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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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ネビー訪問編

 見て楽しい、食べて嬉しい、喋っていて愉快な素晴らしいお出掛けは終了。

 ベイリーとエリーを南2区の神社へお見送り。予定通りだったのでベティと合流出来た。彼女は夫と一緒だった。婿養子のルドラに紹介されてこちらも自己紹介。

 私はエリーとたまに文通をすることになった。聞こうかな、と思っていたらエリーから言い出してくれて嬉しい。

 私はロイに渡し、ロイがベイリーに預けてベイリーがエリーの家の郵便受けに入れてくれるという。最初はエリーが私に書いてくれるそうだ。


「エリーさんは花見には来られますか? エリーさんがいたら楽しくて心強いです」


 私はごくごく自然に尋ねていた。ロイの友人達に囲まれて女性1人よりもエリーと一緒の方が絶対に楽しい。

 ヨハネとクリスタはまだ結納しないだろうし他の友人達は独身だと聞いている。


「行きます。行きたい。お義兄さん、お姉さん、よろしく。花見場所に私を置いてまた2人でデートしていて下さい。カチカチ頭のベイリー君が嫌々言いそうだから関係を隠してリルさんの友人って言うて参加しよう」

「いっそカチカチ頭が溶けた方が我が家は助かります。ねえ、ルドラさん」

「エリーさんが家で猫被りをやめれば良いけどそれはそれでまた色々面倒な事になりそうだから今のままで良いのかな。エリーさんの付き添いと言うと出掛け易くて助かりますねベティさん」

「ええ。付き添い役をしなくて済んで楽しかったですね」


 反対者はベイリーだけっぽい。彼だけ不機嫌そうな顔をしている。


「その話はまた。それでその時はきちんと紹介します。リルさんが仲人を頼まれたら困ります。もう帰ります」


 私が仲人を頼まれる……友人達がエリーを気にいるかもと不安?

 ベイリーは会釈をすると早足で歩き出した。


「また照れてるー。花見で三味線を弾いてあげようか。琴は運ぶのが大変だけど運んでくれたら披露するよ。ヨハネ君の琴も聴きたい。ヨハネ君に飼い猫を連れてきてって頼んで。ウィル君は犬ね。ヨハネ君が今日のあのクリスタさんという方と上手くいってそうなら彼女も増やして」

「ちょっ、エリーさん。近所で腕組みはやめて下さい」

「嬉しいくせに。あっ、はい。龍歌ね」


 エリーはベイリーを追いかけて腕を組んでからパッと離れて、次は懐の中から手紙を出してベイリーの頭の上に乗せた。それで彼女は走り出した。


「リルさん、ロイ君、また! 楽しかったです!」


 エリーは畳んだ傘で軽く踊ってまた走り出した。


「お、おい、転ぶぞ!」


 曲がり角を曲がったので2人の姿は見えなくなった。


「妹がご迷惑をおかけしました」

「いえ、自分も妻もとても楽しかったです。信頼して任してくださってありがとうございます」

「あの子に過剰な期待をして幻を見ているのは祖父と父だけです。祖母も母も私も早くベイリー君に引き取ってもらいたいです。色々と破天荒で」


 ルドラ、ベティとご挨拶をして解散。ベイリー達の町内会の鎮守社なのでお参りという名のご挨拶をしてから帰宅。

 シホク展について盛り上がっていたらあっという間に家に着いた。

 18時の鐘が鳴ってしばらく経ったのでネビーはもう我が家に着いているかもしれない。

 

「ただいま帰りました」

「ただいま帰りました」


 ロイが玄関の鍵も扉も開けてくれたので一緒に家の中に入った。玄関にネビーのものらしき下駄も草履もなし。

 義母からの返事がないので寝ているか不在だろう。玄関を1度閉めて鍵を掛けて家の中へ上がった。

 ロイと共に居間を覗いたけど誰も居ない。庭側へ行くと雨戸が開いていて洗濯物も干したままになっていた。義父母の寝室にも義母の姿はない。


「お義母さんはお出掛け中でしょうか。洗濯物を取り込んで湿ってなければ着替えた後にたたみます」

「2階を見てきて風呂の準備をします」


 ロイと別れて雨戸を開けて庭へ降りた。洗濯物はどれも湿っていない。廊下へ全て運んで私も2階へ移動。


「やはり不在です。調子が良ければ出掛けると言うていたから出掛けたんでしょう」

「はい。魔除けした水や塩が効いたなら良かったです」

「フォスター家かもしれません。そういう事を言っていた気がします。書き置きがないから迎えは必要ないんでしょう」


 衣装部屋は部屋の中央を衝立で区切れるのでお話ししながら家着にお着替え。なのに覗かれた。

 

「リルさん、ネビーさんがそろそろ来るでしょうし先に台所をお願いします」

「はい。ご飯を炊いている間に洗濯物をたたみます」


 お客ではなくてネビーなので洗濯物をたたみながら喋ることが出来ると気がついた。

 台所へ行くとかまどの奥の代用炭団は消えかけだった。割烹着を身につけてどんどん炭団を足して吹いてまずは火をおこす。

 しばらくしたらカラコロカラ、カラコロカラと玄関の鐘の音。それから「ごめんください。こんばんは。リルの兄のネビーです」という声がした。玄関へ行って鍵を開けてお出迎え。


 ……誰?


「こんばんは、お邪魔します!」


 勢いよく頭を下げたネビーにびっくりした後に笑ってしまった。服装や髪型で誰かと思ったけど名乗ったようにネビーだ。初めましてお洒落ネビー。


「兄ちゃん私だよ」

「お、おう。リルか。緊張した」


 ネビーはあははと笑いながら頭を上げた。


「お義父さんもお義母さんも出掛けてるから楽にして大丈夫。旦那様と私しかいないよ」

「そうなの? 俺ってガイさんに呼ばれたんじゃなかったっけ?」


 真新しそうに見える草履を揃えたし、木刀は刀掛けに置いたのでネビーってこういう家への入り方を知っているんだと思った。

 デオンのお屋敷とか仕事でどこかへなどあるのだろうと今さら気がつく私はやはりぼんやり。

 ロイと結婚しなかったら知らなかったネビーの新たな一面。

 羽織を預かって衣服掛けに掛けて玄関の鍵をかけてどうぞ、とネビーを居間へ案内。


「お義父さん、海釣りの大漁が嬉しくてご友人達と飲みたいってなって兄ちゃんのことを忘れたみたい」

「えええっ! 俺は今日来なくて良かったってこと?」

「旦那様がお義父さんは多分急にご友人を連れてきて兄ちゃんを見せびらかして機嫌が良くなるって。だからお義父さんが帰るまで居て」


 お、おうという返事をされた。逆なら私も動揺する。居間へネビーを通すと義父の席の左手側の上座の位置に座ってもらった。


「おいリル。俺はこの席でいいのか?」

「うん。ここがお義父さん。お客様がお義父さんのご友人1人ならここに案内して兄ちゃんのところにお義父さんが座るよ。ここはいつもはお義母さん。隣は旦那様。私は1番台所に近いここ」


 机をぐるっと回ってネビーに説明。


「食事に招いた時はそうだけど別の時はまた別の位置があったり、お客様が気を遣って案内前に下座に座ったりもする」

「俺がそれだ。リルが自分はここってところにいつも座ってた」

「旦那様のところかその向かい側が良いよ。そこは物を出したりすぐ移動しやすいところだから邪魔になる」

「まじか。俺めちゃくちゃやらかしてた。教科書と違うんだけど」

「それで合ってるけどご挨拶しやすいところに失礼しますって違うところへ座ると良いってかめ屋で習った。嫁友達は何も言わないでそうしてるから女学校の教えと兄ちゃんの勉強では違うかもしれない」


 ネビーは教科書で上座とか下座を勉強してどこかで実践していたのか。知らなかった。


「勉強になったわ。ありがとうリル。本当によく喋るようになったな。まあ他人と暮らすしこの辺りの方々とは色々違うから喋らないといけないよな。親父達も俺も仕事に必死で気にかけてやれてなくて悪かったな」


 悪かった?


「何で兄ちゃんが謝るの?」

「親父が俺のために必死にうんと稼いでいて母ちゃんも忙しい上に天の邪鬼なら俺やルカがお前を気にかけてやらないと誰が気にかけてやるんだよ。親父はともかく母ちゃんの言い方が悪くてルカは影響を受けているし、リルは誤解だし、俺が早く気がついてやれば良かったからさ」

「気にかけてくれてたよ。面倒って黙り込んだ私も悪い」

「そりゃあそうだ。お前も悪い。悪いって気がつくのは良いことだよ。ルル達がまだ子どものうちにこういう事を考える余裕が出来て良かった。あいつらルカやリルと違ってぶーたれ娘でうるさい。お前がうるさいって言う理由が前より分かったというか俺とお前のうるさいの意味が違った」


 そう言いながらネビーは楽しそうな笑顔。ここまでペラペラお喋りは出来ないしもう少しゆっくり話して欲しいけど2人だから会話になるからいいや。いいやじゃなかった。


「兄ちゃんもう少しゆっくり喋って。口数が多いのは良いけど早口は落ち着かない。お茶淹れてくるね」

「ゆっくりか。また忘れてた。鶏頭(とりあたま)だから何回も言ってくれ。疲れるから俺の扱いは雑でいいぞ」

「お客様が増えてるから練習してる」


 義母の注意をきちんと聞いて実践していたら茶道の基礎の挨拶や足の運びはわりとすんなり覚えられた。

 ロイのピシッとした背筋などもきっと毎日サボらなかったから身に付いたと思うので出来る時は私もピシッとする。

 台所から用意してあったお膳盆の上の手拭きを濡らしてサッとうさぎの形にして運んだ。


「お茶を淹れるまでどうぞ」

「酒かと思ったら水なのか。はぁ、花やら手拭きの形とか大変……早くね? っていうかデオン先生とかリヒテン先生とか先輩の家ではこんな風に出てこないぞ。お盆とか手拭きはともかく。特に花」


 ネビーの早口が少しゆっくりになった。ゆっくりにしてくれた。


「来るのが分かっているから準備してあった」


 私は少しだけ速く話してみた。


「俺が来るのにうさぎ? なんか意味あるの? ルル達なら分かるけど」

「かわゆいから折り方を覚えてもらってルル達に教えて欲しいと思って」


 へえ、と言いながらネビーはお盆の上をあれこれ見て居間の中を見渡した。


「披露宴の時は幕で分からなかったけどこういう居間だったのか。今のリルはここで食事をしてるんだな」

「うん。出掛けていて帰りが遅かったからまだお湯が沸かないの。火も起こし中。寒くない?」

「走ったり歩いてたから全然寒くない。火を吹くなら俺がしてやろうか」

「自分でする。でも面白いイカがいるから台所に見に来る?」

「おお。台所に入っていいのか。面白いイカって何だよ。行く行く」


 手拭きのうさぎを持ってネビーを連れて台所へ戻った。ご飯はまだ炊けないし蒸し器もまだ蒸気が出ていないから使えない。


「うおっ、居間もだけど台所も広いな。でも寒い」

「うん。料理が楽しいよ。火が起きたら暑くなる」


 長屋だと共同の机の取り合いや雨の日は大変だったけどここはいつでも私と義母の空間。ネビーをまず台の近くへ案内した。


「イカの前にうさぎを覚えて」

「すぐ忘れそう。直接教えてやれよ。リルは毎日忙しいか? 手紙の返事にも書いたけどルルとレイがたまにぶすくれてる。母ちゃんがロカばっかりって。リルと遊びたい、いつ来るのかとか早く来てって伝えろって頼まれた」


 そうか。来週会えるから直接教えれば良いのか。私はうさぎを崩してネビーへ差し出して「手を拭いて」と促した。


「旦那様、今度の金曜と土曜の午前中お休みになったの。お義父さん達はかめ屋でのんびりご近所旅行でお留守」

「ん? それがどうした。ご両親がいなくて3連休だからのんびり過ごしたいってことか。日曜日は出稽古日だから2連休みたいなものだな。良かったな」


 会話を途中で遮られたけどそれは私がのんびりで間があるから。これは頼まなくても私が続きを話せば良い。


「俺に2連休が発生したら乗馬訓練してえな。正官から出来るって言われて聞いたら日頃の行いが良いと私物化という何だっけかな。何とか制度で無料や安く——……何?」


 私はネビーの着物の袖を引っ張った。頼むか割り込まないとダメだった。話題が馬になってしまう。この話を聞きたいからつられて話が変わってしまう。


「旦那様にルルとレイを連れてお出掛けしたいって話をしたら良いって」

「おお。そうなのか。ありがとう。ロイさんにもお礼を言わないと。まあこれから会うからすぐ言えるな。あいつら今月から1日交代で寺子屋に通ってるのと何か趣味というか好みが真逆っぽい」


 ネビーが今日2人を連れて軽く出掛けた話をしてくれた。


「うん。ちょこちょこ違うよね。旦那様にルルとレイは一緒じゃなくて別々が良いって言うつもりだった。好みが違うのもあるし2人揃うとうるさくて疲れる」

「俺は驚いたけどリルは驚かないんだな。まあいつも一緒にいてくれたからな。ロカもだけど、ルルもレイもリル姉ちゃんと遊びたいとか会いたいとか泣いたり怒ったり騒いだり大変。ケロッとしていて忘れてるなと思ったら急にメソメソしたりさ。まあ親父に母ちゃんにルカもだけど」

「そうなの?」


 それは知らなかった話。いや、ルル達の様子はお土産を渡しに行った日に少し知った。出戻りして欲しいが寂しいから帰ってきてとは驚きだった。


「お父さんに次は意味不明なメソメソをしないで旦那様にしっかりお礼や挨拶をしてって言うておいて」

「意味不明って親孝行が嬉しかったんだろ。親父も母ちゃんもリルは元気か、泣いてないか、厳しくされてないかって心配症で。まあルル達でさえお前が寂しくて泣いてるとか言うくらいリルは心配だったからな」

「親孝行? 何もしてないよ」

「お前はそう思っても親父はそう思ったってことだ。俺は皆と違ってロイさんの事を知っているしリルは図太いから泣かないと思っていた。あと出稽古日に聞いたしな。皆にリルはうんと幸せそうだって言うのを忘れていたから年末の祭り後に親父と母ちゃんに殴られた。あはは」

「今度お母さんやお父さんにありがとうって言いに行く」


 火を吹きながら年末に両親に言われた言葉を思い出す。ガミガミ言われて嫌だったけど心配されていた。

 私が知っているよりとうんと心配されていたのかも。

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