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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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ベイリーとエリー編 1

 ヨハネ達をお見送り後にエイラに盆略点前をしてもらった。

 お昼前だから菓子器だけを出してもらってお菓子はなし。ロイが正客で私は次客の予定だったけどエリーが正客で私が次客。

 エリーがエイラに声を掛けて、ベイリーがオーウェンとロイを2階へ連れていったからだ。

 エイラとクララに教わったことを思い出しながら席入りしたりご挨拶。

 エリーにお菓子の食べ方やお茶の飲み方を教わり拝見物は省略。これで茶道の基礎の雰囲気は分かった。

 2人にお礼を告げて私の為の練習茶席は終了。

 エリーはエイラにお点前が美しいみたいに話しかけてそこから雑談開始。社交的なベイリーに社交的なエリーとはお似合いだと思う。

 3人で2階へ行くとオーウェンとベイリーが大笑いしていてロイは無表情に近い拗ね顔をしていた。


「幼馴染みなのに知らない事ばかりです。確かに小さい頃はもじもじして隅の方にいましたけど気が付いたら変わっていました。凛として話しかけ辛くて」

「オーウェンさんの方が話しかけ辛かったです。ベイリーさん。確かに助けてと言いましたけど情けない話をしてくれとは言うていません」

「誤解を解くのに昔話を少ししただけじゃないですか!」


 私とエイラは顔を見合わせて笑った。


「先に午後の準備を少ししてこようかしら」

「私は荷運び……エリーさん。先にプクイカを見にきますか? ベイリーさんはもう見たことがあります」


 ドキドキしながら話しかけたらエリーは「ええ、お願い致します」と微笑んでくれた。


「ベイリーさん、ルーベルさん家でプクイカを見てきます。エイラさんは午後の準備をするそうです」


 エリーは腰を落として静かな声を出した。


「おお。リルさん、お願いします。エリーさん。リルさんにご迷惑を掛けないように」


 ベイリーは軽い感じで手を挙げた。その後エイラ、私の順にピシッとした会釈。

 それで3人で茶室へ行ってエイラとお別れ。私は今日使って持ち帰るものを背負い鞄にしまって背負った。


「貴重な品を割ったら悪いと思いつつお手伝いしようかと思ったけどリルさんはちんまりなのに力持ちですね」

「はい。多分母似です」

「ベイリー君から聞きましたけどワラサを他のお嫁さん達と一緒に買って(さば)いたって」


 玄関まで来たのでエリーにマフラーや傘を渡そうとしたけど「お気遣いなく」と告げられた。正解は分からないけどそれならと彼女に任せた。

 2人で共同茶室を出てルーベル家へ向かった。ふと気がつく。ベティがいない。もう帰ったの?

 毛むじゃらカニを食べて欲しかったけどベイリーがお裾分けをしたかな。


「私もベイリーさんにエリーさんは将棋が趣味だと聞きました。ベイリーさんからカニを贈られて食べましたか?」

「将棋を練習中と聞いたので今度指しましょう。今日でもよかです。そうそう。リルさんに聞こうと思ったんです。あのカニはヒシカニではないですよね? 味が全然違います。ベイリー君は変わったヒシカニと言うていたけど変」


 エリーは傘をさしてクルクル回し始めた。美人なのもあるけどなんだか目を奪われる姿。


「変わったヒシカニです。漁師さんがそう言うていました。大漁だったし変わっているからお裾分けした方が良いと」

「ふーん。私も早く釣りに行きたいなあ。その漁師さんから変わったヒシカニとは何なのか、何を隠しているのか聞き出します。誰も聞き出せなかったということですよね? 漁師さんは時に口が固いらしいです」


 トントン、トトンとエリーはスキップではないけどスキップのような不思議な歩き方をした。


「エリーさんになら教えてくれるかもしれません。私達が話した漁師さん、お嬢さんや卿家のお嫁さんに興味津々でした」

「私はリルさんに興味津々。職人さんの娘さんで噂の模範生のロイ君が狂って破天荒結婚した相手。祝言まで喋らなかったなんてなぜですか? 結納の日は? 花嫁修行をさせられることはどう思ったのかとか、ロイ君は毎日会いに行っていたそうなのに会わなかった理由とか」


 質問が多いのと顔を覗き込まれて私は固まった。


「お喋り下手です。1つずつ質問されたいです。旦那様が毎日会いに? 知らない話です」

「姉に直せと言われているのにお喋りですみません。口が滑ったかしら。なーんて。誰も教えてないかもと思って。ベイリー君からロイ君は出勤前と退勤後に毎日かめ屋に顔を出していたって聞いていますよ。恥ずかしくて喋れなくて、喋って嫌われて結納破棄が怖くて、虐められたり嫌な思いをしていないかの確認をしに行っていたそうです」


 エリーは笑顔でパチンッと片目を閉じた。かわゆい。私とロイの仲が良いと知ったから教えてくれたってことかな? それなら親切。

 花嫁修行でかめ屋の従業員達に優しくされたのってロイのおかげだったのか。


「それは嬉しいことを聞きました。旦那様にもお礼が言えます。ありがとうございます」

「茶室でも感じたけどやはり今は相愛なんですね。ベイリー君が少々心配していたけど良かった。ちはやぶると聞いた時に安心したけどベイリー君は分かってなさそう。ベイリー君も恋愛小説は読みません。教養だと言っても痒くて無理とか、悲恋物なら悲しくなるだけでつまらんって。読んでもいないのにと言うたら読んでつまらなかったら時間の無駄ですって。頑固者」


 ぷくっと頬を膨らませるとエリーは肩をすくめた。


「毎回いっつも私から。駆け落ちなんてしたくない。出来ない。しない。お転婆猫被り娘を嫁になんて自分くらいだからとか、全くもってかわゆくない男です」

「……期間までに試験に受からなかったら百夜土下座してでも許してもらう、と言うていましたよ」


 瞬間、エリーは満面の笑顔を浮かべた。


「あらまあ。それは良いことを聞きました。というより聞けるかなぁって。ご近所さんには絶対に言わない。言うならきっと特に親しくしている友人で、その奥様からなら何か聞けるかなって思って。私が知っているベイリー君の親しい友人はロイ君以外未婚。私が将棋好きなんて根回しをしたなんてそれも嬉しかったけど。あはは」


 品は良いけどやはり長屋住まいの女性達にも似たような雰囲気がある。でもそんなにエリーを苦手ではないのはなぜだろう。


「年末の試験に受かったらすぐに祝言したいと言うていましたよ」


 その時の会話の流れは恥ずかしいから黙っていよう。


「私は不合格でもする気です。しきたりなんて破るものなのにベイリー君は何にもしないんですよ。結納したら皆コソッと手ぐらい繋ぐのに。今日だって2人でも良いのに4人です。まあ祝言日が決まる前に友人に紹介は私達の町内会のしきたり破り。両親を騙すのは疲れました」


 騙した?


「ベイリーさんも頭を下げに行ったと聞きましたけど騙したんですか?」

「ベイリー君が?」


 目を丸くしたエリーはその後嬉しそうに笑った。


「それも知りませんでした」

「私と同じですね。エリーさん、あちらが我が家です」


 エリーを家の中へ招いてまずは居間へ案内しようとしたけど「お構いなく。お片付けをどうぞ。その間プクイカを見せて下さい。じっと見ていないと回転しないと聞きました」と言われたので、背負い鞄を玄関に置いて台所へ案内。

 

「こちらがプクイカですか。かわゆい」

「噛み付くらしいので手を入れないで下さい」


 袖をまくったエリーが人差し指を水瓶に突っ込もうとしたので慌てて止めた。


「あら、かわゆい見た目なのに怖いんですね」

「小魚をワッて襲って食べるそうです」

「エドゥアールの川にばしゃばしゃ入ってはいけないということですね」


 エリーはしょぼくれ顔になった。彼女が苦手ではないのはこういうところかも。

 早口気味だけどクララやエイラ達のように私が話す間があって、釣りをしたいとか川に入りたいとか私に似た感覚がある。

 かまどの中のもう火種くらいになっている代用炭団を火鉢へ移してエリーの近くへ運んだ。


「新婚旅行はエドゥアール温泉街がよかなんですよね?」

「行きたいけど無理です。ベイリー君は跡取り息子。最後の岩山登りが少し危険とか、遠過ぎるとかで絶対に猛反対されます。両親には歯向かうけどベイリー君の両親にはあまり歯向かう気はありません。理不尽な事以外は素直にはい。やりたい事があるのと穏やかに暮らしたいので。ロイ君とリルさんはよく許してもらえましたね」

「ベイリーさんは親を説得すると言うていました。旦那様が行ったから説得しやすいと。お義父さんが援護すると言うています」


 エリーは右手を口元にあてて「まあ」と目を丸くした。


「それなら行けるのかしら。昔から憧れで。親戚に画家がいるんです。売れてないんですけどね。でも旅をして絵を沢山描いています。絵を見たり話を聞いてから死ぬまでに本物の温泉広場をと」

「だからベイリーさんは親を説得しようと思っているんですかね」

「今日は知らない事ばかり。言ってくればいいのに言わない言わない。友人のことは文通でも直接でもペラペラ喋るのに。噂のヨハネ君は噂通り洒落ていて雅な方。噂のロイ君は自分みたいと言っていたけど今日お会いしたら違いましたね。ロイ君やヨハネ君の真似をしてくれないかしら。遠回しは好まないけどその遠回しすらないし」


 私から水瓶へ顔の向きを変えるとエリーは憂い顔でプクイカを見つめた。


「思へども……」


 ん? とエリーがこちらを向いた。続きは何だっけ。えーっと……。


「験もなしと知る……ものを……なにかここだく吾が恋ひ渡るです。贈るとええです。返事がきます」


 クララがアルトへ贈った龍歌。

 いくら慕ってみてもあの人の気持ちは自分には向かないと知っているのになぜ私はこんなにも恋しつづけているのか。

 クララはアルトが良いから渋る親を説得して嫁にきたけどアルトはそれを知らず。

 アルトはクララが結婚してくれたのは頼み込んだからとか、条件が良いから、わがままを言える格下男だからだと思っていたらしい。

 自信がないからクララと向き合わないで花街へ逃げたっぽいとはクララの推測。

 その花街通いが前からうんと嫌だったクララは年末ついに大爆発。

 クララも見栄えが良い美人でこの辺りでは重宝される琴が上手いという特技で結婚してもらえたと思っていたからエイラと同じく色々我慢していたそうだ。

 そんな風に2人は2年間もすれ違い。喧嘩してお互いの気持ちのすれ違いを知ったことで仲直りしたと聞いていて、今日会ったら確かに甘ったるい雰囲気だった。


 エリーは困り笑いを浮かべた。

 この困り笑いの理由はなんだろう。クララと同じかもしれない。同じなら私もその気持ちは分かる。


「リルさんはうんと勉強家なんですね。読み書きすら出来ないところからロイ君と婚約してから勉強を始めたと聞いています。なのにもうこのような龍歌を作れるなんて。ペラペラ喋れるけど龍歌はなんだか恥ずかしくて贈ったことがないです。こういう意味を投げつけるという使い方もありますか。ありますね。知識はあっても自分もとは思い付かなかったです」

「作れません。嫁友達が作りました。喧嘩した時に使って怖かったそうです」

「善は急げというから書き置きしてリルさんと遊びに行こうかしら。筆記用具をお借りしても?」

「はい」


 エリーを居間へ招いて寝室から私の筆記用具を持ってきて貸した。


「行き先の情報……リルさん、どこへ逃げますか?」


 ピンッと伸ばした背で手紙を書いていたエリーが振り返った。

 カラコロカラ、と玄関の鐘の音。お客様?


「ただいま帰りました」


 ロイの声。何で鐘を鳴らしたんだろう。


「おじゃまします!」


 ベイリーの声はすこぶる元気。


「エリーさん。最初はそのお手紙を隠しておいて旦那様とベイリーさんの会話を聞くのはどうですか? 渡すのは何も聞けなかったら」

「いえ。リルさんと駆け落ちは楽しそうですけど困らせるなら違う困らせ方。ド直球の龍歌を捻り出してみました。龍歌には返事。恥ずかしいからとそれが頭から抜けていました。あのすまし顔とか余裕そうなのを崩してやろうかと」


 悪戯っぽく笑うとエリーが立ち上がって手紙を懐へ入れたので私も立った。


「色々しても無駄だけどこれは返事をしないといけません。龍歌が苦手なベイリー君はどうするのやら」

「旦那様に頼みますかね」

「揶揄うのは好きだけど揶揄われるのは嫌いだからどうでしょう。相談されたいのに相談は苦手。ベイリー君は古風で。ふふっ、楽しみ楽しみ」


 ニコニコしているけど少し寂しそうというか不安そうなのは気のせいかな。

 2人で玄関へ向かってロイとベイリーをお出迎え。2人というかロイはお出迎えを待っていたみたい。

 いつものように三つ指ついて「おかえりなさいませ」とご挨拶。


「ロイさん、リルさんにこんなことをさせてるんですか!」


 ベイリーがロイの背中をバシバシ叩いた。大笑いされてロイは「まあ……」と拗ね顔。

 笑われた今でさえ「しなくて良い」とは言わないのはして欲しいからだろう。慌てていたり間に合わないとしないけど、義父もロイもこのお出迎えの方が機嫌が良い。

 お出迎えを待っていたロイはベイリーに揶揄われるとは思わなかったのだろうか。

 私の隣にエリーが腰を下ろし「お帰りなさいませ旦那様」と三つ指ついて頭を下げ、顔を上げるとベイリーを微笑みでジッと見据えた。


「なっ⁈」


 ゲボッとベイリーが咳き込む。ロイやオーウェンみたいな少し怖い顔。多分照れ顔。


「ベイリー君。旦那様はロイ君ですよ。ここはルーベル家です。旦那様はベイリー君ではないです」

「そ、そんなの分かってる」

「ベイリーさん、あはは」


 悪戯笑顔のエリーと少し拗ね顔でロイを睨むベイリー。

 すまし顔とか余裕そうなのを崩してやろうって、いつもエリーはベイリーに色々している気がしてきた。不安そうだと感じたのも気のせいだろう。


「ロイ君。おかえりだにゃん」


 副猫神像みたいな仕草再び。かわゆい。ロイは茫然というか衝撃的、という顔をした後にヘラッと笑ってベイリーにバシンッと頭を殴られた。

 私はヤキモチを妬くよりも吹き出してしまった。

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