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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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海釣り編「下処理」

 ベイリーと2人で帰宅。義母が出迎えてくれたので玄関で軽く事情を説明。


「カニを売った。隠す怖い美味しいカニを6匹買えてかめ屋が来るとは何ですか」

「お嫁さん、それは流石に省き過ぎです。まだ到着しないと思います」

「はい。私は説明下手です。賢いベイリーさんにお願いしたいです」


 賢いなんて、と謙遜(けんそん)されたけど「旦那様が言うていました」と返事をした。上級公務員の時点で私とは雲泥の差。

 義母に促されて家の中に入る。着替えないで不必要なものだけ脱いで割烹着姿になる許可を得た。前回もそうしたかった。今回は義母が先に家にいたから聞けて嬉しい。


 ロイは居間の机の上のトランプを眺めていた。神経衰弱っぽい。昨日の夜義母とトランプをするかもと言われて貸している。


「リルさんおかえりなさい。少し日焼けしたように見えます。大丈夫ですか?」

「ただいま帰りました。ほんのりヒリヒリです」


 居間でベイリーが説明してくれるからベイリーをもてなす準備と思ったけど、義母にもベイリーにも居間にいるように言われた。

 ベイリーは私より上手に全部説明してくれた。

 その間私はロイが薬箱から持ってきてくれたアロロレ軟膏を顔に少し塗って日焼けの手当。

 アロロレ軟膏なんて初めて知った。義父の日焼け後に使ってそこそこ効果があるらしい。

 途中、私は腐りかけのワラサの切り身がまだカニには大丈夫で良い餌になったのかもと伝えた。

 急がなくてもまだ義父達は到着せず。私は確かに慌て過ぎた。


「ヒシカニをとると言うていたけどまさかこんなことに……。リルさん、あなたお父上のお店や実家のご近所さんには振る舞わないのですか?」

「かめ屋の宣伝になりません。実家に振る舞うように言います。そもそも何も言わなくても振る舞います。大きなカニだから長屋で持ち寄り大宴会です」


 カニ以外は他の家が沢山持ってくるだろう。

 つまり実家は何もしなくても米や野菜を食べられるし、多分「お礼だ」と他にも何か手に入れられる。

 時に腹減り実家もそのように時々大満腹。ネビーの活躍のお礼で助かることもある。


「かめ屋の宣伝になりませんって……まあそうでしょうけど。何も言わなくても持ち寄り大宴会ですか。まあ、実家やご近所さんのことはあなたが1番知っています」

「自分も台所で学んで良いですか? かめ屋の料理長が動くところを見ながら上手くいけば習えるなんて大好機です」

「もちろんです。居間も使えるようにしましょう。ロイ、手伝って」

「母上は休んでいて下さい。お医者様に少し多めに休むべきと言われましたから」

「準備は任せますけど台所には入ります。楽しく手足を動かすのも大事だと言われました」 

「自分とロイさんでします。指示して下さい」

「私もします」


 台所に近い廊下側の襖が外されて義父母の寝室へ移動。台所の出入り口の障子も外された。

 居間の机の下には新聞紙や手拭いを敷いておく。

 台所の外には生簀(いけす)になりそうなものをいくつか準備。次は氷を取りに、という時に義父達が到着。

 客ではないのでおもてなしは結構、玄関からではなくて勝手口から入ると言うのでそうしてもらった。

 それで後は料理長ヴィラにお任せというか指示してもらう。なんと魚の下処理もしてくれるそうだ。

 勝手口の扉は開けたままにするというので、寒くないようにロイと火鉢を集めて代用炭団を増やした。

 義父とロイは町内会長の家へ行った。兄の所属する南3区6番隊のところにも行くそうだ。


「ヴィラさん。明日、息子の新年初の出稽古日で嫁に手伝ってもらって前から作ってみたかった手毬寿司を作ります。それとは別に3色弁当も1つ。材料が増えたので工夫を増やせるか後で見て欲しいです」

「手毬寿司とはテルルさんはまた料理人みたいなことを。中身もそうでしょう。テルルさんが考えたとは知りたいです。それでまあ色々持って帰ってきましたね。毛むじゃらカニは4匹下茹で。漁師に習ってきたベイリーさんとリルさんに教わります。噂しか知らなかったメジガロに名前すら知らないウツドンかぁ。こういうことがあるなら料理人だって隠してガイさんと海釣りに行くしかないな」


 ベイリーと私でどれがどの家のものか説明。ベイリーは今夜我が家で夕食を食べてから帰宅する。

 ヴィラ達は毛むじゃらカニの下処理だけではなくて時間まで他のこともしてくれるそうだ。


「リルさん。今夜は何にするつもりですか?」とヴィラに聞かれた。


「ムルル貝ご飯、イーゼル海老入りのたまごあんかけです。お米も炊きます。そこにウツドンのお刺身とメジガロのお刺身。それからアサリの具沢山お味噌汁と思っています。温まるようにお味噌汁は鍋でしようかと」

「リルさん明日は?」とヴィラにまた質問された。

「朝ごはんはあんかけうどん、お昼はお刺身ご飯。夜は毛むじゃらカニ鍋です。まずあしだけ食べます。しゃぶしゃぶです。そこに茶碗蒸しを添えます」

「お金がかかってないから豪勢ですね。他の食材は保存食などにしたりひとまず氷蔵にってことですね」

「はい」

「よし、湯を沸かしてその間に説明をしてもらってデカい魚から捌いていきましょう!」


 ルーベル家がかめ屋の厨房のうんと小さいものみたいになった。出張かめ屋。

 毛むじゃらカニの説明は話が上手なベイリーに頼んで、足りないところだけ補足。

 料理人は毛むじゃらカニに触れる好機があった者だけが扱って良くて記録してはいけないそうだ。入手方法なども教えてはいけない。他にも色々。

 百怪談に料理人にまつわる怖い話があるという。

 漁師にも海にも川にも嫌われる最悪料理人になるとか。かめ屋の旦那も口をつぐむだろうと言われた。

 私達は漁師に広めるなくらいしか言われなかったけどな。


「良い手付きです。裁判所で勤務なんてもったいないですよ!」

「いやあ。隣に先生がいるからです。母は台所に入るなとうるさくて。かめ屋はお金を払えば下処理やお造りを作ってくださると聞きましたけど、その時に1匹(さば)かせてもらうのは難しいですか?」


 ベイリーは料理人に先生をしてもらえてホクホク顔。


「ガイさんとテルルさんのご紹介だから特別です。それで事前に知らせてもってこちらの都合がつけば。見習い料理人に任せて教える練習とか持ちつ持たれつですよ。旅行をする際にはぜひ料理を覚えてきて珍しい料理本を仕入れてきて下さい」

「噂の接待ですね。分かりました」

「噂のってルーベルさん家は何を話したんだか。あはは」


 ワイワイ楽しい台所。人が増えるとやはり私は喋れなくなる。それで今の私はあまりやることがない。

 居間で料理人ゾーイがどんどん切り身を作っているし、台所の台はヴィラとルブルにベイリーが占拠している。

 毛むじゃらカニの処理は一緒にしたし、カサゴの(さば)き方はもう少ししたら教わる。

 魚を(さば)くのは好きだけど疲れるし寒いから義母と出入り口のところで明日のお弁当の作戦会議中。それから来週の献立も一緒に考えている。


「カブの漬物の椿の内側にお刺身を貼り付けましょう」

「あのメジガロのお刺身は赤でウミナゴは白です。並べたら綺麗です」


 ヴィラはベイリーに教えながらメジガロを(さば)いている。


「リルさんのその髪型みたいに編んでみる?」

「お義母さん、そうしましょう」

「きゅうりの花の上にイソカニの身を彩りとして乗せる。あとこのたまごで包むだけはやめて、周りにたまごを巻いて上にイソカニとカニ味噌かしら」


 食材が増えたから義母がどんどん変えていく。これは楽しい。ロイは絶対に喜ぶ。ネビーのお弁当もこの後改良する。


「テルルさん、ウツドンは少ないですから遠慮しますけど、メジガロの量は多いので少し分けていただきたいです。持ち帰って厨房で他の者達と試食したいんですけど難しいですか?」


 つまりメジガロ狙いで出張かめ屋ってことだ。

 わざわざ料理人か副料理長のどちらかが来るようにしたのも、見習いではなくて熟練料理人が来たのも下心。


「目的をいつ言うのかと思っていました。リルさんに聞いてちょうだい。持って帰ってきたのは娘です」


 ……。義母に嫁ではなくて「娘」と言われたことってあったっけ?

 義父はたまに言う。嫁と言ったり娘と言ったり違いは不明。


「ウツドンはここで少し試食して下さい。顔も歯も怖い魚です。メジガロはまず試食したいです。ベイリーさんにも」

「多くても食べ切れないし要らないところをってことですね。部位で味が違そうです。脂が強いです。脂っぽいところは好みや工夫次第かと」


 義母がヴィラにどこのものなら使って良いと教え済みなので、彼は私と義母とベイリーにお刺身を少しずつとお醤油入りの皿にお箸まで持ってきてくれた。


「私は脂が少ないところが好みです」

「リルさん私も」

「骨から削ったと言うところは脂っぽいけど好みです。でも沢山は要りません」

「リルさん。私もよ。それでこの桜色のところはあんまり。お父さんも多分そう。ロイは好むかも」


 ベイリーは脂っぽいところも好みらしい。


「それぞれ少し網で焼いてみました」


 何か網で焼いてるなと思ったらメジガロだった。それも試食。

 次は別の火鉢で少し沸かしたお湯でしゃぶしゃぶにしてくれた。


「焼いたら桜色のところはさらに好みません。このしゃぶしゃぶはどれも食べたくないです」

「私もそう思います」と義母も同意。

「リルさん、アラは使えるかとか頭や尻尾も解体したり焼いたりしてみたいんですけど家で使いますか?」

「その前に腐ります。使い切れないのでどうぞ」

「水曜日に茶道教室へ行くので我が家の夕食に1品、2品用意して下さい。試作で何か。セイラに次の水曜日も昼食はかめ屋持ちと伝えて下さい」


 義母の提案をヴィラは2つ返事で了承。

 義父といい義母といい、私と違ってぼんやりではないということ。見習いたいけどパッと思いつかないから難しい。


「ヴィラさん。今のそれぞれの部位を4等分して1つ分持っていって下さい。我が家の桜色のところは小さい刺身9切れでええです。父と夫とベイリーさんの夕食です」

「小さいってこのくらいですか?」

「ベイリーさんに聞いて下さい。3切れなのは縁起です」

「自分ですか⁈ まあ脂っぽいので沢山は要りません」


 ルーベル家、実家、かめ屋とマクシミリア家で4等分。そこから我が家は義母と私が食べたくない部分をかめ屋へ回した。ベイリーは一応全部持って帰るそうだ。


「休憩がてら手毬寿司の草案を見せて下さい。はあ、またテルルさんは細かいことを思いついて。相変わらず絵も上手い。魚を編もうなんて、こりゃあいただきます」


 ヴィラの言う通り義母の絵は上手。昔書いていたものと手が震えない日に書いていたらしい。


「いただきますってまた」

「代わりに教えますけど、薄焼きたまごを半分に折って輪っか側だけ切り込みを入れて巻くと花みたいになりますよ。巻き付けて上にイソカニのほぐし身。その下にカニ味噌と身を和えたもの。カニ味噌と混ぜると色合いが悪いですから下に隠す」


 それは綺麗で楽しそう。薄焼きたまごは今週義母に教わって練習した。教え方が上手で問題なく作れた。

 義母と海苔やすり潰した梅干しや昆布などとお弁当のご飯に飾って楽しかった。


「そうします。他には何かありますか?」

「テルルさん。この書き付けを写させてくれたら教えます」

「いつものことだからええです。相談役になったことは無いですからね。私は食べた物や見た物を家ではどうするかな、と考えているだけです」

「こんな細かいことを普通は考えませんって。自分ならそこのレンコンの端の細いところを甘酢漬けにしておいて白身の刺身に乗せます。それで同じきゅうりの手毬寿司が1つ消えます」

「今日色々増えたから16種類全部違うものに出来ると思いますか?」

「出来ると思いますか? テルルさん。そこは本職料理人の腕の見せ所です。俺はこれでも中流旅館といえど料亭もある店の料理長ですよ! ちょいちょいだ!」


 明日のお弁当は凄いことになりそう。今日のうちに材料を用意して、明日の朝酢飯を作ってどんどん飾る予定でそれは良いと言われ少し手伝ってくれるという。

 ヴィラはネビーの3色弁当も工夫を増やしてくれた。

 それが休憩だったみたいでまたどんどん作業が進む。カサゴの捌き方はルブルが教えてくれた。


「では自分達はそろそろ」


 料理人達はやはり作業が早い。内臓や頭に骨はお礼だから捨ててくれるそうだ。

 夕食の軽い下準備やワカメ干しなどもしてくれたし氷蔵にあれこれ運んでくれた。

 分けていたから頭やアラや骨は試作とか何かに使うのだろう。メジガロもお裾分けしたので持ちつ持たれつ。

 居間も襖も勝手口の扉も元通り。家で作れそうなら作りたいので教えて欲しいと頼んでいたプリンの試作段階の作り方も教えてくれた。沢山お礼を告げてお別れ。

 私はこれから義母と夕食作り。


「ベイリーさんは居間で寛ぎますか?」

「許されるなら噂のプクイカを眺めたいです。チラチラ見ているけど回転していません」

「ジッと眺めていると始まります。そちらの椅子へどうぞ。最近はプクイカ観察用です」

「ありがとうございます」


 片栗粉料理本や私の書き付けを見ながらムルル貝ご飯、たまごあんかけの下準備。

 イーゼル海老の頭と殻は出汁を取って冷まして氷蔵で保管出来るそうだ。ヴィラに茶碗蒸しに使えると教わった。

 その前にお味噌汁用の大根、人参、里芋をどんどん切る。それから玉ねぎとニンニクも刻む。水汲みはベイリーがしてくれた。


「料理は同時にあれこれしないとならないからやはり難しそうですね。自分には無理です。毎日塩焼き、毎日貝の味噌汁です。それで野菜は漬物?」

「それはまたロイと同じようなことを。あの子も——……」

「ただいま」

「ただいま帰りました」


 義父とロイが帰宅。義母に「見にくるから出迎えは要りません」と言われたので料理を継続。義母の言う通り義父もロイも台所へ来た。


「帰った。家の中が元に戻っていて驚いた」

「さすが料理人です。早かったです。ちゃっかりメジガロの身に頭とか他の魚のアラやらなにやらを全部奪っていきました。水曜日に昼食と試作を寄越せと言うておいたけど足りないからセイラにまた何か言います」

「さすが母さん。メジガロはまだ手に入らないって言っていたから料理長が出てきた時点でそんな気がした。休みを返上する理由になった上客に出すな。彼がじゃんけんで負けたら副料理長だったそうだ。我が家はそれで助かったんだろう?」


 上客に出す、という発想もなかった。かめ屋の旦那に義父はぼんやりと言われたけど、私がぼんやりだと義父はぼんだな。ぼん者。

 ロイは「ぼ」にしよう。ぼ者。たまにうっかり者だから。


「もちろんです。ロイ、リルさん、調子がええので私がしばらくここを任されるからヨハネさんの件を少し話し合ってきなさい。お父さんはプクイカを見つつ重いものなどを手伝って下さい」

「おお、そうする。ここはリルさんの領域だからいつ見よう、いつ見ようと思っていたんだ」

「リルさん、私が居間にお茶を運びます」

「ありがとうございます」


 義父は大黒柱なのに嫁に遠慮なんてするんだ。しなくて良いですと後で言おう。

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