特別日編「ルーベル家で異文化交流1」
書き溜め改稿したので投稿します。数話続きます。
煌国は春の季節で3月になった。遅咲き梅に早咲き桜が混じり始めているし暖かくなって他の花々も咲いていく綺麗で楽しい季節。
いつかなあ、とソワソワ待っていたら週末土曜日の14時頃にヴィトニルとセレヌがルーベル家を訪ねてきた。
義父は「ご挨拶や食事以外は2階の夫婦の部屋で交流してくれ。自分が不在の時は居間でええ」と人見知り発覚。ロイの人見知りは義父譲りと判明。
一方義母は「お時間があるようなら離れに泊まってもらいなさい。あの本だけでは編み物は難しいからそうするんですよ」とセレヌに編み物を教わる気満々。
私が「読んでも見ても難しいです。解説が必要です」と助けを求めたら、義母は編み物の虜。
あっという間にメリアス編みを習得して、これだとつまらないからエレイン模様編みをするぞと燃えている。
可愛らしいお嫁さんに作っていると言ってくれていた桃柄刺繍の浴衣はセレヌ用になった。ええことだ。
「あなたには冬までにエレイン模様のマフラーです」と告げられたけどそれは私が義母に贈りたかったもの。編み物もしたい。
嫁姑問題勃発だけど黙って「ありがとうございます」と言っておいた。
ヴィトニルは煌国の旅装束の格好で来訪。それで火消しの頭巾を被っていた。お面ではなくて目元が空いているから大きくてきれいな二重まぶた。夏空色の瞳。それから白い肌が少し判明。
セレヌは無地の水色の足首まであるワンピースに黒い靴で靴下を履いている。それで肩に前回腰に巻いていた青い素敵な模様の織物をかけて結んでいる。
手には四角い竹細工みたいなカゴ鞄。この国でこれはハイカラ中のハイカラ衣装で目立つ気がする。2人とも布製の見たことのない鞄を背負っていた。
家へ招く際にヴィトニルに聞かれたので、義父母は夕食まで2人でお出掛け。ロイはまだ仕事。少し残業でお弁当を食べて15時頃帰宅だと答えた。
するとヴィトニルは「ロイさんが帰る頃にまた来ます。小1時間散歩してきます」と家に上がらず。
なのでまずはセレヌだけようこそルーベル家。
でもセレヌは案内した上座の席には座らなかった。
「レージングに遠慮すると仲良くなれないだろうと言われて、私はリルさんと細々でも縁が続くと良いと思うのでお願いをします。お茶やお菓子よりもこのまま家の中を案内してもらえますか?」
「それはええことを聞きました。私も見知らぬ国へ行ったら自分にとって珍しい家の中をあちこち見たいです」
セレヌはにっこり笑ってくれた。
「この国の王都から離れるのは危ないのでよく行く国へ一緒に行ってみようとは言えないです。でも絵は描けるから手紙に書きますね」
煌国の王都は平和だけど砦の外はそうではないということみたい。この発言はまた手紙をくれるということだ。
「読み書きの練習中で文通友達が欲しいから嬉しいです。嫁友達も必要です」
「それならここからは気楽に話そう。今回はヴィトニルがどうしても行く。絶対に行くと言うから見張りついでに来たの。1、2年に1度なら会いに行けたりするかなあ、でもしばらくは東に長居だしと思っていたから……なんとかからおもち?」
セレヌは首を傾げた後に居間を眺めて神棚を見上げた。
「多分、棚からぼたもちです」
「ああっ! そうそう。美味しいものがいきなり棚から落ちてきたら嬉しいってレージングが教えてくれたの。本と格闘中」
私も負けずに読書しよう。
「これは神棚で家を守る副神様に毎日感謝するための小さな神社です。私はうっかりすると義母に怒られるからこういう話し方を続けます」
「分かった。神社は教会だから……。神棚は家の中の教会ね。宿の部屋にはないわ。同じ中央でもこの国は信仰熱心だってレージングが」
神社は教会。西の国では神社を教会と呼ぶ。こうやって私は新しい文化を知れるってことだ。それでセレヌも同じ。
セレヌは神棚に会釈をして指を5つ集めて宙に丸を描き、横、縦と手を動かした。
「それが西の国風の神様へのご挨拶ですか?」
「ううん。西にある大蛇の国の蛇神様へのご挨拶。ヴィトニルやレージングは賢いからどこの国へ行っても合わせられるけど私はまだまだ」
「この国の皇子様が大蛇の国の天女のようなお姫様と結婚しました。お婿さんです。それでこの国と大蛇の国は仲良しになれたと。見たら幸せになるというので年末年始に席取りをして家族で見ました」
「フィズ様とコーディアル様ね。流星国は大きくない国でお2人とも国民を大事にしてくれているからほぼ毎日教会へ来てくれるの。だから滞在中に握手をしたことがあるわ。うんと優しい王様とお妃様よね」
それは衝撃的な話。
「お祭りで流星国製のワンピースを買いました。ご利益があるかと思って。握手して下さい」
「煌国のお祭りであの染め物のワンピースを売っているのね。後で見たい。私と握手?」
「フィズ様とコーディアル様に触れたことのあるご利益の手です」
「へえ。そういう考え方をするのね。どうぞ」
それでセレヌと握手。すべすべに見えた手は内側は豆が多くて固めだった。
「商売にしたり人が集まると怒られるので秘密ですがセレヌさんは旅医者達なので内緒話をします。年始に奇跡の青薔薇のお姫様がお義母さんに優しくしてくれました」
私はセレヌにお祭りで何があったか説明。それでもう何度も洗っているけどご利益が移るかもしれないと伝えた。
「アルタイル王国のレティア姫様のことね。大聖堂で不定期に奇跡の青薔薇の冠に触らせて下さるの。朝から晩までずっと大聖堂にいらっしゃるのよ。たまたま滞在中にその日があったから並んで少しお話ししたわ」
衝撃的!
逆にどうぞ、とセレヌに握手された。それで何を話したのか教えてもらった。
義母に優しかったお姫様はうんと優しかった。セレヌ達の格好を見て旅は危険では無いですか? と尋ねられたから危険もあるけど頼もしい護衛がいる。医学不足の国々へ行く。みたいな話をしたら褒められて頼まれごと。
時々恵の雨は降るけど奇跡は起こせず、最近お医者様達が格闘している病気を治せないかどうか助けて欲しい。そう頭を下げられたそうだ。
アルタイル王国はわりと医学がしっかりしているから通り道なだけだったけどしばらく滞在。
東の流行病の始まりみたいな状態だったけどセレヌ達が東で格闘した後だったので病気は蔓延しなかったそうだ。
「話しかけられなかったら何も知らなかったし、お姫様は自分に会いにきて奇跡を欲しいと泣いた国民にどうしました? と尋ねたから難病で困っている人達と私達が繋がったの。触ると良いことがあるかもしれない青薔薇の冠に触れさせてもらえるだけの日なのに辛そうな方には声を掛けて下さるみたい。うんと行列なのに。しかも恵はたまに与えられるけど奇跡を起こせなくてすみませんって謝るって」
「衝撃的な話しかないです。優しいお姫様はすこぶる優しいです。それからセレヌさん達も立派過ぎます」
いなり寿司食べますか?
でトンデモない知り合いが出来たらしい。
「何人だっけな? レージングが言っていたの。何人か先には大陸中の人がいるって」
セレヌは私を掌で示して自分を示して「その先にレティア姫様、病気の人達といたわね。だから私を楽しませてもてなしてくれると大陸中に色々良いことがあるかも。命は繋がっているって言うんだって!」
そう告げるとセレヌはくるりと一回転して立ったまま私に軽く会釈をした。
「なんて。仲良くして下さいって話に自慢話。お父さんに怒られそう。でもほら異国の格好だし見た目も異国の人だと怪しまれて嫌がられるから一緒に食事とかお手紙書きますはうんと嬉しかったの。嫌な目に沢山遭うから」
このような方々が嫌な目に遭う。しかも沢山っておかしい。でも話をしないと「不審者」で終わってしまうかも。難しい話。
ありがとう、と笑いかけられて両手を取られて軽く上下に揺らされた。それでセレヌは私から手を離した。
「私達はそれで大国だから大丈夫とか大きな国で新しい調べ物をしないのは良くないって反省。まあ、そういう感じでお金には困らないの。でないと旅医者は続けられないわ。大変だけどあちこちの国を見られて感謝されるから辞められないし辞めたくないかな」
「煌国でもそうやって頼まれごとをされましたか? まさか皇帝陛下ですか?」
「この国には勝手に来て優しそうなお医者様達や薬師さん達と少し交流しているだけ。だから泊まるのは宿よ。ねぇ、他の部屋も見ても良いかしら?」
「はい!」
何人か先には大陸中の人がいる。衝撃的な話と衝撃的事実。
私、ロイ、ヨハネ、華族、そこから別の華族で皇居官吏、皇女様。確かに繋がっている。
私、義父、煌護省の偉い人、中央区の煌護省の偉い人、皇居官吏、皇帝陛下。確かに繋がっている。
私、セレヌ、青薔薇のお姫様、そこから彼女の暮らす国々やあのユース皇子様。短い!!
私、ルシー、皇女ソアレ様。短い!!
気がついていなかったけどもう知っている話だった!!!
この後は家の中を案内。居間、義父母の寝室、義父の書斎、廊下、お風呂に厠、庭、井戸。セレヌは何にでも興味津々。
「リルさん魔除けはした?」
「すぐしました。ありがとうございます。魔除けの井戸水のお風呂でお義母さんの痛みが取れました。大事なお義母さんに悪さをする鬼や妖除けを追い祓えてせいせいしました」
「まぁ。偶然かもしれないけど役に立ったなら良かったわ。中々見つからないけどたまたま見つかって。家の中の井戸だと他の方はこの水を飲んだり使ったりしない?」
「お客様が飲みます。旦那様が魔除けの水ならお神酒みたいに配ろうと提案して町内会長さんがご利益があるかもしれないと賛成して町内会中に配りました」
「信心深いのね」
「旦那様がかじって苦かったと。子どもみたいです」
「あら。苦いし独り占めは良くないから勧めなかったけど食べてもご利益があるらしい実よ。逆にかじって良かったかも。本当に苦いのよあれ」
セレヌは井戸を覗くのをやめて中庭を眺めて「素敵な庭」と褒めてくれた後に離れをぐるりと回った。
「この国の中でも建物とか色々違うけど他の国とはさらに違うから楽しい。この建物はなにかしら」
「蔵と離れです。お義母さんが時間に余裕があるならこの離れに泊まってもらったら良いと言ってくれました。離れはお部屋です」
「それを期待してたわ! レージングが泊まったら? と聞かれたら泊まってきたらって。お父さん達が今回行きたい国は女性にやたら厳しい国だから私は別の調査とたまには息抜きをしてきたらって」
「いつまでですか?」
「分からないわ。でも1週間くらいな気がする。リルさんの家に1泊出来たら嬉しいなって思ってた。お喋りしたいしここに来るまでも街並みやお店にワクワクしたわ。大きな平和な国は中々来ないから見たいところだらけ」
息抜きは大切だから息抜きをすると遠慮なく煌国へ来たそうだ。迎えが来るまで我が家で良いのでは? 義父母に要確認事項。
私達は家に入り2階へ移動した。セレヌは旅から旅なのを「楽しい生活で自分で選んだけどずっと同じところに住むって憧れる。学校とか行ってみたかった」と口にした。
私も学校は行ってない話をしたら驚かれて、さらに1日から、100歳になっても寺子屋に通える話をしたら「それなら短期間でも通うわ! 憧れの学校よ」とセレヌはにこやかに笑った。
寝室、ロイの書斎、衣装部屋と紹介する。
「旦那様の書斎は襖を戻すと2間になります。この衣装部屋も配置を変えて物を集めたらなんとか2部屋。子どもが産まれたり大きくなったら模様替えだと」
「広い家よね。周りの家も同じくらいに見えた」
「3代かけて庶民の中ではええ身分になって、その3代で貯めたお金と卿家拝命のお祝い金と貯金と借金などで建てるお屋敷です。ルーベル家はもう借金を完済しているので直したり改築したりしながら大事に住み続けます」
卿家は仕事。そして貯金。だからどんな手を使ってでも跡取りを作る。
親戚などしがらみがあるから血縁者が1番。ロイが万が一突然死したら親戚から引っ張ってくる予定だったけどネビーが予備として増えた。
その次は義父の友人の息子とか、とにかく誰かしら引っ張ってきたり、養子や買ってきた子を1から育てる。
小等校に入る前の子なら実子扱いで跡取りとして育てられる。だから成人なのに数年後に実子扱いされるネビーは特例らしい。話が難しくて復習中。
「きょうか?」
「そこそこ偉いお役人さんの中で礼儀作法や仕事ぶりなどのお手本になる家です。色々特典もあるけど悪いことをすると他の家の人より厳しい罰があります。最悪はお仕事クビです」
「それは大変。友達にもいるけど先祖代々に家かあ。私はお父さんに拾われた子だからやっぱり全然想像つかないや」
「セレヌさん、拾われたんですか」
「うん。なんとなくの記憶だと捨てられた。でも今のお父さんもお母さんも家族もうんと優しいから捨てられて良かった。だから旅生活は物心ついた時から私の普通」
セレヌはずっとニコニコ笑顔。
子どもを捨てたり売ったりするのは煌国以外の国も同じなのか。
平和な王都で腹減りくらいで済んでいた仲良し大家族ってやはり恵まれていると改めて感じた。過去にあった不満がさらに消し飛んでいく感覚。
「それでですね。セレヌさんがよければお着替えしますか? 私は小さいから袖丈が少し足りないだろうけど着物は調整がききます」
「そうしたいけど汚すのが怖いからやめておく。前に着てみたら裾を踏みまくって大変で。裾が広がっているドレスに慣れたせいか窄まっているのは苦手みたい」
「浴衣は着たことありますか?」
「ええ。浴衣は気楽。足首くらいで着て良いし、着物みたいに色々使うものがないし、下もドロワーズだけで済むもの。ワンピースは目立つから浴衣で歩きたいけど昼間に浴衣でウロウロはハレンチって聞いて」
ドレス、ドロワーズとは気になる単語。後で聞こう。
「異国のお客様が家の中では全くハレンチではないです。春や夏に浴衣に飾り帯はお洒落です。半襟などで着物っぽくすれば特に。ハレンチかどうかは家柄や地域で違います。義母が編み物に夢中で嫌でなさそうならお礼に浴衣をと」
「それなら私は浴衣で歩くわ! ぜひいただく!」
この流れは浴衣を渡すべき。着たいと言われたら着物を着付けて渡す予定だった。
セレヌ用の着物や小物を入れておいた引き出しを開けて浴衣と帯を出す。買っておいたのはお洒落用の半幅帯。
浴衣用の帯は交際費——ロイ命名ヴィトニル基金——で買った。
「ヴィトニルさんからお金を貰いすぎて困ったので贈り物です。我が家に置いておいて来た時に使うのでも持って帰って使うのでもええです」
「可愛くてきれい……。立派な刺繍……。この刺繍は教えてもらいたいわ。見たことのない柄ばかり」
私もそう思う。名残惜しい桃柄浴衣。でも義母はまた浴衣を縫っているから多分あれが私の浴衣な気がする。
言われてないけど「ちょっとリルさん」と採寸された。
「義母の趣味なので教えてくれると思います。編み物に燃えているから編み物を教える代わりに刺繍を習うとええです。セレヌさんが来たらエレイン模様を教わると。だから下心です。義母が帰る前にセレヌさんが帰ると私は怒られるかもしれません」
キョトンと目を丸くした後にセレヌはくすくす笑い出した。
「リルさんは編み物苦手か嫌いだった?」
「楽しそうなのに取られました。本だけでは難しくて義母に助けを求めたら義母は得意だったみたいで編んだり解いたり夢中です」
「まあ」
それでセレヌは浴衣にお着替え。宿の浴衣はサラッと着られるかとこの浴衣は少し違うので教えた。
それは次から出来そうと言われたけど半幅帯の結び方を教えたら「訳が分からないわ!」と言われて帯を寝る時用の物に変えて後ろで蝶結び。
半幅帯は「多分レージングが結べそう」らしい。どこの国へ行ってもすぐその国の文化を覚えられる頭良しだそうだ。だから彼はお医者様が出来るという。その通りでお医者様はかなり賢くないとなれないと聞いたことがある。
この帯結びだと子どもみたいだけどセレヌは「これは簡単で可愛いわ」と楽しげ。
異国の肌着、ビスチェとドロワーズを知った。その流れで聞いてドレスはワンピースの豪華なものだと判明。形は色々。
「ドレスはお姫様も着ますか?」
「もちろん。むしろお姫様は豪華なドレスばかり。ドレスは編み物では無理ね。でもかわゆいって褒めてくれたワンピースなら時間をかければ編めるわ。毛糸を沢山持ってきたの」
美人は浴衣を着てもやはり美人。気合いの入った桃柄に負けていない。のっぺり顔の私では浴衣に負けたな。
義母にのっぺり嫁に似合う地味な刺繍にして下さいと頼もう。
「毛糸を沢山ですか?」
「お世話になるお金はヴィトニルが前に払ったお礼分が多過ぎるから色々甘えようと思ってるわ。それで毛糸も販売。予算はあるでしょう? しばらく西に行かないから毛糸を沢山買ってきて持ってきたの。贈り合いはお互い気を遣うしキリがないからってレージングが」
セレヌは悪戯っぽく笑った。
「レージングさんから旦那様へのお手紙にそういうことが書いてありました。ヴィトニルさん基金で買います」
「ヴィトニル基金?」
「セレヌさん達との交際費です。郵便代に食事にお酒代などなど。帯もそれで買いました」
「それは気兼ねなくて良いわ。さすがレージング。根回し上手」
私はセレヌに自分のワンピースを見せた。
「かわゆいけどあられもなくてハレンチなので浴衣代わりにしています」
「ハレンチ? まぁ。私は夏はこういう格好で歩き回っているわ。以前浴衣の話を聞いた時も思ったけど煌国って慎み深いね」
「体の形が分かってしまいます。恥ずかしくないのですか⁈」
「暑い国にはこーんなにお腹を出しているとか裾がここまで開いている国があったわ。上半身裸で辛うじて胸が隠れる装飾品の村には仰天。あれこそハレンチだと思う」
セレヌが身振り手振りで説明してくれた服装は衝撃的なハレンチさ。
「ワンピースなら浴衣の生地でも作れると思う。裾も袖も長くするとか下はいっそズボン。胸周りが気になるならケープとか」
「絵を描いて欲しいです」
「もちろん。私は後でまた半幅帯に挑戦したい。そうだ編み物。先に編み物かしら?」
セレヌは帰るまで我が家にいるべき。話していて楽し過ぎるしハイカラ嫁疑惑からハイカラ嫁になれる!
2人で居間へ移動。義母から預かっていた義母用の小さい椅子をセレヌに使ってもらう。でもセレヌは私の真似だと正座した。
セレヌが持ってきて居間に置いたカゴの中は毛糸玉がぎっしり。
「コホン、この国ではまだまだ貴重な品なので小型金貨1枚です。高いけどこの家では高くないはずです」
「はい。御守りのお礼に小型金貨1枚は多過ぎます」
小型金貨が6枚に戻った理由は御守りのお礼疑惑だとレージングからの手紙に書いてあった。ヴィトニルは感激屋なのと金銭感覚が狂っているらしい。
あまりここまでのことはしないけど同じ女性に失恋続きでへしょげていてロイが熱心に話を聞いた事にレージング曰く「理解出来ないくらい異常に感激」しているそうだ。
独自思考が強いし思い込みも激しい騒がしい兄なので疲れたら放り投げて下さいと手紙に書いてあった。
「とても尊敬していますがかなり変わり者です」と添えられていた。
「そうそう。大変だったの。レージングが物価を考えろ。確かに人の親切心はお金では買えないけどロイさんやリルさんの性格だと迷惑だって」
私やロイの性格だとって何だろう。誰でも恐縮して揺り戻しやバチ当たりがこないか怯えそうだけど。
「御守りはセレヌさんからありがとうってお礼の手紙が来るように下心です。もちろんご利益もだけど。私のお小遣いの範囲で買えたので。無い袖は振れません」
「下心ってはっきり言われると嬉しい。無い袖……着物や浴衣の袖は長いから振れるけど確かに無かったら振れないわ」
「はい。旦那様と異国の方とはきっと価値観が違うから察してもらおうはよくないのでは? と話し合いました」
「それなら私もはっきり言おう。毛糸とかを贈ったらお礼の手紙が来るかなって期待していたの」
私達は2人でクスクス笑い合った。
部屋からお金を持ってきて先にお支払い。これで一安心。安い御守りのお礼に小型金貨1枚はおかしい。
彼女はカゴの中身を全部出してくれた。贈ってくれた白い毛糸と同じものが沢山。
そこに灰色、薄い桃色、薄い水色も1つずつ。それから茶色い木のボタン10個。編み棒1組、かぎ針というものが2本。本1冊。
それからロモモの実という果物3つ。あとで剥いてくれるそうだ。見た目は桃に似ているけど皮は固そうだし形も桃と違う。セレヌが1番好きな果物だそうだ。
「煌国ではまだまだ珍しいって聞いたから編み物が好きじゃなかったから売ってもらえば良いと思って一通り。かぎ針編みでコースター作りなら1玉も使わないわ。小物入れもいいかなって思ってボタン。でもワンピースとか大物を作りたくなったら数が必要。それで白を沢山にしたの」
かぎ針編みは棒1本で済む。コースターは茶托。手袋も帽子も編めるらしい。
「本に煌文字、お手紙にも全部ひらがなが振ってあったのといい、セレヌさんは親切で気遣い屋ですね。見習います」
「本はヴィトニル。レージングと同じで賢いからサラサラって早いの。手紙は全部ひらがなで下書きを書いてレージングにどこは漢字になるか聞いて辞書で調べたの。それでまたひらがなの練習」
2人共読み書き練習仲間ね、とセレヌは歯を見せて笑ってくれた。
それでセレヌ編み物教室開催決定。その前にお茶を淹れて金平糖でおもてなし。手拭きを今まで忘れていて反省。素知らぬ顔で出しておいた。
義母のものは勝手に触れないので自分の編み棒を部屋から持ってきてセレヌの近くに座る。本は私の物だから居間の本棚から出した。
セレヌは低い椅子に移動していて「しびれちゃった」と笑った。
「この編み棒、私が送ったものじゃないけどもしかして作ったの? お母さんに取られたって言っていたものね」
「よく考えたら取られたと聞かれたら怒られます。貸したでした」
「リルさんの義理のお母さんって怖いの?」
「甘々だけど礼儀作法には厳しいです。そういう家です」
「へえ。やっぱり国が違くても家って大変なのね。友達もそういう家よ。それで西の国の礼儀作法を少し勉強したけど大変」
私は父に編み棒を作ってもらった話をした。
父は竹細工職人。編み目止めらしき丸い玉なしなら簡単に似た物を作れると思ったので頼んだ話。
すべすべがよさそうと思ったので、自分で作らずに父に頼んで正解。
編み棒は手に入れたし毛糸もあるので家事の隙間に挑戦したいけど、義母が本を離さないから何も出来ていないと話す。
「リルさんのお母さんが棒編みを教わりたいならリルさんは最初はかぎ針編みにしようか」
「お義母さんより先に習うのと一緒に……」
ガラガラっと玄関扉が開く音と「ただいま帰りました」の声。ロイだ。
セレヌに「失礼します」と告げて玄関で三つ指ついてご挨拶。