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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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海釣り特別編「ロイのお弁当2」

 竹筒の中に予告されていたたまごあんかけ。赤いのはイーゼル海老疑惑。

 父が食べたそうだったし、ベイリーの分も作るからイーゼル海老を使ったのだろう。

 小さな(はまぐり)の貝の上のご飯はおそらくバター焼きかムルル貝ご飯の応用。

 ちんまりしたカゴの中にあるのはメジガロのたたきに小ネギを混ぜたもの。

 何かのフライが2つ入っている。試作すると言っていたけどそれか?

 ベイリーの分があるから朝から揚げ物をしてくれたようだ。母も手伝ったからといっても大変。感謝しかない。


 また死んだのかプクイカが1匹。型抜きしてさらに何か細工をした梅みたいな人参と一緒に串に刺さっている。

 それで最近リルが練習中の市松模様のなすときゅうりの香物。

 これは少々恥ずかしいけど白米には海苔でカニの絵と川。梅干しを潰したものが紅葉2枚みたいになっているのでマルム川。


「マリクさん。エルデさん。おかずが多いのは父と妻が海釣りへ行ってとったり漁師からうんと安く買ったものの恩恵です。それで作ったのは妻と母です」

「料理人ではなくてお母上と奥様ですか……」

「旅行ってエドゥアールですよね? 先輩達と話しているのを聞きました。予算とか色々知りたいです。行けるなら自分も試験合格後の休みで行きたいです」


 後輩の世話方法は先輩達の真似しか分からない。マリクに新人歓迎会の手伝いを申し出なければいけないから彼とは今月中に業務外で会わないと。


「帰って聞かないと分からないですけど来週の月曜か水曜に我が家へどうですか? 現在我が家には色々な食材があります。あとエドゥアールの酒や浮絵も」


 後輩を家に誘うのは初。先輩と同じでお小遣いを減らして外食をごちそうするよりも自宅でおもてなしが良い。

 食費とは別にそういう特別食費の予算が組まれている。使わせてもらえるかは両親との交渉次第。


「どちらでも大丈夫です! 是非お願いします!」


 マリクの発言がお世辞なのか不明。自分の時は「面倒だけど行かないと!」よりも普通に先輩の家や結婚相手に興味があった。


「じ、自分もご迷惑でなければ行きたいです! 月曜なら行けます!」

 

 マリクは乗り気に見える。エルデは恐る恐る、断れないみたいな顔。元服したばかりってつい最近のことのようなのにエルデを幼いと感じる。

 自分も少しは成長しているんだな、と思った。


「エルデさん、迷惑ではないですけど無理しなくて……」

「おお、ロイさん。おっかなびっくり後輩のお世話ですか? 顔が強張っていますよ。笑顔、笑顔。後輩さん達。ロイさんは人見知りだから慣れるまで愛想が悪いです。いやあ、今日の昼食は楽しみで楽しみで。中身はそれですか。たまごあんかけ!」


 ベイリー!

 これはもう大安心。ヨハネも察して「ロイさんのお弁当を眺めていたら食べたのにお腹が減ります。そろそろ戻ります」と口にしてベイリーに「帰りに」と声を掛けて俺に母宛の手紙を渡して去った。

 定時終わりなら3人で帰れる事が多いのに現在残業続きであまり喋れていない。

 ヨハネの座っていたところにベイリーが着席した。


「ロイさんの部署の研修生ですか? 先輩に出世したら研修生の世話を任されるって聞きました。ロイさんの同期のベイリーです。特技はないので何も質問しないで欲しいですけど釣りと将棋が趣味なのでそれはいつでも話しかけて下さい」


 ベイリーの特技はこの社交性。武術系も得意。通っている柔道道場でも実力は上の方。特技はないとは嘘だけど、柔道以外は本人は自覚なし。


「ロイさん、このお弁当箱はヨハネさんが以前花見で見せてくれた御所カゴみたいですね」

「リルさんのお父上からの贈り物です。興味がありそうな方がいたら宣伝して下さい。特注品なので同じものではなくて予算や草案を相談の上制作出来ます。こちらはエドゥアール風です」

「エドゥアール風! 後で茶道会に参加している先輩達に見せてみます。いやあ、お腹減った。たまごあんかけ!」


 たまごあんかけ発言2回目。鼻歌混じりで弁当箱を開けるとベイリーは目を丸くした後に大笑いした。

 俺の弁当と似ているけど所々違う。マルム川は無くなって白米ご飯半分にムルル貝もとい(はまぐり)ご飯が半分。

 (はまぐり)の上にはワラサの佃煮みたいな何か。一昨日の会話からしてメジガロ疑惑。

 昨日食べた手毬寿司が3つ。きゅうりで花、カブで椿、レンコンの花。昨日食べたのと同じものなので全部刺身を使っているだろう。

 プクイカはいない。死ななかったのか? 代わりなのか野菜とイカの煮付けがはいっている。人参は花でしいたけは市松模様だ。


「ロイさんのお弁当と違います! もしやこのちんまりした美しいものが昨日のロイさんの特製弁当に入っていたものですか?」

「ええ。母が昔食べた手毬寿司を自分ならこうしようと考えていたそうでそこにリルさんが加わりました」


 父もこの弁当だろう。帰宅したら父の機嫌はうんと良さそう。


「手毬寿司っていうんですか。一緒に釣りに行くたびにお弁当を頼んでみよう。たまにはこのような彩り弁当を食べたいです。母には無理」


 たまに、なのはチマチマ食べるのはたまにで良いからなのは知っている。


「ルーベル先輩のお母上や奥様って何者ですか?」


 マリクが俺とベイリーの弁当を交互に眺めた。エルデは俺の弁当より凝っているベイリーの弁当を凝視。


「そういえばロイさんのお母上やリルさんは何でこんなに料理上手なんですか?」

「母はかめ屋の女将さんと幼馴染で色々見てきたり話したりしている上に茶道と料理好き。凝り性で器用なのと茶会席の料理研究の成果かと。リルさんは両親の才能の良いとこ取りと料理好きです。母が教えるので拍車がかかっています」

「両親の才能の良いところ取り? お父上は職人だから手先の器用さとか感性ってことですよね」

「リルさんのお母上は料理人の娘です。お姉さんもリルさんも家系なのか舌が良いみたいです。食べるとこういう味付けかな? と推測出来るんです」


 リルは貧乏だから執念? と言っていたけど母にチラッと話題を振ったらこう言われた。


「マリクさん、エルデさん。ロイさんが初めて後輩を家に呼ぶとなると絶対に何か美味くて美しいものが出てきます。今は海釣り後で高級食材もありますし。ロイさん、初めてですよね?」

「ええ。初回出世するまでは後輩指導はしないものでベイリーさんのように社交的でもないので遠巻きにしていました」

「つまりもう後輩指導をしなさい。練習しなさいって言われたんですね。つまりマリクさんとエルデさんはロイさんの家で上げ膳据え膳。もてなされて褒められて美味いものを食べて帰宅。何かなぁ。ええなぁ」


 さすがベイリー、頼れる男。乗り気なマリクは変化無しだけどエルデがホッとしたような表情になった。

 今ベイリーに言われて気が付いたけど両親の許可は必ず出るな。


「マリクさん、エルデさん。苦手な食材はありますか? あと甘味や果物も。自分は甘い物は栗の甘露煮以外苦手です。父が飲ませようとしそうなので先に聞きますけどお酒は一口も無理とかありますか? 月曜なので飲ませないように配慮します」


 ベイリーが居るお陰でわりと喋れる。


「ナスはあまり。そのくらいです。お酒は大好きでかなり飲めます」

「あの、その、自分はお酒がうんと弱いです。数口で真っ赤で具合が悪くなります。食べ物は酢の物が苦手です」

「伝えておきます。慣例なので何も要らないと言うと気後れするでしょうから手土産はマリクさんは練り切り3つ、エルデさんはみかん3つお願いします。他は要りません。ベイリーさんも来ますか? 2人が父の将棋相手をさせられてしまいます」


 母がトランプをすると言いそうな気もする。


「その言葉を待ってました。自分はたまごを差し入れするので泊めて下さい。あと断られるからロイさんに釣りの件も含めたお礼代を渡します。懐に入れてリルさんと使ったり親孝行代にして下さい。なので茶碗蒸しにして下さい! あとプクイカが死ぬのを祈っています!」


 話はそのまま茶碗蒸しとプクイカのこと。ベイリーもだけど後輩指導前に旅行出来たことと料理上手な母とリルに大感謝。


 ベイリーのおかげで後輩2人の趣味を聞くことに成功。

 マリクは噂では囲碁と聞いていたけどそれに加えて将棋もらしい。最近チェスを勉強中。将棋という共通の話題発見。

 研修生卒業後からは趣味会に参加出来るので囲碁会と将棋会と思っているそうだ。そうなると将棋会でも後輩になる。俺が将棋会所属なのは知られていなくて歌会なんて雅と思っていたらしい。剣術道場通いも意外と言われた。


 エルデは食事——それも甘味。ヨハネみたい——と乗馬。つまりリルとの乗馬や食事デートの情報源獲得。それをきっかけに彼の世話というか話を聞き出す努力をすれば良い。

 彼は趣味会自体をまだ知らなかった。父親が卿家の家位を授かってエルデは2代目。つまり彼の家で卿家の恩恵の数々を得たのは彼が初。就職1ヶ月少々なので右も左も分からなくて当然。


 念の為名札から部署や役職などを確認出来るから、職員同士の自己紹介は名前くらいは暗黙の了解なのを話したらまだ知らなかった。

 先輩にごちそうされたり家に招かれてもお礼の品や手土産なしは慣例。

 俺が「手土産はこれにしろ」と言ったように気遣うのは先輩側で使ってもらったお金は後輩に使うもの。それも知らなかった。

 ベイリーは5代目、俺は4代目、マリクも4代目で指導担当もいるから沢山質問すると良いと話した。

 我が家でエルデに卿家系の話題を振るとそれを聞くリルも勉強になる。


 ★


 来週月曜に研修生2人を家に招くことをセダに報告相談したら「それならその残業分を今週分として振る。君は今週金曜は趣味会参加だろう? その後の残業は基本無しだけど今週はありだ。あと水曜分を他の日に回す」と言われて上司に書類を増やされた。


 長々と残業だったので帰宅後は居間で大説教。金曜日まで離れ生活決定。

 後輩指導をしていく立場になったのでまずは話す練習をしたい。来週月曜日に同部署研修生2名とベイリーを招きたいことを話したら父の機嫌が少し良くなった。


「ベイリー君の補助がないといけないとは情けない」


 父は釣りも将棋も付き合ってくれるベイリーが大好き。嬉しいと顔に描いてある。

 煌護省へ就職したらどうかと沢山勧誘して、卿家で後ろ楯がいれば許される同時受験は「ベイリー君は煌護省」とベイリーの父に話をつけたくらいだ。


「情けないですけど友人なので助けてもらいます。父上と将棋をしたいから泊まりたいそうです」


 泊まり、と口にした後から父の機嫌はますます良くなった。母の体が不安になってからリルが嫁にくるまでは来客をかなり減らして宿泊は禁止してきた。

 今週金曜にヨハネが泊まるのもウキウキしている。


「いや、リルさんに負けたのが悔しいんだな。負けかけから大逆転は楽しいから2人を戦わせよう」


 すこぶる機嫌が良い、説教は終了で父は母とリルを呼んで来週月曜日のことを頼んでくれた。母は反対せず。

 リルはもう従うしかないし嫌でもこれは卿家の嫁の仕事。ニコニコしているから大丈夫そう。


「母上、リルさん。ベイリーさんがたまごを持ってくるから茶碗蒸しをと望んでいます。お願いします。後輩2人はそれぞれナスと酢の物が苦手です。1人だけ酒を少しでも飲むと具合が悪くなります。もう1人は酒好きなので少し飲むかと。手土産無しは慣例ですけど相手の両親が持たせると思うので練り切りとみかんと言うておきました」


 母は何も答えずにリルを見た。台所仕事は完全にリルの仕事で母は補助。食費関係もそうだ。そのリルは母を見た。


「お義母さん、色々相談に乗って下さい。茶碗蒸しついでにプリンを試作します」

「ええ。そうしましょうか。デザートがプリンなら西風料理を混ぜましょうか」


 プリン? 何それ。母もリルも楽しそうな表情。料理したいと顔に描いてある。西風料理はフライが良いな。

 何のフライかと思ったら海老と(はまぐり)だった。多分たまごあんかけの残りのイーゼル海老。両方絶品だった。


「ロイ、ベイリー君が山程たまごを持ってこないように……10個にします。10個と言うて下さい。他には何も受け取らないように。そうしないと逆の時にうんと持っていきますと言いなさい」


 たまごは高い。確か1個2銅貨程度。10個で2大銅貨。ミーティアの平日ランチ2人分でお釣りがくる。リルの1週間のお小遣い。

 でも我が家は基本毎日たまご3個を消費。お弁当には基本たまご焼きという父の希望。つまり高いけど安い。俺がベイリーの家に宿泊はもう中々ないのでこっそりお礼代をもらっておこう。


 そんな風に月曜は終わり。火曜、水曜も過ぎて木曜日になった。

 離れに放り投げるどころか朝、晩とかなりリルに近寄れないようにされている。

 食後の父は将棋でリルを奪うし台所にはよく母がいるし、見送りと出迎えも母である。


 水曜はブルトの家でもてなされて色々教えてもらったけど帰宅が遅くてリルの顔すら見られず。


 リル不足。


 翌朝は気合いでかなり早起きをした。廊下をコソコソ静かに歩いて階段も気をつけて寝室へ。

 リルにこっそり「早寝していつもより早起きして欲しい」と頼み済み。

 抱く抱かない以前にもう少し喋りたいし触りたい。


「リルさ……」


 布団をめくったら寝ていたのは父だった。しかも最悪なことに起床。絶望。


「なっ……。こ、ここまでせんでもええですよね⁈ そもそも自分が悪いわけではなくて通過儀礼の残業なのに! 知っているくせに!」

「人の話を聞く態度の悪さとこういう根性の悪さを直さないからだ! 座れ!」


 最悪なことに早朝から説教。いつも通りしおらしい顔を作って聞き流し。

 でも多分自分はどことなく不貞腐れた顔をしていると思う。つまり父の言う通り聞く態度が悪い。


「リルさんは月曜からどちらで寝ていますか?」

「運が悪いな。つまりお前が悪いという証だ。昨日、つまり今もだけどリルさんは母さんと布団を並べている。月曜、火曜は普通にここだった。そろそろ怪しいと母さんが言うてな」

「……はい」


 いつもこういう感じで母に勝てない。母がリルと寝たとは衝撃的。


「母さんはリルさんと同じ部屋で寝てみたかったのか? 最近ますます好んでいるように見える。ブツクサ嫌々みたいに言うけど台所へ行ってまとわりついて」

「それは朗報です。リルさんは母と料理をしたいそうです」

「突き放し気味だったのに近寄り過ぎて揉めないか心配だ。俺はなるべく間に入りたくない。お前の嫁だからお前が励め」

「もちろんです」


 そういう父もどんどんリルに構っている。あとあれを食べたいこれを作って欲しいとか煩い。リルが両親にうんざりしませんように。


「励むからせめて見送りと出迎えはリルさんにして下さい。でないと父上が山桜(さんおう)姫の話ばかり聞いてくるとか母上に言います」

「また親を脅すのか!」

「結果リルさんやリルさんの家族です。許される範囲でしたし反省していません。やり過ぎの折檻(せっかん)が続くとリルさんを連れてリルさんの実家で暮らします。皆で町屋へお引越し」


 父は「ぐぬぬ」という表情。


「母上の手前、説教や折檻(せっかん)をされます。離れは孫より前にリルさんと料理とか茶道教室とか町内会ということでしょう。そこは諦めるので見送りと出迎えはリルさんにして下さい」

「分かった。あと今週の土曜は離れ免除。どちらもリルさんがしょんぼり気味だからでお前の為じゃないからな」


 鞭の次は飴。

 理解しているのについ唇が緩んだら「説教をされますって聞き流すな!」と久々にスパンッと頭を叩かれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 海釣り編、リルの好かれっぷりがよくでてて楽しかったです! 漁師さんたちに可愛がられるリルに読んでいて和みました
[良い点] トリッキーなご両親に爆笑しました。 布団めくって父親が…て(笑) そろそろ怪しいってお母さんの慧眼がすごい! 厳しいと見せかけて一人息子への過保護なくらいの愛を感じて今の時代感覚なら気味悪…
[良い点] ぜ、絶望、のあたりで思わず吹き出してしまいましたww 嫁の布団を剥いたと思ったら父親かぁ…ww
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