表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/379

その頃の兄ちゃん編 4

 ルルとレイを連れて1度帰宅。ジンがもう帰宅していて薪割りをしてくれていた。


「よおジン」

「お、おう。誰かと思ったらネビーか」


 そういえば今日は歩いていても全然話しかけられなかったな。こういうこと。


「薪割りありがとな」


 ルカとの事で今は少々腹を立てているから軽く背中を殴った。薪割りも代わらない。


「痛っ。何だよ。ルルちゃんにレイちゃんはかわゆい格好だね。3人ともどこかのお金持ちが迷い込んだのかと思った」

「ジン兄ちゃんおかえりなさい。今日のルルは皇女様なの」

「ジン兄ちゃんありがとう。レイも皇女様になった」


 ルルとレイはそそくさと家の中へ入っていった。2人はジンがロカ贔屓(ひいき)と誤解しているので割とジンにそっけない。

 ジンも兄2人という家で育ったので微妙なお年頃のルルやレイの扱いがイマイチ分からないっぽい。

 俺がジンを連れ回したり隣を奪っているのもある。我が家で集まる時のジンの隣はルカと俺。あとロカがあぐらの間にいたりする。

 ロカはネビー兄ちゃん! よりジン兄ちゃん! なのはなぜなのか謎。


「ジン、母ちゃん帰ってる?」

「さっき帰宅してルカさんにロカちゃんを預けて家で野菜を切ってる。何怒ってるんだよ。言えよ」

「別に。ルカさんってルカルカ呼んでるだろう?」

「うるせえこの妹バカ。お前が不機嫌になるからだろう」

「俺は妹バカじゃなくて単なるバカ。不機嫌って礼儀作法をお前に教えてるだけだ」

「ならルカさんで良いんじゃないか。難癖つけるなよ。何の怒りなのか八つ当たりか言えよ。ペラペラ喋る癖にたまに言わねえよな」

「母ちゃんがいるならルル達はもう放置でいいや。じゃあ俺ルーベルさん家に行ってくる」


 ロイに制服が良いと言われたけど着替えるのは面倒くさい。今回限りではないから制服で行くのはまた次の機会。


「無視するなよ。手土産は……持ってるな」

「酒だ。酒も持って行くんだった。ありがとな」


 ロイから贈られた質実剛健を忘れていた。家に入ると母がルルとレイにガミガミ言いながら着物を畳ませていた。

 突然客が飛び込んでくることもある家なんだから襖くらい閉めて奥の部屋でしろと思ったけどルル達の前で親を叱りたくないので素通り。

 押し入れから質実剛健を出して迷った。これはどうやって持って行くのが正解?


「母ちゃん、酒の丁寧な持って運び方って何? 鷲掴みは違うよな」


 俺の人生では酒は買うものではなくて貰うもの。丁寧に贈られたことなんてない。


「分からないけど風呂敷に包んで小さめの籠で持っていったらどう? そうそう、水瓶隣のかぼちゃも2つ持っていって。高いかぼちゃらしいから。何だっけ。えーっと……」

「お母さん、カルダかぼちゃだよ。中央区? で売ってるけどあれは虫食い穴が沢山あるからクズかぼちゃって。クズかぼちゃでも美味しいかな? 一昨年兄ちゃんが貰って食べた白いかぼちゃみたいかもしれないから楽しみ」


 ルルのやつクズかぼちゃの意味を間違えている。母がいるから母任せ。


「ありがとうルル。不味くなったからクズかぼちゃなんじゃなくて同じ味でも見栄えが悪いと嫌がる人がいるからクズかぼちゃだよ。よろしくネビー」


 カゴは男の持ち物ではない気がするけど仕方がない。風呂敷包みにカゴ選びと入れ方を母に頼んだら「覚えろ」と怒られた。その通りだけどこういうことは苦手。

 家族に見送られ、外ではジンにも見送られてルーベル家を目指して歩き出した。

 

(行きたくないけどリルには会いてえ。ロイさんは助けてくれるのか俺をいびってくるのか……)


 前もって考えるのは苦手。会話を考えようにも予測不能。


(ロイさんは俺と1つ違いだけどガイさんもテルルさんも親父や母ちゃんよりかなり年上だよな。まあ母ちゃんは16で俺を産んでるからな)


 元服祝いで結婚の約束をしてもう少し稼げるようになる20歳頃に祝言しようと誓ったのに母はその前に出産。それってどうよ。

 手を出すなよ親父、と俺は思うというか小さい頃から両親にそう言われている。反面教師にしろとガミガミやたらとうるさいし脅されるから影響受けまくり。

 歩いていてやはり今日は「よおネビー」みたいな声掛けがないなと思った。

 まだ夕方なのに飲み屋の前で口汚い罵り合いしている放置したら殴り合いしそうな男達を発見。

 子どもの教育に悪いから「まあまあ」と仲裁。

 

(早歩きで1時間くらいって俺は足が速いから近いけどルル達には少し遠いなあ。遠いというかまたルルが攫われないか心配だからその辺はどうするかな)


 のんびり屋でぷらぷらよそ見好きのリルが長屋へ来る時に難癖にあったりしないかも心配。

 リルは攫われなさそうだけど身なりが良くなったので別の意味で絡まれそう。

 小さな火事があったようで火消しの活躍中に遭遇。6番隊のイシャンがいたので「人手はいるか?」と声を掛けたら「誰かと思った」と驚かれた。


「親戚の家に行くのにお洒落。妹の嫁ぎ先がそこそこ良い家だから変な格好で行くと妹に恥ずかしい思いをさせるからな」

「うわあ、お前その格好であまりうろつくなよ。そうだ。前髪を上げておけ。ますます別人みたいになる。お前が根こそぎ女を持っていくと俺達は困る」

「アホか。女を持ってったことなんてねえよ。俺は成り上がって淑やかお嬢さんと結婚するから誰も持ち帰らない」

「そうじゃなくて。まあええ。人手はあるから大丈夫だ。ありがとな。隊の飲み会に今度来いよ。じゃあな」


 髪をぐしゃぐしゃにされた後に前髪を全て後ろに撫でつけられた。髪を洗ってまだ完全に乾いてないから戻らなそう。

 少し歩いていたら火消し見たさの人混みで迷子になった男の子がいたので肩車をして近くをブラブラ。

 すぐに親が見つかったので「じゃあな」と男の子に手を振って再びルーベル家を目指した。

 

(だらだらしてると遅くなって悪いか? 早いと悪いのか? ロイさんに何時頃が良いものなのか聞けば良かったな。17時の鐘が鳴ったし軽く走っておくか)


 大事な着物なので軽くしか走らない。鍛錬は大事。日々鍛錬。ここら辺からは大人しく歩いた方が良さそうと途中から歩きに変更。

 それでルーベル家のある集落まで来た。デオンの剣術道場周りもだけどここも明らかに中流層の世界。


(……家どこだっけ?)


 披露宴の際は神社からここまで集団で来た。帰りは雑に走り回ったらそのうち仕事で見回りをするところへ出たから帰れた。

 夫婦っぽい2人を見つけたけどデレデレ顔の青年とニコニコ笑うすこぶる美人で話しかけ辛い。おじゃま虫になる。


「すみません。ルーベルさん家はどちらでしょうか? 親戚ですが暗いし不慣れで分からなくなってしまいまして」


 下街や長屋周辺なら気にしないけど礼儀なので男性の方に話しかけた。上から下まで見られて緊張。ロイの祖父の着物だから何も問題ないはず。


「まあ、リルさんのお兄さん。先日リルさんと取り押さえを見かけました。アルトさん。リルさんのお兄さんです。地区兵官さんなんですよ」


 リルがパンとかいう異国の主食を持っていた日か?


「こんばんは。セヴァス家のアルトと申します。隣は妻のクララです。リルさんと似ていないんですね。ルーベルさん家ならこのまま真っ直ぐ進んで3つ目の家の先を右手に曲がった鬼灯家紋の家です。地域の治安を守っていただきありがとうございます」

「それが仕事ですので期待に応え続けます。道案内ありがとうございます」


 俺はリルと同じく親父似のわりとのっぺり顔で兄妹ならリルが1番似ていると言われるけど彼の目から見ると似てないのか。

 2人に会釈をして説明通りにルーベル家へ向かった。離れる際に2人の距離が近づいたし甘い雰囲気だと思ったので新婚夫婦かも。

 あれが本物のお嬢さん嫁。しかもすこぶる美人。ルル系の顔立ちなのでルルが男とイチャコラみたいで腹が立つな。

 会釈や笑顔にさえ品を感じるとはどうやったらルル達はあんな雰囲気に近寄るんだ? 女学校?

 リルも品良くなったと思うけどやはり本物は違う。


(鬼灯家紋ってこれ? あっ、表札がある。合ってる)


 家紋があるってやはりお金持ち。

 卿家は庶民で中間層って嘘だろう、と思って復習したけど分からなくて卿家の上司を探して聞いたら「卿家があまり稼いでなさそうだと、あちこちから税金泥棒は誰だと不平不満が出る」とのことで、卿家拝命時に自宅建築補助がかなり出るらしい。

 リルがロイと結婚しなかったら卿家の上司探しや質問なんてしなかっただろう。同僚だから会話するけど卿家と知らずに過ごし続けていただろう。

 卿家で地区兵官ってどういうことなのかも尋ねられて、高等校で学んだけど試験後に忘れていたなと改めて勉強。今のところ忘れていない。

 やはり結婚は家と家の結びつきというか家族の生活にも影響を与えるものだと思う。


 いざルーベル家!

次回からリル視点の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです、楽しく読ませていただいています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ