ベイリーとエリー編 5
ロイとベイリーに「自分達が払う」「かめ屋の振る舞いと招待券のおかげで立ち乗り馬車代しかかかっていないので飲み物と3品をどうぞ」と言われた結果、私とエリーは悩みに悩むことになった。
どの甘味もおよそ1大銅貨する。飲み物は5銅貨前後。つまり私達は遠回しに4大銅貨くらいどうぞと言われたことになる。
確かにお昼代も美術館代も掛かってないので遠慮はしない。ロイに今週使っていないお小遣いを返すから良い。
アイスクリーム、クリームケーキを頼むことは決定。
「プリンは美味しいです。プリンは今度試作するのでクリームプリンは気になります」
柔らかくてつるつるでカラメルソースが決め手なのはプリン。かためで表面に秘密のものを添えてカリッと焼いたのがプティング。ミーティアではそう言われた。
「試作? リルさんはプリンの作り方を知っているんですか? プリンはまだ食べたことがないです。友人に名前や食べた感想を聞きました。パンケーキも捨てがたいです」
「プリンの作り方を教わりました。上手くいったら教えます。パンケーキは1度食べたことがありますけどとても好みです」
「それは楽しみです。私もパンケーキは1度食べて大変好みです。パンケーキというよりはちみつが」
「ふわふわトーストはちみつバターってあります!」
ふわふわトーストはちみつバターに決定。
パンをカリッと焼くことをトーストと言うので食べてみればパンを買って作れるかもしれないのとエリーがはちみつ好きだから。
ロイとベイリーはコーヒー、私とエリーは紅茶を注文。
ベイリーは少しずつ甘味を食べる予定でロイは「いつも通り苦手と思うだろうから挑戦しません」と口にした。
2人の時は初めての甘味だと挑戦するのに。私達が沢山食べられるように?
紅茶はティーポットという可愛い花柄の西風急須で出てきた。
もう茶葉は抜いたので放置しても平気と言われ、保温用ですとかわゆい覆いを被せてくれた。モコモコしているから綿を詰めてある気がする。
薄切りレモン、ミルク入りの小さい器、角砂糖を置いていかれた。
「コーヒーの匂いがすこぶるええです」
「ベイリーさん、自分もそう思います。そういえばコーヒーって家では飲めないんですかね?」
「紅茶の茶葉は父が同僚から贈られたのでコーヒーもどこかで何かありそうですけど、どうですかね」
ロイの疑問を聞いてミーティアへの質問項目に追加しようと思った。
私は紅茶の飲み方を悩み中。ミーティアで飲んだ紅茶とは香りが違う。味も違う?
砂糖入りの紅茶はそこそこ好みだけどミルクとレモンは分からない。
「私は紅茶は甘くない方が好みなので砂糖は使いませんけどミルクやレモンは何でしょうか。聞いておけば良かったです」
「エリーさん、以前上司と出掛けた時に注文の際にミルクかレモンどちらかを選ぶようになっていたのでどちらかを好みで入れるのかと」
ロイの説明で砂糖を入れる前にレモン入り、ミルク入りと両方を飲んで、そこに砂糖を追加して試せると判断出来た。
ティーポットの中を覗いたら量は2杯分くらいある。
「ベイリー君。飲み物も高いと思ったけど質が良さそうだったり紅茶の量や添え物が多いね」
「紅茶がティーポットで出て来たのは初めてだ。ティーポットを初めて見たし聞いた」
「自分もです。お茶の仲間だから急須で淹れていると思ったけど西風の急須って丸くて大きいんですね」
3人で話しているけど、飲んだり食べたりしている時に喋らなくなることは伝えてあるので私は気ままに紅茶の好み探し。
まずはそのまま。匂いが違うから味も違った。紅茶はそんなにと思っていたけどこの紅茶は好みかも。
次にレモンを入れた。私としては入れない方が良かった。
「旦那様」
「はいリルさん」
「砂糖なしのレモン入りは旦那様が好みそうな気がします」
どうぞ、とロイの前にティーカップを置いた。ロイは一口飲んで少し目を丸くして微笑んだ。
「ええ。これはよかです」
アイスクリーム、クリームケーキが運ばれてきた。
ふわふわトーストはちみつバターはあとほんの少し時間がかかるそうだ。
「アイスクリームはバニラとチョコレート味です。季節のクリームケーキは本日はいちびこになります。アイスクリームは溶けますので溶ける前に、クリームケーキはごゆっくりお召し上がり下さい」
……。
チョコレートにいちびこ!
いちびこ?
白いクリームに囲まれたケーキに見える。というよりクリームが三角?
クリームは柔らかいからきちっとした三角形にはならなそうだけどどういうこと?
クリームがどうやってこうしたか分からないかわゆい模様入りの丸になってくっついていたり、斜め線で模様を描いてある三角形。
「いちびこ? それなら高い理由が分かりましたけどいちびこってどういうことでしょうか」
「いちびこは見当たりませんよね」
エリーがクリームケーキをフォークで半分にしてくれた。
「まあ」
パンケーキみたいなようで違う黄色っぽいものにクリームを塗ったり挟んだりしたものがクリームケーキみたい。間に挟まれているクリームの中にいちびこがいた。
「切る際にふわふわしていました」
「……。あっ。エリーさん。アイスクリームは溶けると言うていました」
「そうでした。驚いている場合ではないです」
アイスクリーム用のスプーンは4つ置いていってくれている。
器が冷たい。スプーンですくおうとしたら少し固かった。プリンやゼリーとはまた違う固さ。
バニラと告げられたアイスクリームを一口食べてみたら冷たくて甘かった。プリンに少し味が似ている。たまご、牛乳、砂糖を使うの?
「旦那様、大好きです」
温かくて可愛らしい内装の店内で冷たくて甘いものとは贅沢中の贅沢。そういえば削り氷って何?
それよりチョコレートアイスが気になる。チョコレートでアイスクリームとはすこぶる美味しそうな予感。
「旦那様、うんと大好きです」
アイスクリームは素晴らしい甘味だと判明。小さいのに高いのは冷やすのに氷が必要だからだろう。
静かなので、ん? と顔を上げたらロイはベイリーを軽く睨んでいた。ロイの頬が赤い気がする。
そのベイリーは楽しげな笑顔。ニヤニヤ笑いに見える。
「ベイリー君、大好きです」
チョコレートアイスを一口食べたエリーが美味しいというような笑顔を浮かべて体を少し震わせた。それでベイリーの顔をニコッと笑いながら覗き込んだ。
ベイリーが「けほっ」と咳き込んで目を泳がせる。
「ベイリー君。アイスクリームのことだけど。何か勘違いした?」
「そ、そんなの分かってる。ふざけないで食べなさい。溶けるらしいから」
「はーい」
エリーはベイリーの照れたような反応がすこぶる楽しいみたいでニコニコしている。
……!
ロイを見て、ベイリーを見て、エリーを見て、アイスクリームを見て、ロイを見た。
「だ、だ、だ、旦那様。ベイリーさんにエリーさんも、私もアイスクリームですか……サラダの時もそうでした?」
初めて2人で外食をした時、ミーティアでサラダを食べた後にも私は同じような台詞を口にしてロイは少し赤い顔でボーッとしていた。
なぜだったのか約半年も経って今さら判明。
「いえ別に。見ていれば分かります……」
ロイはコーヒーカップを口にして私から視線を逸らした。反対側の手で短いと前髪をちょんちょん触っている。
「へえ、サラダの時もでしたか」
「ベイリーさん。その顔やら何やらをやめないとお店を出たら送らずにリルさんを連れて帰りますよ」
「また脅しですか」
また仲良し喧嘩をするみたい。そこへふわふわトーストはちみつバターが登場。
取り皿4つとナイフとフォーク4つ、それからはちみつ入りの器を置いていってくれた。
お皿は熱いから注意ではちみつは好みの量をかけて、アイスクリームを添えるのも良いと説明された。
食パン2枚が半分に切られていてたまご色。コショウの粒々が見える。匂いはバター。
エリーが切って取り皿に分けて私とベイリーに配ってくれた。
まずは何もしないで少しかじってみる。
「旦那様、甘くないです。色からしてたまごでバターとほんのり塩味です。食べてみて下さい」
「甘くないんですか?」
するとエリーがまだ切ってないふわふわトーストをサッとお皿に乗せてロイに「どうぞ」と渡してくれた。
私とベイリーへ取り分けてくれたこともだけど、この気配りはぜひ真似したい。
「リルさんの言う通り甘くないです。これはわりと好みです」
「パンとたまごとバターと塩コショウと……他に必要なものは何でしょう? 教えてくれるか分からないけど聞いてみます」
「リルさんはご自宅で作るつもりですか?」
「はい。もどきでもどうにか作って家でも楽しみたいです」
エリーがはちみつをかけるのを待ってからはちみつをかけた。甘いけどしょっぱい。これは初めましての味。
「甘くてしょっぱくて好みです」
「私もです。リルさん、作ることが出来たら教えて下さい」
「はい」
アイスクリームを乗せて食べてみた。これも良い。パンケーキのことを思い出してクリームケーキのクリームをフォークで少し削って追加。
これは私としてはイマイチ。クリームもアイスクリームと同じで熱で溶けるみたい。
クリームケーキも一口食べてみた。クリームにふわふわした甘いパン? 何? に甘酸っぱいいちびこなのですこぶる美味しい。
パンやクリームの作り方がそもそも不明で、いちびこは高級品で近くの八百屋で見たことがないのでクリームケーキは家で作るものではなくてお店で食べるものかな。
クリームケーキのふわふわしたパンもどきは黄色っぽいのでたまごを使っている気がする。
西の国では色々な甘味にたまごを使うみたいだから、うんとたまごをらぶゆしているみたい。沢山のたまごを産む鶏がいるのかな?
全部セレヌに聞ける! と気がついて私は3月が楽しみになった。




