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その頃の兄ちゃん編 2

 俺の教え方や教育が間違っていても両親とルカもジンがいるので安心。色々試していくしかない。


「レイ、兄ちゃんは文字は汚いしバカだから沢山バカにされたけどちゃんばらや鬼ごっこは強かったから褒められた。レイは家族を沢山助けてきたから家事が出来るしロカの面倒も見てる。親父達もばあちゃんもレイは器用だって褒めてるぞ。苦手な事から逃げても良いけど基本くらいは頑張ろうな」


「ばあちゃんがレイを褒めたの? ばあちゃんはレイに下手とか雑とか怒ってばっかだよ。ルルはばあちゃんのお手伝いをしないのにレイだけお手伝いをして怒られるの」


 解せない、不満、という表情。これは祖母が悪い。嫌っている母もこういうところがあるしルカも似た。

 ルカやリルの時は忙しさや自分に夢中で祖母や母に注意したり代わりに褒めたりしてやれていなかったと気が付いたのでルル、レイ、ロカのことはなるべく気にかけてやりたい。


「そりゃあレイを直接褒めないばあちゃんが悪いから親父と兄ちゃんで怒っておく。ルルはお手伝いをしないんじゃなくてばあちゃんが仕事を任せられないと思っているんだ。下手だから母ちゃんやルカと裁縫とかの練習中。ルルは兄ちゃんと一緒で不器用……いや雑だ。ルルは雑」

「そうなの?」

「そうだ。ばあちゃんはレイが出来る子だから怒ったり教えてる。ルルにはルルの良いところがあるから親父や母ちゃんがルルだけの仕事やお手伝いを探す」


 嬉しそうな表情になったレイの頭を撫でてから押し入れにしまってある机や筆記用具などを準備。

 寺子屋へ通い始めて数日なので宿題は簡単。ひらがなを書くだけ。


「お前達くらいの男はアホだからルルやレイが怒ったり反応すると楽しいんだ。腹が立ったら無視しろ。口を聞くな。真面目に努力する人はバカじゃない。謝るまで喋らないし嫌いとか言って喋るな。突き飛ばされたり何かされたら親父と兄ちゃんとジンがそいつの家に乗り込んで叱りつけてやるから我慢したり隠さなくていい。母ちゃんやルカ、誰でもいいから言い易い人に言え」


「お母さんに言うたよ。同じことを言ってた。男の子って嫌い。喋らないって言って無視すると虫を投げてきたり着物をめくったり最低。レイが無視してもルルが戦うから止めに入って結局レイも喧嘩に加わってる」


「……おいレイ。誰だその着物をめくった奴」


「この間はタルイだよ。通りかかったアディ兄ちゃんのお母さんがゲンコツしてくれたし、この間お母さんが叱りに行ってくれた」


 俺もゲンコツしに行こう。ジンにも言ったらジンも別日に説教しに行くな。

 それから両親に長屋長に「子ども達の見張り強化が必要」と言ってもらう。俺も言う。許さん。


 両親が娘達を着飾るものを買わないのは飾って見栄えを良くすると襲われたり攫われたり色々怖い目に遭いそうだかららしい。

 特にルル。ルルだけ見窄らしくするのはおかしいから5人娘は一蓮托生。

 ルカとリルは昔はそこそこで、だんだん酷い見栄えになっていったのは貧乏だからだけではなかった。ルカは母と喧嘩したから以前から知っていたらしい。

 両親は俺達子どもに話していないことがあるし、兄妹で知っている世界が違うと去年から少しずつ分かってきた。

 話さないのは俺にはまだわからない親心とか、忙しくて説明する時間が無かったとか、両親の性格も関係していると理解し始めている。


「なんだレイ。始めたばっかりなのに上手いな。俺はもっと酷かったぞ。あとは最後まで書くだけだ——……」

「兄ちゃん見て見て! 姉ちゃんが新しい着物をくれた! 帯もかわゆいの! お母さんが反物を選んでくれてばあちゃんが縫ってくれたって! ルルは皇女様みたいになった! サンダルを履く! 今日はサンダルを履きたい! この着物に足袋にサンダルはきっとハイカラだよ!」


 新しい着物姿のルルが家に飛び込んできた。いつもより大人しい仕草で入ってきた。


「姉ちゃんが帯の結びもかわゆくしてくれた」


 淡い水色に色とりどりの花柄。帯は何柄って言うんだっけ? 丸が連なる花みたいな模様。少し濃い青色だ。

 髪型も綺麗に整えられていて、美少女がさらに美少女というかルルってこんなに美少女だったか?

 花街へ売れば太夫、もお世辞ではない気がしてきた。攫われて売り飛ばされそうになっていたことも納得。

 母がルルに「1人にならないように。近所のお母さん達の誰かと一緒にいなさい。お父さん達ではダメ」と口を酸っぱくして言っている理由も、友人知人に留守中の子ども達の見張りを頼んでいる理由もよく分かった。


「おー、似合うな」


 今年からルーベル家と徐々に親戚付き合いをするから両親はルーベル家から反物を親戚価格で買ったらしい。

 両親は口を割らないから値段は不明。良い反物と聞いていたけど想像以上で茫然。

 俺とジンが共有している着物2種類は「亡き祖父のもの」らしいので怖くてまだ見ていない。


「茶屋ならお出掛け着だって。2つあるからレイと2人で着て良いって。今日はルルが先にお着替えだったから先に選んで着替えた。レイは今日レイが好きな桃色ね」


 宿題は終わったと告げたレイが家を飛び出してしばらくしてから戻ってきた。

 こちらもルルよりは劣るけど中々の美少女っぷり。兄の贔屓(ひいき)目ではないだろう。

 妹達の美貌はルルが圧倒的で次はレイ。そこそこがルカでリルとロカは平々凡々。リルとロカは残念ながら父親似でリルは特に親父似。

 猫顔系のはっきりした顔立ちの中々の美女に全員似たら良いのにリルとロカは貧乏くじ。ルルはおそらく両親の良いとこ取り。


「レイも皇女様になった。レイもサンダルを履いていく。ルカ姉ちゃんが茶屋に行くならって髪もかわゆくしてくれたの。ルルもレイもかわゆいから普段はブサイクにしていたり、かわゆくない着物の方が男の子達に虐められないんだって。今日は兄ちゃんがいるから特別だって」

「ルカ姉ちゃんも昔はそうしてたって。ジン兄ちゃんとお出掛けの時とか、仕事に行く途中でかわゆい髪にしてたって。仕事から帰る前にボサボサにしていたんだって。兄ちゃんと一緒は無敵で茶屋に行くなら皇女様みたいな方が良いからってかわゆくしてくれた!」


 ルカは自分が感じた不満に対する理由をもう知っているからルルとレイが何か思う前に話をしたようだ。


「春花祭りで踊る時にも着ていいって! よよよ! よよよ! よいよいよい!」

「よいよいよい!」


 ルルとレイが踊り始めた。ルカからロカまで皆踊るの好きだな。大人しいリルだって静かにだけど楽しそうに踊っていた。

 えー……。こいつらも「よよよ」とか今は踊っているのにどこかへ嫁に行くんだよな。どこにも行かないで欲しい。


「兄ちゃん?」

「兄ちゃんどうしたの?」

「ん? 皇女様2人とお出掛けなら俺は皇子様だと思って」


 妹達の変身ぶりに感激ではなくてリルを思い出してしんみり。

 ルカがジンとお見合いをする時に着飾った際のことも思い出してしまった。

 元服前の修行中からイチャコラしていたらしいと最近耳にしたことを思い出して腹が立ってきた。


「兄ちゃんが皇子様なわけないじゃん! 足くさの皇子様なんていないもん!」

「皇子様はぷっぷっておならしないよ! 昨日ご飯中にこっそりしたでしょ! 臭かった!」

「こっそりしたんじゃなくて我慢出来ずに出たんだ。あのなぁ、皇子様たってうんこもおならもするぜ。同じ人間なんだからな。勉強しろ勉強。あと皇女様みたいな格好でおならとか臭いとか言うな。男はいいけどルルとレイは女だから慎め。かわゆくない」


 長屋育ちにしてはくらいで良いから2人やロカが品良く育ちますように。

 リルという手本がいたけど今はもういないし口先だけの母に素直ではないルルとレイだと怪しい。ロカは不明。動作はリル似なところがあるからリルみたいになるかもしれない。お喋りは完全にルルやレイに似ている。

 

「兄ちゃん早く茶屋に行こう! 茶屋ってお団子があるんでしょう? 自慢されるから知ってるよ! ルルはみたらし団子がいい!」

「レイはきなこ! きなこのお団子が食べたい!」

「皇女様達、正座の練習をしていなさい。皇女様は正座ばかりするぞ。兄ちゃんも着替えてくる」


 ルルとレイは張り切った様子で満面の笑顔で正座した。


「ルル姫様はおしとやかですね」

「レイ姫様こそ素晴らしい正座です」


 冗談混じりに言ったのに意外。これが効果のある正座のさせ方なのか。覚えておこう。

 勤務服でルーベル家へ行く予定だけどこの2人と茶屋なら俺も新しい着物と帯が良い。

 ルカの所へ行って聞いたら仕立て直す必要がないからそのまま渡せる、帰ってきたら祖母か母かルカに返せと言われた。

 着物どころか帯も羽織りもある。親父の店の主人並みかそれ以上に質が良い。

 

「お洒落ネビーは人気出そう。悪くないよ」

「俺は人気者だ。興味のないがさつな女達からな。この格好でお嬢さんに好まれたい」


 ルカに「相手にされないから。バーカ」と軽く叩かれた。


「お父さん達大奮発したね。これはヘソクリを崩したよ」

「ヘソクリ?」

「急に死んだら私達が露頭に迷うから意地でも使いたくない貯金。ロカが嫁にいくまで毎月同じ額を積み立ててるって」

「なんでルカは知っていて俺は知らなくて、今お前から聞かされたんだ?」

「この間お父さんとお母さんが話しているのをたまたま聞いた。他には昔住んでいた部屋は大家さんから買ってあって貸し出し中。お父さん達に何かあったら借りてる2部屋からそっちに全員で引っ越しみたい。何かあった時にネビーや私達が家賃や妹達の生活費で苦労しないようにしてくれてるみたい」


 そうなると俺からむしり取っている給与は俺用に貯金されているな。ジンとルカの給与もそうだろう。そんな気がする。


「今度お父さん達に家計のこととかもう少し聞こう。怪しいよ。よく考えたらうんと困った時は絶対にお金も服も薬代もお米も野菜も炭も出てきてた」

「俺やお前達の給与は使われてないかもな」

「前は何にも思わなかったけど今なら私もそんな気がする。うんと困った時には使ったかもしれない。リルの結納品代も私達が出した分は含まれていないかも。そもそもお父さん達から金額を教えてもらってない。ロイさんに聞く?」

「まずはジンと3人で相談しよう。給与のむしり取りは貯金疑惑は違ったら悪いから聞くに聞けねえ」

「そうそう。違ったら困る。まずは盗み聞きと探りだよ。今夜……は兄ちゃんが居ないから明日か明後日」


 ロイが結納品代について親から聞いていなかったことと似たような事が我が家にもあるということか?

 俺は大きく頷いてルカに着物の入手先を説明し、今夜ロイに値段や経緯などを質問してくると伝えた。

 

(両家のことは今後ロイさんと俺とジンで相談らしいけどその前の下地は親同士。ある程度決まったらって既に知っておきたいことばかりだな)


 こうして俺はかわゆい妹2人を連れて茶屋へ向かった。目的はルーベル家への手土産だ。

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