遊ぶ7
エイラの大根削り終了。クララが交代して人参削り開始。私はタラを捌き終わって洗い物。
「そういえばこないだアイラさんと立ち話したんですけどアイラさんとリルさんは年末にようやく祓屋で会ったとか」
「はい。アイラさんにはお世話になりました」
「子なし嫁で集まってトランプ出来たらええですね、なんて話をしたんですけどエイラさんは囚われの皇女様でリルさんも修行させられているし新米嫁は中々遊べないですねぇ」
子なし嫁は現在クララ、サリ、アイラ、エイラ、私だと教えてくれた。
「買い物時間などが違うみたいで中々会わないからアイラさんにトランプをしたいですねってお手紙を書こうと思っていました」
ネビーに手紙を書きながら思いついた。
アイラとエイラはほぼ同じくらいに結婚。エイラが1ヶ月遅い。アイラは南2区から嫁いできたそうだ。
「サリさんにも今年は親しくしたいですと書くとええかも。あー、でもなぁ。んー、まずはサリさんに聞いてみます」
「何かあるのですか?」
「エイラさん。ありますよ」
サリは結婚1周年を少し過ぎたザルシャ家のお嫁さん。実家はご近所のガルシア家で22歳。
義母とガルシア家の奥さんは仲が悪い。義母は細かくてガルシア家の奥さんは大雑把だから。なので2人は無視し合っているらしい。
だから私はサリと自己紹介をするような感じになってないのだろうとクララが推測。
私はサリと祓屋で会えば楽しく話すだろうけど私達とは時期が合わないみたいとエイラに言われた。アイラも珍しいらしい。
「ザルシャ家の奥さんとテルルさんは普通らしいです。多分板挟みですね」
「何で地元育ちの私よりクララさんが物知りなんでしょうか」
「いやぁ。お義母さんに注意されたんですけど私ってお喋りで。人見知りしないからついつい。母にも自分に似てしまった。躾けたと思ったのにって言われています」
「クララさんのおかげでガルシアさん家の奥さんには粗相のないように気をつけ……。サリさんって祓屋の襖を汚しました?」
そんな気がする。祝言後の挨拶回りで全ての家の奥さんと会って覚えられなかったけど、義母が嫌味を言ったのはガ……なんとか家の奥さん。あの時確かそう思った。
「あっ、テルルさんがリルさんを庇った話。そうかぁ。リルさんどうこうよりもガルシアさん家の奥さんに喧嘩を売られたからですか。ひゃあ。リルさんとサリさんはコソコソ仲良くした方がええです」
「トランプ会は難題ですね。ガルシアさん家の奥さんはお義母さんともあまり仲が良くないみたいです。母とは親しいんですけど。サリさんには昔から良く遊んでもらったから遊びたいのになぁ」
「家は調査不足ですけどアイラさんのとこと何かあるみたいです。サリさんにリルさんはテルルさんから何も言われていない、今年こそ親しくなりたいと思っているみたいですって伝えておきます。向こうは言われているのかな。ルーベルさん家の嫁と親しくするなとか……言いそうです。テルルさんは細かいし怖いけどそういう話は今のところ聞きません」
3人で「奥さん同士の仲まで気にかけるのは大変」と身震い。
エイラが人参削り開始。クララがまたプクイカ観察。私もプクイカを見たくなってきた。
安かった里芋の皮剥きを開始。ちびしいたけと煮る。片栗粉を使ってみる予定。
「女は集まると時々陰湿で怖い怖い。私は八方美人で女学校時代に除け者にされかけました。嫌いなら挨拶だけして無視すればいいのに」
そう口にしたクララがプクイカを触ろうとしたので慌てて「噛みつきます」と止めた。
「かわゆいのに噛むんですね怖い。クララさん、卿家の娘はいい子ぶりっ子とか言われませんでした? 私は絶対に卿家の嫁、こういう卿家の集まっている町内会の嫁がええって思いました」
「そうそう、良い子ちゃんぶってとか言われますよね。両親の代から成り上がった家の子は苦手かなぁ。全員じゃないけど。自分が上だったり中心じゃないと的な? そういうの分からなくて」
ふむふむ、と2人の話を聞いてちょろっと質問。女学校って楽しいだけじゃなくて怖い。
でも長屋暮らしもそうか。私は朝から晩まで忙しかったけどたまに近所の子達と遊んでいた。
姉に混じって妹達に混じってだけど遊んでもらったな。でも悪口も陰口も言われた。
普段私に悪口を言う姉や妹達が代わりに喧嘩したり色々あった。
結婚おめでとうは言ってくれなかった友人達——ではなくて知人だった——も元服おめでとうは言ってくれたなと思い出す。
そうすると「リルちゃんも一緒に遊ぶ?」と聞いてくれた子もいたことを思い出した。
話しかけるのが苦手な私を誘ってくれていた。
「えー。リルちゃんも? 黙って見られているって怖いよ」とか「仕方ないなあ」と言っても一緒に遊んでくれたのって優しさといえば優しさ。
私は2人に軽く実家での小宴会で結婚おめでとうと言われなくて残念だった話をしてみた。
嫌々でも優しく遊んでくれたことや元服おめでとうと言ってくれた話もする。
「リルさんって長屋住まいの方の中でも貧乏って言われるくらいだったのですね。そんな気がしないです。そりゃあ同じくらいの歳の女達は面白くないでしょう。ロイさんにリルさんのことを悪く言うても自分と結婚はないのにいますよねぇそういう人」
「女学校時代に許嫁がけっこういいとこの華族の次男って子がいました。豪家の子で彼女が4年生の時に結納したんですけど、それから一部にあれこれ言われて。やめなって言ったらこっちにとばっちり」
「悪口なんて言うた方の人気や運が下がるみたいに注意すると卿家の子の笑顔や親切の裏は黒そう——……」
ん? とクララとエイラが私の手元を見た。
「しいたけの模様……それはしいたけですか? 小さいですね。それでその模様。市松模様なんて器用ですね」
「お鍋にキノコは入れない方がええって言っていませんでしたか? しかも市松模様」
「偽物かもしれないから安くしてと言って値切りました。それで疑いながら買いました。でも味はしいたけでした。里芋と煮て片栗粉を使ってみます。市松模様は日曜日にお義母さんが披露してくれて練習中です」
エイラの人参削り終了。彼女達が持ってきたカゴに盛られる。
クララもエイラも大根と人参領域に分けようとしたので、華やぎ屋の配置を教えた。
「ああ。市松模様みたいですね」
「それでしいたけもですか?」
「たまたまです。今日は練習のためです。旅行料理でお義父さんやお義母さんに旦那様のお客さんをおもてなしします」
「旅行後の新しい料理って楽しいし喜ばれて褒められるからええですよねぇ」
クララが今度新婚旅行の時に知った料理の作り方を書いて贈ってくれることになった。
「2人ともアジやイワシは今日買ってきて手元にありますし、生姜はそこにあるのでつみれも作りますか?」
「私は家でします。台所は息抜きの場なので。夕方は早く家事を終わらせたとしても何かさせられたりするから台所でダラダラ。昼間なら散歩と言うて誰かとお喋りですけど」
「クララさん。私だけかと思っていました。だから私もつみれはとっておこうと。煮物の準備はしてあって煮るだけです」
それならもうやる事はない。2人と居間へ移動。義母から解散時間までは居間を使って良いと言われている。
衣装部屋の本棚から持ってきて西風料理本を見せた。
「西風料理会と言うたら集まれますかね?」
「集会所を借りるとか?」
「アイラさんとサリさんの家はサンドイッチ好きかなぁ。サンドイッチを作る嫁会。皆で買い物、皆で作る。家に待って帰って自分達は皆で食べる。皆で片付け。少しダラダラ。トランプ出来ないですかね」
「ルリさん参加したいって言いそう」
「エイラさん。そうなったらもう芋づる式に増えますよ。ルリさんとは遊びたいけど子持ちが集まったら……楽しそうですね。でも大事です」
「エイラさんの旅行が終わったら考えますか。クリスタさんの件もありますし」
それでエイラが初めての旦那様と旅行をするのでその話になった。
エイラから質問をされてクララや私が答えていく。やがて旅行に向けてクララと私からエイラへ助言をしていく感じになった。
「足が痛いとか厠などは早め早めにです。遠慮せずにしっかり言いましょう。私はそれで少し喧嘩になりました」
「旦那様が不機嫌で困ったら食事やお風呂がええです。気分が変わることがあります。旅先の珍しい食べ物は偉大です」
「ロイさんってそうなんですか? 子どもみたいですね。意外。ロイさんは色々意外です」
「クララさんの旦那様は違いますか?」
「うーん。そう言われると同じですね。近場にすれば良かった。疲れたってぶすくれていたのに夕食後にはご機嫌でした」
ふむふむ、とエイラがうなずく。
カンカンカン、カンカン! と17時の鐘の音。
楽しい時間って早過ぎる。2人が帰宅する前に義母探し。居間ではなくて義父の書斎で読書をしていた。私達の話を聞かないようにかな?
義母が居間へ来てクララとエイラと軽く挨拶。
義母は2人に皮剥き器について教えて「本日は嫁がお世話になりました。ありがとうございます」と頭を下げたので私も義母の隣で同じようにお礼をした。
「嫁がお見送りします。失礼します」
と告げて義母は居間から去った。
荷物を持った2人をお見送り。白子を乗せたお皿は数日中、都合が良い日に返却してくれる。
「交換日記、近いうちに私からエイラさんへ回します。エイラさんはしばらくカゴの中の鳥として、リルさんは近いうちに一緒に魚屋へ行きましょう。大きい魚を買って分け合う。ワラサかな」
「あー、クララさんはリルさんに捌かせる気ですね。今日のタラを見て思いついたということですよね」
「えへへ。それもあるけど料理をするから集まるのは使えるから。代わりに運びます。持てるかな。小さめの半身ならいける気がします。あとお義母さんに聞いて我が家を使用。ゴミ係です。ごまだれワラサしゃぶかなぁ。薄切りって高くされるじゃないですか。何ですかねあれは。お弁当にワラサご飯も作れるかな」
ごまだれワラサしゃぶにワラサご飯が気になる。義母に聞いて分からなかったらクララに教えてもらおう。
「安くなるから丸ごと買いましょう。また頭だけ落としてもらいます。その小さいブリは本当にブリですか? とか言うて」
「小さいブリはワラサですよ。いやいや、ワラサなんて知りません、味が違うと困りますとか言うてみますか。それなら私も参加します。クリスタさんという口実も出来たので参加出来そうな気がします。台車で運んだら楽ですし小さめなら丸ごと買えそうです。最初はリルさんに頑張ってもらって、切り身や薄切りは私とクララさんでどんどんしましょう」
「エイラさんというかブラウン家は台車を持っているのですか?」
「重い物を一度に買うときは町内会の共同蔵にある……クララさん知らなかったのですか?」
「うわぁ。こんなに長く知らなかった。お義母さんの地味な嫌がらせです。若いから重い物は自分で持っておけ的な」
「教え忘れかもしれません。沢山教えるから忘れてしまいます。私もお義母さんに聞いていません」
「ええ、聞くときはそういう風に聞きます」
全員義母と相談をしてからだけど来週月曜日の午前中、魚屋がどんどん捌く前に一緒に少し遠い魚屋へ行こうとなった。
ちょうど良い大きさのワラサが無かったら諦めて他の魚か貝を買うなど臨機応変に。
ずっとお喋りしそう。でも解散!
次は海釣りの予定です




