 ヴィトニルは義父に軽く会釈をしてしばらくジッと襖を見つめてから「勘が良い方でこれは食べた方が良い気がします。大変美味しいです」と破顔した。


「きな粉餅は美味しいけど喉がカラカラになるわ。お湯につけたら粉がつくって発想はなかったです」

「ロモモの実は桃に似ているけど味が少し違くてりんごみたいな固さだけどもう少し柔らかくて不思議です。これはとても好みです」

「死の森と人里の間らへん、しかも一部でしか育たないみたいで知っている旅人でないと中々入手出来ません。煌国だときっと皇居に納品です。セレヌはここら辺にありそうと思うとここぞとばかりに確保しています」

「果物で1番好きなので。売らないで全部食べています」


 死の森の話を聞けるぞ、と思って質問しようとしたらその前にロイがヴィトニルに尋ねた。


「その死の森はどのような森なのですか? 南の国と同じく調査隊が帰ってこないからもう派遣していないと学んでいます。母の病もそこからきているなんて知りませんでした」

「病の原因は仮説です。その仮説をもとに旅医者達は各地で調べ物をして死の森に足を踏み入れることも。歩き方を知っていれば入れますけどあの森は人以外の多くの生物の家なので不躾に入れば死にます。この家に不法侵入されて家の中を荒らされたり火をつけられたら嫌なのと同じです」

「それは嫌です。それならいきません。生物って化け物がいるって話を聞きました」


 私の問いかけにヴィトニルは小さく首を横に振った。


「人から見たら化け物。向こうから見たら化け物。虫から見た人は異形の巨大生物。人から見た大きめの蜘蛛や蛇は化物の子みたい。そういうことです」

「向こうから見たら……なにか知っているのですか?」


 義母の問いかけにヴィトニルは小さく頷いた。


「古い昔の本や伝承でそういう話がありました。死の森の生物は金になると攫って殺戮(さつりく)した結果それで国が滅んだとかそういう話です。今は分かりませんけど昔々はそういう時に忠告する賢者みたいな方がいたらしいです。その場合、化物はどちらなのかなと」


 室内は少し静かになった。それは……人も妖や鬼や化物なの?

 こういう考え方をした事は無かった。


「俺はその辺りはそこまで詳しくないです。旅をする生物学者や歴史学者と少し話した時にこういう話を教わりました。死の森の植物の多くが人に有害なのは有名なので近寄らないのが1番。大狼も根城にしていますよ。どなたか大狼をご存知ですか?」

「死の森に大狼がいるって野獣の森じゃないですか!」


 ネビーが素っ頓狂な顔を上げた。大狼ってなに? 大きな狼?


「大狼から見た人は腹が減った時の食糧の1つ。人を蚊と同じ下等な生き物と思っていて犬や狼とは全く別の生き物らしいです」

「それも旅人の生物学者に教わったのですか? デオン先生が昔遭遇したそうで分かっている限りの対策を一応勉強しました」

「ええ。ごく稀に大狼に好まれる者がいたという昔話を生物学者から仕入れました。古い時代の大狼は文字を書いたなんて信じられませんけど先人の知識や知恵は無視すると大体悲劇です。俺は大狼を見かけたことがあって気がつかれないうちに全力で逃亡。とにかく刺激しないで逃亡一択です」


 人と蚊が同じ。それはかなり怖そうな生き物。王都の外には本当に知らない世界が広がっているみたい。


「……大狼は大陸中央部ならわりとどこにも現れるらしいから見かけたら逃げて下さい」

「王都内もですか?」

「リルさん大丈夫だ。砦から見たとかでその前に避難指示が出る」

「そうですリルさん。確か王都中央街だとそれこそデオン先生が若い頃の話です」


 これは知らなかった衝撃的な話。


「ヴィトニルの話した感じで死の森には近寄らない方が良いです。旅医者達とか世界の不思議に興味のある旅人達が近寄らない方が良いと伝えて回っているから別々の世界みたいになっているんだと思います」

「煌国の中枢が調査派遣をやめたのも国民には教えないなにかがあるんだと思います。俺達もあまり近寄らなくて旅人達の情報網と少し近寄った時の印象でこういう話をしています」

「旅をした画家の描いた絵は国内の貴重な資料なので彼はもしかしたらその頃の皇帝陛下に謁見したりしていたかもしれないです」

「シホクというすこぶる素敵な絵を描いた方です。先月観に行きました。私は水の中にある庭の絵がお気に入りです。二度と観られないかもしれないし描けませんけどしっかり覚えています」


 セレヌに質問されたので水の中の庭を説明。ヴィトニルは「シホクの絵は観たことがあります」と笑顔を浮かべた。


「彼の絵は他の国でも売られたり飾られていますよ」

「ほう。それはこの国としては自慢話です。王手」

「……あっ。異種競技に餅しゃぶに会話だとさすがに無理です。いや待て。まだ逃げられます」

「リルさんそれはベネボランスの泉に似ているわ。いつになるか分からないけど絵はがきを買えたら買っておく」

「どちらの国にあるのですか?」

「私達が定期的に薬草や種を手に入れるために行く流星国よ。白銀月国のエレイン湖とあの白いお城の方が見応えがあるけど遠すぎるわね」

「ご両親の体だと寿命を縮めそうだしロイさんは卿家だから長期休みは難しいだろう。俺達は予定無しだから護衛や案内を出来ないしな」


 私はロイと顔を見合わせた。それでお互い頷く。


「話や絵だけでうんと贅沢です。ねえリルさん」

「はい」

「独身でこの国の兵官のネビーさんなら傭兵のツテに頼めば異国で働けますよ。離してもらえなくなると帰ってこられなくなりますけど」

「……俺ですか⁈ 俺はこの家の跡取りの予備になったのと金を稼いで両親や家族に返したり妹達の世話があるので異国はちょっと。お嫁さんはお嬢さんも狙っているので」


 ネビーは照れ笑いを浮かべた。お嫁さんはお嬢さん話をまた言っている。


「この国で地区兵官だと成り上がっても縁談相手は華族や大豪家や大商家のお嬢さんでしょうけど異国で成り上がるとそれこそお姫様ってこともありますよ」


 ふふふ、とヴィトニルは楽しげに笑った。ネビーの顔が衝撃的、みたいになる。


「奴隷から姫君の夫に望まれて王子になった話もあるくらいですから戦国乱世やそこから治安維持向上を目指す国はネビーさんみたいな大国のノウハウを持っていてそれなりに実力もある者を欲します。危険の代わりに栄華ってやつです」


 ロイもネビーと同じようなお顔で義父はこの話に興味無いのか盤上を難しい表情で見つめている。


「奴隷から⁈ 世界は広いんですね。いやあ、それはさすがに身分格差と価値観の違いが恐ろしいというか気が合わないと思うのでこの国で成り上がります。家族親戚がいるので」

「言っておいてなんですけど権力や金は人を狂わせるのであまり高望みするものではないです。ロイさんもですけどね。長期政権の大国の役人家系の男性はやはり欲しがられますよ。なのでこれは忠告。欲に目が眩んでこの国を出るのは色々な国を見てきた自分からすると得策ではないです。卿家の維持は大変らしい……。卿家って使用人とかいないんですね」


 またこの誤解発生。ロイがよく誤解されることやなぜ使用人無しなのかヴィトニルに説明していく。私もこれは卿家の嫁として大事な復習話なので耳を傾けつつロモモの実を食べる。


「知識と実情ってやはり違いますね。これを覚えて何かってないけど知りたがりなんで面白いです。ああっ!!!」


 パチリ、と音がしてヴィトニルがわりと大きな声を出した。義父が「これはもうないかと」と口にしてとても自慢げな表情になっている。


「待った。戦いに待ったは無いですけど待った。いや今度は1対1です。せめて3面打ち。ああっ!!」

「気がつきました? ヴィトニルさんこちらも負けです」

「自分の方も。ヴィトニルさんはぼうずばかり引きますね」


 これに対してヴィトニルは憤慨。どうやら彼は「負け」が嫌いらしい。セレヌが「色々な事で負けないから負けると拗ねるのよ」と愉快そうに笑った。


「3面打ちです。3面。ガイさんは駒落ち禁止。庶民でこれって噂の職業棋士って化け物なのか? これは友人にも教え込まないと。このゲームは時間潰しの息抜きに軽く遊ぶじゃ足りない」

「俺は弱いんでかなりの駒落ちで」

「そういえばセレヌさんはレージングさんに将棋を教わるみたいな話をしていたから2人で遊んでみたらどうですか?」

「勉強してもレージングやヴィトニルと遊べないからあまり興味を持てなくて駒の動かし方をすぐ忘れます。関心がない事は忘れっぽくて」

「それは俺と似ています」


 ヴィトニルは2面打ち、私はセレヌと義母とロイで山崩しをすることにした。それでふとトランプ話。義母が言い出した。


「他のゲーム……ポーカーは? ヴィトニルって運系のゲームに弱いの。だからそれで遊んだりするわ。花札もそれね。花札は持ってるの。可愛いし綺麗だなって思って買ってたまに遊ぶわ」

「おいセレヌ。俺の数少ない弱点を教えるなよ」


 ヴィトニル対義父の将棋はそのまま進めてネビーは「既に負けてる」と対局を放り投げ。

 それで私達はセレヌにポーカーを教わることになった。ヴィトニルは将棋を指しながらポーカーも参加。


「駒をチップの代わりにしましょう」


 同じ数字を揃えたり同じ柄が揃うと良いというわりと分かりやすい説明で「強弱はやりながら」とセレヌに言われたとおりとりあえず勝敗関係無しにポーカーを楽しむ。


「リルさんはおかしいです。いきなり4カードで次はストレートで異常なのに今度は交換なしでロイヤルストレートフラッシュ! 俺は役なしクズなのにどういうことですか⁈」


 ヴィトニルの大きめの綺麗な形の目が丸々と見開かれた。私はこの驚きに驚き。セレヌにも「どういうことかしら」と首を捻られた。


「分かりません」

「娘はたまに強運だ。欲張ると運が悪くなるらしいのだ。おそらくなにかを賭けたら多分弱くなる」

「そうそう。リル。言い忘れてた。昔長屋に占いオババがいただろう?」

「そうだっけ。誰?」

「猫だらけオババ。猫を集め過ぎって追い出された」

「ああ。うん、いたね。猫達はかわゆかったから残念だった。糞とかちゃんと林の方でしてたし」

「その占いオババがお前は少し運が良いらしいけど代わりに謙虚でないと強いバチ当たりになるってさ。気をつけろよ。この家の贅沢や親切に慣れるな」

「へえ。既にそうだからますます気をつける。悪さをするといつもバチが当たる」


 そこから少し私のバチ当たり話に花が咲いた。これだけ人数がいるのに喋れるようになったとは感慨深い。

 ヴィトニルやセレヌは元々私に問いかけたら様子見をしてくれるし義父母やロイにネビーにはもうお喋り下手みたいな話を出来ているからだろう。

 今年はさらに人付き合いが増えそうなので喋る努力はもちろんだけど上手く喋れない時の伝え方も工夫するというようにビシバシ励みたい。


「そういえば異国のダンスを教わりました。お義母さんは絶対に踊ってもらうべきです。それでお義父さんも習うべきです」

「……えっ? リルさん何を言うてるんですか? あれはまぁ、踊ってもらうのはともかく父上は……」

「ああ。おもてなしされてばかりなのでエスコートさせて下さい。笑顔が素敵な桜吹雪(おうふぶき)から現れそうな天の奥様と踊っておかないと。セレヌ、笛」


 サラッと褒められた義母は少し照れ顔をした。


「はーい。リルさんとロイさんもまた踊ると良いわ。音楽と踊りと歌は幸福を招くって言うの。兄妹でも踊るものだからネビーさんとも踊って」


 こうしてヴィトニルは私にしたように義母をエスコート。照れ照れ照れまくりだけど義母は嬉しそうにヴィトニルと踊った。私との時よりもゆっくりとした動きなのは義母の体を気遣ってだろう。

 少々不機嫌になった義父はヴィトニルに操り人形みたいにされて「長年共に過ごせるとは天命が味方したような縁なのでしょう。羨ましいです。これから先も仲が良いでしょうね」とか義母を褒めた後にその義母に慕われる義父は幸せ者で良い方なのでしょうみたいにお世辞を言われて上機嫌。

 私はすこぶる恥ずかしいけどロイとまたダンス出来て大満足!

 

「リルとは踊らなくて良いから許されるなら俺は異国美人のセレ……っ痛」


 ネビーのおでこに直撃したのはどんぐりだった。どこからどんぐり?


「俺は構わないけど義弟のレージングがうるさいのでご遠慮下さい」

「ダンスは礼儀作法や社交や息抜きなんだから踊るわよ。黙っていたら分からないって」

「今レージングの代わりにどんぐりを投げつけたから後はもう良いだろう。全員と踊ると良い。おもてなしだからな」

「ええ! 私は皆さんと踊るわ!」


 それでヴィトニルとセレヌは場所を交代してヴィトニルが笛を吹き始めた。同じ曲だけど力強くなった気がする。

 セレヌはネビーと軽く踊り、次はロイを誘い、最後は義父。と思ったら義母を呼んで最後は私。

 それから「以前教わった祈りの舞です」と1人で軽く舞ってくれた。その時の曲は別の曲。

 飲んで食べて喋って騒いだのでこれで女性陣は解散。

 対局が続くのとヴィトニルの失恋話が始まったので義母は私とロイの寝室で寝ることにして私はセレヌに誘われて離れ。

 ヴィトニルというか男性達はロイが様子を見てどこかに案内となった。

 離れでセレヌと布団を並べて「寝ましょう」となったけどどちらともなくお互いの馴れ初め話。

 常識人だと思っていたレージングはわりと変わり者みたい。恋愛事だと勘違いが多くて困るらしい。特にレージングの幼馴染で彼と一緒に旅医者仲間になったレージングのお世話役みたいな赤鹿係のニースさんが被害者。

 レージングはセレヌと出会ってヴィトニルとセレヌが恋人だと思って「こんなに辛いから自分は病気で余命はあと少し」と引きこもって「死ぬなら医学書をひたすらつくる」と飲まず食わずで物書きをしたらしい。

 何も知らないセレヌはこの話を後からニースに聞かされて「食べさせたり寝かそうとしたり誤解を解こうとして大変だった」と愚痴られたそうだ。未だに似たようなことが起こるから気をつけてくれという助言と共に。

 それで今度は私とロイの話を簡単にした。


「……それはお見合い結婚なの?」

「えっ?」

「だってロイさんがリルさんを好きになって交際や結婚を申し込んだんでしょう? それは恋愛結婚よ。結婚してから好きになったのは珍しいというかなぜ結婚を決意出来たのか分からないけど。私の知っているお見合い結婚とは違うわ」

「ええっ? セレヌさんが知っているお見合い結婚ってなんですか?」

「親が子どもの結婚相手を探したり申し込まれて良いと判断したら家族で会うのよ。庶民だとそこから恋愛結婚だけどうんと偉い人だとそのまま本人達の意思は関係ないんだって。だから愛人っていう恋人を1人なら作っても良いって。天上人の話」


 他のお見合い結婚話をしたら全部恋愛結婚と言われてしまった。恋愛結婚は家族を無視して2人だけで入籍。大体駆け落ちとかなので破滅。

 その話にセレヌは目が点という感じで結局お互いイマイチこの話が分からないから私達の話題は別の話に逸れた。


「踏まれたい? そのような皇子様は嫌です」

「私も嫌。この話はロマンチックじゃないわよね。にやけ顔でビンタしてくれとか。うんと格好良い王子様らしいけど踏んづけてくれはちょっと」

「白銀月国の皇子様はそんななんですか。エレイン編みを見るたびに思い出してしまいそうです」

「あの国の他の王子様の話は知らないわ」

「格好良い皇子様の話を知りたいです。お姫様でも良いです。そうです。流星国にたまに長く滞在するのならフィズ様とコーディアル様です。なにか噂を知っていますか?」

「えー。色々聞いたことがあるけど……。格好良い王子様の代表は西の国ならシャルル国王陛下よ。コーディアル様の甥っ子でフィズ様が相談役をして支えているわ」


 シャルル皇子様——今は王様——は天上人だからかうんと賢くて、なのにうんと優しいから「直接民の声を聞く」と昔も今もお城から出るそうだ。

 前の王が病死した際に彼の兄——すこぶる嫌な皇子らしい。少し聞いたら怖かった——が王になろうとしたら大蛇の国中から不満が出て天災に病気まで流行ったけどシャルル皇子が国王になったら逆に豊穣豊漁。凄い。

 大蛇の国の守護神蛇神様の加護があるというのはそういうところだそうだ。


「まあ私の王子様はレージングよ。私は彼が1番素敵。王子様ではないけど王子様。リルさんはロイさんね」

「はい」

「好きでもないのに結婚した理由を知りたいわ」

「両親がお願いしますと言うたので結婚するものだと思いました」

「そこが分からないのよね」

「選ばれたから嬉しかったです」

「それは嬉しいわよね」

「評判が悪かったから余計に嬉しかったです」

「リルさんの評判が悪かったなんて分からないわ。なぜ?」

「貧乏で見た目が悪いし妹が元気いっぱいのうんと美人なので同じ家なら私より妹がええと」

「それなのにロイさんはリルさんを見つけたのね。お弁当や通り道で色々見て」

「はい」

「素敵だわ。素敵な話。でも好きでもないのに結婚したらどういう生活なの?」

「どういう? 教わった通り働いてお菓子を贈られたりお散歩やお出掛けをしたり宝物を買って貰ったりです」

「それが先では無いのが不思議。不思議だわ。それがお見合い結婚なのね。博識だし解説上手だからレージングに聞いてみよう」


 不思議なのか。私は当たり前のように今日まで過ごしてきたからなにが不思議なのか不明。

 うとうと眠いなと思ったらセレヌも同じようなので「おやすみなさいませ」と声を掛けた。彼女からも「おやすみなさい」とかなりゆっくりめな返事。あっという間に睡魔に飲み込まれた。

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