未来編「リルの妊娠疑惑」
日常編も増える気がしますがネビーメインの新作を書いて数年後の生活がわりと固まったのと、感想でいただいた話を書いたりするので未来ものは未来編とタイトルに書くことにします。
今回は結婚3年目(確か)のお話です。
月のものがいつもの頃より遅いようで2週間経過後に「祓屋で夜遊びしたい」と祓屋通い。
なにせサリが居ると聞いたから遊ばないと。彼女とはお互いの義母の手前コソコソ遊ばないといけないから祓屋はうってつけ。
「たまにわりと遅れるけど流石にそろそろ祓屋ですか?」とロイに尋ねられたから「はい」とつい答えてしまった。
バチは特に当たらなかったので安堵。つまり後押し! と思っていたのに最終日にマチルダ登場で少しバチかと思った。まあこのくらいはバチとは言わない。
疲れで月のものが飛ばされることがあるらしいという話を聞いたからそれかもしれない。
出来ないはずだしちょこちょこ吐いたら怪しい? と思いながら普通に生活。
そこから翌月もいつもの頃はそろそろだよな、まだ月のものがないなと思いながらやはり「祓屋で夜遊びしたい」と祓屋通い。クララが出産後初と聞いたから行かないと。
大したバチは無かったし祓屋夜遊びは息抜き。新婚当時は家の仕事くらいだったので気楽だったなと今ならそう思う。
人見知りを直そうと努力しているけど町内会だけではなくて義父やロイの職場関係や剣術道場関係の頼まれ事があるから喉がカラカラになって疲れる時がある。
卿家の嫁の仕事の1つはあちこちにツテコネを作る縁結びでその仕事は縁談前に好みがはっきり分かれると後から知った。
卿家の嫁は人気で不人気。仕事をしたい女性はまず嫌がるというかお断り。
新しい出会いは楽しいけど苦手な人もいるし人が集まると実家生活時みたいになりかけるので疲れる。
なので祓屋夜遊びは息抜き!
義父母やロイに甘やかされて、実家の両親やネビーにも甘やかされ気味なのに贅沢な話。
バチが当たったら嘘つき祓屋通いはやめようと思ったら4日目に祓屋のお風呂で石鹸を踏んで壁に頭をぶつけたのでもうしない。
素直にロイに「1日か2日、実家で夜遊びというかダラダラしたいです」と言うべきだった。反省。
ロイが拗ねそうで言い難いかったけどクララとエイラに注意されたのできちんと話し合う。
話し合いで問題はあっさり解決して「将棋会の方は撤退。つい甘えてしまっていたのでお客様も減らします。その上でかめ屋でも実家でも両方でも息抜きをどうぞ」となった。
ロイは優しいから言わないのは損だと学んだ。
去年も同じようなことがあったので自業自得。ロイは仕事が大変になって私に気が回らなくなってきてすみませんでした、とまで言ってくれた。
逆に頼まれ事をされて「上からの残業命令がそろそろ終わるはずなので終わったら近くへ旅行したいです」である。ロイはいつも素敵な旦那様。
特別報奨金が出たから南西農村区にある温泉街でまったり計画を考えてくれていたそうだ。温泉に加えて遅咲き梅が見られる可能性あり。
最近ネビーは義父のコネで南西農村区で視察業務をしていて日にちを合わせて護衛してくれるという。
あと「よく分からないけど特別報奨金がかなり出たから家族分配」とロイに私の分を渡してくれたらしい。しかも義父母の分もあるという。
ネビーはすっかりわりとお金持ち。なのに自分には特に使う気配がないし長屋からも出て行かないしお嫁さん探しもせず。財産管理はテルルとロイに聞いてかなりしっかりしてるとか。意外。
そんなに危なくないけど王都中央街より迷子や事件が気になるし、大事な跡取り息子とその嫁だから念のためにネビーに「付き添って欲しい」と頼んだ義父母は過保護だと思う。
夏の終わりに結婚記念日旅行をしたばかりなのにこれとは楽しみ!
それでさらに少ししてふと思った。これは噂の妊娠疑惑では? と。
そこで夕食後にこの話題を出すことにした。今夜もわりと気持ち悪いけど夕食は残さず完食。
「お義父さん。お義母さん。旦那様。お話があります」
「なんだいリルさん。逆に気になっていたけど最近顔が青い気がする。年末年始に2月までの新年月で忙しかったから疲れが出てるか?」
「まず謝ります。嘘つきで夜遊びをしました」
無音。その後にゴンッという大きな音。机が上に揺れたから机の下から上に向かって何かがぶつかった音だ。
「……え? リルさん。あの、夜遊びを謝りますって……えっ? あの。リルさんが無断外泊なんてしたことはないですけどまさか母上が手助けしました⁈ 夜遊びってどこの男ですか!」
……?
⁈
大動揺のロイが私の隣に移動してきて両肩を軽く掴んで体を軽く前後に揺らした。
「浮気なんてしていませんけど浮気したと誤解して花街とかどこかでやり返したとかそういうことですか⁈ リルさんに限ってそういうことはないですよね⁈」
「だ、旦那様。言い方が悪かったです。浮気なんてしません。嘘つき祓屋通いです」
話下手のせいで誤解発生という私の悪い癖が発動してしまった。夜遊びはロイの中ではそういう発想に繋がってしまうのか。そうなのか。
男性達が夜遊びと口にしたら花街系? それは花見や月見の席その他で聞いたことがある気がする。ロイから言ったことあったっけ?
あるな。イラッ。
ベイリーと夜遊びとかヨハネと夜遊びとかジミー、ウィル、ジン、ネビー以下略と夜遊びで「酒処」と聞いてきているけど花街系なら許さない。
「リルさん? 誤解で難癖つけたから怒りました?」
「夜遊びが花街系を示すのなら私は旦那様を許しません。何度もその台詞を聞いています」
「……違いますよ! 夜遊びは夜に遊ぶだから色々あります! 飲みに行く時に使っている言葉です! 改まって沈んだ顔で夜遊びしましたなんて言われたからです!」
「ふーん」
私はロイを細目で見つめた。ロイは私に甘々で夜にどこか行った際は後日必ずその相手側から何か聞くから浮気どころか花街にも行っていない自信がある。この妬きもち焼きは直したい。
ロイが「おもちリル」とか「かわゆい」と機嫌が良くなるから直らない。
「ん? 嘘つき祓屋ってことは行く必要がないのに行ったということですよね。頻度は増えてないです」
ロイは首を軽く捻ってから目を大きく見開いた。
「いつから来てないですか?」
「12月の祓屋が本物です」
「リルさん今は3月です」
「はい。でも吐いたりしていません。月飛ばしかなと。でも一応話さないとと思いました」
「へ、へ、減らさないと! リルさんの仕事をかなり減らさないと!」
そうなの?
「リルさん最近の青い顔ってそうじゃないのか⁈」
「熱っぽいとか気持ち悪いとか頭が痛いとか……あなた先月末から良くうとうとしているわよね!」
「言われてみれば全部あります。お義父さんの言った通り年末年始から新年月までの疲れかなと。……吐く以外もありました?」
近しい者から聞いた話は皆吐いたとか気持ち悪い……!!
「そうでした。先月から既に気持ち悪かったです。吐く以外もあるのに忘れていました。急に吐くのが印象的でそればっかり」
「「「リルさん!」」」
3人同時に私の名前を呼んだことってあったっけ?
「産婆さんに確認はまだ早いけど手伝い。私は役に立つか分からないから手伝いを誰に頼むか決めないと。気持ち悪かったなんて既にもう必要だったわ!」
「早く知っていたら残業命令を断れるから家事をしていましたよ! そういう話をしてなかったからです。すみません」
「真冬の海に早朝から釣りに行かせてしまったじゃないか!」
「こちらの親戚よりもリルさんのご実家かしら」
「明日急に仕事を分けてもらうのは……します。なんとかどうにか頼んで……。体調が落ち着くまで稽古は火曜だけにします! 父上は将棋は木曜だけにして下さい。逆でもよかです。出稽古も無し!」
「火曜を俺にしてくれ。客は禁止だ! 今ある予定もどんどん断る!」
「自分もです!」
義父母とロイが全員立ち上がって私の右手側、義父母の寝室側の空いている場所で右往左往。
……大事だった。
「ぼんやりで色々すみません。……温泉は行けますか?」
この様子だとお出掛け禁止令?
跡取り息子や跡取り娘を宿したらどうするのかとかどうなるのかとか約束事とか何も調べていなかった。私も悪いけど家族も教えてなかったから悪いな。
「旅行なんて……行くべきですか? 気持ちが安らぐなら行った方が良いものですか? 母上。分かりません」
「その発想はなかったから分かりません。産婆さんに聞かないと」
「ご実家。ご実家に連絡しないと! 母さんがイマイチな日にリルさんがしんどかったらエルさんとか妹さんに少しだけ来ていただくとか頼むためにも知らせないと!」
「既に青白い顔で全部って。全部って熱に頭痛に眠気に……しれっとした顔でもりもり食べているから気がつきませんでした! リルさんすみません!」
私の隣に勢い良く座るとロイは私の両手を取って握りしめてくれた。
「疲れかなと思って相談して甘えたら甘やかしてくれました。ぼんやりです。すみません」
「だからあれだけ大丈夫ですか? と聞いたんですよ! リルさん!」
久々の義母の雷は怖かった。心配し過ぎて怒るのは母と似ていると最近感じる。
「ロイにも言うていたのに! 仕事漬けでも嫁に配慮しろとか説教をうるさいみたいな顔で無視するからだ!」
「休ませてもらっているから大丈夫なので大丈夫と言っていました。旦那様も早く寝ようとかこれはしますと言ってくれていました。ぼんやりですみません」
「お参りにすぐ行ってきます! 命懸けの出産より養子がよか。あと2年くらいしたらそうしようかなって思っていたのに! 出来ないように工夫してみたけどやっぱり無理なのか! リルさんも子ども元気なら大歓迎です!」
えー、と思っていたらロイは居間から飛び出すように出て行ってしまった。町内会の鎮守社かな。
私がまだ若いからもう少し旅行しましょうとか言って子どもが出来ないように気をつけられていた。まぁ、私は知識がないのでよく分からない。
そう主張するなら確かに若いし旅行したいし痛いことをされてないから別に良い。
「命懸けの出産より養子」という発言。それは知らなかった話。
出来ないように工夫と言っていて結婚3年目だからまだ出来ないと思っていたけどそんなことはなかった疑惑。
早い人は早いしクララみたいに遅いとか色々いるからな。私は母似で気をつけないとすぐな人だと思っていたけど違ったのかな?
「鎮守社だろうから俺も行ってくる。孫が生まれる疑惑か。間違いでもええ。とにかく大事にしないと。俺にも孫だ!」
義父も飛び出すように居間から去った。ルカの時はこんなに大慌てではなかったけどな。
ジオが生まれる前後は良くも悪くもお祭り騒ぎだったけど。
「ね、ね、寝なさい。とりあえず横になりなさい。お医者様の予想と違ってまだまだ足の調子が悪くなっていないから部屋を入れ替えましょう。そのお顔ですから階段で転んだら困ります!」
「はい。でも転びません。嫁入りしてきて一度も無いです」
「あなたこの間祓屋で石鹸で滑っておでこにあざを作ったわよね!」
「そうでした」
衝撃的な事に顔色が良くなるまで階段禁止令が発動されてしまった。
今の症状が消えてくるか月のものが来てそれが終わるまではダラダラ休め命令。
義父はすぐ帰ってきたけどロイはそのまま私の実家へ走り去ったと言われた。
明日は火曜日で稽古日でネビーも来られる日で来たら伝言出来るのに気が早い。
翌日。とりあえずクララとエイラにあれこれ話を聞きに行った。
2人は「ん? 怪しい?」みたいに始まったから家族がいきなり大慌ては無かったけど過保護にはされたそうだ。
特にエイラは「この嫁はあまり気に入らないけど息子(孫)が言うからな」みたいな感じから「お嫁様!」みたいに掌返しで戸惑ったらしい。
さらに翌日。かなり動けなくて仕事の休みを変えてくれたルカが来てくれて義母と一通り家事をしてくれた。
それで聞いたらジンに「怪しい」と話したらジンは嬉し大泣きだったらしい。
「違ってもいつかその日が来たらまたこうなるのかな」と嬉しかったそうだ。同時に「泣き過ぎて若干引いた」と苦笑い。
エドゥアール旅行のお土産を渡した翌日から父は職場で「孫が生まれるかもしれない」とわりとはしゃぎつつ娘の体を過剰に心配して「レオさんはいつも過保護だ」と若干呆れられていたとか。
母は6人産んだからか「なるようになるけど辛い時は休みな!」と小ざっぱり。
意外なのはネビーで次の日の日勤後に即座に南3区で1番有名な安産副神を祀る2番地にある神社まで行って「やるよルカ」と買ってきた御守りを渡したそうだ。それはかなり遠い。
近くの神社だと思っていたけど後からどこの神社だったのか人ツテで発覚したらしい。
「という訳で兄ちゃんからリルにやるよだって。そこらで買ってきたみたいな顔をしてうんと遠い2番地。私がジオを産んで近くの神社に返すまで待っていたのと同じ御守りだよ」
「ありがとう。兄ちゃんにも今度お礼を言う。同じ副神様の御守りは沢山持たない方がええって言うから皆に教えないと」
「ジンが実家の山にそういえば確か安産の湧き水があったとか言い出して、私の時は思い出さなかったって叫びながら山に行こうとしたからとりあえず止めた」
「ルカもジオもいるから気持ちだけ受け取るって伝えて」
「お母さんはまだ気が早いし休ませてもらえるなら安心ってサッパリしているけどお父さんは嬉し泣きしたりトト川に突っ込んだり私の時みたいに変。ジンも落ちつきがなくなったけど兄ちゃんは祝いに難癖気味に捜査逮捕しようとか訳の分からないことを言ってる上にお父さんと同じく出勤って言いながらトト川に落ちた」
実家も中々大事系。
このように目から鱗というか家族の驚く裏話が出てくるのって不思議。前よりも家族とかなり話すのに。




